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作品名:令和10年 兄妹の物語 第二シーズン 作者:なおちー

第29回   ミウ「この国はいつまで資本主義が続くの?」
日付が変わると外は小雨が降っていた。
ミウは託児所代わりの生徒会本部へjrを預け、
賢人と2人で校内をぶらぶらと歩きまわっていた。

どこの教室もがらんとしていて、どこを歩いても人気はない。

「八月が終わるまで学校は夏休み期間なんだ。
 この学校は夏期講習も部活動も休み期間中は一切禁止。
 自宅や市の公共施設を利用して勉強や運動をしてもらう決まりなの」

反革命主義者とは、はっきりいって
ソビエト社会主義(日本共産党とは違う)
に賛同しない全ての国民を差すわけだが

学生たちは頭が柔らかく、血の気が多く、多感な時期でも
あるため、外部からの刺激を受けやすい。
思想的にはかなり危うい存在と考えられている。

「夏休み中にこの学校が嫌になって転校を考える人。
  外部のスパイ組織(自民党)と連絡を取る人。
  こっそり自宅で武器や弾薬を密輸する人。製造する人。
  色々な人が毎年出る」

ミウは護衛の一人に命じて、プリントアウトされた一覧表を
賢人に見せてあげた。

・高橋ちづる スパイ容疑(ネットでの防諜)
・榊原愛奈  スパイ容疑(ネットで不適切ページの閲覧)
・柳瀬未亜  連帯責任 (スパイ容疑者の親友)

他多数 全部で30余名。諜報広報委員会が作成。

「この時期が一番危険なんだよ。だから私も神経をとがらせているの。
 どこに危険分子が潜んでるか分かわらないんだもの。
 この子達が新学期から破壊工作と化してもおかしくない」

「容疑者は女の子ばかりだけど、破壊工作するってのは
 なんだか実感がわかないね」

「そうでもないんだよ?」

ミウは、学生時代に起きた爆弾テロリスト事件を説明してあげた。
理系の一年生の進学コースが引き起こそうとした事件だが、
生徒会が事前に作戦計画を手に入れ、未然に防ぐことに成功した。

「それと女子が多いのはね」

ミウが卒業してから実に9年も経過したが、この学園では
反対主義者の取り締まりが特に厳しく実施されているため、
上から押さえつけられるのが苦痛に感じる人の多い男子生徒は、
ほとんど入学してこなくなってしまった。

在学中の男子もやはり反社会的な活動を取る人が多いので
収容所行きになり、そのせいで男女の比率が次第に変わっていった。

ミウの時代は男女比6:4で比較的男子が優勢だったが、
今では2:8。ほとんど女子高に近い割合となっている。

彼らが歩いているのはB棟。2学年が使う校舎である。
ミウがボリシェビキに目覚めた時は2学年の夏休み明けだった。
彼女はかつての自分のクラス2年A組組の前で立ち止まる。

「ここが、かつてのミウのクラスなのか……」

「まだ説明してないのによくわかったね?」

「いや、何となくそんな感じがしたから言ってみたんだ。
 まさか本当にミウの教室だとは(>_<)」

ミウは定期的に自分のクラスを見回る。
特に意味はないのだが、記念日など特別な日には必ずここを訪れる。

クラスで目立たない少女だったミウ。
このクラスでの生活から当時の生徒会副会長のアキラと関わり、
組織委員部のナツキと引き抜かれ、
ついには共産主義のトップの権力に上り詰めた。
ミウの学園生活。彼女の人生に与えた影響は計り知れない。

ミウが引き戸を引いた瞬間、中に仕掛けられていたダイナマイトが爆発した。

「ぬわあああああああああああああ!?」

ミウの隣を歩ていた賢人は、爆風の衝撃によって廊下の壁まで吹き飛ばされた。
ミウも一緒にだ。二人は廊下の窓ガラスに激突し、
窓ガラスに巨大なヒビを生じさせた後、床に重なって倒れた。

「ミウさまああああ!!」 「同士閣下あああ!!」 「またしてもテロか!!」

ミウに後ろから付き添っていた護衛達は、急いで緊急の措置を発動する。
医務室から石、じゃなくて医師を呼び出し、直ちにタンカの準備を始める者。
周囲に敵の気配がないかを調べる者。ミウに手当てするために、応急措置用に
持っていた救急セットを取り出す者。混乱のあまり、誰もいない廊下の先へと
拳銃を放つ者。暗に賢人の死を願う者(ミウと仲良しなので嫉妬)

