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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第6回   斎藤マリエ 強制収容所七号室の囚人
※斎藤マリエの視点。

「班ごとに朝の点呼を取れ」

私達は朝5時半が起床時間です。

寒い寒い。支給された防寒着がなければ凍えているよ。

寮を兼ねた七号室では、起床と同時に
外の校庭に整列させられ、点呼を取ります。

「いちっ」「にっ」「さんっ」「よんっ」「ごっ」「ろくっ」
「第三班。班員全員揃いました」

左から右へと、順番が呼ばれていきます。
私達は横一列に並んでいます。
もちろん班ごとにです。

まず「1番」の人が番号を言ったら、
顔を横に向ける。次の番号の人へね。
「2番」の人も同じようにして、
次の番号の人へ顔を向ける。

これを繰り返して、1から6までの数字を言っていくの。
テレビで警察とか消防隊がやってるのを見たことが
ある人いると思うけど、まさにそんな感じ。

「おい、第四班。一人足りないとはどういうことだ!?」

執行部員さんの激が飛んでいます。男性の方です。
昨夜のうちに脱走者が出たみたいですね。

ここにいるのは女子寮のメンバーですが、
執行部員さんには男子も含まれています。
基本的には生徒会から派遣されている人は女性中心ですが、
反逆された時に困るので男手が必要なのでしょう。

「逃げた痕跡がないか、部屋に戻って調べろ。
 何でもいいから証拠を探せ。さもないと
 奴を逃がした連帯責任で貴様らも二号室行きだ!!」

二号室……。そこは最も恐ろしい収容所として
知られている。すでに80人以上が粛清されたとして
有名な場所です。

第四班の人達は顔面蒼白になって部屋に戻って行きました。
逃げた痕跡を探すと言っても、
脱走者は絶対誰にも打ち明けずに逃げたに決まってるのに。

第四班は、私たちの班の隣の部屋で寝泊まりしてるから、
かなり気まずいな。私達にまで疑われたら困ります。

「その他の班は、食堂に集合。まもなく朝食の時間である」

食道は一か所にしかないの。わざわざ専用の棟を作ってくれて、
その場所で食材の仕入れ、調理、食事ができる、大食堂。
大学の食堂がこんな感じなのかしら。

私の所属は、強制収容所七号室、第二棟、第三班。
囚人番号、202番(番号の根拠は分かりません)

長いけど、今では空で言えるようになりました。
執行部員さんに質問された時に
これが言えないと拳が飛んでくるから必死なの。

ちなみに囚人番号とはなんでしょう?
正解は私たちのここでの名前です。

私たちは重犯罪者として収容されたので、
氏名が没収されました。
いわゆる人権剥奪(はくだつ)というわけです。

私は一年の7月から拷問を経験しているので、
特別不思議に思っていません。
生きていれば一回くらい人権が奪われる時くらいありますよね?
たぶん、よその高校でも収容所とか有るんでしょ?

……え? 私の感覚狂っていますか?

「みなさん。席に着きましたか? これより食事を始めます」

「出されたものは残さず食べましょう」

食事の号令を取るのは女性の方(執行部)たちです。

どこに残す要素があるのでしょうか。
大盛の白米と具がたっぷり入ったみそ汁、漬物だけの
食事は質素そのもの。でも食べ物があるだけましです。

私は中学の時に修学旅行で広島の原爆ドームに行きました。
あの人たちの悲惨さに比べたら、なんともありません。

隣の席の人との会話もなく、もくもくと食べるだけです。
最近ブラジャーが緩くなった気がする。
痩せたのかな。

「本日は快晴。素晴らしきスポーツ日和である。
 女子の囚人たちはバラックごとに校庭に集合」

久しぶりに日中の日差しを見たわ。
少し風が強まって肌を刺すけど、雲がなくて日差しは強い。

ここではカレンダーがないから日付が分からないけど、
この風の冷たさは12月の上旬くらいなのかな? 

