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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第20回   12月28日 朝
12月28日 早朝

〜せまるくん〜

うぅ……。頭がガンガン痛む。体は石のように重い。

まどろみの中でも、昨夜の電気ショックの拷問の
記憶が鮮明によみがえる。
あんな体験、一生忘れられない。

ここは……どこだ?
檻の中なのか。まぶたが開いても視界が開けない。

「せーまるくん♪」

うわああああああああああああああああああ!!

「ちょっと、逃げないで!! 
 起きたばかりなのに急に動いたら危ないよ!!」

その注意をちゃんと聞けばよかったのだろう。
俺はベッドからずり落ちて床へダイブした形になった。
いてえ……。変な方向に腰を打ったのかもしれない。

「まだ寝てていいんだよ? ほら。時計を見て」

朝の5時半……? 確かに早朝だ。
真冬だからまだ日が昇ってないじゃないか。
なのにカーテンは開けられていて、
日の出を待っているようだ。

こんな時間になんで俺は目を覚ましたんだ?

「私の目覚ましが鳴っちゃったんだね。
 平日はいつもこの時間に起きてるから、ごめんね?」

どんだけ早起きなんだよ。
聞くと、ミウは生徒会副会長になってから、
早寝早起きを心掛けているという。

朝早く散歩したり、読書してから優雅に登校しているらしい。
生徒を苦しめる悪魔のくせに、
無駄に規則正しい生活してるじゃねえか。

「キスの前に、歯を磨いておいで?」

俺は言われるがままに洗面台に移動。なぜか
用意されていた俺専用の歯ブラシを手に持つ。

眠いし、だるい。体には鈍い痛みが残る。
機械的に歯磨きを終えてから、ミウの部屋に戻る。
入って気づいたが、ミウの部屋だったのか。

「こっち向いて」

ミウが俺の顔を両手で持ち、自分の方に引き寄せた。
ねっとりした、甘い感触を舌が味わった。
こんな奴にキスされるなんて屈辱で死にたくなるが、
逆らえばまた拷問される。怒りより恐怖の方が勝る。

「寝起きは誰だって口腔が細菌だらけなんだよ。
 だから朝起きたら必ず歯を磨いて。
 そして私とキスして。これは約束だよ?」

「ああ。分かったよミウ」

「うん。じゃあ、もう一回キスしようか?」

こいつはキスするのが趣味なのか?
キチガイの趣味は分からん。
俺の心はとっくにこいつから離れてるのに、
それでもキスしたがる理由が俺には分からない。

「冬休みなんだから、まだ布団で横になろうよ」

されるがままに、俺はミウに続いてベッドで寝ることになった。
腕枕してほしいと言ったので、してあげた。ミウの頭は小顔で、
全然重さを感じない。こうして近くで見ていると、
本当に整った顔立ち。雑誌にでも載れそうな美少女だよ。

「私、太盛君のこと好き」

「俺もだ。俺もミウのこと好き」

「私の方が好きだよ」

「いやいや。俺の方が」

この茶番を5分くらい繰り返すと、ようやく満足してくれた。
俺は何気なしにミウの髪の毛を撫でた。夏はショートだったが、
あれからずいぶん伸びた。今では腰にかかるくらいの
ロングヘアーになった。ナチュラルで茶髪なんだよな。

