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作品名:令和10年 兄妹の物語 第二シーズン 作者:なおちー

第19回   賢人「瞳さんと深夜の修羅場……?」
「じゃあ話数が変わったので俺は失礼するよ」

瞳はイライラに耐え切れず、またしても彼をぶってしまうのだった。

パッシイイイイン

(>_<) 賢人は、叩かれた頬を押さえ、6秒間堪えてから

「これで気が済んだかい?」

瞳の顔を見ずに早足で扉を開けて去ろうとしたのだが

シュッ

残像すら残すほどの見事な足払いを食らってしまい、激しく転倒した。
転んだ時に左手をついてしまった。手首に鈍い痛みが
するのでねんざしてしまったかもしれない。

彼にとってはどちらでもよかった。
一刻も早く愛する美雪の元へ戻り、明日になったら
愚痴でも聞いてもらおうかと思っていた。

「ごめんなさい。今のは……違うのよ!!」

何が違うのか。
言い訳なんて聞きたくなかった。
今日の瞳はヒスを発動しているのは間違いない。

(ヒステリーの相手をしたら負けだ)

賢人は、実は瞳に性的魅力など全く感じていなかった。
繰り返すが、賢人から見て瞳は綺麗な顔立ちで好みである。
スタイルは細身だが、適度に筋肉質でウエストが引き締まっていて
これはこれで十分に魅力的である。

だが、なぜ彼は婚約者にまで選んだ瞳嬢に対し
劣情を抱かないのだろうか。これは、瞳のみならず
多くの人にとって疑問に思うことであろう。

「もう隠してもしょうがないから正直に話すわ。
 私はずっと賢人に相手にされなくて寂しかったの!!
 だって賢人ったら妹とは毎日一緒に寝てるのに
 婚約者の私のところには一度も来てくれなかったじゃない」

「ね……? 賢人なら私の気持ち分かってくれるでしょ?
 賢人は自分から私の婚約者になるって言ってくれたのに、
 もしかして私のこと興味ない……って思ったら不安で。
 私胸もないしこの年だから女として見られてないのかなって」

『女として見られていない』

と彼女と言ったが、これはある意味事実であった。

瞳は賢人の婚約者であり、現在表面上は仲良くし同居している。
それは事実だ。だが賢人の心の根っこにある部分は、
根本的に彼女とは異なっているのだ。

(冷静になって考えてみれば、瞳さんと同棲しているのは
 母さんの命令によるものだ。それに俺が婚約を認めたのだって
 お金と会社の雇用が関係しているからだ)

賢人には実は冷たい部分があった。
彼が初めて勤めた会社は地方銀行であり、金融機関だった。
メガバンなど大手の金融機関と違い、地方銀行は
昔ながらの貸出金業務で利ザヤを稼ぐ時代遅れの組織である。

長く続いた平成不況を経て、令和でも続く大不況。
この大不況が自分たちが死ぬまで続くことを予想していた。

長期金利の低迷。企業の倒産数の増加。
企業向けの出資が滞る昨今において、個人向けの
お金の貸し出し(闇金)を積極的に行っている。

現実世界では某スルガ銀行が個人向けの住宅ローンの不正融資、
かんぽ生命が老人を中心に2万人の顧客に
元本割れする金融商品の販売をしていたことが明らかになっている。
こららは、もはや金融機関と称するべきではなく、
地上に存在する価値のない『生ごみ』とするのが妥当であろう。

貸出金業務とは、
右のポケット(Aさん)から仲介(銀行)を通して左のポケット(Bさん)へと
貸し出しを行い、返ってくるまでに金利や手数料を通じて利益が発生する。
(Bさんは個人もしくは法人を例にする)

もっとも企業相手に貸し出すには手形や社債など種類は雑多だ。
また銀行は国債の買い手にもなっている。

貸したお金が返済されるまで時間がかかる。
相手の将来の返済能力にもよる。
そのため金融とは『信用』によって成り立っている。常識である。

賢人から見て瞳は
『信用』
に値しなかった。

彼は寝る前などに色々と将来のことを考えてみた。
賢人は考え事に長い時間をかけるのが特徴で、
決まって入浴中と就寝前としていた。

美雪が隣で寝息を立てていても、飽きずに彼女の前髪を
いじりながら1時間も考えていることもある。

美雪のことは好きだ。
血のつながりがあるし。幼いころから同じ家に住み、
多忙な母に代わって一緒に買い物や料理など
家事全般をこなしてきた歴史と安心がある。

端的に言って将来一緒にいるべきなのは
美雪なのだと理性で理解していた。

自分中心の発想が多く、わがままを言うが、
女とはそういう生き物だと割り切っている。
典型的なA型の奥さん気質。几帳面な性格で綺麗好き。
自分の衣食住の世話を進んでやってくれるのはありがたい。

