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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第3回   堀太盛(せまる) 強制収容所、三号室の元囚人
※太盛の視点

俺が弱い人間なのは、自分が一番よく知っている。
収容所では毎日生徒会の奴らに拷問される恐怖と戦う日々。

俺は模範囚として過ごしているため、
幸いまだ拷問されたことはないが。

いや、『奴ら』なんて言い方をしたら何をされるか
分からない。きっと反革命罪とかスパイ容疑で
逮捕されるかもしれない。普段思っていることは
とっさに口に出てしまうものなのだ。

何より恐ろしいのが、あの人達たちが何を基準に生徒たちを
逮捕しているか分からないことだ。俺は拷問されるのが怖い。
こんな恐怖と戦う日々を送っていたら気がおかしくなる。

この三号室で俺と同じ日々を送っている松本先輩とカナ。
君たちだって同じだろ?

俺たちが毎日この収容所でロシア語や共産主義の
勉強に励んでいるのも、生徒会に皆さんにそうしなさいと
言われているからだ。

西側諸国の資本主義は間違っている。
日本の議会制民主主義は腐っている。

人間に善良さはない。大衆は愚図だ。
人の自由な意思で政治や経済を
動かしたら、必ず国家は衰退する。

『恐怖による支配』

こそが、強力な国家と国民を作る。

俺たちは高校生だが、政治レベルで
物事を考えるくせを身に付けた。
そうなるように訓練されたからだ。

「はぁはぁ……はぁはぁ……さすがにしんどいな……」

「頑張ろう。あと少しでゴールだ」

俺はカナと並んで陸上トラックを走っていた。

体力作りのための訓練だ。
生徒会の皆さん(執行部)は、俺たちが
なまけないように目を光らせている。

彼らは俺たちが走った距離をチェックしている。
手元にあるIPADに何かを入力している。
あとで本部にデータを送るのだろう。

「太盛。息があがってるよ? 頑張って」

カナが、俺の肩をたたいて励ましてくれる。
彼女の体力はすごい。
陸上部の長距離選手並みだ。

俺たちはもう6週も走っていて、俺は気力だけで
手足をなんとか動かしている状態だ。

生徒会の皆さんに『早く走れ』とは言われていない。
ただ、既定の時間内走り続けろと言われている。

実際に走った時間は分からないが、
たぶん20分以上走っていると思う。

「ふぅ……」

松本先輩は体力に自信がないようで、俺たちよりも
2周遅れで走っていた。限界まで疲れているのか、
ため息のようなものを吐き、
ふらふらとし、足が止まりそうになる。

ダメだ……。足を止めたら大変なことになるぞ先輩!!
執行部のみなさんに警棒で叩かれるぞ!!

