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作品名:ノリスケおじさんがソ連のスパイ!? 作者:なおちー

第2回   カツオ。お前は黙ってろ ※タラオのセリフ
磯野家の夜である。カツオら子供達の寝室では、
ノリスケや共産主義の話をするのが恒例となっていた。

「お兄ちゃん。私は今でもノリスケおじさんの
 やったことが理解できないの。自分の命を犠牲にしてまで
 日本の秘密を手に入れたいものなの?」

ワカメは拉致されそうになった恐怖から、カツオ
の布団にもぐりこむことが多くなった。小学3年にもなって
とカツオは呆れていたが、本気で夜を怖がっている妹を
見ると、文句が言えなくなってしまう。

「もう泣くなよワカメ。僕達には考えても分からないこと
 じゃないか。大人にはいろいろあるんだよ。」

「私、ノリスケさんは良い人だって信じてたのに。
 夏祭りの日にかき氷とフランクフルトを買ってもらった」

「あの時は確かに良い人だった。
 全部演技だったって思うとゾッとするけどな」

「私は人を信じられない。
 友達と学校で会っても心から笑えなくなった」

「僕だって同じだよ。中島に野球に誘われても断っている。
 家にいる方が安心するんだ」

ワカメが体を近づけて来るので、カツオが優しく
抱きしめてあげた。ワカメは目を閉じて、かすかに震えていた。
磯野家に毒ガスが仕掛けられていた事実は子供たちの
脳裏に色濃く残されている。

致死性のマスタードガスだとフネに教えてもらった。
カツオとワカメはガスの詳細をネットで調べて
恐ろしさのあまり卒倒しそうになった。

(ん……?)

不愉快な匂いがしたので、カツオが顔をしかめる。
いつもの煙草の匂いだった。

「タラちゃん。寝る前に煙草は吸わないでくれよ」

「しょうがねえじゃねえか。
 親父やお袋の前じゃ吸えねえんだからよ」

窓ガラスを全開にし、畳の上であぐらをかいたタラオである。
ノリスケ事件と前後してタラちゃんは
変わってしまった。もともと年の割には聡い
子供だと思っていたが、最近はタバコを吸うようになってしまった。

フグ田タラオ。一応確認しておくが、彼は原作通り『3歳』である。
にも関わらず内面は成熟し、カツオやワカメを呼び捨てに
するなど横柄な態度を取るようになった。

「タラちゃんのその姿を姉さんが知ったらウツになるぞ」

「お袋ならすでにウツでヒッキーになってんじゃねえか。
 それよりうちの親父もやべーぞ。ノリスケ事件を
 引きずって職場でミスを連発してる。もうすぐ 
 別の部署に左遷されるかもしれねえって話だ」

「マスオお兄さんも人間不信になってるんだろうな。
 僕らにとっては終わったことでも簡単には忘れられないものな」

「俺だって気持ちは分かるけどな。だが人間ってのは
 いつまでも過去のことをぐだぐだ考えても仕方ねえ。
 前を向いて歩かなきゃいけねえんだ。なあワカメ?」

ワカメは上から目線のタラオをにらみつけた。

「私の方が年上なんだからお姉ちゃんって呼びなさいよ。
 前はそう呼んでいたでしょ?」

「ふはは。てめーらなんてガキじゃねえか。
 ガキは呼び捨てで十分だ」

「あんたの方が年下でしょ!! 3歳児のくせに!!」

このようにワカメが声を荒げると、タラオは
高笑いをするのだった。カツオもタラオのことは
好きではなかったが、家族で唯一ノリスケ事件の
ショックを引きずっていない図太さだけはすごいと思っていた。

「なあ」

タラオは吸い終わった煙草を、大胆にも窓の外にポイ捨てした。

「カツオとワカメは共産主義のことをどう思ってる?」

「どうも思ってないよ。だいたい子供には難しすぎるよ。
 政治思想のことは大人になるまで
 分からないって先生に言われているし」

「なぁに。そんなに堅苦しい話じゃあねえ。
 要はお金儲けが好きで、貧富の差がある世の中と、
 みんな平凡だが、差別のない社会。どっちがいいかって話だよ」

このクソガキは3歳のくせになぜ政治の話ができるのかと
カツオとワカメはいぶかしむ。タラオの語り口調は
中年の不良親父のそれである。

「私は差別のない社会のほうが好きだな。
 資本主義はお金持ちの人ばっかり良い思いして、
 貧乏な人は一生裕福になれないんでしょ?
 伊早坂先生が言っていた」

「ほう。伊早坂のじいいがそう言っていたか」

「でも、共産主義は狂ってるって言っていたよ。
 今も北朝鮮の強制収容所では
 22万人が奴隷のように働かされているんでしょ?
 共産主義は反対する人をみんな収容所に送っちゃうんだ」

「間違っちゃいねえな。ソ連と中国の収容所には
 その百倍くらいの人が収容されているがな」

「そういうタラオはどう思うんだよ?」

とカツオ。

「俺か?」

「そうだよ。おまえは3歳のくせに妙に政治に詳しいじゃないか。
 それにノリスケおじさんのことも全然気にしてないようだ」

「気にしてねえわけじゃねえがな。赤狩りなんて
 リューヤ政権化なら当然にして起こりうることだろうが」

「で、おまえはどっち派なんだよ?
 共産主義を肯定するのか?」

「どっちも肯定しねえよ。俺の理想とする社会には
 ほど遠いね。あえて言うなら資本主義の日本は
 必要悪と言ったところか。それ以外にまともな
 社会政策が人類には思いつかねえからな」

