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作品名:令和10年 兄妹の物語 第二シーズン 作者:なおちー

第28回   ミウ「あなたを見ていると元気だった頃の旦那を思い出すよ」
学園本部は、本校舎とは別に作られた小規模な建物である。
執務室と会議室の他には、学園の支配者が寝泊まりする宿舎がある。
学園の生徒会長と副会長、その副官らの部屋が与えられている。
ミウも現役の学生時代は本部の私室の利用をしていた。

本部の横に、新たに校長用の宿舎が用意されていた。
広さは1LDK。内装はマンションの一室によく似ている。
ミウは中学時時代にロンドンから日本に引っ越してきて、
ずっと足利市のマンションで暮らしていたから、その名残だろう。

外観は偽装のため、あえてプレハブの小屋にしている。
建築現場にでもひっそり建っていそうな粗末な小屋だ。

とても権力者の住みかには見えないが
内装は高級な木材が使用されており快適な住まいだ。

ミウはこの部屋の外観と内装のギャップを気に入っており、

「私の小屋」と呼んでいる。

ミウはB型だが、家事におおざっぱではなくA型女性の気質に近い。
掃除には特にうるさく、部下に命じて
誇りひとつ落ちてない状態を維持させている。

ミウは息子の太盛Jrと共にここで過ごしている。
ミウは学生時代は嫌いだった料理も進んでやるようになった。
部下に任せておくと食材の管理に不安があると
文句を言いながらやってるうちに、かなりの早さで上達していった。

旦那は、いてもいなくても同じなので学園の医務室で
24時間面倒を見てもらっている。現在も植物人間で回復の見込みはない。
                     ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ←旦那

小屋には地下の拷問部屋がある。ミウのとっておきの部屋である。
仕事で疲れた時、休みの暇な時に囚人を痛めつけて遊ぶのだ。

ミウは息子の太盛jrを本部で預かってもらって、今夜は賢人と
二人きりで過ごすつもりだった。完全にお遊び(浮気)モードである。

17:30。その日はたまたま金曜日だった。

「賢人君はコーヒーと紅茶どっちが好き?」
「紅茶です!!(^○^)家では毎日紅茶を飲んでます」
「あらそう。よかった。私も紅茶派なのよ」

賢人が紅茶派と言ったのは、真っ赤な嘘である。
賢人は営業職の経験から英国育ちの
ミウの好みを悟り、機嫌を取ったまでのこと。

わざわざ高い茶葉で淹れてくれたアイスティーをいただく。

「外部の人をこの部屋に招待するのは初めてだよ。
 光栄に思ってね?」

「ありがとう。ミウ。ここはステキな部屋なんだね」

つい敬語を使いそうになるが、賢人は耐えた。

リビングは八畳間で十分に広々としていた。
金色の額縁がついた風景画が2点。高いのだろうと賢人は思った。
ホワイトカラーで背の高い本棚には文庫サイズの本がぎっしり。
政治経済外交など専門分野ばかりで、見るだけで頭が痛くなりそうだった。

四つ足タイプで背の低い衣装ダンス。引き出し付きのハイテーブル。
それに椅子も、デザインと色が統一されていて気品がある。

(センスの良い家具だ……あの木目。どう見ても安物とは違うよなぁ。
 さすが権力者の私室。その辺のホムセンじゃ売ってない製品に違いない)

彼の頭に浮かんだのは、同僚の大塚カグちゃんだった。

「もし間違ってたらごめんなさい。
 あれは大塚家具のローチェストじゃないですか?」

「ぴんぽーん!!!(^^)! すごーい!! 
 見ただけで分かっちゃうのぉ!?」

大塚家具の製品は、華美にならないようシンプルで落ち着いた
デザインを大切にしている。色はブラウン、ベージュが多い。
取っ手の部分が金属、『使い込まれた感のあるシャビ―の塗装』など
アンティーク調のデザインが特徴なのだ。

