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作品名:令和10年。財政破綻と強制労働と若い兄妹の絆の物語 作者:なおちー

第15回   美雪「ヒトミさんを食べちゃいたいです」 ヒトミ「ひぃ!!」
※美雪ちゃん

この小説はリレー、一人称形式なので
話数が飛ぶと人称が変わります。
よってこの話は私が描くことになるんですけど、

「しまった……」

瞳さんは前の話数が終われば展開をうやむやにできると
勘違いしていたみたいです。駅でお母さまと出会った時と
同じくらい気まずそうな顔をしています。

しかも私を見る顔がこわばっています。
どんだけ私のこと嫌いなのよ!!
そーゆー態度が一番許せないのを自覚してほしい。

「えへへ。なんだか無性にヒトミさんを殴りたくなってしまいました」
「ひぇぇ」

瞳さんは腰が抜けてしまい、自分の力では立てなくなりました。
服が汚れるのも気にしないでハイハイしてその場から
少しでも離れようとしています。

私は彼女の後ろを着いて歩いているんですけど、
周りの視線が突き刺さっていたいくらいです。
確かに私たちのやってることって
小説じゃなかったら通報ものですよね。

「そうよ。こんなのただの小説じゃない!!」

瞳さんはいきなり元気になりました。

「そんなにキスがしたいのならいくらでもしてあげるわ。
 さあさあ。いっそ、あなたの方からこっちに来なさい!!」

「むぐ……」

キツネザルを思わせる勢いで私を抱き着き、
私を引き寄せるよな感じでキスをしてきました。

まるでAV女優のような演技のうまさです。
私の口の周りを唾液で汚してくれました。

「ちょっとトイレに行ってくるわね」

私は見てしまいました。
涙目になった瞳さんが、トイレの洗面所で何度もうがいしているのを。

「うげー気持ち悪い。あの性格ブス、早く死ね!!」

ブスって言われてしまいました。
女の子相手にブスだなんてひどい。
私は制裁が必要だと判断し、ヒトミさんの肩を後ろから叩きました。

「美雪さん!? まさか聞いてたの? こ、これは違うのよ。
 私は美雪さんに死んでほしいなんて夢にも思ってないわ」

「そんなこと夢にも思ってないくせに、よく言いますよ。
 言い訳をして『言い訳』がありません」

ちなみに英語でも同じジョークがあるそうです。

「待ちなさい!! 私に制裁をするよりも大切なことを忘れてない!?
 前回のタイトルを読んでちょうだい!! 
 警察に捕まったあなたのお兄さんに会いに行く話はどうなったの?」

「あー、そんな話もありましたよね」

「まさか忘れてたの!?」

「ジョークですよ。兄のことは愛してますから」

「なら今すぐ!! あなたの大好きなお兄さんの様子を見に来ましょう!!」

私は思わず瞳さんの髪をやさしくなでました。
殴られると思っていたのでしょう。
瞳さんは雨に濡れた子犬のように震えています。

髪やわらかっ!!
しかも脅えていると美人が二割増しになる。
お兄ちゃんがこいつに惚れたのも納得の理由……。

「まだゲーセンに行ってないでしょう」

「そんなにゲーセンに行きたいの?」

「はい。私の小さい時からの夢だったんですよ。
 仲の良いお姉ちゃんにゲーセンでぬいぐるみを手ってもらうのが」

瞳さんはまたAV女優のような顔で
私と手を繋ぎ、うきうきしてるノリを演出しながら歩きだしました。
本当は嫌がってるのがひしひしと伝わってきます。

『☆世界一のゲームセンター☆』

うさんくさい店名。どこが世界一なのよ。
建物は二階建て。一階部分の広さは地元のウェルシアくらいだから
大したことないかと思ったら、すごい数のユーフォ―キャッチャー!!

店内の広告によると、ユーフォ―キャッチャーの数が200を超える!?
たしかに世界一を名乗るのも伊達じゃないかもしれない!!
平日なのにこんなに人がいるなんて!!

