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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第2回   高野ミウ 生徒会副会長 
※ミウの視点

11月の革命記念日が終わり、ナツキ君が会長に選ばれました。
ナツキ君は、会長就任と同時に、組織委員会のトップの座を
私に譲りました。会長との兼任が難しいと判断したためです。
それも当然でしょうね。

私、高野ミウは副会長であり、
組織委員の長としての地位に着きました。

正確には副会長兼組織委員長ね。
漢字ばっかりだと読みにくいわ。
英語みたいに単語の間の空白が欲しい。

私の学園での地位は不動のものとなりました。
おかげでこの学園で私に逆らえる人はいません。

「あぁ……息がくるしい……」
「ミウ様……足が痛いです……」

私は今、学園の廊下を歩いています。
図書館の前ですから、一年生の校舎。

私の持つ手綱の先は、一年生の女の子二人の
首へつながっています。二人は犬の真似をして
床に両手両足をついて歩いています。
なぜこんなことをしてるのかって? 

私が命じたからです。
彼女たちは罪人だから、どうしようと私の勝手でしょ?

「ちゃんと前を向いて歩きなさい」

握りしめたムチを振ると、風を切る音が聞こえます。

「ぐあああああああ」「ぎゃああああああ」

女の子たちは裸ということもあり、その痛みは
相当なものでしょう。両手には手錠。
なんと手錠をつけた状態でハイハイしているのです。

普通の人なら姿勢を維持できないでしょう。
だから当然、よつんばいの姿勢を崩したり、転んだりします。

そうすると、私のムチが飛ぶの。

「ぎゃあああああ!!」

彼女たちに私のムチの攻撃を防ぐ手はありません。

この悲鳴。最高。もっと泣きなさい。さあ。もっと。

「動きを止めちゃだめだよ?
 あなたも早く歩かないとお仕置きするからね」

「ひぅ」

その子は鞭が怖いので急いでハイハイを始めます。
私はそれが面白くって、わざと手綱を手前に引いてやります。

「うぅ」

首に圧迫感があって苦しいのでしょう。
後ろに押し戻される圧力でバランスを崩しました。

床にべったりと体をつけ、
ハイハイの姿勢ではありません。

「ちゃんと犬の真似しないとだめでしょ?」

「ぎゃああああああああああぁぁ。
 いたいよおおおぉお」

皮膚が向け、血で濡れている背中や肩にかけて
ムチを食らわせてあげました。ムチを振るうのって
意外と練習が必要だけど、慣れると簡単ね。

最低限の労力で最高の音楽が楽しめるわ。

「ミウ様ぁ……お許し下さい……ミウ様ぁ……」

片方の子が、私の足にしがみついて懇願している。
その顔。見てるだけでワクワクしちゃうよ。

私はこの子たちを許すつもりは全くない。
だってこの子達は一年生の進学クラス。
爆破テロを計画してた子達だもの。

一年生の進学クラスの子たちは収容所送りにした。
私は暇さえあれば一年生の収容所を見回って、
こうして囚人を適当に呼び出して遊んでいるの。

爆破テロで私たちを殺そうとしていたなんて、
思い出すだけでも腹が立つな。

「あなたたち、外はいい天気ね?
 たまには外で遊んできなさい」

「え……」

驚いた顔をして廊下の外を見ているわ。
快晴だけど、11月下旬の空模様。
風は吹いているし、暖房の効いた屋内とは別世界でしょうね。

「ミウ様ぁ……」

私は校庭の一角に椅子を用意して、その子達を座らせたの。
逃げられないように、後ろ手に手錠。
足は椅子のパイプ(四歩足のこと)にロープで固定して。

「さ、寒い……」「凍えてしまいますわ!!」

ますわ、って上品なしゃべり方ね。
あの憎き斎藤マリエを思い出すじゃない。
育ちの良さは隠せないっていうけど本当ね。
一年にもお嬢様ってやっぱりいるんだ。

「じゃ、私行くから。しばらくそのままでいなさい。
 夕方までには解放してあげるから」

「そ、そんな殺生な……」「お許しください、ミウ様ぁ……!!」

今朝の9時半ね。夕方まで何時間あるのかしら。
せめてトイレに行かせてくださいと
お嬢様キャラが文句を言っているわ。

バカじゃないの。囚人のくせに。

「トイレならその状態ですればいいじゃない。
 ちょうど裸なんだし」

あはは。絶望した顔してる。
こういう顔が見たくて学校に来てるんだよね。

私を副会長にしてくれたナツキ君には
ちゃんとバレンタインのチョコあげないとね。
もちろん義理だけど、手作りだよ。



「ごきげんよう」

「これはこれは、生徒会・副会長殿が
 わざわざお越しとは恐縮ですな」

私は校長室を訪れました。校長のハゲ面は少しも変わってない。
偉そうな態度も、先生たちから『あだ名』で公認会計士って
呼ばれていたことも。部屋の様子も全てが変わってない。