※材質:マホガニー材(突板)・サペリ材(柾目突板)。
マホガニーギター好きには有名な木材である。
コンコンと叩くと硬さが分かる。
ずっしりと重みがあり耐久性が高く、木目が美しい。

しかし、上で例に挙げたチェストは税込みで5万。
素材を考えたら安く仕上げているとは思うが、
庶民感覚で考えたら間違いなく贅沢品である。

だからミウは一番安いのを買ったのだが、
ネットでは28万の製品まで売られている。
高級品は不景気では当然売れない。

大塚家具の経営は相当にまずい。執筆時点で最新の決算短信を読んだが、
経常利益、純利益、営業CF、フリーCFが全てマイナスである。
前期比と比べても悪化の一途をたどっており、相当にまずい状態だ。

ドラクエで例えると、MPゼロの状態でホイミも使えず、そのくせ
無駄にHPだけが高い状態で洞窟にもぐりこんで困っている状態だ。

参考までに大塚家具ちゃんの株価が200円台なので、2万円もあれば誰でも買える。
法律上は100株持つだけで議決権を有し、
大塚家具の所有者(株主)の一員になれるのだ。
(日本株は最低購入数が100株と決めらている。
 ミニマム投資?などの例外もあるが。)

このままずるずる行ってしまうと
10年以内に倒産する可能性が高いのだが、
剰余金がかなりあるのでまだ数年は死なないだろう。

いかにも英国人好みの、
欧州直輸入のアンティークデザインの家具。
ミウのお気に入りだった。
高級品は顧客のアフターフォローもしっかりしているのも特徴だ。

「賢人君、知ってる? 英国では家具でも家でも古いものが好まれるんだよ」
「Σ(゚Д゚) そうなんですか。欧州の人たちは新しいものが好きなのかと」
「ドイツとかはそうかもしれないけど、英は違うんだよ」

例えば、祖父の代からずっと住み続けている家があるとする。
日本では新築住宅は玄関を開けた瞬間から、価値が下落し、
ローンを払い終わる頃にはゴミ同然の資産価値しかないが、英では違う。

築年数が古い家ほど、世間では評価される。
日本は1976年ごろから厚生労働省の命令で、
住宅建築メーカーはわざと木材に粗悪な合板を織り交ぜて建築している。
そのため耐用年数がローンと同じ35年になるように設定されているという。
つまり買い替え需要を促進するために「ごみ」を作り続けているのだ。

老後の資産形成を視野に入れたうえで、
金融で考えると賃貸が一軒家に勝ることは常識だが、
その理由の一つがこれである。

日本の一軒家は、言うなれば結婚後にぶくぶく太り、
どんどん醜くなっていく奥さんと似たようなものだ。

英の住宅では真面目に建築するのが普通なので
耐用年数が80年ほどあっても珍しくないそうだ。
また地震がほとんどない国なので古い住宅にも安心して住める。

そのため転居をするために住宅を売買しても
長年住んだからと言って資産価値が下落しないから
差額で儲けられる。

これはイングランドのとある貴族の例だが、
築90年過ぎの家の売却を申し出たところ、多数の応募があり、
落札された価格が2000万を超えたという例もある。

ビクトリア時代の暖炉、その時代を髣髴とさせる豪華な手すり等。
その時代の特徴が至る所に残っていた。
そういった年代を感じる特徴を好むイギリス人は多いので、
自然と古い家は価値が上がるのだ。

「すごいですね(>_<)さすが英国人は歴史を大切にする民族って感じです」

「英国は本当に歴史大好きな国なんだよ(^○^)。私も大好き。 
 英国はエリザベス陛下を国家元首にした立憲君主制、
 議会制民主主義の国だけど、今の日本も天皇がいて同じ
 制度を取ってるでしょ。あれ、英国のパクリだからね」