俺の願いが通じたのか、先輩は走り続けていた。
非常にゆっくりと、上体は大きく左右に揺れながらも。

季節は11月の下旬。真夏と比べて走りやすい季節ではあるが、
走り終わった後、大汗をすぐにタオルでふかないと、
風邪をひいてしまう恐れがある。

「本日の体力作りは以上である。
 みんな良く走りきった。
 収容所に戻ってよろしい」

執行部の偉そうな人が言う。

背中の後ろで腕を組んでおり、
声は低く、教師より威厳がある。

生徒会の皆さんは、ありがたいことに俺たち
囚人にスポーツタオルを渡してくれる。
それで汗をぬぐうのだった。

スポーツタオルは良い。
汗の吸収率が普通のタオルと全然違う。

「風が冷たいね。早く教室で暖まろ?」

カナ。君といなければ、俺は自殺していたかもしれない。
辛い収容所生活でも君の笑顔だけは失いたくない。

俺はカナと手をつないでグランドを歩いていた。
収容所に行くまでのわずかな距離だからいいじゃないか。

カナは最初こそ驚いていたが、顔が赤くなっていく。

カナはうれしくなると大胆になり、
ぎゅっと手を握り返してくれる。

俺もうれしい。
冷え切った俺の心に暖かい感情が生まれていくよ。

「おい、おまえたち。こっちに来い」

露国人風の執行部員さんが声をかけて来た。
身長が俺より頭二つ分は大きく、威圧感がある。

まずい。囚人同士で恋愛しているのが
気にさわったのだろうか。
カナは顔が青ざめている。

「朝イチからマラソンをしたから
 昼までに腹が減るだろう?
 たまには甘いものでも食べなさい」

俺たちに差し出されたのは飴玉だった。

アメ……。どうして俺たちにあげようと思ったんだ?
ただの気まぐれか。深読みすると毒が入っている可能性も。

「これは善意だ。そう疑うなよ。二号室の馬鹿ども
 と違って貴様らは利口だ。だから
 おまえらに施しをしたくなったのだ」

確かに二号室は日常的に反乱が起きているらしいからな。
あっちの監視に比べたら俺たちは楽なんだろう。
そもそもこっちは三人しかいない。

「ありがとうございます。遠慮なくいただきます」

カナはその場で袋を開けてアメを口に入れた。
俺もカナにならった。
この味は……ミルキーはママの味だ。

普通においしかった。
走り疲れて糖分が不足していたのか、
こんなに美味しいアメは食べたことがなかった。

午前中の勉強が終わり、まもなくお昼を迎えようと
している時に事件は起きた。

生徒会副会長に就任した『ミウ』がこの収容所にやってきた。

「やあ太盛君」

「やあ」

俺は気さくに返事を返すしかなかった。
なぜミウがここに? それにバッジを見ると
生徒会副会長に就任したのは間違いないようだ。

俺たち囚人は、ミウがこの部屋を訪れることを事前に聞いてない。
心の準備もできないまま、学園で第二位の地位を
持つ支配者と向き合うことになってしまった。

ミウがこの収容所を訪れるのはこれで二度目だ。
いったい何が目的だ? 先輩やカナにも
緊張が走っているのが分かる。

「太盛君と話したいことがあるんだけど、
 お昼ご飯でも一緒に食べない?」

何の冗談だろう。俺は三号室の囚人だぞ。
最も罪の重い人が収容される場所にいるんだ。

この学園の神に等しい副会長様とご一緒に食事なんか
したら、他の生徒への示しがつかないだろう。

「ごめん。説明の順序が狂ったね。
 先にこっちを話しておけばよかった」

ミウは、俺を収容所から解放してくれると言った。
嘘や冗談を言っているようには見えない。

その作り笑顔をやめろ。
こう思ってしまうのは、
俺が疑い深い性格になったせいなのか?

ミウは俺と会うのがうれしくて
たまらなそうな顔をしていた。
……かもしれない。

まだ確信が持てない。

俺の目の前にいるこいつは、
生徒たちを理不尽な理由で監禁し、
拷問する組織のナンバー2だ。

高野ミウは悪魔の手先だ。

仮にだぞ?

俺が本当に解放されたとして、カナと先輩はどうなる?