……スマホを使えばいいって? 
スマホはとっくに没収されています。

固定電話やPCもないので、収容所では
外部と連絡する手段がありません。

「Aチーム。第一バラックから代表を選べ。
 Bチームは第二バラックから。
 本日はこの両チームでの試合とする」

競技は野球です。女子なのにソフトではなく野球。
いわゆる女子野球と呼ばれるスポーツです。
ただ女子だけでやる野球のことなんですけどね。

バラックと言うのは、棟のことです。
私は第二棟なので、第二バラック。
どうして生徒会の皆さんはバラックと呼ぶのかしら。

「きさまら、早く歩け。ダラダラしてる者は指導対象だ!!」

「ダバーイ。ダバーイ、ヤポンスキぃー」
(おら、急げよ日本人)

日本語と露語が飛ぶのは、収容所では日常です。

私たちより先にスポーツをやっていた男子達と
入れ替わりで女子がグラウンドに集合する。

あっ、男子の群れの中に昔同じクラスだった人がいる。
サッカー部のカッコいい人もいる。背が高いから目立つわ。
でも囚人の身だから覇気がなくて自殺しそうな顔してる。

実は彼のことも少し気になっていたけど、今私が
一番会いたいのは太盛先輩。先輩……。先輩の顔が
もう一度だけ見てみたい。会って話がしてみたい。
どんなくだらないことでもいいから。

「推薦と投票によってメンバーを決める」

打席順に、一番、二番、三番と名前が呼ばれていく。
収容所ではメンバーを決める時は、集団投票によって行われるの。
生徒会の皆さんは民主的な方法を好むから。

あらかじめ渡されていた紙に、メンバーになってほしい人を
書いておくの。それを代表(これも投票で決まる)が集計して、
適当に打順を組んでスタメンを作る。

「四番。囚人番号202。旧氏名は斎藤マリエ」

私か……。基本的に人気のある人か目立つ人が
四番に選ばれるからな。

私ってアイドルとか呼ばれることがあるけど、
今になって本当にそう思う。自分で言うと調子に乗ってると
思われるかな。自慢じゃないけど、男子の執行部員さんから
収容所の夕食に誘われたこともある。

旧氏名とは、すでに実名を名乗る権利が失われているからよ。

「試合開始前に、本日は恐れ多くも同士・生徒会副会長殿が
 お見えである。同士・ミウはご学友をお連れとのことだから、
 決して粗相のないように」

10人以上いる執行部員さんたちまで緊張している。
副会長ってことは、……あの人が来るのか。

私達のバラックには会長と副会長など生徒会の
中枢メンバーの肖像画が飾られているわ。

ミウは、用意されていた『お立ち台』に上がり、
班ごとに整列している私たちを見下ろしてる。
私達は全員ジャージ姿。
奴も私たちに合わせたのか、ジャージだ。

寒すぎだよ。
長くて無駄な話を聞かせるなら、
せめて防寒を着させて。

「Morning, everybody?」

「Today, it’s a perfect day for a baseball game.
 Let me say one thing it very important…」

あのクソ女。なんで英語の挨拶なんだよ。
こんな時でも帰国子女を気取るつもりなの。

「……失礼しました。とっさに英語が出てしまうのは
 私の悪い癖だと自覚しています」

だったら最初から日本語で話せ。くたばれクズ。

「一年生の皆さんには定期的にスポーツをして
 健康な体作りをしてもらっています。
 皆さんから悪の心が一日でも早く消え去ることを
 祈っています」

「そしていつかは健全なる一般生徒として、
 学業に復帰し、将来は社会の役に立つ、
 立派なボリシェビキとなってほしいのです」

なにがボリシェビキだ。ソ連風に解釈すると
強硬派の共産主義者のことじゃない。
政治思想は極左。ウラジーミル・レーニン率いる革命勢力。
国家を転覆させるための革命を是正とする殺人集団。

「本日の女子野球は私も観戦させていただきます。
 みなさん、手を抜くことなく精いっぱい汗を流してください。
 そして挨拶ですが、私の学友からもお言葉を
 いただきましょう。では堀太盛さん。どうぞ」

ほり……せまる……? まさか……?