反応は様々だった。なにせ護衛が40名近くいるのだ。

「いったぁ……。右腕が火傷してひりひりする。賢人は大丈夫?」
「俺は背中を強く打って息が止まったけど、今は大丈夫だ」

二人は奇跡的に軽傷ですんだ。

ミウの火傷は中程度といったところで、直ちに手当てして
軟膏を塗り、包帯を巻いて安静にすることにした。
引き戸を開けた右手の火傷以外には、外傷はなく、
賢人に至っては治療の必要すらないのだが、
念のため精密検査を受けることになった。

二人は病院へ搬送(護送)され、夕方には学園へ返された。

右手に包帯を巻いたミウが本部へと帰ると、
大泣きした太盛jrがママに抱き着くのだった。

「うわあああああああああああん。ママあああ!! (ノД`)・゜・。
 ママがテロリストの攻撃にあったんだ!!
 ママが死んだら嫌だよおおお :;(∩´&#65103;`∩);:」

「いつものように軽傷だったらから、安心しなさい。
 ほら。ママは自分の足で歩くことができるのよ?」

「うわあああん (ノД`)・゜・。 ママああ!!
 僕ね、ママが病院に行ったまま帰ってこなかったら
 どうしようかって思ってたの!!」

「ジュニアに心配かけちゃってごめんね。
 よしよし。もう泣かないの」

ママは元気だから ヾ(・ω・*)
:;(∩´&#65103;`∩);: う、うん


(;゚Д゚) ……(いつものように軽傷?)

賢人は気になったのでミウに訊いた。

「テロ事件のこと? 生徒や教員の誰かが
 私を狙って殺そうとしたんだろうね。
 こんなの学園の支配者をしてれば日常茶飯事だよ。
 今まで爆発物をしかけられたことが17回あるよ」

「17回も!?」

会議室の机の下。朝、本部の玄関を開けた瞬間。
お風呂場のバスタブの底。学園の花壇の道。
ミウの縁演説中に、護衛と思われたスパイが、
直接爆発物を投げつけて来た時もある。

護衛の中にスパイが混じってたのは
初めてのパターンだったので驚いた。

いっそ護衛を全員抹殺しようかと考えたが、
当該スパイを徹底的に拷問して見せしめにするにとどめた。
拷問の内容は、背中を100回むち打ちした後、オートバイで
学内引き回し、最後は校庭の真ん中で生きたまま四肢切断してやった。

ミウは探偵の才能でもあるのか、爆発物を仕込んだ犯人や
その関連人物まで瞬時に特定し、次々に見せしめの拷問をしてから
殺してやった。ミウの復讐心の恐ろしさに学園関係者は
戦慄したが、ミウが残酷すぎるがゆえに逆に敵を作りまくり、
現在まで断続的なテロ行為が続いていた。

「シェフには暗殺者が混じっていたのか、野菜とベーコンの
 スープに毒物が混じってたこともあったよ(^○^)」

「まじか!!( ゚Д゚)」

毒物の特定はできなかったが、新手の化学薬品の一種だった。
少なくとも日本で入手できるものではなかったそうだ。

ミウは激しい嘔吐の後、2時間にもわたる下痢に襲われ、
その後も猛烈な激痛が続き、夜も眠れずご飯も食べれず、
おむつなしには生活できないほど深刻なレベルまで達した。

「あの時の私の顔すごくてさ(*^▽^*)
 部下に命じて写メ取らせてあるの。
 見る? 70過ぎの老婆に間違えられるほど老けちゃって。
 頬がゾンビみたいにげっそり。
 髪の毛が白髪でいっぱいになっちゃったの。
 だから今は茶髪に染めてるんだけど」

(それでこんなに濃い色に染めてるのか。
 外国育ちって聞いたから、その影響かと思いきや)

ミウの髪の色は、言い方を悪くすればギャルとかキャバ嬢みたいな印象だった。
品性と教養と威圧感の有る、共産主義美女には似合わない色合いには理由があったのだ。

「私が大変な時期に旦那はベッドで寝てたんだよ?
 信じられる? 医師の診断ではうつの一種で無気力症とかいって。
 私が一番そばにいてほしい時に、あの人は……。ああ、くやしい。ムカつく。
 思い出したらストレスで手が震えちゃうの。ほら震えてるでしょ?」

「ミウ……(;´∀`)」

「さすがに旦那への思いも冷めちゃうよね?
 学生の時は好きで好きでたまらなかったのに。
 だから私が太盛への想いを失わないように
 この教室を訪れることもあった。でも、もうだめだね」