あの二人がただですむわけがない。特にカナだ。
ミウは、俺が付き合っているカナに嫉妬していた。

あんなにしっかりして思いやりのある子が、
ミウに好きなように痛めつけられるのを想像しただけで
俺は涙が止まらなくなった。

「ミウさん。お願いします」

俺は気が付いたら土下座していて、
二人も解放してくれるよう懇願していた。

ミウは当然俺の条件を飲むわけがなかった。
なにより驚いたのが、呼び方を注意したことだ。

俺との地位の差からミウ様と呼ぶべきだったが、
元彼女だったこともあり、ミウさんと読んでしまったが、
なんと敬称は使うなと言う。

「次にミウさんって言ったら、少しだけ怒るよ?」

俺は恐怖でおかしくなりそうだった。
昔の戦争映画を見た記憶だが、英国人は控えめな表現を好むから、
A little に値するのは、「すごく」の場合があるという。

こう解釈するとミウは「激怒」すると考えることもできる。

俺は彼女の顔すら見ることができず、
ただ床に這いつくばってふるえていた。
ミウからしたら、さぞ滑稽なことだったろう。

しかし彼女から笑い声は聞こえてこない。
気まずいな。いつまでもこの状態を続けたら、
余計に彼女を怒らせることになるかもしれない。

「ミウだな。分かった。これからはミウって呼ぶよ」

「そうそう。太盛君はお利口さんだね。
 他の馬鹿どもとは違うものね」

明らかに他者を見下した発言に寒気がする。
やはりミウは冷酷なボリシェビキになっている。

ミウが何を思ったのか、俺に手を伸ばしてきた。
俺は恐怖で気が狂いそうだったこともあり、
自分の意思とは関係なく体が動いてしまった。

パン。

短い音。俺は愚かにも彼女の手をはじいてしまった。

ミウから表情が消えた。

まずい。殺される。

最悪俺が殺されるのはまだ良い。

連帯責任でカナと先輩が殺されるのは耐えられない。
地獄に行ってから後悔しても遅い。

ミウは、おそらく俺のことがまだ好きなのだろう。
その可能性にかけて、抱きたくもない女の体を抱いた。

ああ。この髪の匂いは確かに高野ミウだ。
瞬時に夏の思い出が頭に浮かんだ。

「俺には君しかいないのに。本当にごめん。
 俺は君を困らせるつもりはないんだ。
 こんな俺でよかったら、ずっとそばにいさせてほしい」

はっきり言って口から出まかせだった。
自分でもよくこんな棒読みのセリフが出てきたものだと思う。

これが通じなかったら、すぐ手足の自由を奪われて
電気椅子にでも座ることになるのだろう。

ミウは「いいよ。許す」と言った。
聞き間違えではなく、確かにそう言った。

情熱的な瞳で俺を見つめたかと思うと、
すぐにくちびるを重ねてきた。

なんて強引なキスだ。彼女は俺の顔を
手で押さえているから、抵抗はできなかった。

やめろよ。最低女。近くでカナが見てるんだぞ。

「せっかくだから私たちのクラスで食べようか?」

どうやらお昼ご飯の話題らしい。しかし、なぜ二年一組で?