緊張した面持ちで台へ上がるのは、
間違いなく太盛先輩だった。

ミウの大勢の護衛に囲まれていたから、
そこにいたのに気付かなかったよ。
ミウが移動する時は天皇陛下並みの護衛がついてるもの。

「あー。あー。マイク入ってますよね?」

本当なら笑うところだけど、私たちは囚人だから
下手なことをしたら指導対象になる。みんな静かにしていた。

指導とは、口頭でのお説教から軽い体罰程度のもの。
この学園での罰としては一番軽いものだね。

「一年生の皆さん。僕はミウの友達として
 紹介されました堀と言います。
 クラスは二年一組でミウと同じクラスです」

私は知ってるけどね。他の囚人たちが驚いてるのが分かる。
ミウを呼び捨てにできるのはたぶん太盛先輩くらいか。

「皆さんの苦労は分かりますよ。僕もつい最近まで
 反省室(強制収容所3号室)の人間でした。品行方正な
 生活を心掛けた結果、ミウの恩情によって解放され、
 今では元のクラスで元気に学生生活を送っています」

「反省室での生活は、今ではかけがえのない思い出に
 なっています。僕は、今までいかに西側諸国の思想に
 侵され、堕落した人生を送っていたかを気づかされました」

「一日でも早く立派なボリシェビキとなり、
 大人になったらマルクス・レーニン主義を
 世界に広めるべく、頑張っていこうと思っています」

「ボリシェビキに必要なのは、知力体力気力。
 そして絶対的理性による勝利です。
 人類を次のステップに導くために必要なものです」

私たちは収容所生活で飽きるほど社会主義の
勉強をさせられた。かつて米国につぐ大国のソビエトが
実現しかけた夢はたくさんあったの。

正式名称は 『ソビエト社会主義 共和国連邦』
20を超える共和国を有する、史上最大規模の
国土面積を誇る超大国だった。

ソ連は『資本家や特権階級』(ブルジョア)の存在を許さない。
労働者と農民のための国家。
軍隊は赤軍と呼ぶ。別名はソビエト労農赤軍。

民間企業の廃止。全ての企業の国営化。
ノルマ式労働。残業は基本的になし。

計画経済の導入。市場経済の廃止。
一国社会主義。共産党一党独裁。

司法権。立法権。行政権。
全ての公権力をソビエト(評議会)に集中。

差別、階級闘争の廃止。
そのため国家の最高権力者も議長や書記長と呼ばれる。

人種国籍の廃止。全ての人民はソビエトの人民となる。
ソビエトとは評議会の意味であり、
国名が宗教でも地名でもない史上最初の国家である。

都市部の国民は共同アパートへの入居可。
家賃がなく、医療などの社会保障費は無償。

農業の集団化。全ての土地は国の財産。
個人の大土地所有は不可。地主や富農の廃止。

国内の治安維持のために、反革命主義者を収容所へ。
秘密警察、国家保安部(KGB)が容疑者を摘発。

ユーラシアにまたがる広大な国土に無数の収容所が存在。
最盛期は強制収容所の囚人の労働が、『GDPの10%』に達する。
ソ連崩壊までに粛清された人口はおよそ『1億人』

国防では弾道ミサイルを中心とした
『戦略ロケット軍』を中心に陸海空軍を配備。

隣国の北朝鮮は、ソ連の戦略ロケット軍を
模倣(もほう)して、膨大なミサイル戦力を持ってるの。
あと世界第三位の保有量を誇る生物化学兵器が怖い。

最近はサイバーテロで韓国国内に
停電を起こそうと考えてるみたい。
どこまでも腐った国だよ。

「反資本主義。反帝国主義が我々のスローガン。
 国民を団結させ、内外からの脅威から守るためには
 多少の粛清も必要となりますが、必要悪だと思ってください。
 我々が最も憎んでいるのは、内部に潜むスパイです」

私たちがまさにスパイとして逮捕されたのだけど。
スパイというか爆破テロ未遂犯か。

それにしても太盛先輩は、ミウから渡された紙の内容を
口にしてるだけじゃない。専門的な単語を噛まずによくスラスラ
言えるわ。太盛先輩が無理やり読まされているのが見てわかる。

「みなさんはまだ若い。一度悪事に身を染めたとしても、
 更生する機会は十分に与えられているのです。
 生徒会の人々の寛大さには、本当に頭がさが…」

太盛先輩が私を見た……?
彼が途中で紙から目を離して囚人一同を見渡したからかな。

私は自分で言うのもあれだけど髪が亜麻色で
目立つから、太盛先輩がすぐに気づいてくれたのかも。

「頭がさがり……ます……よね。ほんとう……」

先輩……?

