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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第8回   「ナージャがいてくれると助かるよ」
〜高倉ナツキの一人称〜

まずい。ミウの横暴をこれ以上許したら生徒会の
威信にかかわる。ミウに7号室の見回りを頼んだのは
失敗だったか。7号室に太盛君と仲良しの女の子が
収容されていたのは知っていたが、
まさか野球を中断してまで指導を始めてしまうとは。

報告によると、B棟の私室で斎藤さんに暴力をふるったとか。
太盛君に至ってはあのミウに二度も暴力を振るっておきながら、
未だに何の処罰もなく生かされている。

とにかく恋愛関係のもめごとは重大な懸念事項だ。
関係ない生徒からしたら茶番に過ぎないだろう。
執行部員たちに口封じをしているとはいえ、
いずれ学内に噂として広まることだろう。

うちの学園の生徒は噂好きが多いのか、我々が
企画中の事案でさえ、瞬時に学内に広まる。

やはり内部にスパイがいるとしか思えない。

7号室の建設を決めたのはアキラ前会長だ。
本当は学内の敷地に鉄条網付きの収容所として
建築するはずだったものを、あえて校外の敷地にした。

その飛び地は本来野球部の寮と練習場があったが、
立ち退きを命じ、今は生徒会が所有している。

その七号室は我らの権力の象徴だ。
就任したばかりの副会長のミウが失態を演じるのはまずい。

僕は深いため息を吐いた。

「会長閣下。甘いものでも食べて
 頭を休ませてはいかがですか?」

「ナジェージダか。いつもすまないな」

この露国(ロシア)出身の長身の美人は、組織委員から
会長の副官(補佐)に役職を変えた。
もとはアキラさんの副官だったが、今は僕付きだ。

あだ名はナージャ。フルネームで
ナジェージダ・アリルーエワは、我々生徒会内部では
ミウ嫌いで有名だ。その気持ちは痛いほど分かるのだが、
ミウを生徒会に勧誘し、異常ともいえる厚遇をしたのは僕だ。

ナージャ。僕だってミウをのさばらせたのは
間違いだと自覚している。君は僕を恨まないのか?

「そんなことハないわ」

ナージャは僕の隣に椅子を持ってきて座る。
お皿には色とりどりの高級和菓子が乗せられている。
お店の贈答品コーナーで売ってそうな品だ。

「だって、あなたを、恨む理由がないもの」

ナージャは菓子の一つをつまみ、僕の口元に運ぶ。
とにかく糖分を取れと言うことか。

僕はおとなしく口を開けた。

「会長の仕事はつらいでしょ?
 会長の責務ハ、思っていたよりも重いでしょ?」

「それはそうだ。むしろアキラ前会長はよく
 やっていたと思うよ。こんな大規模の学園で
 共産主義の思想を広めるのは容易なことじゃない」

「良かった」

「ん?」

「あなた、アキラ君の苦労が分かってる。
 アの女とは違って」

ナージャの日本語はなまりが強いが、
僕は聞き慣れているからなんともない。

実は僕のロシア語の先生は彼女だった。

「僕が悩んでいたのはミウのことだ。
 正直、彼女の暴走をなんとか止められない
 ものかと毎日考えている」

「あの女ハ強い。護衛もたくさんいル。
 生徒たちの一番の恐怖の対象。
 先生も怖がっている」

「ナージャ。今更だが、すまないことをした」

「ナに?」

「君が組織委員から移動した理由は分かっている。
 僕がミウを甘やかしたのが原因だろう?
 すまない。それなのに僕の副官をやってくれている
 君に感謝している」

なんだ、そんなことか、と言いたげにナージャは少し笑った。

「ミウは嫌い。でもナツキは好き。
 私はレーニンと党のために忠誠を誓った。
 誇りある生徒会の一員。
 会長のナツキのやることは何でも手伝う」

やはり日本人の女子と違って主張が明確だ。
僕とぴったりとイスを寄せているのも
そのアピールなのだ。

僕はこの会長室でナージャといる時間が増えた。

机に積みあがった書類の束。
職員室から送られてきたものだ。
僕が一枚一枚に判を押さなければならないのだ。

それと学内に配布するプリントの作成。
もちろんPCで文章を作るのだが、
まだ原案すらできていない。

この学園で行われるすべての行事は生徒会が主導する。
さらに革命裁判やクラス裁判の規定を作るために
毎日頭を悩ませているが、ミウのことを
考えると全く手に着かない。