俺は何か月も収容所にいたから、
自分が一組の生徒である実感がもてない。

革命記念日(生徒会選挙)が終わった後の学内は
いったいどうなっているのか。

まさに未知の世界へ旅立つ心境だ。

ミウは痛いくらいに俺の手を握って歩き出した。
ニコニコしていて、心から満足している様子だ。

俺はボリシェビキとして嘘を見破る訓練を受けたが、
俺から見ても彼女が演技をしているようには見えなかった。

あれが二年一組の教室か。
なつかしさのあまり涙さえ出て来る。

今振り返ると、俺は斎藤マリーに関わるように
なってから生徒会に目を付けられたみたいだ。

「諸君、静粛にしたまえ!! 
 同士・副会長殿がお見えである!!」

まだ4時間目の授業の最中だったようだ。
日本史の先生が教壇に立っている。

今声を上げたのは教師ではなく、マサヤだ。
あいつ、あんな顔だったか。ずいぶん険しいというか、
おっさんぽくなっている。政治家みたいな面だ。

「いきなり来ちゃってすみませんね。先生」
「はっはい!!」

ミウに声をかけられただけで、
中年男は腰が抜けそうなほど脅えている。
声も震えている。

「少し早めのお昼にしても良いですか? 
 今日は太盛君と一緒に食べたいんですよ」

「か、かかか、かしこまりました!! ふ、副会長殿!!」

教師は3秒で教卓の上を綺麗にし、廊下へ消え去った。
俺が教師と入れ替わりで教室に入ると、
クラス中が衝撃でひっくり返りそうになっている。。

そりゃそうだよな。卒業まで収容所にいると思われた男が
いきなり自分のクラスに復帰しているんだからな。
あっ。エリカがいる。あいつも口に手を当てて驚いてる。

「あれー? おかしいねこのクラス。
 太盛君の席がないんだけど」

ミウの言葉は、教室中をパニックにさせた。

まあ、俺自身はどうでもいいことだ。
収容所送りにされた俺のイスと机なんて
なくて当然だろう。

誰が片付けたのか知らないが、
なければ別のところで食べればいいだろう。

「わたしがただいま確保してきますわ!!」

あの子は井上さんか? 
ショートカットで少し可愛いけど内気で
目立たない子だったな。

「お待たせしました!! イスと机でございます!!」

全然待ってねえよ。戻ってくるの早すぎだろ。
どこから持ってきたのか知らないが、俺の目の前に
ドンと一人分の席が用意された。

「座ろうか? 私と向かい合わせで食べよ?」

「あ、ああ」

俺は、引きつった笑みでそう答えた。
実際に座ったが、教室中の視線が突き刺さる。

生徒会副会長、そして三号室の元囚人の俺。
互いの地位に天と地の差がある。

どうすればいい?
この状態で食事をするのは拷問に近いぞ。

「太盛君はお弁当持ってきてるんだよね?」
「ああ。一応な」
「どうする? 収容所まで取りに行く?
 それとも私のお弁当分けてあげようか?」

その問いに意味はあるのか?
俺が取りに行くと言ったら処罰されるんだろうが。

「ミウのお弁当。食べたいな」 
「いいよ」

女の子にしては大きめのお弁当箱だったが、
特に何の変哲もないメニューだ。

ミウのお母さんが作ったものだろうか。
冷食に頼らず、手作りで丁寧に作らている。

まさに家庭の味と言ったところだ。
おかずとご飯のバランスが良い。
野菜も彩を考えて入れてある。

「太盛君」

俺に当たり前のように食べさせてくれた。

箸は彼女の分しかないのだから、俺が手づかみで
食べでもしない限りはそうなるのか。

「おいしい?」 「うん」

何度もこのやり取りを繰り返しながら、
淡々と食事が進んでいく。

ミウはまったく手を付けてないじゃないか。
全体の9割は俺が食べてしまっているが、
彼女が望んだことだから仕方ない。

すでにお昼のチャイムは鳴っている。
おかしいのは、他のクラスメイトが食事を
始めないことだ。みな黙って俺たちの
やり取りを凝視しており、修羅場が続いてる。

「どうしたの? みんなもお昼ご飯食べていいんだよ?」

ミウにそう言われ、みんなが急いでお弁当箱を机の上に
並べ始めた。この学校は食堂派の人がほとんどいないから、
お弁当を家から持ち込む人が多い。

「あっ、そっか。私と太盛君が一緒にいるのが不思議なのか」

ミウは今になって俺が解放された事実を報告してないことに
気付いたのだろうか。なんで最初に言わなかったんだよ。

「同士・クラスメイトたちは気にしなくていいからね。
 下手にビビったり、じろじろ見たりするのは
 太盛君にも失礼だから、いつも通り普通に食事してね?」

この学園は表向き階級の差を廃しているから、
名前の前に同士をつけて呼ぶのが正しい言い方となっている。
例えば公的な場面では同士をつけるのだ。

じろじろ見るなと言われれば、その通りにするしかないのだろう。
みんな引きつった顔でお昼ご飯を食べている。

クラス内の緊張感はテストの最中の非ではなかった。
何て殺伐としたクラスだ。俺が収容所にいる間、
みんなこんな環境で過ごしていたのか?

「ご、ごちそうさまでした…」
「お粗末様でした」

正直腹は膨れていない。味も分からない。
昼休み前から食べ始めたので、まだまだ時間は残っている。
このあとミウがどんな予定を立てているのか気になった。
だが下手なことを聞いて彼女を怒らせるのが怖い。

「あのさー。ちょっとそこの女子」

なんだ? 急にミウがクラスメイトを指さしたぞ。

「ごめん、名前分からないんだけど、あなたさぁ。
 さっき太盛君のことをずっと見てたでしょ?
 うつむいてるフリして、こっそり太盛君のこと
 見てたのバレバレだよ。そんなことしたらダメじゃない」

ミウは小声で Come hereと言って、その女子を呼び寄せた。

女子は歯のかみ合わせが合わないほど震えている。

「私以外の女が太盛君を見てるのがまずムカつくよね?
 あなた、いったいなんのつもりだったの?
 普通にするようにって私は言ったよね?
 私の日本語の発音下手だった? 聞き取りにくかった?」

女子は答える代わりに大泣きし、
ミウの足元にすがり付いている。

いつまでそうしているつもりなのだろうか。

「ごめんさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 ミウ様。ごめんなさい。ごめんなさい」

呪文のように謝罪の言葉を並べている。
本当に必死で謝っているのが伝わるよ。

「つまらない人だなぁ。
 謝るくらいだったら初めからしないでよ」

「ミウ様。申し訳ありません。
 ミウ様……ごめんなさい。ミウ様」

「あなたは機械なの? 
 同じセリフを繰り返して疲れない?
 そういう態度、私をなめてるよね?」

「と、とんでもありません!!」

女子は顔を上げてミウを見上げた。
女王様にひれ伏す下民のごとくだ。
同じ同級生なのにこの差はなんだ?