「話が長くなるようでしたら、
 お茶でもいかがですかな?」

「手短に言うね。
 これから収容所三号室の堀太盛君を解放する」

「彼を解放……ですか?」

「ナツキ会長には許可を取ってあるから」

校長は頭をぽりぽりとかいてる。
気持ち悪いけど、何か考えがある時の仕草ね。

「そういう問題ではありませんな。
 堀君の収容はアキラ君が決定したことですから、
 校長である私の所感ではありません」

「あなたが表向きは学園のトップでしょ?」

「トップと言うなら理事長殿ですが、あの方はご多忙なので
 確かに私が実質的なトップになりますな」

「うん。だからあなたに一応許可を取っておこうと思ってさ。
 あとで文句とか言われても腹立つし」

「本気で彼を解放するつもりですかな?」

「ん?」

「アキラ君の怒りに触れることになると、
 あなたの身の安全は保障できませんな。
 アキラ君の決定に逆らうものは反革命容疑だと
 校則にはっきりと書かれておりますが」

得意げに話す校長。知識自慢をしているみたい。

「同士・副会長殿はもう少し冷静に物事を考えるくせを
 身につけたほうがよさそうだ」

「ことを起こす前に、まず慎重にならねばなりません。
 一度会議でも開いてから収容所の解放を検討するべきでしょう。
 仮に中央委員が賛成しても、アキラ君の同意を
 得なければ難しいでしょうが」

校長は役員会議中もこんな態度でみんなをバカにしていた。
バカにしてるわけじゃなくて、本気で私に警告したかった
だけなのかもしれないけど、私は私に反対する奴が許せない。

「うるさい」

「ふむ……?」

「うるさいって言ってるんだよ。このはげ!!」

「ぐぬぅ」

奴のむなぐらをつかんで怒鳴り散らしてやったわ。

校長は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いている。
かつて私がこの部屋に来た時は、
私のお願いは聞いてもらえなかった。

あの時、私は本気で太盛君を救いたかったのに。
ただ愛する人を救いたいだけだったのに。

そんな私を鼻で笑った。

だから許せない。いっそ殺す。殺してやる。

「みんな。入って来なさい」

扉に向かって命じると、私のファンクラブの人達が入って来た。
彼らは武装して常に私の周りを警護させているの。

ファンクラブは一番少ない時で6人まで減ったけど、
今ここに20人はいるわ。
その人たちは心から私に忠誠を誓ってくれる。
身内(執行部)さえ油断できない昨今では、
能動的に私を守ってくれるファンの人達は貴重だよ。

「ごふぅ……この私に、こんな真似をしたらっ……がああっ」

校長はこん棒でめちゃくちゃになぐられ、椅子に縛り付けられた。
口をガムテープで固定されて、何も話せなくなってる。
悔しそうな顔で私を睨んでるけど、その顔すら私にはご褒美だよ。

私は部下(ファン)から金属バッドを受け取った。
そして、力の込め具合も分からないのにフルスイング。

「ごおおぅ」

校長の顔に当たりました。鼻から、どっと血が出ててる、
そんなに強くしたつもりはないのに、
校長の目から涙がボロボロこぼれている。

「どうしたの。まだまだ終わらないよ?」

私はもっと悲鳴が聞きたくなったので、
あえてガムテープをはがした。
勢いよくはがすと、校長が痛みのあまり短く叫んだ。

歯ぐきから血が出てるみたい。

それ。もう一度フルスイングだ。

「ぶおっ」

歯が、何本か抜け落ちた。いい気味ね。
無抵抗の相手を痛めつけるのって良い気分。夢気分。

だって何回殴ってもいいんだよ?
相手が死ぬまで殴っていいんだよ?
私の気が済むまで痛めつけていいんだよ?