実は会社のお弁当を欠かさず作ってくれるのに心から感謝していた。
家計を切り詰めつつも、栄養バランスはきっちり考えてくれている。

彼女が自分なりに一生懸命勉強して米国株式での資産運用をしているのも
ポイントが高かった。賢人は自分が馬鹿ではない自覚はあったから、
伴侶となる女性にもそれなりの知性を求めている。
美雪の勉強熱心で読書が好きなところも大好きだった。

一方で瞳はどうだ?

今年の四月から勤め始めた会社で知り合ったばかり。
その付き合いはまだ半年にも満たない。
期間で考えると美雪とは比較にならない。

彼女もA型で質素倹約な生活を好むのは美雪同様。
家事全般もこなせるようだ。
社長令嬢のため育ちの良さが随所に見られ、
当分金にも困らないのだろう。それはいい。

賢人は彼女のヒスを警戒して口には出さないものの、
妹の手作り弁当を道端に捨てるよう指示されたこと、
スマホを電気ポットに投下されたことを根に持っていた。

彼が瞳のように昔のことを蒸し返さないのは、男性脳だからだ。
男性脳は過去の辛い思いではぐっとこらえて過去のフォルダにしまい込む。
賢人タイプの一見するとおとなしい男ほど、
実は怒りの感情が激しく一生根に持つのだ。

妹は本気でキレたらなぜか自殺未遂の練習を始めてしまうが、
賢人の私物に危害を加えたことはない。また物も大切にする子である。

そして第二シーズン冒頭での瞳のヒステリーは最低だった。
賢人は瞳にビンタされた回数を正確に覚えていた。今夜で4回目だった。

賢人は暴力を嫌うし、学生時代も男同士でほとんど喧嘩もしたことがない。
結婚する前からビンタしてくる相手との結婚など、誰が考えたって難しいだろう。

瞳はお金持ちで、社長令嬢で、体が細くて顔がとても綺麗だ。

だが、それだけだ。

根本的にこの人と長い関係を築くのは不可能だと判断していた。
したがって瞳に夜這いするなど論外なのだ。

「さっきから黙ってるけど、怒ってるのかなぁ……?(;´∀`)
 顔こわいよ……? おーい、賢人君。
 作者が仕掛けたドックリじゃないのよね?
 私と目を合わせてお話をしましょうね……?」

瞳は賢人に腕組みし、前と同じように媚びを売ってくる。
めんどくさくて笑ってしまいそうにすらなった。
こうなると知っていたら誰が瞳の部屋などお邪魔するものか。

「私は賢人のこと信じてるわ。
 賢人は優しいから、つまんないことで喧嘩しても
 最後は私の元へ帰って来てくれるものね」

だから、つい言ってしまった。

「めんどくせえ」

「えっ…(゜o゜)」

賢人は、しまったと思って口を塞ぎたくなった。

彼はネットでヒステリー対策のブログや体験談を
3時間もかけて熟読した経験から、ヒス女性を
絶対に拒絶してはいけないことを知っていた。

特に奥さんに多いのが、家事育児に忙しくて
ストレスと孤独を感じ、旦那に頑張りを認めてもらいたい、
家事を手伝ってほしい、『不足した愛情』を補ってほしい
という、根本的な要求に寄る情緒不安定現象なのだ。

「わ、私ってうざいの……?」

瞳は、彼に構って欲しかった。
性的な意味でも彼と繋がっていたかった。
プラトニックな感情の行きつく先として、もう一つの繋がりが欲しかったのだ。

「ごめん。今のは何でもない」

「私ははっきり聞いちゃったわ。気をつかわなくて……。いいのよ。
 この際だからぶっちゃけてよ。私のこと、うざいと思ってるんでしょ」

「なんでもないって言ってるだろ!! 忘れてくれ!!」

「ダメダメ!! ちゃんと言って!!」

「いいよ。言ったらまた喧嘩になるだろ!!」

「もうなってるわよ!! 言いたいことあるなら、
 はっきり言いなさいよ。あなただって男の子なんでしょ!!
 ほらほら。遠慮せずに私のどこがうざいのか言ってみなさいよ!!」

「そういう、しつこいところが嫌なんだよ!!
 嫌われてる自覚があるんだったら、
 もっと俺から距離を取ってくれよ!!」 

「賢人……」

組んでいた腕を乱暴に振りほどかれてしまった。
瞳は無性に悲しくなり、泣きそうになった。

「賢人。ごめんね。お願いだから嫌いにならないでよ」

そっと彼の手に触れようとしたら

「やめてくれよ」

はたかれてしまう。

今賢人がやったことは? 