「私はミウ様のことを心から尊敬し、敬愛しております。
 堀太盛様のことも尊敬しております。私は御二人に
 ご迷惑をおかけするつもりは滅相もありません」

「だったら、なんでコソコソ見てたの。
 私ね、中学の時から周囲の視線を気にしながら
 生きて来たから、あなたみたいな陰で悪口を
 言ってそうな人はムカつくの」

「すみません、ミウ様。今後二度としないと
 誓いますのでどうかお許しください」

「口では何とでも言えるよね。このクラスは少し前まで
 太盛君の悪口言ってる人がたくさんいたね。
 あなたもそのうちの一人だった気がするんだけど?」

何の話をしてるのか、俺にはさっぱりだ。

俺が収容所行きになった間に 
噂話でもされていたんだろうな。

三号室の囚人ともなれば、
悪口の一つや二つ言われるのは当然の流れだろう。
俺自身は全く気にしちゃいないが、ミウはこだわるみたいだ。

「その通りでございます。
 確かに私も太盛様を悪く言っておりました……」

歯を食いしばりながら罪を認めていた。
なんで素直に認めてるんだよ。

適当に嘘でもついて誤魔化せばいいだろうに。

「あっそうなんだ。正直に言ってくれて助かるよ。
 尋問の手間とか省けるしさ。嘘ついても
 あとで当時の盗聴器の音声を再生すれば
 分かることだもの」

女子は何も答えられなくなっている。
気絶しそうなほどの恐怖と戦っているのだろう。
ミウが怖いのは俺も同じだから気持ちは分かるぞ。

「他のみんなもよく聞いてね? 太盛君は高野ミウの彼氏です。
 私の彼を侮辱することは、私を侮辱したのと同じ罪です。
 私を良く思っていない、ということは、反革命容疑者と
 なります。反革命容疑者は尋問が必要のため尋問室行きです」

とんでもない内容だ。
ミウが最後に「分かりましたね?」と言うと、
まずマサヤが拍手し始めた。

あいつは音頭を取るのがうまいな。
他の生徒も力強く手を叩き、教室内は
うるさいくらいの拍手で包まれた。

「みんな、喜べ。ミウ様がクラスの平和維持のために
 新しい規則を作ってくださったぞ!! 
 さあ、もっと盛大な拍手をして盛り上げるんだ!!」

マサヤの声量は隣のクラスまで響くほどだ。
まるでマイクを持って演説しているみたいだ。

「ミウ様!」「ミウ様!」「ミウ様!」「太盛様!」「太盛様!」

後半から俺の名前もコールされた。
このクラスの異常な熱狂はなんだ?

みんなミウが怖くて演技を強要されてるってのか?

これじゃ、普通のクラスまで収容所と変わらないじゃないか。
この学園はやっぱり狂っている。組織として狂っている。

ミウが両手を水平に広げて、静かにするようにと
ジェスチャーした。騒ぎはすぐに収まっていった。

「この女の処罰だけど」

ミウは、足元の女子を見下して言った。

「本当は副会長権限ですぐに有罪にしてもいいんだ。
 でも私は優しいから、有罪かどうかはクラス全員の
 多数決で決めてあげるよ。その方が公平でしょ?」

「さあ同士・クラスメイトたち。みなさんは
 彼女が有罪だと思いますか? それとも無罪ですか?
 有罪だと思う人は10秒以内に手を挙げてください」

まさに一瞬だった。2秒もかからずに全員が手を挙げた。
手は天に向けてしっかりと伸ばされており、
ミウに対する賛同の意思が伝わるのだった。

元女王だったエリカも手を挙げている。
あいつもすっかりおとなしくなったものだ。

有罪が確定した女子は、収容所二号室行きが決定した。

なんてことだ。

俺はあの女子に恨みは全くない。
クラスで話したこともほとんどなかった。

こんなことが許されていいのか。

俺は収容所の外の世界を知らない。
生徒会の皆さんはこうして
生徒たちを収容所送りにしていたのか。

「同士諸君。ミウ様を称えよ!!
 同士ミウ様が今日も学園の生徒を
 正しい方向に導いてくださったのだ!!

マサヤ……お前はそんなこと思ってもいないんだろうが!!

「同士ミウ様―!!」 「ミウ様万歳!!」 「副会長様、万歳!!」
「はらしょー!!」「she is our princess」「we love her」

英語で言ってる奴は、英国生まれのミウに気を使ってるのか。
しかも無駄に発音がうまいな。

おや? マサヤの制服のえりにクラス委員のバッチが……。
まさかあいつ、俺の後任でクラス委員になっていたのか。

「あぁ。あれのこと?」

ミウが目ざとく俺の視線の先を追っていた。

マサヤは、突然近寄ってくるミウに恐れをなし、
直立不動の姿勢になった。いわゆる気を付けの姿勢だ。

「はいはい。みんな静かにして―」

うるさかった教室は一瞬でお通夜会場になった。

「マサヤ君にお願いがあるんだけど」

「は、はいっ。なんでございましょうか」

俺の親友は、ガタガタ震えながらミウの言葉を待っている。
あれだけ雄弁だった男が、ろれつが回ってない。

「太盛君は今年の夏休み明け、罪なき罪によって
 収容所送りになったわけだけど、今は平和に
 クラスに復帰しました。ここまではいい?」

「はいっ」

「彼から一時的にはく奪された全ての名誉を復活させます。
 これは副会長からの正式な命令です。
 つまり太盛君は今この瞬間から、1組のクラスメイトであり、
 クラス委員であり、健全なる一人の生徒となりました」