「パクリだったんですか!?Σ(゚Д゚)」

「うん。英国は日本の100年前に議会制民主主義を作っていたよ。
 日本の参議院って戦前では貴族院って名前で、
 今でも参議院は上院の扱いになってるわけだけど、
 あれも英国のパクリなんだよ」

「全然知りませんでしたΣ(゚Д゚)」

(※ 今でも参議院を下院と勘違いする人多数。
 なぜ法案が参院を通過しないと可決に至らないかを考えてほしい)

「あと日本海軍も。薩摩藩の偉い人がどんどん英国に留学して
 イングランドの海軍学校で学んで、日本に知識を持ち帰った。
 日本海軍は英国式の戦術で日清日露戦争で勝ったわけだけど、
 そもそも英国から軍艦を買っていたんだよ」

※連合艦隊の旗艦・戦艦三笠(みかさ)を建造したのは英国のヴィッカース社です。

「すごいですね!! 俺は歴史はさっぱりなので驚きました(>_<)」

「日本海軍では、偉い人は英国式の英語を話すのが基本だったの。
 学校教育でも英国式だよ。今の文科省が作ってる教科書には
 イギリス英語式のカタカナ発音がふられているのね。
 だって明治時代に英国英語を学んだ偉い人が書いた教科書が
 元になっているんだもん」

こんな例を出すと分かりやすい

Get out of here. 出て行きなさい。

英語では ゲッt アゥt オブ ヒア と各単語にアクセントを発音する。
語末の子音の「T」は日本語にない音(単体の子音。空気音)なのでそう表記した。

米では、ゲラウ・ロブ・ヒぁぁぁ。
と言った流れるリズムで発音し、音は醜く明瞭ではない。
リエゾン(前後の単語の音がつながる。仏語では基本)しまくり、
しかも筆者が特に気にくわないのが、語末のHereである。

ヒア と語尾をしかっかり止めて発音すればいいのに、 
だいぶ濁って ひぁぁぁー↓ となる。
まるで酔っ払いの発音である。

ドイツ語(東部標準語)でも全く同じ単語があるのだが、
綺麗にヒアと発音し英国と変わらない。
やはり米国で生まれた英語は、欧州の言語と根本が違うのだ。

実は欧州、中東、アフリカ大陸では英国式の英語を学ぶのが基本。
極東アジアの我々は米国式の英語だが、これは世界的にみて少数派である。
世界の標準英語とは、BBCもしくはクイーンズ・イングリッシュと言われる。

「今日聞いた話で一番衝撃を受けました。
 じゃあ教科書通りの発音で間違いないんですね(;^ω^)
 学校の先生はカタカナの振りが間違ってるから
 そのまま発音するなって言ってましたけど」

「変にカタカナを意識するよりもアクセントを付けたほうが良いと思うよ。 
 専門用語でストレス・アクセントって言って、
 音を口の中で吐き出す感じにして勢いを付けるんだよ」

「へ、へえ(>_<)」

「あ、ごめんね。(゜-゜)
 こんなマニアックな知識興味ないよね」

「いえいえ(>_<) すごく貴重な話を聞かせてもらってますよ。
 ミウさんって話の仕方がうまくて頭にすんなり
 説明が入ってきますよ!!」

「ありがとー。そう言ってくれるとこっちもうれしいよ(&#8904;&#9677;>&#9697;<&#9677;)。&#10023;&#9825;」

(さすが学園の最高責任者。言語にも歴史にも詳しいぞ。
 美雪は金融以外はさっぱりだが、この人は全然違う)

ミウは大学進学後も読書中毒な生活を続け、文系に必要とされる知識は
乾いたスポンジに水をしみこませるかの如く、どんどん吸収していった。

ソ連を初め、先進各国の歴史。政治・経済・法律・軍事・社会学。
友人ボリシェギキのナツキの影響で芸術の分野にも興味を持ち、
クラシック音楽の他に絵画もこよなく愛するようになった。