実はスマホで適当に検索したら出てきたお店なの。
来るの初めてなんだけど想像以上でびっくり。

小学生の子供とかいるけど、学校はどうしたの。
サボってないでちゃんと行きなさい。

「あんただって人のこと言えないでしょうが!! このブラコンが!!」

と言ってヒトミさんは二階へ駆けて行きました。不意打ちの暴言。
私はすぐ瞳さんを殴りたかったんですけど、両替の列に並んでいるので
すぐには動けません。ちょっと贅沢だけど、3千円を両替してから二階へ。

二階もひしめき合うようにキャッチャーが並んでいる。
それにしてもゲーセンの中はピコピコ電子音で騒がしい。
もっとクラシックとか鳴ってる雰囲気のゲーセンとかないのかな。

ヒトミさんは奥の目立たないところに潜んでいた。
私と目が合うと、私の元へ駆け寄って来た。
何をするのかと思っていると、私の手を優しく握りながらこう言った。

「ごめんなさい。ごめんなさい。さっきのは口が滑ってしまったの。
 本当は兄妹で愛し合うのって素晴らしいことだと思っているわ。
 どうか許してちょうだい」

「あっそ」

私が冷たく言うと、彼女は絶望した感じの顔になりました。

この人の動作っていちいち品があって鼻に触る。
今の謝り方もどこかお嬢様っぽいんだよね。
庶民と違うオーラの人がゲーセンにいると余計に目立つ。

「さあ、気を取り直してぬいぐるみを取りましょう!!
 あそこにあるディズニーのやつにする?」

「そうですね」

ヒトミさんが100円を投下する。
お金は全部私が払うことにしているので
彼女はお金の心配をする必要はありません。

よくよく考えると、どうして私がおごらなくちゃならないの。
瞳んさんの方が私の10倍くらいお金持ってそうですけどね。

「アームが……」
「弱いですよね。あきらかに。店員さんを呼んできましょうか」

商品をつかむアームの設定が極端に弱く設定していると
誰がやっても絶対に取れない。かと言ってお店側としては
簡単に取られ過ぎても売り上げが上がらない。

私は男性の若い店員さんに、「アームの設定を強く強いないと
あそこをちょん切るわよ」と脅しておきました。
店員さんは私の真顔が怖かったのか、
女々しい悲鳴を上げてからドライバーを握りました。

やっぱり部品(アームのビス?)の締め付けが悪かったようで、
アームはすっかり良い子になりました。
アームは……ね。

「ごめんなさい……。また100円くれるかしら?」

私は舌打ちしながらお金を渡しました。
これで失敗するの何回目?
冷静に考えたら、消費税率34%の世の中で生きているのに
ゲーセンでお金を湯水のように使ってちゃだめじゃない!!

「ヒトミ!! あと5回以内で取らないと腹パンするわよ!!」
「は、腹パン!?」

瞳は私にハグしながら命乞いを始めました。
坂上家ではハグをする文化でもあるのか。欧米か!!

「さすがに腹パンは言い過ぎました。
 おなかにパンチをするので許してあげる」

「どっちも同じ意味じゃない!!」

でもヒトミさんってすぐ嘘をつくから、つい殴りたくなるんですよ。
兄の彼女ってポジションも気に入らないんですよ。
私って自他共に認めるブラコンですから。

「これね、あなたが思ってる以上に難しいのよ!?
 嘘だと思うならやってみなさい。
 しかも5回以内に取れなかったら腹パンとか
 言われたら余計に緊張して操作に影響が出るわ!!」

坂上家ではゲーセンでぬいぐるみを取るのは愚者のやる行為であり、
欲しいならお店で普通に買うとのこと。確かに合理的ですが、夢がありません。

あと余計なことも言われました。

私は瞳さんから見てもかなりの美人らしいのですが、
暴力的だったりブラコンだったりレズだったりと、
色々と残念だから早く死んだほうが良いとのこと。

「気に触ったなら、ごめんなさい!!
 坂上家では思ったことを相手に伝わるように意思表示するよう
 教わって育ったものですから!! それでは、ごきげんよう!!」

金持ちがついに本性を現したか。
彼女は私があげた100円玉を床にまき散らし、
奇声を発しながら店の外へ脱出してしまいました。

これでは大恥です。
そもそも目的のぬいぐるみが手に入っていません。

「待つんだっ!! 美雪!!」

ええええ!? お兄ちゃん!?
なんで、こんなとこにいるのぉおおお!!