いかにもボリシェビキが好みそうな言い方だ。
それだけですべてを察したのか、マサヤが自らの
バッジを外し、片膝をついてミウに献上した。

ミウはそれを受けると

「そこの人」

「はっ? 私のことでしょうか?」

近くにいる女子を指さした。
誰かと思ったらエリカじゃないか。

あいつの口調はなんだ? 
元女王でも今はミウに触れ伏す生徒の一人となってるのか。

「ごめん。エリカって名前だったね。忘れてたよ。
 これからあなたに名誉ある任務を与えます。
 太盛君のえりにクラス委員のバッジをつけてあげなさい」

実際にバッジを手渡されたエリカは、屈辱のあまり震えていた。
よく見たら、エリカの胸にバッジがないじゃないか。

エリカのバッジはどこへ行った? ん?
ミウの制服の胸にたくさんバッジがついてるな。
軍隊の偉い人みたいだ。

「太盛様……失礼いたします」

エリカが震える手で俺のエリにバッジを取り付ける。
そんなに難しいことじゃない。裏の安全ピンでとめるだけだ。

俺はエリカの方は気にせず、ミウの制服のバッジだけを見ていた。

『生徒会副会長』『組織委員長』『革命裁判所・裁判官』
『生徒会・中央委員会』『二年一組女子クラス委員』

うちの学校はこんなに役職があったのか。
会社か軍隊みたいな組織だな。 

「私のバッジが気になるの?」

ミウが笑顔で聞いてきた。笑顔の裏が怖い。

さすがにジロジロみすぎたか。
怒らせてないだろうか?

さっきの女子の件でも分かる通り、
ミウは人にジロジロ見られるのが大嫌いのようだ。
中学時代に女子にいじられたのが原因らしい。

俺の緊張が顔に出ていたのか、ミウはこう言った。

「太盛君になら見られても嫌じゃないよ?」

「あ、ありがとう」

思わず礼を言ってしまう。
もっと気の利いた答えを返せばよかったか。

エリカも俺のすぐ近くでこのやり取りを見守っている。
この1組全体の殺伐とした空気の中で
まともな受け答えなどできるわけがない。

「このバッジはね」

ミウが一つ一つのバッジに込められた意味を
教えてくれるが、生徒会の複雑な組織のことなど
口頭で聞いてすぐに理解できるわけがない。

とにかく俺はミウとクラス委員コンビなのは分かった。
エリカからどうやってバッジをはく奪したのかは聞かないよ。

「太盛君は収容所生活が長かったから、
 まだ学校の組織を知らないよね?
 あとで私がゆっくり教えてあげるから」

「うん。よろしく頼むよ」

この衆人環視の中、俺は頭を撫でられていた。
年上のお姉さんならともかく、
同級生の女子に頭を撫でられる人がいるだろうか?

なさけなさと恥ずかしさで叫びたくなるが、
そんなことしたら自殺行為だ。

ふと近くにいるエリカと一瞬だけ視線が合った。
なんともいえない表情だ。
どうにもならない心の葛藤と戦っているようだ。

エリカは一応俺の元彼女だったからな。
ただでさえ嫉妬深いあいつのことだ。

ミウと逆の地位だったら、ミウをすぐに
拷問してやりたいことだろうよ。

「ほらみんな。何黙ってるの?」

今度はミウの声に怒りがこもっている。

「男子のクラス委員が復帰したんだよ?
 盛大に拍手てあげないとダメでしょ?」

みんなが狂ったように手を叩き始めた。
圧倒されるほどの拍手の渦だ。

たった40人の生徒でここまで盛り上がれるものなのか?

「太盛様ぁぁぁ!!」「太盛様の復帰を祝おう!!」
 
「堀太盛様はクラス委員にふさわしい!!」「太盛様万歳!!」

様付けでよばれると、むずかゆいものだ。

俺は正直クラス委員なんてやりたくないが、
ミウの命令なら従うしかない。

ここにいる奴らと同じように、
ミウに服従することでしか
己の身を守ることはできないんだよ。


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