「だ。……だからこそ……ぼくたち……ぼくたち……
 ぼくたちは……。ぼくたちはぁ」

嗚咽が聞こえる。それに紙を持つ手が震えてる。
この衆人環視の中で泣くなんてどうしちゃったの。

執行部員さんたちと護衛さんたちが仰天してる。
少し面白い光景だけど、笑ったら殺される。

「ちょっと太盛君……?」

ミウが壇上に上がり、泣き崩れてしまった太盛君の
肩に手を触れている。太盛先輩はカメのように丸くなって
ただ震えていた。嗚咽がうるさくてこっちにまで聞こえるほど。

太盛先輩は、ミウに「みっともないからしっかりして」
と言われ、腕を持ち上げられて無理やり立たされた。

その際。彼は

小さな声で「マリー……」と言ったみたい。
聞こえたわけではないけど、唇の動きで察したの。
私は失語症になってから唇の動きに敏感になったから。

「マリー?」

ミウの顔から表情が失われた。

そして私を見て来た。
ミウは台から降りてまっすぐに私の方へ向かってきた。

うそ……? 来ないでよ。

私の近くにいた囚人たちは速やかに場所を開けた。
列の中でそこだけがぽっかりと空いた感じ。
モーセの十戒で海が割れた状態がこんな感じなのかな。

ミウは私の胸ぐらをつかみ、
低い声で「あんたのせいね」と言った。

私は恐怖のあまり何も答えられませんでした。
すごい力なのでジャージが伸びてしまいそう。
それに鬼のような顔してる。これが高校生の顔なの?

「こら。何か言ってみなさい」

何を言えっていうの? 苦しい。
胸元をそんなに力強くひっぱらないで。

「囚人番号202。太盛君はあんたのことを意識したせいで
 挨拶を読み間違えた。彼は今日の挨拶をするために
 一時間も練習したの。この責任をどう取るつもりなの?」

なんで私だけが悪いことになるの。
太盛先輩が私を気にせず話せばよかったでしょ。

もしこいつが副会長じゃなかったら、
今すぐ殺してやるのに。あっ。だめだ。
こんなことを考えてたら表情でばれる。

「はい。反抗的な顔したね。尋問決定」

尋問は、指導の一歩上。スパイ容疑者などに対する、
自白を強要するために拷問すること。実はもう一つあって、
ただ楽しみのために拷問することもある。

私の場合は後者か。
ああ……せっかく太盛先輩の顔が見れたのに。

今回は殺されるのかな。実は覚悟はできてるけど。

生きている間に太盛先輩に再開する夢はかなった。
会話はできなかったけど、天国で再開すればいいか。

「私は優しいから、最後に言いたいことがあったら
 何でも聞いてあげる。さあさあ。
 尋問室に行く前に遠慮なくどうぞ」

何を言えばいいのか分からない。
唯一言いたいことは
『今すぐ自殺して地獄に落ちろ』だけ。
本当にそれしか望んでない。

この女が死ねば学園はもう少し平和になる。
たぶん学園中の人があんたの死を願っている。

「なにもないようだね。
 それじゃあ手錠するから動かないでね?」

私は観念して目を閉じ、両手を差し出した。

仕方ないんだよ。これが運命なんだから。

10秒くらい待ったけど、まだ手錠の感触がない。
どうしたの?

「ミウッ!!」

太盛先輩の怒号の後、乾いた音が聞こえた。

まさか……?