顔は思いっきり日本人にしか見えないのに、
髪質は外人みたいだ。線が細くて癖がついている。
高いシャンプーを使っているのか、触り心地が良い。

「太盛君に髪の毛触られるの、好き。
 私の髪に触れていいのは、
 太盛君だけなんだからね?」

「おう」

俺がこいつの機嫌を取るのは、拷問が怖いだけだ。
本当にできるなら、今すぐ首を絞めてやりたい。
そのくらい憎むのは当然だろう?
昨夜あれだけのことをされたんだ。

「私と初めて話をした時のこと、覚えてる?」

「俺が教室で君に話しかけたんだよな」

「そう。私はこの家までの帰り道が分からなかった」

「記憶喪失だったんだよな」

俺が少しだけ侮蔑を込めて言うと、
ミウがわずかな殺気を放った。俺の全身に鳥肌が立つ。
軽い冗談でも本気で殺されかねない。
もっと言葉を慎重に選ばないと。

「信じてないでしょ?」

「俺は君がぼけているだけだと思った。
 でも記憶喪失は本当なんだろうな。
 俺のこと様付けで読んだり、
 エリカのことを奥様って呼んだりさ」

「覚えてたんだね」

「そりゃあな。君が真剣に困ってるようだったから、
 俺は心配したんだよ。あの時から俺は
 君のことを大切に思っていたからだ」

すると、ミウが明らかにうれしそうな顔をした。
こいつはテンションの上がり下がりが激しい。
それにすぐに顔に出す癖がある。

内面を隠すのが上手なマリーやエリカとは違い、素直だ。
……そうだ。マリエの名前だけは死んでも
口に出さないように気を付けないと。

俺はベッドの上で小一時間ほど
命がけの雑談をしていた。
そろそろ朝ごはんの時間らしいので、
リビング兼ダイニングへと移動。

「おはよう。太盛君。昨日はよく眠れた?」

「はい。とっても」

と答えるしかないだろう。このクソババアが。
できるならこいつの腹わたを裂いてやりたい。

ダイニングには、当たり前だが食事用の
大きなテーブルが置いてある。煮物、焼き魚、
豆、漬物、ノリなど、朝ごはんにしては品目が多く、
すでにテーブルは手狭になってる。

夕飯でもないのにこんなに皿数使うのかよ。
しかも皿ごとに盛られた量は少ないじゃないか。

初めから大皿にまとめて盛ればいいものを、
いちいち小皿に分けるなんて無駄だと思う。
洗い物がめんどくさそうだ。

「太盛君は、飲み物は日本茶が良いかしら?」

「暖かい牛乳をもらえますか? カコさん」

ババアは、マグカップに注いだ牛乳をレンジに入れた。
俺を振り返って一言。

「その呼び方は良くないわ」

「はい?」

娘がしたのと同じように殺気を放ってる。
なんて目つきしをやがる。
肌全体がぴりぴりした感触がする。

「私のことはお母さんと呼びなさい」

義理のって意味だよな? 
音だけだとニュアンスまで伝わらない。
クソが。俺がミウの婚約者みたいな扱いじゃねえか。
逆らうのは不可能なので仕方ない。

俺はマグカップを手渡されて一言。

「ありがとう。お母さん」

「うふふ。どういたしまして」

クソ憎たらしい笑みだ。くたばれよ。
俺の隣にはミウが座る。

俺らの向かい側にバアさんが座る。
おっといけない。心の中で思ってることが
うっかり口に出てしまうかもしれない。
これは三号室時代から気を付けていたことだ。

心の中ではママさんと呼ぼう。

「太盛君の家はコックさんを雇っていたんでしょう?
 普通の家庭料理だからお口にあえばいいけど」

普通にうまい。特段に良いわけでもなく、
何も問題がない。健康に気を使った良いメニューだ。

「お世辞じゃなさそうね。良かったわ」

本当にうれしそうな顔で言う。
俺は料理に世辞を言わないと言っただろうが。
(実際に口にはしてないが)

「太盛君と朝ごはん、うれしいな♪」

俺の隣のキチガイも喜んでやがる。
俺も喜んだ顔をしないといけないのが辛い。
演技するのってけっこう疲れるんだぞ?

適当に雑談を挟みながらの食事が終わった。
極度の緊張とストレスで味なんてわからなかったよ。

「用事があるから」と言ってママさんは外出した。
 何の用事だ? フォーマルな格好をしていたから
 どうせ共産主義系の集会なんだろうが。
 そういう施設が火事で燃えることを祈っているぜ。

「太盛君と2人っきりだぁ♪」

「あはは……」

乾いた笑い声。
ミウが洗い物を済ませている間、
俺はリビングのソファで横になった。
頭の下に置いたクッションが心地良い。

高いクッションなのか。
この感触だけは癖になりそうだ。

俺は特に何も考えることもなく、天井を見つめていた。
一番考えたいのはマリーのことなんだが。
感傷に浸ると、またミウに怒らせてしまう。

ミウはずいぶん時間をかけて洗い物をしている。
水道から水が出る音と、カチャカチャと
皿のこすれる音が聞こえてくる。

この家は食洗器がないのか。金持ちだから
ビルトインの食洗器があるのかと思ってたよ。

ミウがこちらを振り向いて言った。

「2人きりで過ごしていると、
 ちょっと同棲してる気分にならない?」

「そうだね」

「私たちは婚約してるんだよね?」

「そ、そうだね」

なんだそのふざけた事実は? 
脅迫されて婚約をするなんて中世の貴族か何か?