「いや、俺も良く分かってないんだよ。
 拘置所にいたら警官?に突然こんな紙を渡されてな」

・『出演機会が少なすぎるから拘置所から出てよろしい。
  妹に何か面白いことをしなさい』

「なにこれ。絶対誰の特にもならない展開になりそうだよね」
「どうかな美雪。それはお前次第だな」

おにいは、携帯でヒトミさんと連絡を取っていました。
瞳さんはすぐにここに戻ってきました。
そしてモーツァルトの歌劇、魔笛のオペラ歌手(ソプラノ)のような顔で。

「賢人君。来てくれた良かったぁ!! どうか助けてください!!
 わたくしはついさきほど、貴女の妹さんに殺されそうになったの!!
 あっ、そいつが何を言っても嘘ばっかりだからね!!
 その女を信用してはいけないわ!! その女は悪魔よ!!」

そう言って前話の内容が表示されたスマホを兄に読んでもらいました。

「そうか美雪。おまえは俺の恋人をぶったりしたのか」

どうやらお兄ちゃんが激おこぷんぷん丸です。
つまりかなり怒っています。

「美雪」

「は、はい」

思わずびびってしまう。兄は男性。
本気で怒るとすごい迫力なんだもの。

「おまえには罰を与える」

「罰ってどんな?」

「俺と結婚しろ」

はい……?

「俺と結婚すれば全ては解決する」

「ごめんね。ちょっと何言ってるのか分からないんだけど」

「俺が何か間違えたことを言ってるってのか?
 これでも理論整然と説明したつもりだ!!」

お兄ちゃんは罪のないキャッチャー台をどんどん叩いています。
強い衝撃を与えるとガラスが割れちゃうよ。

「賢人君、妹さんと結婚したいとか、自分が何言ってるのか分かってる!?」
「俺が冗談を言ってるように見えるのか」
「まさか妹さんにセクハラして捕まったのって本当だったんじゃ…」
「セクハラかどうかは知らんが、キスを迫ったかもしれん」
「キスを迫ったぁ!? 相手は妹だってこと分かってるの!?」

坂上瞳さんはヒステリーを起こしてしまい、ギャーギャーうるさいです。
そもそも初めにキスをさせたのは、あんただった気がするんですけど?
今すぐぶん殴ってやりたいけど兄の前だから我慢しないと。

「ごめん。私めんどくさくなったから帰りたいんだけど」

「待てよ美雪。まだ話は終わってないじゃないか」

お兄ちゃん、大きな声出さないでよ。
私は二人の犬も食わないようなやり取りを見てるのが苦痛なの。

「あー、すまんが金を貸してくれ」

「へ?」

「久しぶりにシャバの空気を吸えたのは良いんだが、もう昨晩から
 何も食べてないんだよ。拘置所の中では取り調べが終わるまで
 食事が出されなくてな。ファミレスで何か食べたいんだが、金がないんだ」

お兄ちゃんは検察官?の取り調べに容疑を否認し続けたため、
白状しない罰として食事抜きだった。
だからイライラしてたのね。人間お腹がすくとイライラするものね。

「あ……」

私はうっかりしていました。
ゲーセン内で坂上瞳さんと茶番をしてる最中に「スリ」にあったようです。
つまり財布ごと消えてしまいました。
バッグはちゃんとあるんですけど、中身だけ抜かれてしまったようです。

「おい。どうしたんだ青い顔して。
 まさかおまえ、美雪ぃ……。財布を無くしたんじゃないだろうな?」

私は普段からお兄ちゃんの代わりにお金の管理をする立場にありました。
兄に普段からお財布を盗まれないよう気を使うよう言っていただけに、
無くしたとは言いにくい。

「こら、お姉さん!!」
「な、なによ……」
「早くお兄ちゃんにお金を貸してあげあなさい。5百円くらいならあるでしょ」

5百円なら吉野家で何か食べられると思う。

「ゲーセンでたくさん使っちゃったから、これしか残ってないの」

私に200円を渡してくれました。あれー?('Д')おかしいな
3千円を両替してあげたつもりだったのに。
私は瞳さんに向けてマウンテン・ゴリラのように両腕を振り上げたところで。

「ちょ……お願いだから私の話を聞いてちょうだい!!
 白状するわ。実はあなたに襲われそうになった時に
 床に10枚以上の百円玉をぶちまけてしまったの!!」

あーそうだったね。当然お客さんたちのお小遣いになったんだろうね
ムカつく。人がせっかく上げたお金を……

「ヒトミのお馬鹿さん!! バカバカ!! 大馬鹿!!
 お金は大事に使うようにママに教わらなかったの!!」

「ぽえええええっ」

瞳さんはまだぶたれてないのに、自分の頭を
両手で守るように抱え、涙目になって脅えています。

そんな様子を、兄は心温るシーンを見守るような顔で見守っていました

「かわいい……」

何考えてんの!!