ミウは自分の頬を押さえて呆然としてる。
太盛先輩はミウにビンタでもしたのだろうか。
状況的に考えてそれしか思い浮かばない。

あまりの事態に全員に緊張が走り、修羅場と化した。

これは『反逆罪』に該当すると思う。

最高に罪が重い。逆さずりにされて水を満載したバケツの中に
顔を突っ込む。電気椅子で死なない程度に13時間連続で
弱い電流を流される。それらの刑罰が課される。

護衛の人が太盛君を殴ろうとしたけど、ミウに止められた。
ミウは「彼に手を出したら反逆罪とします」とまで言った。
ここまで言われたら、護衛も執行部も何もできない。

「濡れタオルを持ってきてちょうだい。
 あざになるといけないから」

執行部の女子が大急ぎで水道まで行き、
ハンカチを濡らして戻って来た。

ミウはハンカチで頬を押さえながら言った。

「太盛君。今のは何のつもりだったの?
 私をぶつなんてひどいよ」

口調だけは軽いけど、怒りで目の焦点が会ってない。
プライドの高いこいつは人に殴られたら
永遠に根に持つだろうね。

「君のことを私の学友と紹介したばかりなのに。
 まるで普段から喧嘩ばかりしてるのかと
 勘違いされちゃうよ」

「そういうの、よくないよね? 
 私は太盛君の前で偉ぶる趣味はないけど、
 一応副会長なのは分かってほしいかな」

バカじゃないの。すでに十分威張ってるよ。

「さっきのは特別になかったことにしてあげるから、
 次からはこういうことがないように、目の前で
 宣誓してもらおうかな。それでチャラね」

「待ってくれ。その前に」

「ん?」

「俺の挨拶の読み間違えの件を訂正してくれ」

「は? 読み間違え?」 

「さ……さっき挨拶を読み間違えたのは、俺のせいだ。
 そ、そそ……そこにいる一年生は関係ない。
 俺のせいなんだから。おおお、俺が罰を受ける!!」

歯をガチガチ言わせながら必死にしゃべっている。

ミウは、チャラにすると言った。
副会長を暴行して無罪になるなんてまずありえない。
たとえ彼氏だったとしてもね。
先輩は生き延びる千載一遇のチャンスを逃した。

太盛先輩は宣誓しないどころか、口答えした。
抗命は、反逆罪と同じだよ。

私は生徒会をよく研究してるから、
規則には誰よりも詳しい自信がある。

太盛先輩。そんな怖い思いをしてまで
私をかばってくれるなんてうれしい。
それだけで死ぬ準備ができてしまう。

「同士・副会長殿。太盛先輩の挨拶を妨害したのは私です。
 私が彼をじろじろと見つめたため、
 先輩の集中力が削がれてしまったのです」

全員の視線が私に集中した。こんなこと言ったら当然だよね。
でもこう言わないと太盛先輩が処罰されちゃう。

「違う!! 悪いのはこの俺だ!! さあ執行部員。
 遠慮なく俺を尋問室へ連れて行けよ!!
 おら、どうした? ビビってんじゃねえ!!」

「いいえ。私は自分の意思で尋問室へ行きます。
 早く私の手に手錠をしてください」

「おい生徒会のクソ野郎ども!! 今俺は暴言を吐いたぞ!!
 反革命容疑で極刑確定だな!? 早く連行しろよ!!」

「副会長殿に反逆したのは私だけです。
 私だけを連行してください。お願います」

「一年生の女子までおまえらは手にかけるのか? 
 ああ!? 恥ずかしくねえのか!! 
 どいつもこいつもかかってこいよ!!」

「先輩は今気がおかしくなっているから、
 彼のしゃべってる内容は本心ではありません」

ミウは拳を握り震えてる。
ガチで切れてるようね。

自分の指を口元へ持っていき、
血が出るまで噛んでいる。

その様子を護衛たちはドン引きしながら見守っていた。
吠えまくる太盛先輩を止めたいだろうけど、
ミウから何もするなと言われてるからね。

「少し黙りなよ」

ミウが言う。

私は口を閉じたけど、太盛先輩はまださわいでいる。

「静かにして!!」

太盛先輩はついに沈黙した。

ミウはもっと怒鳴りたいだろうけど、
大衆の前ではしたないと思ったのか、冷静さを装っている。

「みなな。騒がせちゃってごめんね?
 これから太盛君と囚人202を指導します。
 一年の囚人は邪魔だからバラックに帰ってくれる?
 できれば今すぐに」