『明確なる拒絶』

おそらくもっとも瞳を刺激する行為だ。

賢人は逆にやり過ぎたかと思った。
瞳はショックで目の焦点が合っていないのだ。
実は瞳は立ち眩みと戦っているだけなのだが、
賢人は瞳がまたヒスってビンタしてくると思ったため、歯を食いしばる。

「あ、あはは……。賢人の本音ってこんなにも冷たかったんだ。
 私みたいな女じゃ誰だって嫌になるよね。私も実は賢人にビンタした後
 冷静になってどうして…あんなことしたんだろって自己嫌悪になるの」

「ビンタのことは気にしてないからいいよ」(うそ)

「賢人が怒ってる理由は良く分かるわ。
 賢人は妹違って不平不満を口にしてくれないから、
 何が不満なのかが今まで理解できなかったの。
 もっとちゃんと話し合って、この問題を解決しましょう。
 私は賢人君と仲直りしたいと思ってる」

「それより遅い時間だから寝たい。
 話はまた明日になったら聞くから」

彼が感情のこもらぬ瞳で言うものだから、瞳はゾッとしてしまった。
ここで彼を怒らせたら本気で嫌われてしまう。
恐怖心は瞳の側にもあったのだ。

「(>_<) そっ……そうね。おやすみなさ……」

扉に手をかけた彼の腕を、強く握ってしまう。

「待ちなさい。あなたはどこで誰と寝るつもりだったの?」
「……一人でリビングで」
「嘘ね。どうせいつものように妹と一緒に寝るつもりだったんでしょ」
「……妹と寝たら悪い?」
「悪いわ。だって私とあなたの関係はこんや…」
「あっそう!! もう今夜はやめよう。とにかくおやすみ!!」

賢人は去ろうとするが、またしても瞳に呼び止められた。

「ちょっと待ちなさいよおおおお!!
 まだ話は終わってないのよ!!」

深夜のかなきり声である。
人いは体を鍛えてるのでまさに体育会系のノリだった。
賢人は背中からこの声を受けてしまったので、
全身の毛が逆立つほどの恐怖を感じた。

「やっぱりあなたを行かせるわけにはいかないわ。
 兄と妹が同じ布団で寝るなんて不健全よ。変よ。
 この変態!! ロリコン!! 近親相関!! 
 賢人は今夜ここで寝なさい!!」

「ギャーギャーうるせえな。
 なんで俺が興味のない女と一緒に寝ないといけないんだ」

「へ?(;゚Д゚)」

「瞳さんは勘違いしているようだから言わせてもらうよ。
 婚約ってのは法的には一定の拘束力があるが、
 解消することはもちろん可能だ。
 現に俺たちは籍は入れてない」

「待って待って。何勝手に話を進めてるのよ!!
 この団地で三人で一緒に暮らすようにって
 あなたのお母様に言われたのよね?」

「一緒に暮らすってだけで結婚しろとは言われてないよ。
 夜一緒に寝ろとも言われてない。そこは本人たちの自由だよ」

「賢人は私と一緒にいるのが……そんなに……嫌なの……?」

「そうとは言ってない。今まで通り三人で暮らせばいいじゃないか。
 ただし、瞳さんと大人の関係になるのは無理だってこと。
 今は結婚のことも考えてない」

「……あはは。面白い冗談ね。
 そうやって私をからかっているのね。
 だって前言ってたのと内容が全然違うじゃない。
 矛盾してるなんてもんじゃないわ。
 う、うそよね。ドッキリなんでしょ?」

賢人は沈黙で肯定した。

「会社で誓ってくれたのを忘れたとは言わせない。
 私と婚約するって訊いたら、はいって…。
 まさか今さらあの約束をなかったことにするつもりなの……?」

賢人は、視線を床に落としたまま黙っている。
それでは肯定したのと同じだ。
彼が答えないことに瞳の怒りがますます
強まっていつものアレが発動してしまうのだった。

「私があなたのことをお金と雇用の面で一生守ってあげるって
 言ったら、あなたは泣いて喜んでいたじゃない!!
 瞳さん、助けてくれ。今までのことは謝るよって!!
 あれを嘘だったってことにする気なの!?
 そんなの絶対に認めないわよぉおおおお!!」