ミウは、にやりと口元だけで笑った。
過去の記憶が蘇ると彼女は思わず笑うのだ。

ミウの正体は正真正銘の共産主義者。
裏切者、反対主義者、スパイは徹底的に殲滅するのが彼女の使命。
また恋愛については太盛に執着し、執着心が強すぎるがために
夫に求めるハードルが無制限に高くなり、夫婦生活に不満があれば
怒りが天井知らずに上がるという、悪循環に陥っていた。

ずっとママにしがみついていた太盛jrが、

「ひぃ;つД`)」

さっと、ママから思わず身を放してしまうほど、
ミウの放つ負のオーラはすさまじかった。

「ママが……怖いよぉ……((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

ジュニアは、ミウの護衛達に愚痴ることがある。
ママがたまに鬼になる時があると。
ママは実は人間ではなく、鬼と人間のハーフなのだと信じているほどだった。

ジュニアがこの世で最も恐れているのは、ママのヒステリーだったのだ。


ジュニアは、「ママはお仕事があるから今日は一人で夕飯を済ませなさい」
と言われ、そそくさとその場を去るのだった。
昨日は大好きなママを賢人に独り占めされたのに、今日も奪われてしまうのか。
文句を言いたいが、ママの言うことに従わないと何を
されるか分からないので大人しく従った。

「あはは(^○^)
 賢人君ごめんね? 変なとこ見せちゃってさ。
 私の過去なんて君には関係ないのに、つい感情的になっちゃって。
 あとでジュニアが欲しがっていた漫画本でも買ってあげないと……」

賢人は過去作の学園生活を読んでいたから、ミウが本当は純粋な少女で
太盛をめぐる複雑な恋愛と共産主義的学園に巻き込まれる形で
苦労をしていることを知っていた。

ミウに対する評価は賛否両論、というより悪評しかないのだろうが、
少なくとも賢人はミウの美しい顔立ちに完全に惚れていた。
ミウの顔は満月のように美しく、この世にあらわれた妖精が
いつの間にか結婚して子持ちになっていた。そんな印象だった。

仮にミウが共産主義者じゃなかったら、今すぐ旦那と
別れて自分と再婚してくれと言ってしまったかもしれない。
賢人は、気が付いたらミウの肩を優しく抱き寄せ、キスをしていた。

「僕でよければ、君のそばにいさせてほしいんだ。
 ミウ。君は職務から解放されたら、一人のか弱い女性なんだ。
 だから僕の前では強がらないでいいんだよ。
 僕は君のことをもっと理解してあげたいと思っている」

「賢人……(^ω^)」

「もうはっきり言わせてくれ。君が大好きなんだ!!
 好きで好きでたまらないんだ!!」

ミウは、日本人離れした情熱的な告白をされて
言葉に詰まってしまう。本気でうれしい時ほど返す言葉が
思い浮かばないのだ。昨夜は体を重ね合った仲なのだが、
ミウの仲では一種の遊びの延長だった。

なのに彼にここまで迫られてしまったら、本気になってしまいそうだった。
ミウは、もし自分がこの二歳下の彼のことを好きになったら、
旦那とは別れるか、もしくは仮面夫婦をこれからも続けることになる。

再婚したとしたら、ジュニアはどうなる?
新しい父親を幼い息子が認めてくれるのだろうか。
きっと不安しかないだろう。
だから安易に返事ができない。

ミウは冷酷なボリシェビキだが息子に対する愛は本物だった。

「愛してる」

賢人の言葉は魔法と同じだった。
ミウは後にこの現象にケント・マジックと名前を付けた。

ミウが賢人に子供のように抱き着くと、彼も抱き返してくれた。
二人は情熱的な口づけを交わし、今夜も肌を重ね合い、一緒に寝た。

これはダブル不倫に近い状況である。
ミウはもちろんのこと、賢人も名目上の婚約者の瞳と、
何話か前に結婚の宣言までした美雪を完全に放置。

美雪と瞳は、完全に……スルー!!

まさかの!!