「そ、そうだわ!!」

瞳さんは何か奇策を思いついたようです。

「こらぁ!! 渋谷賢人君!!」
「えっ……!?」
「あなたって人は、妹さんを困らせちゃだめじゃない!!」

あれ(*_*;

「吉野家に行くならお金くらい自分でどうにかしなさい!!
 一食1000円くらいなら自分で何とかなるでしょ!!」

吉野家って値上がりしたのかな……?
確かにTPP締結後も米国産牛肉を仕入れてるアホ企業だけど、
販売価格に変更はなかったはず。牛丼だけなら400円もしないと思う。

賢人お兄ちゃんも同様の指摘をした。

「えっ、牛丼って370円で食べられるの?」

どうやらこの女、牛丼屋さんに行ったことがないようです。

「も、もちろん知っていたわ!!
 賢人君はお腹がすいてるからもっと食べるのかと思ったのよ!!」

この金持ちお嬢様。そろそろ本気でぶっとばしていいですか?
齢32で中小企業の派遣社員をやってるのに吉牛すら行ったことがないとは……。

「金持ちは死んでくださいよ。割と本気で」
「う、うるさいわ。あなただってお金持ちのくせに」
「坂上さんの方がたくさんお金持ってるわ」

「いえいえ、貴女のお父様も株式の運用とかすごいじゃない」
「ペンタックの社長の娘には負けますよ」
「わ、私の趣味はガリガリ君を食べることです!!」

「だから、そーゆー庶民アピール、ウザイ。
 口調とか仕草でお嬢様丸出しなのにそろそろ気づけよ」

「私をお嬢様と呼ばないでくれる!! 不愉快だわ!!
 ゲーセンでお財布をスラれたくせに!!」

「うっ(>_<) それを言われると痛い…」

「美雪。お金は財布にどのくらい入っていたんだ」

「およそ11万だよ」

「「 11万!? 」」

おにいとお姉さんは声が重なった。

この間、道路上でハゲ様から奪ったお財布をそのまま使っていたんだ。
ちなみにハゲ様のブラックカードとか埼玉りそなのキャッシュカードも
そのまま入っていた。まあ人の金だからどうでもいーけどね。

それより大変なことが分かりました。私はお財布にSuicaも入れていたのです。
つまり帰りの電車に乗ることができません。
よく考えたら11万って二人の月給より高いんだよね。

「このご時世に財布を盗まれた以上、美雪にはお仕置きが必要だな」

「ち、違うんだよ。説明すると長くなるけど、全部坂上瞳さんが原因なんだよ。
 ねえ瞳さんのSuicaに2万円チャージしたよね!? すぐ現金化してきてよ!!」

「わ、分かったわ。すぐ駅に行ってくる。その前に賢人君?
 妹さんにセクハラしたのは見逃してあげるわ。
 あなたの妹はどこで育て方を間違えたの!?
 私は何度もお腹を殴られたりしたのよ!!」

「なにぃっ。おい美雪っ!! 
 おまえは年上の人に腹パンとかしたのか!!」 

「ち、違うの。あれは瞳さんが言うことを聞かなかった仕方なくね……。
 それより瞳さん、なんか兄の前だと態度違くない!?」

「き、気のせいじゃないかしら……。
 それより賢人君からこの子に説教してあげてくれる!?
 できるだけ厳しめにね!! この子ったらメンヘラなのか
 ブラコンなのか同性愛者なのか、よく分からないキャラになってるわよ!!」

「す、すまん。妹には早く兄離れをするように言ってはいたんだが……。
 おい美雪っ!!  なんで瞳さんに暴力なんて振るったんだよ!!
 NHKのニュース解説員並みに詳しく説明しろ!!」

「それは瞳さんが!!」

「賢人君が甘いから!!」

「だいたい、美雪はだな……」

以下、無限ループ。

私達をめぐる、複雑な人間関係を列挙しましょう。

私(ミユキ) = 埼玉県を代表する美女。たまにブラコン
賢人くん   = 重度のシスコン。私のことが好き
瞳さん    = 私の彼女。兄の元彼女

賢人⇒ 美雪 ⇒ 瞳 ⇒ 賢人

たぶんこんな感じの流れで三角関係になってるっぽいです。
図じゃないと分かりにくいけど、こんな感じです。

(;´Д`)瞳さんは私と兄の間で二股をかけてる……?





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