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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第19回   12月27日 夜から深夜へかけて
〜せまるくんの独白〜

ミウ。おまえはなんて冷たい女なんだ。
俺をこんなところに放置しやがって。

あのお母さんも何考えてやがるんだ。

俺がそんなに悪いことしたのか?

ただ湯船につかりながらマリエとの思い出に
ひたっていただけじゃないか。
ミウも俺と一緒にマリエの失語症を心配して
毎日お見舞いに行ってたの忘れたのかよ。

どうしたらマリーに対してそこまで冷酷になれるんだ。

ちくしょう……。

「君。さっきから騒ぎ過ぎだよ……
 夜遅い時間に非常識だと思わないか?」

本村家のお父さんに注意されてるんだが、
そんなの知ったことか!!
こちとら意味不明な理由で檻に入れられたんだぞ!!

「本当に静かにして頂戴。私たち家族だって
 好きで収容されたわけじゃないんだから」

この奥さん、気のせいかミウの母にそっくりだぞ?
しゃべりかたとか雰囲気とか、瓜二つすぎて吹くわ。

「あんたらも大人しく閉じ込められてないで
 抵抗とかしろよ!!」

「口ではなんとでも言えるのものだ。
 抵抗したら拷問されるのが目に見えている。
 君はボリシェビキの恐ろしさが分かってないのだ」

「よーく分かってるよ!! こちとら学園が
 生徒会によって支配されてるんだ!!
 高野ミウは生徒会副会長だぞ!!
 だからなんだってんだ!!」

俺が怒鳴り散らしてると、娘さんが俺を睨んできた。
美人の娘だが、怒ると怖そうだな。

「怒るのは分かりますけど、そんなことしたって
 どうにもなりませんよ。夜だから静かにして」

「……君は何でここに収容されたんだ?」

「連帯責任です」

「まさか家族全員が連帯責任で?」

「そうです。お父さんが職場の人に共産主義が
 間違ってるって話をしたらしくて、マンションに帰ってから
 逮捕されました。その後、私達も檻に入れられました」

まったくうちの学園と同じ流れすぎて泣きそうになる。

「そういうあんたは、なんでここに?」

男の子の方が俺に聞いてきた。
さっき年が俺と同じくらいとか話が聞こえて来たな。

「俺が高野ミウ以外の女を愛してしまったからだ」

「ミウってのは、さっきいた女の人かい?
 なんでそんな理由で逮捕されてるんだ」

「俺が一番聞きたいよ!!」

俺は拳を鉄格子に放つが、痛いだけだ。
まじで骨が折れそうなくらい痛い。
しょせん人間の力じゃ鉄には勝てないな。

俺はまだ怒りが静まらない。

今何時だ? どうでもいい。
明日でもミウと話す機会があったら、
思いつく限りの文句を言ってやる。

そんなことを考えていたら、エントランスから
誰かが歩いてきた。女性の方だ。年は30代の半ばだろうか。

スーツ姿で髪が長くてハイヒール。
横田リエみたいにエリートっぽい雰囲気。いわゆる
キャリアウーマンだろうか。なんとなく独身っぽい。

その人は。通り過ぎる際に俺たちに視線を寄こした。
新しい囚人である俺を見たのもほんの少しだけ。

すぐに興味をなくしてエレベーターを呼び出した。
俺は助けてくれるように叫びたかったが、人見知りなので
声をかけられない。

「すみません」「いいえ」

エレベーターから、入れ替わりでミウが出て来た。
あいつ、気やがったか!!

「おーい。せまるくーん。げんきー?」

「あい ふぃーる ばっど!!」

「あはははは。機嫌悪いのは知ってたけどね♪」

鉄格子の手前まで着て、ミウは勝ち誇った笑みを浮かべている。
本村家の人達は、ミウに背中を向けて黙っている。
逆らいたくないし、関わりたくもないのだろう。
確かにそれが一番懸命だ。だが俺は逃げたりしないぞ。

「嘘つきの太盛君にはお仕置きが必要だものね」

「今のお前は、昔のエリカと全く同じだ!!
 俺を束縛して無理やり振り向かせようとしても
 無駄だってことに気付けよ!! 井上マリカさんに
 説教されたこと忘れたのか!!」

「マリカ……? ああ、あの6号室の囚人のことね。
 そんな女もいたよねぇ。なつかしい」

「俺を今すぐ出してくれれば許してやる!!」

「出したらお仕置きにならないから駄目だよ」

「あークソ。学校の外でも収容されるとは
 思ってなかった。この畜生が!!
 人の自由を奪うのがそんなに楽しいのか!!」

「太盛君の怒ってる姿を見るのは少し楽しいかも。
 私をこんな気持ちにさせてくれるのは太盛君だけだよ」

「死ねよ!!」

「あはは。怒ってる怒ってる」

ミウは警棒を手にしている。何をする気だ?