「さっきから顔が引きつってるけど、
 太盛君は私といるのがうれしくなさそうだね」

洗い物が終わった。濡れた手を布巾で
ふいたミウが、俺の方に近づいてきた。
く、来るな……。俺は緊張のあまり反射的に体を起こした。

「昨夜は」

ミウは真顔だ。

「太盛君が反省してくれたから、気絶してる間に
 私の部屋のベッドに移動させてあげたの。
 別に後遺症とか残ってるわけじゃないんだから、
 きつめのお仕置きをしたってことで納得してくれるよね?」

俺は、何も答えられない。
それは口にできないという意味。
心は凄まじい葛藤と戦っていた。

後遺症と言うなら、すでに心に深い傷を負った。
今後の人生で一生忘れられない負の遺産となった。
電気拷問することが『お仕置き』の範囲に入るのか?

俺の目の前にいる女はキチガイだ。完全に狂っている。

「愛を誓ってよ」
   
は? 

「いつも私の方からキスしてるよ。
 太盛君からはしてくれないの?
 地下室にいた時は必死だったじゃない。
 あの時みたいにしてよ」

「分かったよ」

両手を伸ばし、ミウの手を握った。
しっかりと手がつながれている状態で、顔を近づけた。
鼻がぶつからないように俺が少し顔を傾けて、
くちびるを奪った。

「そうだよ。それでいいの」

こんな形だけの行為に何の意味がある?
俺が一番恐れているのは、ミウがこれ以上のことを
望んでくることだ。ババ…ママさんが
いないこの状況なら、十分に考えられることだ。

「ソファに横になって」

俺は言う通りにした。
ミウは俺に覆いかぶさって甘えてきた。
また俺の顔を両手で持ってキスを迫る。

しつこい女だ。何回キスしたら気が済むんだ。
クソ……。こんな奴相手なのに、
顔だけは極上の美人だから
男の部分が反応してしまうのが悲しい。

胸が当たってるんだよ。
密着しているので奴のブラジャーの形が想像できてしまう。
絡められた足の感触。ミウの太ももに手を触れたくなる。

聖書に書いてある通り。
主はこうやって子孫を残す術を人類に与えたのだ。

俺は……バカだ。自然とこんなことが口から出てしまう。

「少しだけ触ってもいいか?」

「いいよ」

ミウは俺に体重を預けている。
俺の手が、ミウの頭から背中、お尻へとすべっていく。

やっぱりエリカよりはきゃしゃな体だ。
ミウの方が小柄だからな。
起伏は激しくない。ごく普通の日本人体型だと思う。

男の本性が暴走しそうになる。
この女は、俺が求めれば絶対に拒否しないだろう。

俺は昨夜拷問されたばかりだが、今は俺の方が優位。
このソファの上では、こいつは俺の言いなりだ。
ここが狭いなら、部屋のベッドに移動してもいい。

ブラのホックを外し、上着の中に手を差し入れた。
直接触ると、小ぶりだが、
手の平に収まるサイズの胸だった。

「あらあら。二人とも朝から元気なのね」

なに!? 俺とミウは反射的に飛び追き、
急いで距離を取った。
ミウが慌ててブラをつけている。

ママさんは、それはもう楽しそうに、
グリム童話に出て来る魔女の
ような老獪な笑みを浮かべている。

「ママは気にしないから、あなた達の好きなように
 して構わないのよ? 将来夫婦になるんだからね。
 その方が太盛君的にも逃げられなくなるでしょうから」

ただし、避妊だけは絶対にしなさいと言って、
信じられないことにママさんは避妊具を俺たちに寄こしてきた。
おいおい……俺高校二年生なんだけど、こんなものを
間近で見るのは初めてだぞ。

ミウが猛烈に恥ずかしそうな顔をしている。
焼きリンゴみたいに真っ赤じゃねえか。
実の母に見られたんだから、気持ちは分かるけどな。

つーか、ババ…じゃなくてママさんはいつ帰って来たんだ?

「今朝の会議は中止になったのよ。無断欠席した党員が
 いたので、あとで粛清することで全会一致したわ。
 これから秘密警察が家宅捜査をするからね」

無断欠席……? 党員? 共産党員ってことか?