「ミウさん。英国と言えば最近ジョンソンが首相になりました。
 (令和10年じゃなく現実世界で)」

「あ、そうそう。あの男目つき悪いよね。
 あいつ外務大臣だったのにいつの間に首相に任命されたのって感じだよ。
 ほんと最近の保守党は終わってるわ。奴は昔はロンドン市長だったのね。
 それでね、その時代からマスコミからは良く注目されて…」

賢人は、ミウがまさか英国議会のことまで知っているのかと思ったら、
本当に知っていた。メイ首相が退任する前に、下院で否決された
7つのEU離脱案の詳細まで知っているほどだった。

賢人は、英国は保守党と労働党しかないから
分かりやすいと思っていたら、日本と同じように支持率皆無の
小党が乱立していることも教えてもらった。
たまたまニュースで報道されているのが労働保守の二大政党なのだと。

「離脱交渉がどん底まで難航しているのに、メイは英国人特有の
 ジョンブル根性で最後まで離脱を完了させようと頑張っていた。
 条件付きの離脱なんて欧州に無視されているから無駄なのに。
 でも英国人は約束を守るのが美徳だから意地になっちゃんだろうね」

さらに欧州議会選のこと、欧州中央銀行の次期候補者の
詳細なプロフィールまで知っていて、欧州の事情に詳しかった。

イタリアやギリシャのアホを覗いて全体的にマイナス金利になっており、
国債の利回りが非常に低い(というかマイナス)状態で、
リセッションを迎えることを、資本主義の堕落と吐き捨てた。

「ギリシャは学校のクラスで例えると、一番成績が悪くて
 お小遣いを親戚のおばさんから三か月先まで前借りして、
 全部使いこんじゃうタイプ。
 しかも嘘つき。資本主義はこれだからダメだよねー」

「は、はぁ(;^ω^)」

「財務状態がヤバいなら、はっきり公表しなくちゃ困るよね?
 素直に教えてくれたらドイツフランスも財政出動してあげる
 余裕はあったと思うのに。ギリシア政府は巨大な財政赤字を
 抱えているのに、知らないふりをして公務員にはがんがん
 お給料払ってたんだよ」

「で、ある日突然、実はドイツやフランスから借りた
 お金が払えません。ごめんなさいって頭下げて来たの。
 ほんと馬鹿。
 ああいうバカな国の面倒をみたくないから
 英はEU離脱したいって言ってるんだよ」

ギリシャ国内で流通しているお金(ユーロ)は、
EU(欧州連合)の共通通貨である為、ギリシャがデフォルトすることに
よってユーロの価値が減少してしまう為、ギリシャがEUに残り続ける可能性は低い。

賢人は話しの内容に付いて行けず、( ゚д゚)ポカーンとしていたが、
ミウは得意になっており続ける。

「仮にギリシャが債務履行になると、ドラクマってギリシャの
 通貨を使ってると仮定したら、外国の通貨に対して急激なドラクマ安に
 なってハイパーインフレ。物価が10倍以上に高騰するだろうね。
 でも現実のギリシャはユーロ加盟国で通貨はユーロを使ってるの。
 だから、ギリシャが財政破たんしたら
 貸し手であるドイツやフランスの銀行も悪影響を受ける」

「EUはクラスで例えると分かりやすいかな?
 クラスにいる、嘘つきで怠け者で、悪さをしても反省もしない
 アホ。それがギリシャ。こういう馬鹿の面倒を見たくないから
 英はEU離脱したいって騒いでたんだよ」

ミウはEU連合について懐疑的だった。前回の欧州議会選でも
極右政党の躍進が目立った。シリアの難民受け入れ問題でも政治は大きく揺れた。
今後、米国中心のポピュリズムが世界のスタンダードとなると
ミウは予見している。

彼らは令和10年の人のはずだが、先ほどから普通に現実世界の話をしている。
いつものことなので気にしないことにしよう。
最近は、日本のお隣の韓国が話題となっている。
かの国は、国際条約違反の常習者なのだが、
これには特に辛口の評価を加えた。