僕はミウと付き合っていたはずなのに、ミウは太盛君に
夢中で僕を利用することしか考えていない。
彼女の性格の変貌はいったい何が原因なんだ?
太盛君のためなら生徒のことなど、どうでもいいのか。

「一人で抱え込まないで。私も手伝えることは手伝う」

ナージャは席を立ち、僕の肩にそっと手を触れた。
彼女はいつもこうやって気を使ってくれる。
めんどくさい書類仕事を率先してやってくれたりと、
僕にとって代えの効かない人だ。

三年生だから、あと数か月で卒業してしまうのが残念だ。
選挙後は生徒会の役員は二年に交代しているが、
彼女だけはこの地位に残した。

いつまでも君にいてほしかった。

僕はナージャの手を握り、見つめあった。
お互いに良い雰囲気になった。
いっそキスでもしてしまうかと思う。

「失礼します」

ノックの後、こちらの許可もなく生徒が入って来た。
僕の知らない男子の生徒だ。
彼のバッジを見ると、広報諜報委員部の人なのが分かる

「私は相田(あいだ)トモハル委員です。
 会長に頼みごとがあって参上いたしました」

「そうか。相田委員。申してみよ」

「はっ。率直に言うと苦情であります」

「なに?」

ナージャも驚いていた。
まさか会長室に苦情を言いに来る人間がいるとは。

「つまるところ、私が申しあげたいのは、
 高野ミウ副会長の常軌を逸した行動についてです。
 彼女は私的な目的で囚人を逮捕、監禁、拷問している
 との報告が多数寄せられています」

しかもミウのとこか。君よりはるかに地位が上の相手だぞ。

「同士・副会長殿は恣意的(しいてき)に生徒の虐待しており、
 本来の生徒会の規則とはかけはなれています。
 我々諜報委員会で会議した結果、
 私が代表してここに意見を言いに来た次第です。
 これが我ら広報諜報委員部の総意であります」

今、生徒会で最も弱体化した組織が広報諜報委員部だ。
代表だったアナスタシアが粛清されたため、生徒会内で
信用が地に落ちた。その後、誰も委員の代表をやるものが
現れなかったため、一年生のトモハル君がわざわざ
僕のもとに苦情を言いに来たのか。

「会長も難しいお立場なのは承知しておりますが、
 せめてお耳にだけでも入れていただきたかったのです。
 お忙しい中、聞いてくださってありがとうございました。
 私はこれで失礼させていただきます」

難しい立場とは、僕とミウが付き合っていることか。
確かにカップル申請書は提出済みであり、
あの制度自体はアキラさんの時代から変わっていない。

それを分かっていながら僕に苦情を出すとは。
かなりの覚悟が必要だったろう。

このトモハルと言う男、目つき、言動、仕草といい、
完成されたボリシェビキの貫禄がある。

「君。ちょっと待ちなさい」

「はっ。なんでありましょう」

少しおびえたな。怒られるとでも思ったか?
むしろ逆だよ。

……思い出したぞ。この男は元1号室の囚人。
みずから立候補して執行部に入った。
たしか三号室のカナの後輩で、
野球部のエース候補だったか。

彼がなぜ諜報委員部に異動したのかは知らないが、
執行部でも色々あったのだろう。

……だが異動の理由が気になるな。
この男は目つきからして有能なのは伝わる。

そのことを聞いてみた。

「私が我慢ならないのは、ミウ殿主導により、
 例の爆破テロと無関係の生徒が多数逮捕されたことです。
 彼女の捜査の仕方は、自分には理解できません」

「また、一年生の女子が首輪をされ、
 廊下や校庭で虐待されているのを多数目撃しました」

なるほど。取り締まる側としては、あんな捜査とも
いえないやりかたは気に入らないか。まあ当然だ。
暗に校則 第18条(スパイ容疑者取り締まり)
を批判したいのだろう。

「君のことは気に入った。
 個人的にトモハルと呼ばせてもらう」

「はっ……? あ、ありがとうございます」

「今後はそういう苦情があったら遠慮なく
 会長室に来てよろしい。また、今回の件に
 ついては僕も前から懸念していた。
 のちに中央委員会で会議を開こうと思う」

「ありがとうございます!!
 会長はとても寛大な方であります!!」

「なに。僕も君と同じで罪のない生徒が
 虐待されているのは悲しいと思っている。
 もちろん悪事を働く者には容赦しないがね。
 その点については同意してくれるか?」