「そうかよ」

カツオは喚起の終わった窓を閉め、布団に体を沈めた。
時計の針は11時を指している。早寝早起きを心掛けるように
波平から言われているから、
いつまでも話し込んでいるわけにはいかない。

「よく寝ろよ?」

タラオが気を利かせて電気を消してくれた。

ノリスケ事件以降、タラオは両親を説得して
カツオとワカメの部屋で寝るようになった。

タラオと入れ替わるようにしてイクラが、サザエたちと
寝るようになった。イクラは母親のタエ子が
身柄を解放されるまでは磯野家で預かることとなっていた。

タエ子は事件には関与していないので、拘置所での
取り調べが一通り済めば解放されることになっている。
彼女の実家の両親も無罪がほぼ証明できる流れとなっていた。

日付が変わる。

今年の梅雨は関東の降雨量が極端に少なかった。
早起きのタラオがカーテンの外を見ると、珍しく
叩きつけるような雨が降っている。

朝市の煙草を吸っていると、すぐにやんでしまった。
雨雲が流れていき、少しだけ太陽に
日差しが見えてきたところだった

「タバコくさ……」

しかめっ面でワカメが目覚めた。

「お兄ちゃん。起きて。顔洗ってこよ」

「うぅーん。あと五分待ってくれよぉ」

いつものやり取りである。

タラオは、ファブリーズを全身にぶっかけて煙草の匂いを消し、
食卓へと向かった。けだるそうなサザエとは対照的に
きびきび動くフネ。二人は台所で食事を作っている。

「おじいちゃんに新聞を持ってきたですぅ」

「すまないね。タラちゃんはお利口さんだ」

波平に頭を撫でられるタラオ。微笑ましい光景だった。
タラの裏側を知っているワカメはしらけた顔で見ていた。

「さて」

頂きますの合図をした後に、波平が咳払いをしてから言った。

「朝からこんな話をするのもあれなのだが、
 あえてみんなに言っておく。
 奴のことは早めに忘れることだ」

びくっとサザエとマスオが肩を震わせた。
互いに日々の仕事にまるで精が出ていないのだ。

特にひどいのがサザエである。彼女は買い物に行く際も
無駄に周囲を見渡すなどしてスパイの存在におびえるようになった。
家の掃除をする時も、天井裏や床下などに爆弾などが
仕掛けられていないか確認するようになった。

訪問販売が来るときは特に脅えた。
いっそ敵襲に備えて玄関先に重火器を置くべきかと
マスオに相談したほどだった。

「スパイに巡り合う確率はかなり低い。
 普段通りに生活していれば大丈夫だ。
 私と母さんが協力してスパイの摘発を
 行うから、お前たちは安心して生活をしなさい」

波平に自信満々に言われると安心するのだが、
ニュースでは日本全国に大量のスパイが
潜んでいると報じている。

この小説だけでなく、現実世界の日本もスパイ天国と
呼ばれているのはあまり知られていない事実である。

「サザエ。箸が進んでないわよ。早く食べてしまいなさい」

「うん……」

(お袋……)

今まで元気いっぱいだった母の沈んだ顔を見ると、
タラの胸が痛むのだった。

母をこんな目に合わせ、身内のワカメを
誘拐しそうになったノリスケが憎い。
だが、本当に憎いのは、ノリスケを洗脳してしまった
共産主義の思想そのものだった。

「イクラちゃんもたんとお食べ?」

「チャーい。バブー」

波平や船に可愛がられているイクラは、両親の惨状など
知る由もない。こんな残酷なことがあるのかと、マスオは
イクラの笑顔を思い出すたびに涙を流した。

さらにショックだったことに、数日後に同僚のアナゴ君が
中国共産党と繋がりがあることが発覚し、警察に逮捕された。
すぐにノリスケのいる東京拘置所、別名で東京収容所に送られた。

そして時を同じくして、ノリスケの銃殺が予定より
早く執行されてしまった。収容所に次々にスパイ容疑者が
収容されるために早期の執行となったのだ。

その報道は新聞の一面を飾った。

新聞に詳細に書かれたノリスケの経歴はすさまじかった。

・東京大学法学部卒後、露のサンクトペテルブルク大学に入学
・ソ連 国家保安委員会 第一総局所属。
・主な任務は資本主義国での防諜業務。
・潜入先の国で、テロ、破壊工作を行うための訓練課程修了
・使用できる言語は日本語の他に英語とロシア語
・日本国内務省の人間とのコネクションあり

彼がソ連に漏らした情報で一番大きいのは、直近で
行われた日米首脳会談の会話内容だった。通訳の一団に
協力者を潜り込ませることに成功し、なんと
自衛隊と在日米軍の交戦能力の実態を手に入れるに至った。

さらに内務省の人間を通じて防衛省の情報を入手した。
北海道の平野部に展開できる戦車や対空ミサイルなどを
ソ連に送信していた。

後の明らかになったのは、ノリスケの手に入れた情報が
第一級の国家機密であり、国務大臣クラスでないと
入手できないほどの内容だったのである。

波野ノリスケ。享年26歳。

彼は過酷な拷問の末に最後まで秘密を保持した。
彼がどうやってこれだけの情報を
入手したのかは明らかにされていない。

日本の職場や家庭での会話は常に日本語を用い、
妻にさえスパイであることを悟らせなかった。

特に彼の外国語能力は極めて高く、イギリス式の
本国英語を完璧に使いこなせるとして、
サンクトペテルブルク大学時代は
最高ランクの評価を得ていた。

ソビエト連邦の最高指導者であるイワノフ書記長は、
エージェント波野ノリスケをソ連邦英雄として認めた。


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