「もしかしたら脱走してるかもしれないから、
 街中で見かけたりしたらすぐ通報してね?」

そもそも街中に行く機会がねえよ。
ミウがこのマンションから
出してくれないだろ。脱走とかを警戒してさ。

「分かったよ。これから太盛君とお出かけしてもいい?」

「別にいいわよ? 遠出するのかしら?
 今日は午前中から雨が降るそうだから傘を持ちなさい」

「その辺をぶらぶらするだけだよ」

「そう。でも傘は持ちなさいね?」

なんでそんなに傘にこだわるんだ?
あとでミウに聞いたら、最近のロンドンの若者は
傘を持つのが時代遅れだとして、雨の中濡れて歩くのが
流行しているらしい。バカじゃねえの。

「ママに見られたの、恥ずかしかったね?」

エレベーターの中でもこいつは手をつないでくる。
決して俺を放そうとしないのは、親愛の情ではなく、
俺の脱走を防止するのが一番の目的だろう。

エレベーターが一階を指し、扉が開く。
いたいた。エントランスの片隅には例の檻。
ここの先に入り口(玄関)があるので
嫌でも通らないといけないのだ。

「お兄ちゃん。太盛さんがいるよ」
「ほんとだ。生きてたのか」

妹さんが俺を指さしてくる。
兄貴は奇跡でも見るような感じで驚いてやがる。
なるほど。俺が電気ショックの拷問のあと、
さらにひどい仕打ちを受けて死んだと思ってたのか。

俺だってびっくりだよ。
命があるだけでもましだと思うべきか。

あの妹、何度見ても可愛いな。
ゆったりした顔で、輪郭が柔らかくて
唇がぷっくりしていて、愛嬌がある。
ああいう顔も好みかも。

「さっきから誰を見てるの?」

やばい。ミウの声に怒気がこもっている。
視線だけでばれたのか?

「顔の綺麗な女は全員死ねばいいんだよ。
 自分でも嫉妬深いのは分かってるんだけどさ、
 性格は簡単には治せないじゃない」

ミウは自分が不細工だから、美人な女が許せないらしい。
こいつは何を言ってるんだ?

いや。嫉妬深いことじゃなくて、ミウが不細工?
良い意味で、鏡で自分の顔を確かめてみろよ。

飯島を初めとしたファンクラブがあるじゃないか。
ブスだったらファンなんて存在しねえよ。

ナツキ会長だっておまえのこと好きだったんだろうが。
会長も女子からは評判の美少年だぞ。
名誉なことじゃねえか。

マリエもエリカもお前の美しさは認めていたぞ。
俺からすれば全員タイプの違う美人なんけどな。

俺が言葉を慎重に選びながら、そのことを伝えると。

「私が本当に綺麗だったら、
 太盛君が他の女に目移りしないはずだよ」

うん。なんていうか、どう返せばいいんだ?
俺が浮気性なのも理由のひとつかもしれないが、
そんなこと言ったらガチで殺される。

「私は斎藤マリエの美しさが羨ましかった。
 太盛君と並んで歩く姿がお似合いなんだもの。
 恋人のようでもあり、兄妹のようにも見えた。
 見方をさらに変えると、親子?」

親子だと? ちょっと無理があるぞ。
俺とマリエは一学年違うだけだ。

「私がずっと前に言ったこと、覚えてる?
 太盛君に娘がいたとしたら、あんな感じの
 可愛い顔した女の子なんだよ。
 太盛君にそっくりで、可愛い子」

記憶をたどると。6月か7月の暑い時期だったか。
俺の家に遊びに来た時にミウがそんなことを言っていたかな?
あの時のミウは変だった。
初対面のはずの後藤さんを知っていた。

「あなたはユーリを捨ててでも、マリンを選ぶんだよ」

ユーリ? 聞いたことのない女性の名前だ。
ミウの知り合いだろうか。だが既視感がある。

それとマリンは誰を指している?
俺は自分でも理由が分からないが、無意識で
マリエのことをマリンと呼んだことがある。

「妻よりも愛人よりも、最後は娘を選ぶ。
 それがあなたの本音なんだよ」

ミウは真顔で俺を見つめている。
この顔のミウは嘘をつかない。
それは経験で分かっている。

この不思議な感覚の正体は、いったいなんだ?
既視感なのか?

