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作品名:令和10年 兄妹の物語 第二シーズン 作者:なおちー

第10回   瞳「私の名前は坂上瞳です。あなたは?」
※ さかがみひとみ さんじゅうにさい

令和10年ほど生きづらい時代が、かつてあったのかしら。

天下泰平の世だった江戸時代は、それはもう平和だったと聞くわ。
争いを止めて文化の花が咲き誇った江戸の文化。
文芸。音楽。書道。食文化。
当時の武士はやることがなくて、短歌を作ったり
サッカーらしきものをするのが日課のニートだったそうです。

喧嘩は江戸の華とはいったものの、戦国時代に比べれば
史上最も平和で安定していたと言われる時代。

そして戊辰戦争を経て江戸幕府崩壊。
明治維新の文明開化から日清日露戦争。
日中戦争太平洋戦争を経て、戦後の高度経済成長。
平成の大不況30年を経て、令和でも不況は継続。

一部の大企業と資本家、お金持ちの市民だけが
富を蓄え、貧乏人は一生貧乏人として地を這うことを強制されている。

現実世界でも米国下院議員のグループでも「反資本主義派」が形成され、
資本主義の有り方を見直すべきだと話し合われているそうです。
次期大統領選後に半トランプ派の民主党政権が誕生すれば、
米国を中心に何かが変わるかもしれません。

ちなみに米国マクドナルドではCEOのお給料が
末端従業員の『2040倍』だと、CNNテレビで報じられて話題になっています。
※実話です(2019/7/1)


0:30
市営団地の夜は静かなものです。
どこかのお部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえたりもしますが、
遠くの部屋のようなのでそこまで響きません。

私は自分用の部屋でおとなしく横になっています。
美雪は、さっき玄関が空いた音がしたので帰って来たのでしょう。
足音を殺して移動し、シャワーを浴びる音が聞こえてくる。
まだ私におびえてるのかな。あの時のあいつの引きつった顔、
今思い出しても噴き出しそうになる(*^▽^*)

私は働いていないので生活のリズムが少しづつずれてきています。
いつもなら布団に付いたら即爆睡なんですが、まどろいんでいます。
スマホで確認すると、あれから30分経過していました。

『(*´Д`)ハァハァ みゆきぃ。みゆきぃ。好きだぁ』

私はばっと布団から半身を起こしました。
聞き間違えではないようです。すぐ隣の部屋から彼の声が聞こえます。
あの子達は今夜も一緒に寝てるの……? しかも好きとか言ってるし…

賢人は私と一緒に寝ようとはしません。
恥ずかしいので私からは誘えませんが、賢人は修羅場になるのを
警戒して私と夜は距離を取るのです。
本当に私のこと好きなのかな(´・ω・`)って不安になることがあります。

『(*´Д`)ハァハァ やっぱり美雪の体は最高だ……。
 瞳みたいな貧相な胸じゃ触ろうって気にもならないもんな……。
 この肉の柔らかい感触……たまんねえ。触った瞬間に
 イッちまいそうになるんだ…』

ま、まさか( ゚Д゚)二人はすでに……

『(*´Д`)ハァハァ 俺が瞳に言った言葉? そんなの口から出まかせだよ。
 あんな年増の若作り、俺の好みじゃない。顔は綺麗だけどな』

うそ……嘘だと言ってよ

『(*´Д`)ハァハァ 俺は美雪のことが生まれた時からずっと好きだった。
 お前さえいてくれれば、赤の他人なんていらないよな。
 ほら服を脱いで。お前の下着をもっとよく見せてくれ』

けんと…

『(*´Д`)ハァハァ ペンタックの雇用が継続されないなら、あんな女には
 もう利用価値はない。あとで説得して出て行ってもらおう。
 美雪の方がお金をたくさん持っているし、俺を守ってくれるのは
 分かってる。美雪さえいれば、あんな奴はもういらない』