憲法⇒国の最高法規
法律⇒政府が制定 
条例⇒自治体が制定

この三つより偉いのが、国際条約である。
韓国は平気でこれを破る(河野談話)のだから
ある意味あっぱれである。

・はい河野談話。賠償もしたし、これで戦争時代のことはチャラね( ゚Д゚)
・おk (^○^) 国際条約に調印(批准)しました。

10年後。

・……やっぱり日本は悪だ。もっと賠償しろ。
 韓国内にあるおめーらの企業の資産、凍結するわwww
・ちょ、条約は(´・ω`・)
・そんなん知らねーwwwwちょりーっすwwww

↑韓国のいつものパターン。
 歴史を知っている人間なら「はぁ。またか」で終わり。

「賢人君は、憲法の意味は理解できてるかな?
 面接みたいな質問で申し訳ないんだけど、
 共産主義を学びたいなら法律関係の知識は必須なんだよね(^−^)」

「憲法ですか……学校で学んだ程度の知識で申し訳ありませんが」

(あっ、無意識のうちに敬語で話してた。
 相手が年上の人だからつい)

「が、学校で学んだ程度の知識だけど」

「( ´,_ゝ`)ぷっ。何言い直してるの!! なんかウける!!」

「いやいや、ミウが敬語使うなって言ったから!!」

「もうどっちでもいいよ!!  そんなの気にしてないし!!
 あははは!! なんか君、私と初対面だからって
 気を使いすぎて逆に笑える!!」

ミウは良く笑う女だった。
よほど機嫌が良いのか、テーブルをバシンバシンと派手に叩いて
爆笑することが珍しくなかった。

そんなミウの笑い声をさえぎるかのように、
アンティークなデザインの電話代の上に置かれた、
これまたアンティークなデザインの電話が鳴る。

(´-`).。oO  
あの電話の形、古い映画で見たことがある(>_<)
回転ダイヤル式なんて、わざわざ使いにくいものを。
ミウさん20代なのに凝ってるなぁ。

ミウが受話器を耳に当てると、不思議と貫禄があった。
顔も女優並みに美しいので映画のワンシーンのようだ。

学園付きのシェフからだった。

「同士閣下。お食事の準備が間もなく整います。
 お客様もいらっしゃるようなので
 本日はイタリアンのフルコースをご用意させていただきました」

「へ? Σ(゚Д゚) あっ、今日はわざわざ作ってくれたのね。
 こっちが頼んだわけでもないに悪かったね」

「お食事はどちらまで運べばよろしいでしょうか。
 ジュニア様はすでにマリ様と泉様と本部の食堂で
 お食事をとられておりますが」

(もうそんな時間なの?)

ミウが小物代わりにテーブルに置いていた懐中時計を見ると、
7時過ぎになっている。彼らは1時間半もおしゃべりしていたのだ。

(´-`).。oO 
おーすげー。(;゚Д゚)今どき懐中時計を
使ってる人なんているんだ。ペンダントっぽい鎖が付いたデザインで、
ローマ数字が刻印されてる…。ちょっと時代錯誤な気もするけど
ミウさんにはよく似合うのが不思議だ。

「今賢人と話が弾んでるところなの。
 この部屋まで持って来てくれる?」

「かしこまりました」

それから1分もしないうちに、業務用のワゴンを押して
シェフが入って来た。東アジア風の、顔のパーツが横に伸びた
猫っぽい顔立ちで、賢人の目には中国人のように見えた。

ミウの邪魔にならないようにと、テーブルの上に
全部の皿を並べてしまい、最後に空のワイングラスと
ワインボトル二本を置いてから、恭しくお辞儀をして去って行った。

「……ミウは普段からこんな豪華な食事を食べてるんだね」

「違う違う。普段は質素な家庭料理だよ」

「またまた」

「本当だって(>_<) 私はもともと料理下手だし、子供が生まれてから
 仕方なくやってる感じなんだよ。今日は賢人が来てるから
 シェフが気を利かせて特別に作ってくれただけだよ。
 それより乾杯しよー(^○^)」