この高野ミウという女は何者なんだ?
俺の知らない何を知っているんだ?

こいつの話し方は、まるでこことは違う
『別の世界』が存在することを示唆しているかのようだ。

「目を合わせたらだめだ。目を合わせたら殺される」

檻の中では、本村家の両親がミウにおびえている。
うつむいて、ミウの方を向かないように頑張っている。

兄と妹はよほど仲が良いのか寄り添いあっている。
あの兄妹、なんかおかしいぞ。
普通あの年齢だと仲悪くならないか?

近親相関の匂いがするぞ。檻に収容されたショックで
気が狂ったのだとしたら、まだ分かるが。

ミウは檻に近づいていった。すると本村ファミリーは、
ミウと反対側のスペースに移動し、可能な限り距離を取った。
といっても、檻の中なので動ける範囲が限られているが。

ミウが兄妹に問いかけた。

「君たちは休みの日にお出かけするんでしょ?
 例えばどういう所に行くことが多いの?」

妹は震え、兄も同様だが、なんとか声を絞り出す。

「と、とと、東京に行くことが多いです。
 俺たちは元埼玉県民だったので大宮に行くことも
 ありました。町中でショッピングとかご飯食べたりとか」

「へー。楽しそうだね? ご両親から聞いてるけど、
 毎週日曜は妹さんとお出かけしてたんでしょ?」

「部活とかがなければ、そうですね」

「2人とも、仲良しさんだね?」

「よ、良く言われますよ。あはは」

「ケイスケ君はミホちゃんと付き合ってるんでしょ?」

「は……」

誰だって固まるよな。血のつながった兄妹なんだろう?
顔が似てるし、まさか義理ってわけじゃないだろう。
三歳差らしいが、この年齢の兄妹が付き合っているとしたら
異常だよ。すぐ隣にご両親がいるのにこの質問はえぐい。

「付き合ってるんでしょ?」

念を押すキチガイ。
力でYESと言わせたいだけだろうが。

「お、俺たちは兄妹ですが」

「うん。それは分かるんだけどさ。現に寝る時に
 妹さんに腕枕してあげたり、食べた後に口についた
 汚れを妹さんがふいてあげたりとかさ、もう夫婦だよね?」

「収容される前からこんな感じですので、
別に違和感はないです。他の兄妹と
同じことをしていると自分では思っています」

「他の兄妹は違うよ。思春期ど真ん中の年齢で
 イチャイチャするわけないでしょ。
 それよりケイスケ君は認めないつもりなのかな。
 私は二人が付き合ってると思うんだけど?」

語尾にとげがある。ミウは絶対に自分の主張を
押し通そうとしている。『事実』に仕立て上げようとしている。

ケイスケ君は俺を見て震えていた。
昨夜の電気拷問を思い出したのだろう。

「俺はミホと付き合っています。俺たちは恋人同士です」

「そうそう。初めからそう言えばよかったんだよ?」

ミウが満足そうに微笑み、
ミホさんに檻から出るように命じた。

彼女は訳が分からず、また極度の緊張と不安から
全身が震えている。

「さっきね」

気を付けの姿勢のミホに対し、
横に立ったミウが、彼女の耳へささやいた。

「私の太盛君があなたのこと興味深そうに見ていたの」

「え」

「そういうのムカつくよね? あなたのこと、
 太盛君が見てたんだよ。つきさっきのことだよ?」

「うぐっ……」

ミウは両手で彼女の首を絞めていた。
俺にはどのくらい力を込めているのか分からない。
そっと? それとも殺すほど力を込めて?

やはり殺すつもりはなかったか。
すぐに首絞めを解放すると、ミホさんが軽くせき込んだ。

「ミホちゃん、綺麗だよね? 高校生になったら
 今以上に美人になるんだろうね。うらやましいな」

「ミウさんって……お綺麗じゃないですか。
 私よりもずっと美人だし綺麗ですよ」

「は?」

ミウの声に怒りが宿る。

「何それ? お世辞言ってるつもりなの?」

「そ、そんなつもりはありません!!」

「あなたが綺麗だから、太盛君はあなたのことを見てたんだよ。
 この事実をどう思うの? 私の彼氏があなたのことを
 じろじろ見てたらおかしいじゃない。そう思うよね?」

ミホさんは答えようがないので黙るしかなかった。
ミウは尋問するのが好きなんだな。
暴力だけでなく、言葉でも相手を追い詰める。

「ミホちゃんを拷問してもいい?」

「うぅ……それはいやです……」

恐怖が限界を超えたか。ミホさんは足に力が
入らなくなってしまい、床にぺたんと座りこんだ。

「私は二度とミウ様の彼氏様を見ないと誓います」

「誓ってくれてもさ。私の彼氏があなたのことを
 見ちゃったらだめじゃない」

じゃあ、どうすればいいんだ?