校長は人じゃない。私のおもちゃ。

そーれ。

「があああああああああっ!! あうふぅぅぅぅぅ!!
 ふぅぅう……ふぅぅぅ!!」

そんなに大したことしてないよ?
校長のふとともに、『えんぴつ』をさしてあげたの。 

もちろん鋭利になるように削ったから、勢いよく指したら
肉に刺さるよね? みてみて。校長のズボンに血が広がっていくよ。

どす黒い血の色。
戦場で負傷した兵隊の血も同じ色らしいよ。
どんな絵の具の色よりも綺麗。

「待て、これ以上は本当に死んでしまう……!!」

校長ったらおかしいんだから。
このくらいで人が死ぬわけないでしょ。

私が前に痛めつけた男子は、もっと楽しませてくれたよ。
女子はだいたい拷問の途中で気絶したり、狂ったりするけどね。
私を退屈させる奴はつまらないから、すぐ殺したくなる。

私は、しばらく校長先生で遊んでいた。

抜け落ちた校長の歯がいくつも床に転がっていて、
口から流れ続けた血がYシャツと上着を染めている。
私の手にしたバッドは殴り続けた衝撃でへこんでいる。
バッドの先端にも飛び散った血がついてる。

このクズが何の反応も示さなくなったので、
私は飽きてしまった。

私の制服に着いた返り血を、部下に持って
こさせた濡れタオルでふかせた。

よしよし。私の言うことを聞く子には
良い子良い子してあげよう。

「ミウ様……。ありがたき幸せ」

私に頭を撫でられて、本当に天にも昇りそうな顔をしている。
彼は飯島君。同じ学年で、私のファンクラブの責任者らしいよ。
らしい、というのは、正直ファンクラブにあんまり興味ないから。

でも私に付き従って守ってくれるんだから、大切にしないとね。

「さあみんな。太盛君に会いににくよ」

「!?」

やっぱりね。みんなの顔が引きつった。
強制収容所三号室は、特別な犯罪者が収容されるところだから。
本来なら生徒会の役員でもない彼らが入れる場所じゃない。

アキラさんの許可なく入ったら、
彼らも反生徒会(反革命)容疑で逮捕されかねないもの。

「現会長のナツキ君には許可を取ってるから、
 みんな心配しないで」

私が優しく言ってもみんなの表情が硬い。
分かっていたけど、アキラさんの支配力は今になっても強いんだね。

「私は行きます。ミウ様をどこまでもお守りします」

飯島君だ。さっすが責任者。

「私も同様です」 「ミウ様に仕えるのが我が使命」
「忠誠こそ、わが名誉」 「私も同じ考えです」

他の人達も賛成してくれた。あとで飯島君をもっと
褒めてあげないとね。先導したのは彼だもの。

人間の大半は無能で軟弱ものだから、
組織を引っ張る人がいないと何もできないんだよ。
99%のクズと1%の有能がいるの。

私はそういう人を探したいと思うし、
自分自身がそうであることを望んでいる。

あっ、今のは英語の翻訳っぽかったかな?

「見回りの時間よ。そこをどきなさい」

「はっ!!」

収容所の前の警備兵はすぐに通してくれた。
アキラの権力が健在の割には素直だね。
良かった。彼がもし逆ったら、すぐに拷問してたよ。

部屋にいる三人は、机に座って勉強していたみたい。

茶髪で小柄の松本先輩。男子にしては小さいね。
小倉カナ。私と同じクラスで野球部のマネージャー。
ムカつくけど、こいつ美人だね。

そして…

「やあ太盛君」

「やあ」

私が片手をあげてフランクに挨拶すると、
太盛君が同じく片手をあげて返事をしてくれた。

うれしいよ。

今回は無視されなくて良かった。

「太盛君、表情暗いけど最近体は大丈夫? 
 食欲はある?」

太盛君は、何も答えてくれませんでした。

カナと松本は直立不動の状態なのに、
太盛君だけ椅子に座ったまま。
そんなに力が出ないの?

だったら一緒にお昼食べて元気出そうか。
もうすぐお昼だよ。一緒に生徒会室で食べる?
それとも教室にする?

太盛君はまだ黙っています。

どうして黙ってるの?
私と話したくないの?

こういう態度、正直ムカつくな。

相手が太盛君じゃなかったら、
メリケンサックで口元をぶん殴ってあげるのに。
そうしたら嫌でも叫ぶでしょ? 声を出すでしょ?
歯が折れて口から血をこぼすでしょ?

「太盛君。早く行こうよ。あっ、言い忘れてた。
 今日から太盛君は収容所から解放されるから」

「え」

彼がしゃべった。
たった一言だけど、それでもうれしい♪

「今日から太盛君は一般生徒に戻れるんだよ。
 私の襟(えり)のバッジを見て。私は生徒会副会長になったの。
 私の権限で太盛君は今日から自由になったんだよ?」

正確にはナツキ君の力なんだけどね。
太盛君の前でナツキ君の話はしたくないの。

「お、おれが……かい……ほう……」

太盛君はうれしくなさそう。
カナと松本を何度も見てから、またうつむいてしまった。

何してるのかと思ったら、声を押し殺して泣き始めた。

これから自由になるのに泣く必要ないでしょ?