囚人たちは蜘蛛の子を散らすように一瞬でいなくなった。
うん。誰だってこんな修羅場にいたくないよね。

執行部員も全員戻され、残ったのはミウ。太盛先輩と私。
たった5人の護衛だけ。あれだけ人数がいたのがうそのよう。

『指導』は、尋問の一歩手前。主に口頭でのお説教。
たまに暴行されることもあるけど、拷問よりはまし。

12月で外は寒いけど日差しは結構強い。

結局試合は中止か。
立派なスコアボードがむなしく立っている。
4番はプレッシャーが大きいけど、
運動自体は楽しみにしてたのに。

木が風で揺れている。
ここまでくると強風ね。
お日様の位置からして正午が近いのかな。

「ここじゃ寒いか」

ジャージ姿のミウが言う。
私だって早く収容所へ帰りたいよ。
あそこは暖房があるもの。

「Come with me. will you?」

手でこっちに来いとジェスチャーして言った。
また英語。死んでよ腐れ英国女。
英国人がみんなこいつみたいだったら最悪だよね。

私たちはおとなしくミウに着いて行った。
護衛は私たちのさらに後ろから遅れてくる。

ミウが後ろを振り返る様子がないから、
少しだけ太盛さんに近づいて歩いた。
太盛さんは、一瞬だけこっちを見て優しく笑った。

うれしい!! 彼の笑顔が見れた!!

今すぐ手をつなぎたい。ハグしてほしい。

現実でやったら殺されるから、妄想だけして我慢。

生徒会の部屋がある棟はB棟。二学年の棟だ。
私は久しぶりに学校の校舎に戻って来た。
一時的とはいえ、うれしくないわけがない。

B棟の四階の一角に、副会長の私的な部屋があるという。
昔に音楽準備室として使われていた場所を
ミウ専用の部屋として改装したそうなの。

実務用の副会長室は別に用意されているけど、
こっちはプライベートルームとなっているみたい。

「Come in. two of you」

中に入れってことね。なんでこいつは英語話すの。

「2人とも座っていいよ。お茶は私が淹れてあげる」

指導と言っていた割にはお客様対応ね。
きっと本気で指導するつもりはないのね。
太盛先輩相手だから当然か。

遠慮なく高級リクライニングチェアに腰かけた太盛先輩。
私も近くに座る。たぶん怒られないよね?

この部屋は無駄にイスの数が多かった。
長椅子、ソファ、背あてのメッシュが特徴の事務用のイス。
キチガイ副会長はイスマニア?

私は悪いと思ったので事務用のイスに座った。
テーブルは大きいけど、一つしかない。
白を基調とした、フランス人が好みそうなお洒落なデザイン。

三人分の紅茶が用意された。

太盛先輩はすぐに飲み始めるけど、
私は囚人だから遠慮してしまう。

「Hey. Why don’t you have it?」

そう言われたので飲むしかない。
私は猫舌なので口に含む程度にね。あつっ。

「私は太盛君に謝らないといけないね」

いきなりそんなことを言われ、太盛先輩は
ティーカップを持ったまま止まった。

「今日の太盛君はちょっと変だったもの。
 私がスピーチなんて頼んだのがいけなかったんだ。
 いくら囚人の前でも緊張しちゃうよね。
 私は短気だからつい怒鳴っちゃった」

「い、いや。俺もついカッとなって」

「ううん。悪いのは私だよ。でもね、太盛君。
 他の人への示しがあるから、大勢の人の前で
 生徒会の悪口を言うのはやめてほしいかなって」

「ごめん。あれはやり過ぎたと思ってる」

「頭下げなくていいよ。私と太盛君は恋人同士でしょ?
 これからも仲良くやっていきたいと思ってるからさ」

どうぞ。とミウがクッキーをすすめた。
太盛先輩は遠慮なく手を伸ばす。
先輩は甘いもの大好きだものね。
本当は私がクッキーを作ってあげたいくらいだよ。

「ねえ。太盛君にとってさ」

声のトーンが下がった。

「そこにいる囚人って結構大切な存在だったりする?」

囚人呼ばわりか。やっぱりこの女は私のことを
ゴミ程度にしか思ってないのね。
それでも自分のプライベート部屋に呼び寄せたのは
彼を接待するためか。

「さっきの茶番を見せられて、かなりイラついたんだけどね。
 太盛君がそこの奴に気があるとしか思えないんだよ。
 実際はどうなのかな。もし私の勘違いだったらごめんね?」