『(*´Д`)ハァハァ あのヒステリーなところも大っ嫌いだ。
 俺が少し美雪の名前を出しただけで取り乱しやがって。
 ばっかじゃねえの。あんなんだからいい歳して独身なんだよ』

その後も賢人は何かを言っていたけど、もう何を言われても
私の耳には入りませんでした。

私は声もなく泣きました。手が震えている。くやしくて。
涙がこんなにも流れるなんて、大人になるまで知らなかった。
こんなぐしゃぐしゃになった顔、誰にも見せられない。

私は馬鹿だな。ずっと賢人に騙されていたんだ。
賢人は私の手を握って愛してるって何度も言ってくれた。

全部……全部……嘘だったんだ( ;∀;)

(´;ω;`)

天にいる神様。お父さん。お母さん。

私は今まで生きていてこんなに悔しい思いをしたのは初めてです。
できるなら、今すぐ賢人を怒鳴りに行きたい。
でもそんなことをしたら、裸で抱き合ってる兄妹の姿をみて
余計に自分がみじめになります。

壊れてしまいたい。でも壊れられない。

失恋ってこんなにも重い感情なのね。
私は恋愛なんてしたことなかった。だから失恋の重さを知らなかった。
学生時代に友達の恋バナをよく聞かされた。
みんな私を恋愛上級者と勘違いして、色々な相談をされた。
私の前で男に振られて泣きじゃくってる子もいた。

そんな時、恋愛経験豊富な坂上さんだったら、どうするんですかって
聞かれた。一晩良く寝ればすっきりするよって、適当に答えるしかなかった。

騙された私がみじめで、狂ってしまいたい。手首を切りたい。
騙されたと分かった今でさえ、賢人を心から憎むことができない。
私は嘘だったとしても彼の言葉がうれしかった。

男性に真剣な顔であんなこと言われたこと、一度もなかったから。
あの思い出まで嘘だったことにはしたくない。
こう思うのはわがままでしょうか。神様。

私は震える手で旧約聖書を手に取る。
だめだ。一行も頭に入ってこない。
音読しようとしても嗚咽しか出てこない。

親はここにはいない。誰も頼れる人はいない。

私は布団の上で両足を抱えてうずくまり、いつまでもそうしていた。
カーテンのない窓から朝陽が差し込み、室内を照らしていきます。

もうあれから4時間も経ったのか。
私は会社で出会ってからの賢人との思い出の中にいた。
思い出の中の彼は、子供っぽい顔で私に微笑んでくれた。

こんな女と今まで一緒に居てくれてありがとう。賢人。
偽物の関係だったとしても、婚約の事実は初めから
なかったとしても、それでもうれしかったよ。

運命の男性と出会えたと、舞い上がっていた頃の
愚かな自分と別れを告げるために、私は化粧すらせずに玄関へと向かった。
生理二日目だから余計に体が重い。お腹がごろごろする。もうどうでもいい。

「あ、瞳さん」

玄関先には美雪がいた。
不思議なことに彼女も目元に濃いクマが出ていた。

「今回ばかりは素直に負けを認めますよ。
 いつまでも兄とお幸せに。
 邪魔者の私は今日で消えることにしました。
 天国から二人のことを見守っていますからね」

美雪は何を考えてるのか、手にした果物ナイフを
思い切り自分の胸に差そうとしている。

私は瞬間的に体が動き、果物ナイフを手ではじいた。

カランと、行き場をなくしたナイフが玄関の床に転がった。

「お願いだから邪魔しないで。本気で死にたいの」
「どうして死にたいの?」
「兄が、最終的に貴女を選んだからです」
「( ゚Д゚)ハァ?」

「昨夜、私は兄に言われたんですよ。
 妹はうざい。うっとおしい。あいつの手料理はもう食べ飽きた。
 あんな子供より瞳の方が百倍素敵だって……」

... ( ゚Д゚)ハァ? 
...      (。´・ω・)ん?
...              (´・ω`・)エッ……?