白ワインのグラスが、重なる。品の有る乾いた音を立てた。

ミウが白ワインのグラスに口をつけ
「んーhh Good taste.I love it.」
ますます上機嫌になる。

「明日は良かったら中の施設も見学していってね。
 私あなたと一緒にいると楽しいし、賢人さえよければ
 三日で四日でも一週間でも見学していいからね」

ミウの言い方は直球すぎて逆に賢人は返答に困ってしまう。
賢人も今では女の経験がないわけではない。
ミウが嘘や冗談を言いそうなタイプじゃないことは
外国で育ったことからも伝わってくる。

この二歳年上の女性は、理由は良く分からないが、自分のことが
嫌いではないのだろう。むしろかなり気に入られている。
逆に明日にでも帰ると言ったら機嫌を損ねるのは確実。

ならば。

「共産主義のことも勉強したいし、俺もミウと話してると
 昔からの友達と話してるみたいで楽しいよ。
 お言葉に甘えてしばらく滞在させてもらおうかな(^○^)」

「よし。決まりね!! あれ?(´ー`)」

「ん?(;゚Д゚)」

「ごめん。今更だけど賢人って社会人だったよね?
 お盆休みも過ぎているし、何日もここにいると
 賢人が会社に行けなくなっちゃうね」

賢人は、ペンタックが派遣社員のストにより、
無期限で業務停止状態なことを説明した。

賢人は知らなかったが、この時点でペンタック久喜工場は
復興の見込みがないと判断され、正式に閉鎖が決定。
瞳以外の全ての従業員はすでに解雇されていた。

つまり今現在、彼が最も恐れていた、
令和10年の魔界で無職となってしまったのだった

「あはははは!!! ヾ(≧▽≦)ノ はははははっ。
 ごめんねーヾ(≧▽≦)ノ 
 笑ったら賢人が怒るだろうけど、面白過ぎてお腹痛い!!!
 派遣社員が武装して派遣会社の事務所を襲撃!?
 勤務先の工場がリアルで炎上している!? 
 なにそれバッカじゃないの!!」

賢人は意識してないがミウの好きなネタを提供していたのだ。
行きづまった資本主義社会が
暴走すれば、市民が暴徒と化すのは必然。

資本家階級と労働者階級の対立。
貴族と庶民。専制君主と奴隷。格差。地位の違い。お金。
これこそが、資本主義そのものの矛盾。

ミウは、どんどんおかしくなっていく日本の政治経済を
実態を知るたびに、このように爆笑していた。
日本のニウス・ペイパアはマイナスな
企業の不祥事の記事が目立つから面白いそうだ。

冷戦終結後、米主導の世界秩序は、
現在までマルクス・エンゲルスが予想した通りの展開になっている。
資本主義は、その構造上の矛盾から最終的に
世界戦争を生み、やがて全ての人類が破滅する。

「実は俺もミウの考えに完全同意なんだよ」
「へえ。そうなの? 賢人の考えも聞かせてよ」

賢人は未婚率の増加、少子高齢化、財政赤字の増加、
MMT(財政無制限拡大)理論の将来的な破綻、
外国為替市場でますますの円高が強まり、
現金の価値が目減りするリスク、
大手企業による労働者の搾取が今後も続くことから

どうやっても何があっても、どう頑張っても、
それこそ日本本土が空爆される大戦争でも起きない限り、
日本の経済は、絶対に限りなく100%に近い
可能性で悪化し続け、改善の見込みはないと力説した。

「すごーい。若いのにそこまで経済のことを
 知ってるだけでもすごいことだよ(*^▽^*)
 自民党の発表する国のファンダメンタルズ分析が
 クソだってことも分かってるんだね」