「もちろんであります!! マルクス・レーニン主義を
 否定し、軟弱な人生を送ろうとする者を是正するのは
 我ら生徒会の使命であります」

根本的なところで合意が得られたに等しい。
これは有力な同士がいたものだ。
やはりうちの生徒も捨てたものではない。

トモハルは今度こそ部屋を去ろうとした。
深くお辞儀をしたところで。

「あなた」

とナージャ。急に声をかけられてたのでトモハルは緊張した。

「今度から部屋に入る時はノックしてからにしなさいね?」

「はっ。申し訳ありません!!」

「いいのよ。怒ってるわけじゃないから」

ナージャはくすくすと笑っている。
元気のいい弟に接する気分なのだろう。

彼女も彼のことは気に入ってくれたようだ。
彼が心から尊敬していたという、
小倉カナという囚人のことも気になるな。

話に聞くと彼女はアキラさんに
殴りかかったということだが。

さっそく中央委員会で会議を開くとするか。
ナージャにその旨の通達を出してもらうように頼んだ。



中央委員会の会議は、学校の会議室で行われる。
本来なら職員会議で使われるものだが、我々が占拠している。
この学園の全ての施設の占有権は生徒会にある。

「もう時間なのだが、集まった人数はこれだけか?」

僕はあきれてしまった。

会議室の椅子が三席も空いている。
今日の会議に出席するのは、

『会長』
『副官』
『副会長』
『各委員会の代表四名』

各委員会の代表は下の通り

校長 (中央委員)
アナスタシア(広報諜報委員)
ミウ(組織委員)
イワノフ(保安委員)

まず『諜報』は、アナスタシアが粛清されて後任が不在。
『組織委員部』はミウが兼ねているが、なんとまだ来てない。
校長はミウに粛清されてしまったようだ……。

(委員会だが、書面上はソ連風に委員部と
 呼ばれるから、どちらの呼び方でも問題ない)

つまり今ここにいるのは、
僕、ナージャ、イワノフだけ……?

なんだこの状況は……?

「同士会長閣下。これで話し合いができますか?
 まさか校長まで欠席とは思いませんでした」

イワノフ。皮肉っぽい言い方をやめろ。

彼の言う通り校長がいないのは痛い。
うそだと信じたかったが、本当に粛清されたのか。

校長は会議の議長も兼ねていた。皮肉屋で嫌味が
多いが、このメンバーで唯一の大人として貴重な
存在だったのに。

諜報委員部は早く後任を選べと指示しているのに。
全く何をやってるんだ。

会議の招集は正式な命令として下される。
この会議に正当な理由もなく欠席した物は
直ちにスパイ容疑がかかる。

我々の結束を乱す者は重罪なのだ。

「いや。このままでいい。この際だから
 イワノフに聞いておきたい。
 君は副会長のことをどう思う?」

「質問の意図が分かりませんが」

「少し前に諜報委員の部下からミウの苦情が出た。
 彼女の横暴はお前もよく分かっているだろう。
 率直に意見を述べろ」

高校生離れした、軍人のごとき顔つきのイワノフは、
少し考えるしぐさをしてから

「粛清の頻度が多すぎるとは思いますが。
 私的な制裁が目立ちますな。
 一年の爆破テロ未遂犯に対しては特に」

「一年生の女子を犬の真似をさせていたというのは?」

「確認しています。事実ですな」

「斎藤マリエに個人的な恨みで暴行したのも事実か?」

「間違いありませんな。七号室を管理している部下から
 正式な報告が上がっています。斎藤も事実を認めました」

イワノフが言うのだから信用できる。
僕もボリシェビキの一人として事実に基づいて
話し合いをするために確認したのだ。

ミウめ。僕が多忙なのを知っていて、
僕の目の届かない場所で悪事を働いているのか。

黙って話を聞いていたナージャは、席を立って
お茶を淹れようとした。彼女が淹れてくれるのは
いつも日本茶だ。彼女の影響で
僕もすっかり日本茶が好きになってしまった。

「きゃ」

ナージャが悲鳴に近い声を上げた。なんだ?