「太盛君。ちょっとこの子を拷問してくれる?」

コンビニに買い物にでも行ってほしい、
みたいな軽いノリだ
俺はビニール傘を手渡された。
まさにコンビニで売ってそうな安い傘だ。

これでミホを殴れと言う。

「太盛君が自分で痛めつければ、
 この子への興味は失われるでしょ?」

檻の中で兄貴が発狂している。
ミホをやるなら俺をやれと繰り返し叫んでいる。

気持ちは分かる。
だが、問題はそこじゃねえ。
俺の良心だ。無抵抗な女子中学生を俺が殴るだと?
当たり前だが、俺はミホさんに何の恨みもない。

むしろ同じ檻に収容された経験から、被害者同士だ。
それに家族の方々も、これから行われる野蛮な行為を
見ることになるんだぞ。

「早くして」

ミウヲ怒らせタら、マた電気イス。
そう思った俺から情け容赦の考えは消えた。

「許せよ!!」 「ああっ!!」

できるだけ傷が残らないように、
見た目だけは大振りで、実際に力は込めないで殴った。
縦に。斜めに。真横から、時に突いて。
ビニール傘が猛威を振るう。

ミホさんはダンゴムシのように丸まってしまう。
マサヤもこんなポーズしてたのを思い出した。
今は全然笑える状態じゃないが。

檻の中でケイスケ君が発狂している。
俺だって好きでこんなことしてるわけじゃねえ。
君もめったなことを口にするとミウに殺されるぞ。

「それ以上妹に手を出してみろ!!
 絶対にお前を殺してやるぞ!!」

いいから黙ってろ。

「いたっ……いたいっ……もう許してください」

ミホさんは頭を抱えて、顔だけは殴られないように
気を付けていた。俺だって顔は狙わないよ。
首から下しか殴ってない。

「手加減したでしょ? そんなんじゃ全然だめだよ」

ミウがそう言って、俺から傘を取り上げた。

ミウは風を切るほどの音を立て、ミホの頭へ振り下ろした。

「ぎゃあああ」

必死で頭部を守るミホの手へヒットする。
指が折れるんじゃないか? 傘がきしむほどの
力で何度も振り降ろしている。

よほどミホの顔が気に入らないのか。
顔をつぶすのが狙いのように、傘を繰り返し振り下ろす。
単調な攻撃だが、ミウの形相の恐ろしさに俺たちは恐怖した。

兄貴でさえ、文句を挟めない。

その攻撃は傘の骨組みが折れるまで続けられた。
ガードしたミホの腕から血が流れている。

「うわあああっ」

ミホは髪をむしるようにつかまれた。
痛いだろうなあれ。女子のいじめでも、
ああいうの実際にあるんだろうな。

「今後。二度と私の彼氏を誘惑しないと誓えるかな?」

「誓いますぅ!! 誓いますから許してください!!
 髪の毛が抜けちゃうよぉおぉぉ!!」

「ならもっと誓いなさい」

「私は誓います!! 二度と太盛様を誘惑しないと!!」

「あなたは魔女だよね。魔女は拷問されて当たり前。
 自分を魔女だと認めますか?」

「その通りです!! 私は魔女です!!」

裁判官と被告人のようなやり取りを繰り返し、
ようやくミホさんは解放された。全身を痛めつけられ、
髪の毛はボサボサ。顔は泣きはらして、色々とひどい。
ぼろ雑巾のようになってしまった。

ミホさんは再び檻の中に放り込まれ、鍵がかけられた。
この鍵は本来なら管理人の所有だが、
高野家にも特別に使用が許可されているらしい。

「そろそろ出かけようか? 傘は一つあれば十分だよね?」

ミウは俺の手を取り、エントランスを後にした。


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