「あれからよく考えたら、気が分かったんだ」

「ダメダメ。そんなのダメ。絶対に認めないわ!!
 賢人って嘘つきなのね!! こんなに嘘つく人だって
 知らなかったわ!! 人を騙して最低だと思わないの!!
 男なら一度した約束はきちんと守りなさいよ!!」

「……(~_~;)」

「何よその顔は!! (´゚д゚`)
 ねえだったら教えてよ。私のどこがダメだったの?
 どこが気に入らないの? 早く言ってよ。すぐ治すから!!」

(そーゆー態度だよ(。-∀-) しつけー。早く疲れて寝てくれよ)

と言いたかったが、さすがにこらえる。

「あなたのこと一生守ってあげるって誓ったのに。
 お金も雇用も守ってあげるだけじゃ足らないの!?
 私はこんなにもあなたのこと愛してるのに。
 私の愛があなたに届かない。不思議よね。
 一体何が不満なの? 何が気に入らないの!!」

「妹みたいに胸がないから!? 株式投資をしてないから!?
 それとも顔が悪いの? 私が30過ぎだからダメなの?
 賢人君はロリコンだから若い子の方がいいのか!!」

(俺はロリコンなのか…)

「それもそうか。賢人君はロリコンだから女子高生とか
 好きそうだものね。この前カグちゃんの娘たちにも
 デレデレしていた…」

「なんで俺が女子高生好きになってるんだよ!!」

「ひっ(>_<)」

「そうやって人をレッテル張りして中傷するのが不愉快なんだよ!!
 いつ俺が女子高生好きだと言った? 妹と仲良しだと
 勝手にロリコン扱いかよ。ああそうか。なら
 好きなだけロリコンって呼べばいいじゃないか。
 君はそうやって俺をバカにするのが好きなんだろうが!!」

「分かった……分かったから怒鳴るのをやめて頂戴。
 私は二度と賢人君をロリコン呼ばわりしないと誓うわ…」

「瞳さん。前も言ったが、いい加減他の男を見つけろよ。
 君が俺のことをどう思ってようと、これ以上関係が
 進展することはないよ。俺が君の部屋に夜這いをしなかった
 時点である程度は察してほしかったんだけどな」

賢人は、また瞳のヒスが加速すると思ってこれ以上は
何も言わないことにした。すると瞳の瞳から大粒の涙が
こぼれおち、床を濡らしていく。

今は怒りの感情じゃなくて哀しみの感情に支配されているようだ。
賢人はころころ変わる彼女の情緒に呆れてしまい、少しだけ恐怖した。

「うぅ……(ノД`)・゜・。 もう、どうしようもないの……?
 賢人はそんなにも妹のことが好きだから、
 私のことなんてどうでもよくなっちゃったのね……。
 いやだぁ(ノД`)・゜・。
 賢人と二度と会えなくなるなんて嫌だよぉおお」

(俺が妹好きなのは事実だが、ただ単にモテないから
 他に女が見つからなかったからこうなっただけだ。
 仮に美雪に好きな男子ができたら喜んで
 応援してあげたいくらいなんだけどな)

「うわあああああ、神様ああああ!!
 私も賢人君の妹として生まれてきたら彼から愛されたのに!!
 これが私の運命なんですかぁあ!!
 最初から決められていたのですかああ!!」

瞳は泣き崩れた。
賢人の足元にすがって子供のように大泣きしている。

「けんとおおお!! けんとぉぉおぉおお!!
 うわあああああん!!」

とても32の女には見えないほどの精神的な幼稚さであり、
やはり賢人から軽蔑されてしまう。

( ノД`)シクシク…

賢人は認めたくなかったが、ボロボロ泣いている
彼女の瞳がこの上なく美しく感じられてしまった。

長い前髪が、まつげにかかり、
高い声で(つд⊂)うわああん と泣いている。
母親に怒られた時は歩道の上で
こうやって女の子座りをしていた。

『涙は女の武器』というが、男性によっては
むしろ逆効果でドン引きされる場合とドキッとする場合がある。

運の良いことに、今の賢人にとっては後者であった。

(この人……こんなに俺のこと好きなのかよ……)

執着心が強く、喜怒哀楽の強い潜在的なヒス女。
賢人から見て瞳の評価はそんなものだった。

(つд⊂) エーン と泣きづつける瞳が目の毒だと思い、
さっさと立ち去ろうとして実際に扉を閉めたまでは良かった。

(つд⊂) エーン、エーン

(くそっ……)