「あっ、ぶつかりそうになっちゃった。ごめんね?」

扉を開けてミウが入って来たところだった。
扉の近くにいたナージャがびっくりしている。

「ナツキ君。遅れてごめんね?」

「い、いや。まだ会議は始まったばかりだ」

本当なら叱るところなのだが、
彼女を前にすると僕でさえ遠慮してしまう。
ミウはなぜか三人も護衛を連れてきている。
会議室内に部外者は立ち入り禁止なのに。

そのことをミウに聞くと

「どこにスパイがいるか分からないから念のため」

と言う。爆破テロはアナスタシアが内部スパイだった。
彼女がそういうなら何も言い返せない。

イワノフはミウと視線を合わせないようにしている。
ナージャも明らかに不快そうな顔をしている。

空気が……重い。

ミウが着席し、用意されたお茶に口をつけた。

「ナツキ君。今日の議題はなに?」

「……生徒の取り締まりについてだ。
我々が正しい手続きに
 基づいて生徒を逮捕しているか考えよう」

「もっとはっきり言ってよ」

ミウはしぶいデザインの湯呑をテーブルに置いた。

「The walls have ears. 有名な英語のことわざね。
 実は扉の前で中の話を聞いてたの。
 私のやり方が気に入らないんでしょ?」

ミウは僕ではなく、イワノフを見て言った。

「スパイ容疑の取り締まりは私の裁量に
 任されているのは校則化しているし、
 会長にも許可されているのにそれを否定するの?」

「く…」

やはりイワノフも面と向かってミウには言いづらいか。
ミウは副会長と組織委員部の長を兼ねている。
彼の上の地位の人間だ。

「それにあなたの部下が7号室で女子の囚人に
 セクハラしてる話を聞いたよ? ロシア系の男は
 可愛い女にはすぐ声をかけるし、看守の部屋に
 女の囚人を呼んで特別扱いしてるって本当?」 

テーブルに写真が何枚か置かれた。
どうやって撮影したのか。看守と美人の囚人が
一緒に食事をしているじゃないか。

美人の主人は引きつった笑みで写真に写っている。
うっすらと化粧までされているように見えるが。
はたして食事だけで済んだのだろうか。

保安委員部の怠惰は目にあまる。とミウが言い捨てた。

「イワノフ委員。安易に人を批判する前に、まずは」
 自己批判をしないといけない。違いますか?」

「も、申し訳ありません」

「今この場で自己批判をしなさい」

「はっ」

イワノフは席を立ち、ミウを初め僕たち全員に謝罪し、
自己批判した。この自己批判とは、ボリシェビキが
自らの過ちを客観的に認めることである。

我々は理性と科学によって文明を発達させるという、
マルクス・レーニンの思想を守っているのだ。

ナージャが目を細めてミウを見ている。
おまえが人のことを言えるのか。そう言いたいのだろう。
ミウは彼女の視線を軽く受け流している。

「私が遅れた理由はね」

全員に語り掛ける口調だ。

「6号室で囚人たちが反乱を起こしていたから
 取り締まりを強化していたの」

「な……」「反乱ですと……」「シトー(なに)?」

一同に僕たちは驚いた。
最後に露語を話したのはナージャだ。

「まあ無理もないよね。たったさっき起きた反乱
 だったから。別に大規模じゃないよ? 
 怪我したのは執行部員が5人だけ」

ミウの話によると、凶器を隠し持っていた囚人数名が、
とつぜん執行部員に襲い掛かったそうだ。

しかも襲われたのは女性の執行部員で
ロシア系だという。この学園は多すぎる囚人を
管理するのに必要な人間を確保するため、
国内外から転校生を募集した。

その結果、ロシアから100名以上の生徒が参入した。
今のロシア連邦政府を嫌い、
旧ソ連の復興を望んでいる勢力だった。

欧州側ロシアの都市部で育った人達らしく、
ロシア語に田舎のなまりがなく、聞き取りやすい。

僕は六号室を詳しく知らない。
執務が忙しくて見回りに行く暇がないのだ。

ミウが率先して旧一年の進学コースの六クラス分の
教室をまるごと収容所に改装したらしいが。

B棟の一角だ。屋内にもかかわらず、
周囲の廊下には有刺鉄線が張られているらしい。

「怪我した子達は速やかに保健室で手当てさせてるよ。
 ちょっとひどい子は病院に送ったけど」

なんと出血多量らしい。
他にも打撲、骨折など物騒な話が続く。

「カッターで頸動脈を狙って攻撃されたからね。
 見回りに行った矢先で襲われたから
 執行部は鎮圧に手間取ったていたよ」

執行部員は囚人の死に物狂いの犯行に
ひるんだが、ミウの護衛隊がさっさと鎮圧したという。

「私の部下は暴徒鎮圧用の手投げ式の
 催眠ガス弾とか持っているの。
 私のことを本気で守ろうとしてる人達だから、
 信用できるよ?」

イワノフに嫌味を言っている。
案に執行部(保安委員部の下部組織)は
能力不足だと言っているのだ。

「報告を続けるね? 現在までに反乱に関わった生徒は
 15名まで判明してる。犯人たちに対する拷問を
 継続しています。芋づる式で次々に容疑者を
 特定して、反乱勢力を一掃するね」