というか、今の彼には妹達のことは眼中にない!!
まさに……アウト おぶ 眼中!! 
あうろぉぶ がん ちゅー(米語風)

渋谷賢人。彼のやっていることはいったいなんなのだろう。
実の母から瞳と美雪を公平に愛しなさいと言われ、実際に
淑女協定まで作り上げたのに、華麗に無視し、既婚者のミウと
浮気するなど、普通に考えておかしいだろう。

彼は小説の登場人物なのだから破天荒な人生を送ったほうが
物語向けなのは分かるが、普通の男性だったら美人の瞳と婚約した
時点でもう決定だろう。しかも瞳は金持ちである。

仮に彼が妹の美雪との同棲を解除し、
瞳と普通に結婚した場合はどうなるのだろう?
妹は嫉妬に狂い自殺するだろうか。

メンヘラの女性は、自らの死ぬことによって相手の
心の中に一生住み続けようとするらしい。女の執念は恐ろしい。
古代より描かれる幽霊の大半が白装束で髪の長い女である。

賢人が美雪を振って瞳と結婚したら美雪が自殺する可能性が高いだろう。
だからママが二人を同時に愛せと言ったのだ。

『同時に愛する』

口にするのは簡単だが、実際は夢物語である。
賢人の性格からすると美雪をひいきするのは間違いない。

かつて一夫多妻制を採用していた古代社会では、
もっぱら大金持ちや王族の男性にのみそれが許された。
古今東西、王族の場合は側室(愛人)がいるのが当然であった。

フランスのマリー・アントワネットの時代もそうだ。
ルイとの政略結婚に愛情などあるわけもなく、結婚は義理。
結婚後に夫婦がそれぞれ愛人を作ってから、初めて恋愛をするものだ。

欧州一の伝統を誇る、千年王国・ブルボン王室で
そのように考えられていたのだから驚かされる。
フランスは恋愛に対し非常に寛容な国で有名で、
現在でも権力者に愛人が7人くらいはいても誰も驚かない。

恋とは一種の病気であり、情熱であり、瞬間的なものであり、
恋愛感情を隠さないことを仏国人は美徳としている。

「愛してる」「好きだ」「君と一緒にいたい」

マリー・アントワネットは、19歳の時に参加した
仮面舞踏会で、生涯の恋人フェルエンと出会う。
二人は初対面だが非常に気が合った。仮面の下の互いの身分を
明かした後も、いつまでもおしゃべりを続けていて、
マリーのお付きの女性を冷や冷やさせたという。

フェルゼンはスェーデンの軍人で貴公子だった。
その洗練された仕草、美貌は社交界で各国の婦人たちの
ため息を誘うほどだったという。
しかも長身。金持ちのイケメンである。

マリーは、このイケメンと真剣に恋愛をし、
夫のルイもそれを知っていながら放置するという
カオスな関係を維持していた。

あの超有名な「ヴァレンヌ逃亡」を計画し、実行してくれたのも彼だ。
マリーを助けるために借金をし、日本円で3億円もの費用を使って
フランス国境を超えるために壮大な逃亡計画を立ててくれたのだ。

フェルゼンは、アントワネットがギロチン刑になった後も、
彼女のことが忘れられず、彼女を助けられなかった自分の
ふがいなさを呪い、生涯独身を貫いた。
愛の深さが伝わるエピソードである。

「私も賢人のこと、好きよ?」
「(&#728;ω&#728;) スヤスヤ」
「ふふ。ぐっすり寝ちゃってるんだ」

ミウがカーテンを開くと、満月の明かりに照らされた室内。
マホガニー性の高級机の引き出しの中に、写真立てがある。
ミウは普段から見たくなかったので、写真を写真立てに
入れたまましまっておいたのだ。

高校卒業の時、校門の前で彼と一緒に撮った写真だ。
肩を寄せ合い、微笑し、卒業証書を手にしている。

「こんなもの……」

ミウは、写真をくしゃくしゃにして捨ててしまおうかと思ったが、
寸前で手が止まってしまう。学生の時の太盛は、やはり美しかった。

顔立ちには10代の幼さが残るが、知性を感じさせる凛々しい瞳が特徴だ。
肩幅が広く、育ちの良さを感じさせる、
背筋を伸ばした立ち姿で他の男子よりずっと立派に見える。

彼と同じ大学の推薦に受かった時は
飛び上がって喜んだものだった。

そんな彼は現在廃人になり、回復の見込みはおそらくない。
もう二度とミウと会話することも出来なければ、
夫婦としての生活を共にすることもできない。

学生の頃はあんなに彼に優しくしてほしかったのに、
今は、それが叶わないと知ってしまったから。

「ごめんね、太盛君……。太盛君のことは私の思い出の中にしまっておくよ。
 今は賢人君のことが好きになっちゃったから、もう止められないの」

―ミウを愛してる 
―君じゃないとだめなんだ
―僕でよければ、そばにいさせてほしい

彼の言葉を思い出すと、もう罪悪感は消えてしまう。
ミウの頭の彼は賢人でいっぱいになってしまう。

女性を舞い上がらせてしまう言葉。
本当は誰よりも夫に言って欲しかった言葉だったのに。


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