「いえいえ。これでも元銀行マンだったからさ。
 ミウに比べたら赤ちゃんみたいな知識だよ」

「金融機関で勤めた経験があるなんて奇遇だね。
 私のパパが現役の証券マンなのよ」

「ええ(・´з`・)!? 
 ミウが共産主義者なのにお父さんはモロ
 資本主義の仕事をしてるってことじゃないか!!」

「赤の他人だったら収容所行きだけど、私の肉親だからね。
 ここまで育ててくれた恩があるから、
 父の仕事のことは関心がないふりをしているの。
 みんなよく勘違いするけど、これでも父とは結構仲良しなんだよ」

「お父さんが頭の良い人だからミウも頭が良いんだね」

「ありがとね。パパはエリートだけど私はごく普通だよ。
 人より読書するのが好きなだけで」

「ミウはさすが学園の権力者って感じだよ。貫禄もあるし、すごいよ」

「そんなに褒めなくていいってば(&#2669;&#2369;´・ω・`)&#2669;&#2369;&#8318;&#8318;(^○^)
 ところで賢人はさぁ」

「ん( ゚Д゚)?」

「もしかして株式投資してる人なのかなって」

「あ……(;´・ω・)」

「あなたのさっきの話で、ドル円相場、ダウ平均とか、株式市場の
 内容が多かったのね。元銀行マンっていっても地銀だと
 主な貸出先は国内法人と個人でしょ。外国為替市場の
 話題とか普通でないと思うんだ。FRBやFOMCも知ってるみたいだから、
 少なくとも米国の株か債権を持ってるでしょ?
 それとも若い人だからFXや先物取引に手を出してるのかな?」

賢人は、コンビニで立ち読みした週刊誌の内容を思い出した。
その週は共産主義の生んだゆがんだ美女・高野ミウの特集記事が書かれていた。
ミウは嘘つきが嫌い。嘘つきは全員むごたらしく拷問させ、
謝罪させてから内臓を引きづり出すか、
校内引き回しの刑にして殺すことを知っていた。

ミウは共産主義者なので、金融の取引でもうける人間は大嫌いだろう。
現に、先ほどの父親の話でも、肉親でなければ収容所行きだと口にしていた。

ならば。

ここで賢人が株式投資をしていると言えば、どうなるのか。

実は賢人ではなく妹の美雪が外国株式の運用をしているのだが、
共産主義では資本家の家族(5親等以内)は連帯責任で全員収容所行きだ。
資本家の血筋を絶やすために編み出された恐ろしい制度で、
北朝鮮が現在も実行している。

「手が震えてるけどダイジョブ?
  怖がらせるつもりはないんだ。ただ気になったことは
  なんでも聞かないと気が済まない性格だからさ(*^▽^*)」

「俺は投資はしてないけど、俺の妹が、
 米国の株を9000万くらい持ってます。
 先月親父から生前譲渡されたんだ」

「9000万!!?? (゚∀゚) お金持ちなんだねー。
 しかも生前譲渡するってどういうこと? 
 気になるから詳しく教えてー」

賢人は、第一シーズンの17話当たりの話を全部聞かせてあげた。
ミウは時々うなずき、たまにレタスやトマトをつつきながら、
楽しそうに聞いていた。

「あーなるほどね。日本株がゴミだから米国株投資ってそれは
 算数の計算ができれば誰でもわかることだねー(´ー`)
 お金を増やしたいなら今の積み立て投資で正解だと思うよ。
 君の話でVOOってETFを初めて知ったよ。信託報酬が激安だから、
 安心して機関投資家に運用を任せておけるね」

「俺はVOOは最強だと信じてるよ。
 ただドル建ての資産だと為替が怖いんだよね(;・∀・)
 俺らが生まれる前にもいろいろあったみたいじゃないか。
 いきなり急激な円高になって資産が半減したりとか」