「拷問はイワノフ君の部下を使役させてもらっているよ。
 ナツキ君やイワノフ君には事後報告に
 なったわけだけど。構わないよね?」
 
すばらしい手際の良さだ。
まさに彼女はボリシェビキだと認めざるを得ない。

僕はミウを称賛した。
イワノフもナージャも口では褒めるしかなかった。

急な事態なので会議などしている場合ではない。
収容所の反乱を許すわけにはいかない。
僕たちは拷問現場に行くことにした。



ここは地下の尋問室だ。

鉄とコンクリートで固められた異空間。
明かりは蛍光灯ではなく、天井からつるされたランプだ。
採掘現場並みに薄暗く、ホラー映画の一場面を見ているようだ。

「ぐぉぉぉ…いてえ」「あぁあぁ…やめてくれ」
「俺は知らねえ……知らねえよ」

六号室の反乱分子たちは天井からつるされていた。
ミウに聞いた通り、15人……。いや20人はいるぞ
両腕をばんざいした状態で、ロープで体重を支えている。

そのまま上方向に力が加わり続けると、肩関節が脱臼する。
現在でも肩の圧迫によって呼吸が苦しいだろう
足が地面すれすれの高さを維持しており、
床に足がついたかと思えば、また宙に浮く。

フラフラと、その場を不安定に揺れ続けていた。

僕たち四人の生徒会役員は、その地獄絵図をこの目で見た。
イワノフは慣れているだろう。ナージャは驚愕している。
僕は正直苦手だ。ミウは無言で鞭を手にした。

「ほら。他に仲間がいたら早く教えなさい」

「ぎゃああああああああああああああああ」

ミウの鞭が飛んだ。
男たちは上半身裸だから、
生身の体であの凶器を食らっているのだ。

僕たちが来る前にすでに痛めつけたのか、
体中が刃物で切り付けられて出血している。

「うあああああああああああああああああああ」

「あぁぁああああああああああああ」

ミウは横なぎに鞭を振るうと、並んだ男たちに
無作為に痛めつけていく。
ミウの口元が笑っているのが恐ろしかった。

「ねえ。あなた。どうして反乱を起こそうと思ったの?」

「お、おおおれは知らねえよ。俺は何もしてないし。
 見てもいない。たまたま犯行現場の近くにいて……」

「そういう嘘。いらない。犯人はみんな嘘つくじゃない」

「嘘じゃねえよ!! 気がついたら男たちが
 執行部の奴らにカッターで切りかかってたんだ!!
 そもそも俺は何の狂気も持ってねえ!!
 収容所にカッターなんて持ち込めねえよ!!」

「どのみち近くにいた君も怪しいよね。
 疑わしい者は全員罰さないと」

ミウが執行部員に命じて
皿に盛られた塩を持ってきた。
それで傷口に塗り付けようというのだろう。

中世欧州の拷問でも実際に使われていた方法らしい。
その痛みは文字通り想像を絶するほどだ。

「分かりました!! 俺は罪を認めます!!」

「あっそ。あなたが有罪なのはとっくに知ってるよ。
 問題は他に犯行に関わった人がいるかなの。
 疑わしい人の名前を教えてくれる?
 即答しなかったら塩ぬるからね」

「待ってください!! 今言いますから!!」

そしておそらく関係ないであろう生徒の名前を口にした。
彼以外の囚人も同様で、適当な生徒の名前を言う。

ミウはその名前をメモしていった。
品があり高そうなメモ帳だ。

ある程度の新しい容疑者のリストが出来上がると、
ミウはようやく満足したようで

「ありがとね」と言った。

まるで友達に対するような態度だ。
笑顔の裏に隠されている感情を思うとゾッとする。

彼女は僕の方を振り返っていった。

「ナツキ会長。彼らはしばらく地下で
 反省してもらいましょう」

「あ、ああ……」

「六号室のずさんな警備は証明されたので、
 執行部に代わって副会長の私が管理してもいいですか?」

「ま、任せる」

「また、そこの囚人を管理する権利も私に
 いただけます?」

「良いだろう……君がやるのが適切だ」

イワノフは特に反論しない。
彼の組織の力が弱まることになるのだが。
ナージャは小さく舌打ちした。

やはりミウのカリスマは圧倒的だった。
権力を私物化しているが、実績を残している。
太盛君関係での失態を誰にも責められなくなった。


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