「ミウさん」

彼は私の名前に『さん』をつけました。
なにその呼び方? 私たち同い年だよね?
おかしいよね。私は太盛君の彼女なのに。

「お願いします。どうかお願いします。
 僕だけでなく、センパイとカナも助けてあげてください」

土下座を始めちゃった。
なにこれ? ふざけてるの?

太盛君のその態度、おかしいよ。

彼女に向って土下座する人っているの?
浮気がばれた時とか? あはは。
そういえばカナさんが浮気相手だったね。

あはは……。

なに? ……その冗談。カナを八つ裂きにしたい。

「太盛君。私はあなたを助けてあげるって言ったの。
 ちゃんと聞こえなかった? 私の声が小さかったかな。
 だとしたらごめんね」

やんわりと言ったつもりなのに、
太盛君の顔が引きつりました。

ガタガタと震え、もう私の顔すら
見れなくなったみたい。

頭を両手でかかえ、床に這いつくばりました。
さっきの土下座のポーズに少し似ています。

「よしよし。君はこんなところで過ごして
 考え方が卑屈になったんだね。
 嘘じゃなくて本当に太盛君は自由になれるよ?」

私は飯島君にしてあげたように太盛君の頭を撫でました。
それでも太盛君の震えが止まることはありませんでした。

「私がずっとあなたのそばにいてあげる。
 他の人はどうでもいいでしょ?」

太盛君はカナに惚れている。だから私はカナを
ずっとここに閉じ込めるつもりなの。

太盛君は私だけを見ていればいいの。
太盛君は私の彼氏なんだから
そんなの口にするまでもない。当たり前のことでしょ?

私がナツキ君と付き合っていたのは仮だよ。
私には太盛君だけ。
余計な回り道をしたけど、
最後には愛する人の元へ戻ってくるの。

高野ミウは神様が与えてくれた
運命に従って生きているんだよ。

「私のことはミウって呼ぼうか。
 私に様とかを付けたら、少しだけ怒るよ?」

太盛君の震えが大きくなりました。
雨の中ずぶ濡れになった子犬みたいな反応だね。

赤子を叱る程度の怒気を込めただけなのに。
ちょっとショック受けちゃった。
そんなに脅えたら逆に失礼だって思わないの?

「ミウだな……分かった。これからはミウって呼ぶ」

「そうそう。太盛君はお利口さんだね。
 他の馬鹿どもとは違うものね」

また私が彼の頭を撫でようと手を伸ばしたら、
反射的に彼の手で払いのけられてしまったの。

しまった…

と言いたそうな顔で太盛君が絶望してる。

うんうん。確かにすごく失礼だよね。
せっかく彼女が褒めてあげようとしたのに。

太盛君じゃなかったら拷問だよ?
太盛君だから許してあげるんだからね。

私は少しだけ彼を叱るために、大きく息を吸った。
太盛君も悪いと思ったのか、私が怒鳴るよりも前に
私を抱きしめてくれました。

「ごめんねっミウ。ごめんねっ」

なんか誤魔化そうとしてる気がするけど、まあいいや。

「俺には君しかいないのに。そんな当たり前のことすら
 忘れていたなんて、どうかしてたよ。本当にごめん。
 俺は君を困らせるつもりはない。
 こんな俺でよかったら、ずっとそばにいさせてほしい」

胸が熱くなった。女には大好きな人に言ってほしい言葉が
たくさんある。その言葉をもっと早く聞きたかったな。
できれば11月23日の革命記念日の前に。

「それさ。口から出まかせじゃないよね?」

「本当にミウを愛してる。心から愛してる。
 俺にはミウ以外の女性は考えられない。
 ミウがいなかったら俺は生きていけない」

「私のこと愛してるのね?」

「大好きだ!! できれば結婚したい!!」

そこまで言うなら良いか。
廊下まで響くほど大きな声で
言ってくれてありがとう。

「いいよ。許してあげる」

「本当に?」

「私は太盛君には嘘つかないよ」

私は彼の顔を引き寄せて、くちびるを奪いました。
太盛君の顔、好き。童顔の女性顔。
子供っぽいところがたくさんあって、
でも時に頼りがいがあって男らしさもあって。

太盛君は母親似でお母さんも綺麗な人なんだろうな。

あはは。楽しかった。

私は太盛君と手をつないで収容所を出た。
私達がキスしてる時にカナはどんな顔してたのかな。

太盛君の元彼女。モトカノか。
思い出したらムカついてきた。
暇な時にあの女をおもちゃにしてあげよう。


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