拳を握りしめる。扉の向こうでは今も瞳は大泣きしているのだ。
どんな経緯であろうと女を泣かせると男は罰が悪くなるのである。
これは女性を守ってあげたくなる男性の本能なのだろうか。

賢人は今度は扉を蹴破るように開けた。

「おいっ、ひとみ!! 深夜なのにうるさいんだよ!!
 いい加減泣き止まないか!! 妹が起きちゃうだろうが!!」

「……(ノД`)・゜・ いやぁぁぁぁぁああぁああああ!!
 賢人君に嫌われたら生きていけないよぉおおおおお!!」

「おまえはっ、そんなに俺のことが好きなのかっ」

「( ノД`)シクシク… 好きなんてもんじゃないです。愛してるんです。
 私を分かってくれるのは賢人君しかいないんです!!」

タックルするような勢いで、彼の胸へ抱き着いてきた瞳。
いつもの髪の毛の優しい香りが賢人の鼻孔をくすぐった。

「お、おい……」
「お願いよぉ賢人君。なんでもするから嫌いにならないでぇ」
「なんでも?」

「ええ。お金が欲しかったら私のお金を全部あげるわ。
 他に欲しいものがあったら何でも言ってくれて構わない」

「金はいいよ。それより」

賢人は瞳の顔を乱暴につかみ、くちびるを思いっきり近づけた。
それは賢人の側からする初めてのキスだった。

「(。・ω・。)ノ&#9825; 賢人君っ……どうして?」

「いやだった? なら二度としないけど」

「いやだなんて、全然そんなことないわ!! 
 むしろうれしくて、びっくりしちゃったのよ」

瞳は目元が赤くはれていて、嗚咽が激しくてろれつが回っていない。

「かわいかったから」
「えっ (゚Д゚)」
「泣いている瞳の顔が、かわいかったから」

今回ばかりは建前やジョークの類でないのは明らかだった。
だから瞳はうれしくて心が宙に浮く気分になってしまった。

「今度は私からするね」

瞳が少し背伸びして彼と顔の高さを合わせた。
彼は嫌がらなかったどころか、瞳の肩を
優しく抱いてくれている。

(賢人に拒絶されてない……)

瞳はとっさに彼の手を握り、自分の胸を触らせた。
小さいとはいえ、それなりのふくらみがあるはずだった。
これにはさすがの絶食系男子の賢人にも一定の効果があった。

妹以外の女性の体を触るのが初めてであり、新鮮だったのだ。
賢人は瞳の胸から目を離すことができず、
彼の吐息がだんだんと荒くなっていく。

そして賢人の方から瞳を床に押し倒してしまった。
すぐ近くに布団があるのだが、贅沢が言える立場ではない。
彼と結ばれるのだったら、どこでもいいのだ。

「ひとみ。すきだ」

長くキスをして舌を絡める。
彼の吸いつくようなキスは途中で息が苦しくなるが瞳は我慢した。

賢人が瞳のキャミに手を伸ばし、脱がせる。
寝る前なのでブラは着けてなかった。
賢人が欲望丸出しの顔で乳首に吸い付こうとしたとその時だった。

「2人とも、そこで何をしてるの……?」

鬼(ミユキ)が、扉の前で仁王立ちをしていた。

これが昼ドラやラノベで散々使いまわされた展開である。
主人公とヒロインが良い展開になると第三者が邪魔しに来て修羅場。

「見てわからないの? 
 私と賢人は夫婦だから夜の営みをしていたのよ。
 子供は自分の部屋に戻って寝てなさい」

「それ以上何か言ったら本気でぶち殺しますよ?
 あなたと話すことは特にありませんから、
 私は兄を連れて自分の部屋に戻りますね。
 それではごきげんよう。おやすみなさい」

「Σ(゚Д゚)おい美雪、腕を引っ張るなよぉ。腕が折れるううう!!」

今度は妹がヒスる番だった。
瞳の部屋の外で美雪の怒鳴り声が響き渡る。

『お兄ちゃんのバカ!! 私に隠れて何してたの!!』
『お兄ちゃんの服からあのメス豚の匂いがする!!』
『うわああああああ!! あの行き遅れのババアめ!! 
  賢人を誘惑しやがって!! 殺してやるうう!!』

7分後。静かな夜が戻った。

美雪の指示で賢人の着ていた服はすべて洗濯に出されたため、
洗濯機が回る「ぐおーん、ぐおーん」という音がやたらと響く。
賢人はファブリーズの連射によって全身を洗浄されてしまった。


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