( ˘•ω•˘ )
私はカンで分かった。彼女は勘違いをしている。

おそらく賢人君に言われたことは事実じゃない。
そして私が昨夜聞いた賢人の声も、おそらく事実じゃない。

「゚(゚´Д`゚)゚ 昨日ね、兄の独り言がリビングから聞こえたきたの……
 瞳をいつまでも抱いていたい……それには妹が邪魔だ。
 あいつがいなければ、いつでも瞳と裸で抱き合ってられるのにって……。
 明日にでも美雪を追い出してやろうって……
 良かったですねぇ瞳さん……そこまで兄に愛されてぇ。
 うえええええええん!! ;つД`)」

その時でした。玄関の先から足音が聞こえて来たので
なんとなく開けてみました。

「あっ……」

30代の男性がいました。なんとこの作品の作者です。

「し、失礼しましたっ」

彼は急いで駆け出していきました。
なんでこの団地にいるんですか。
彼も市営団地の住民だったのかしら。
それに逃げる理由が分かりません。
また私たちに攻撃されると思ったのかな。

「これは何かしら。あの男が落としていったわ」

東芝製の安いラジカセです。
老人以外で今時ラジカセなんて使う人いるんですね。
小さなスピーカーが内蔵された、モノラルラジカセです。
USB端子が刺さっていて、今すぐ再生できるようになっています。

私は何気なしに再生ボタンを押してみました。
これって単二電池で動くんですね。

『(*´Д`)ハァハァ ひとみぃ。もっとキスしてくれぇ。
 君とのキスは……病みつきになりそうだ……。
 このサラサラな髪の毛……最高だ……
 美雪よりずっと美人で、何度見ても君の顔は飽きることがない』

『(*´Д`)ハァハァ 君に俺の子供を産んで欲しいんだ。
 妊娠すれば……美雪の奴も諦めるだろ。
 だいたいな……あいつはお兄ちゃんお兄ちゃんってしつこいんだよ。
 あいつと我慢して暮らしてやってるの、いつになったら気づくんだろうな』

( ˘•ω•˘ )
なるほど。私が美雪さんの立場だったら自殺ものね。

冷静に考えれば彼はリビングで寝てるわけだから
私とそういうことをしてるわけないんだけど。

それに賢人君が人を騙すような人なわけないわ。
ごめんなさい賢人君。
誠実なあなたを一度でも疑ってしまった私を許してちょうだい。

試しにラジカセの別のトラックを再生してみると、
私が昨夜聞いた音声が流れました。

つまり私と美雪は、作者のおもちゃにされていたと。

ビキビキ(# ゚Д゚) 
              ビキビキ(#^ω^)
 ビキビキ ビキビキ (# ゚Д゚)

美雪さんにも訳を説明したら、上の顔になっていました。
阿修羅のような顔です。

「おはよう二人とも。朝から玄関先で何を……?(´・_・`)」

「おにいちゃーん:;(∩´﹏`∩);:」

美雪は兄の腕の中でわんわん泣いています。
何も知らない賢人は激しく困惑しつつ

(;^ω^) みゆき……。 怖い夢でも見たいのかい?
(⋈◍>◡<◍) ナデナデヾ(・ω・*)

本当に優しいお兄ちゃんなのね。
この人があんな暴言を吐くわけないわ。

「ひとみさん、目の下のクマがすごいけど、寝不足かい?」

私も彼の何気ない言葉を聞いた瞬間に、涙があふれてきました。
あの声が嘘だと分かってほっとした。
内に溜めこんでいた、色々な感情が爆発しそうでした。

「ひとみさん(゚д゚)!?」

嗚咽する私を心配した賢人。コアラの赤ちゃんように抱き着く
妹をなだめながら、私のことも抱きしめてくれました。

「何があったのかは聞かないよ。
 きっと二人で夜遅くまで喧嘩でもしてたんだろう。
 今は気が済むまで泣いてくれ」

:;(∩´﹏`∩);:゚((;´・ω・) (゚´Д`゚)゚
こんな感じのカオスな図ですが、これで家族三人は仲良しです。



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