「ミ、ミウ」

「囚人の前だから指導と言ったけど、
 ゆっくり話がしたいと思ってここに来てもらったの。
 言い訳があるなら聞くけど。私はあなたのパートナーとして
 あなたの言い分は全部聞いてあげたいと思ってるの」

太盛先輩は、恐怖のあまり震え、声が出なくなっていた。
先輩が私のことを大事に思ってくれてるのは
痛いほど伝わったよ。

でもそれを言ったら拷問されるから怖いんだね。
私だって怖い。先輩が口を開けないなら、私が代わりに…

「あの」

「黙れ。お前には聞いてない」

終わった。私には発言権がない。

「太盛君はいつまで黙ってるつもり?
 思ったことを素直に言って欲しいの。なんでもいい。
 あなたの望みをなんでも叶えてあげたい」

「なんでもいいのですか?」

「そうだよ。あと敬語やめて。次やったら怒るよ?」

ミウが拳でテーブルを叩いた。うわ、ヒステリーだ。
敬語使われるとキレるとか意味不明。さすがキチガイ。
太盛さんは緊張して唾をのんだ。

「恥ずかしい話だけど、俺はマリーのことを自分の妹みたいに
 思ってる。一学年しか年が違わないけど、たまに娘みたいに
 思える時もある。この子の面倒を見てあげたくなるんだ。
 こういうのを親心っていうのか?
 その……マリーが収容されてると心が痛む」

ミウの表情がどんどん険しくなっていく。息が荒い。

「マリーが尋問されたりしたら、俺は耐えられない。
 俺はどんなことがあってもマリーに平和に生きてほしい」

「太盛君は、爆破テロ未遂事件を知ってるよね?」

「ああ。だがそれは一部の過激派が進学コースを
 先導したんだろ? 罪をかぶせるとしたらそいつらだ。
 マリーはおとなしい子だから流れに乗せられただけだよ」

ミウは机を強く叩いた。
一度だけでなく、何度も叩いた。

私は心臓が止まるほどの衝撃を受けた。
太盛先輩も同じだと思う。

ミウは壁際の小さな棚から、ファイルを取り出し、
何枚かの写真を出した。それには私が写っていた。

夏のイバラキ県でのキャンプだ。爆弾製造のための
大規模キャンプだった。ナコちゃんたちと
楽しくテロリストごっこの練習をしたんだ。

「これが何の写真か言わなくても分かるでしょ?
 そこの囚人は、これの中心人物だったと多くの人が
 証言しているわけだけど、この事実をどう思う?
 C-4爆弾とか、現実のテロでも使われてる兵器だよ」

「マリーだって……魔が差す時くらいあるだろ」

「魔が差すってレベルを超えてる気がするけどね。
 もしかして太盛君はそいつの肩を持ちたいの?
 だとしたら、ちょっと笑えないかなぁ」

「その言い方……」

「ん?」

「そいつって言うの、やめろよ。
 マリーはマリーだ。
 ミウだって俺と一緒にマリーのお見舞いに
 行ってたじゃないか。忘れたのか?」

「覚えてるよ? だからなに?
 昔は色々あったけど、今は忘れようよ。
 私たちは今を生きてるんでしょ?」

「頼むよ。マリーと呼んでくれ」

「生徒会副会長として明確に拒否します。
 囚人を生徒と同列に扱うことは規則違反です」

「囚人とかさ、そういうのやめにしてほしい。
 俺たちはみんな等しく神の子じゃないか。
 そうやって差別するのは悲しいことだよ」

ここまで口答えしても太盛先輩は
生かされているんだからすごい。

ミウは普通の女よりも嫉妬深いから、
すでに殺されてもおかしくないのに。

「うふふ。太盛君、怒ってるでしょ?
 ごめんね。太盛君と仲良くなりたいのに
 攻撃的な口調になっちゃって」

「ミウ。君は俺と一緒にいて楽しいか?」

「楽しいよ。どうして?」


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