「為替なんてそんなに神経質に考えなくてもいいんじゃない?
 10年先まで考えているんだったら、ためらう意味ないよ。
 むしろ機会損失。10年後にトータルリターン(株価、配当)で
 儲かる絶対の自信があるんだったら、買うタイミングを
 ためらっている方が、むしろ素人の考えかもしれないよ」

「うーん、そうなのかな(>_<)」

「自分が良く分析して、信じて買う金融商品だったら
 自信をもって運用すればいいじゃない。あっ、投資信託だから
 プロに任せてるから運用しなくていいんだったね。
 それで経費率0,03%なら大安心だね。
 バンガード社って気前良い会社なんだね。
 激安金融商品を販売する所は、さすが米国」

「逆に日本の投信の手数料は高いよね(;´・ω・)」

「そうそう(^○^) うちのパパも良く言っていたの。
 日本の銀行や証券会社は手数料割高のアクティブ型
 ばっかりお客に売りつけて割高な手数料をぶんどってるって。
 そうしないと儲からないからね。実は機関投資家たちの間では、
 インデックスファンドの方が長期のリターンで儲かるってのは
 常識なのに、お客さんの前では口が裂けても言えないじゃない?」

「やっぱりインデックスの方がリターンが大きんだΣ(゚Д゚)」

「常識だよ(*^▽^*)」

※インデックス = 日経平均、TOPIX、SP500など株価指数・関連銘柄にまとめて投資。
 アクティブ  = いくつかの銘柄に絞る。リスクが高い。

ミウはニコニコしていて、声もでかい。
怒った様子がないどころか、上機嫌にしか思えない。
だから賢人は逆に怖かった。

「ミウは、怒らないのかい?((((;゚Д゚))))ガクガク」

「怒るって?」

「俺が資本家の立場の人間だってことを話してしまってるのに、
 普通に株の話をしてくれるのが不思議でしょうがないんだ」

「んーん。私はね」

ミウは、賢人の食が進んでないから遠慮なく食べるように言ってから。

「資本家連中が死ねばいいとは思ってるけど、人は選ぶつもりだよ。
 さっきも言ったけど賢人のことは不思議と嫌いになれないのよ。
 元気だったころの旦那と話してる時を思い出して、胸が暖かくなるの」

「ミウは俺のこと好き?」

Σ(゚Д゚) (あ、俺はなんでこんな直球な質問を…)

「好きだよ。嫌いなわけないじゃん」

賢人は、共産主義の狂気に染まった女性なのは承知していても、
美人のミウに好きだと言われてうれしくなってしまった。

「賢人は私の知らない世界を知ってるよね?
 私は、私の知らない世界を知っている人が好きなの。
 私は学生の頃からボリシェビキだったから、
 資本主義の世界で生きていた人の話がもっと聞きたい」

彼女も自覚してないのだろうが、どうせ口もきけなくなった
旦那の代わりを求めてるだけだろうと賢人は心の奥底で感じた。
なぜだろう。彼女の賢人を見る時のキラキラした瞳が、
愛と性に飢えていた瞳によくかぶるのだ。ミウは相当に欲求不満なのだろう。

だが賢人も妹と瞳から逃げてきた身だから、
しばらく家に帰りたくない事情もある。
よって利害が一致している。

それに一目見た時から、
ミウの飾らない笑顔と美しさには圧倒されていた。
賢人は異性としての高野ミウには興味があった。
瞳や美雪とは全然違う怖さもあって余計に興奮する。

「俺も、君の話がもっと聞きたいんだ。ミウ」
「賢人……」

二人は熱っぽく見つめあった。

賢人が席を立ち、ミウの肩を抱き、くちびるを重ねると
食事のことなどすっかり忘れてしまい、愛し合うように
なってしまった。食事を片付けに来たシェフが
謝罪してから逃げ出してしまうのが滑稽だった。

妻が浮気しているのに旦那の太盛は、

⊂⌒~⊃。Д。)⊃ まだこんな状態だった。

最近の日本では妻の浮気が流行ってるらしい。
イスラム教だったら極刑である。


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