「そこの人」

「え?」

なんだ? 本村家の娘さんを見たぞ。
娘さんは、鉄格子越しに警棒を受け取った。

「それで太盛君を殴ってくれるかな?」

「はい……?」

「聞こえなかった? 確か、名前はミホさんで
 あってるよね? これは私からの命令です。
 太盛君を警棒で殴りなさい」

ミホさん。固まった。それはそうだろうな。
ミホさんの兄貴や両親も茫然としているよ。

「セマルさんって人、ごめんなさい!!」

この女……!! 遠慮なしに警棒を振りかぶりやがった。

ぐ……。肩に当たった。
一撃だけでこんなに痛いのかよ。

「一度じゃ足りないよ。もっと殴って」

「はい!!」

ミホは俺の胸を突いたり、滅茶苦茶に振り回すなどして
攻撃を続けた。俺は抵抗する間もなく、一方的に
なぶられるまま。いっそ抵抗してもよかったが、
この子も鬼畜女の命令でやってるだけだからな。

それにこの子の家族が目の前にいるんだ。
俺に出来ることは何もない。

「この……くそやろう……」

俺は患部を押さえてうずくまるのみ。
肌がすり切れて腕から血が出てる。
せめて止血くらいさせてくれよ。

ミホさんが涙ぐみながら、何度も謝罪の言葉を口にする。
兄貴も申し訳なさそうな顔をしている。
母親は顔を両手で覆っており、父親がそれをなぐさめている。

「どう太盛君? これでもまだ
 私に口答えする気になるかな?」

「ああ。いくらでも言ってやるよ。
 俺は斎藤マリエのことが結婚したいくらい好きだ。
 この世で一番愛してる。そしておまえのことは
 反吐が出るくらい大嫌いだ」

さすがのミウも表情を失った。
やりすぎたか?
こいつはマリーのことを本気で嫌ってるみたいだ。

マリエのことを口にするだけで、ぶち切れるほどなのに、
今までよくマリー相手に交渉をしていたものだよ。
それだけミウは俺に嫌われないように必死で
我慢をしていたってことか。

今はその我慢の限界に達し、ついに俺自身への
暴力を解禁したってわけだな。

「太盛君は電気椅子に座ろうか?」

ミウは冗談を言わない。鉄格子の外へ電気椅子が用意された。
管理人室から持ち出したものらしいが、なんでこんな
恐ろしい物が管理人室にあるんだよ。

ついでに管理人も出て来た。予想はしていたが、
いかにも東欧系でのっぺりした顔の白人男性。
ロシア人にしか見えない。

「ひぃ ウィル シットダウン オンディス?」

「Yes. go ahead.」

ミウと英語で確認をし、管理人が俺を檻から出し、
イスに座らせた。手と足はベルト封じられた。
あとは電極のスイッチを押すだけと言うわけか。

「太盛君は私の彼氏だから、本当はこんなこと
 したくない。だから最後にもう一度だけ
 確認させてほしいの」

ミウは、俺の後ろ側から、椅子越しに話している。
俺の耳元でささやく態勢だ。

「君は私のこと、嫌いかな?」
「もちろんだ」
「今なら言い直してもいいんだよ?」
「嫌いだから嫌いと言ったんだ!!」

その次の瞬間、俺は意識が飛びそうになった。

体中を駆け巡る電流の焼けつくような痛みは
経験したことのないものだった。

中学時代から不良にバッドで殴られたりと
痛みへの抵抗はかなりあるほうだと思っていたが、

『痛みの次元が違う』

できれば気絶したかったが、すぐに続けて電流が
襲ってきて、文字通り目の前が白黒して、
どうやってもこの苦痛から逃げることができない。

「今ので10秒だよ?」

たったの……10秒?
俺には10分くらいに感じられたぞ?

「太盛君、私のこと嫌いとか、そういう失礼なこと
 たくさん言ってくれたよね? ショックだったなぁ。
 マリエのことは二度と口にしてほしくなかったな」

俺は、また電流を流される恐怖でそれどころではない。

「こういう道具もあるんだよ?」

電気棒だった。
厚手のゴム手袋をしたミウは、
俺の太ももにそれを当て、スイッチを押した。

「ぐああああ……」

足から全身へと電流が伝う。
俺は馬鹿みたいに首を上下させ、
うめき続けるしかなかった。

だめだ……。骨ごと焼き尽くされるように熱い。
神経が焼かれるような痛みだ……。
呼吸も出来ない。目の前が真っ暗なのに意識だけが続く。

痛い熱い痛い熱い。

いつまで続くんだよこれ。

こんなに辛いなら、
生まれてこなければよかった。

誰でもいい。助けてくれ。
母さん。マリエ。エリカ。助けてくれ。

「うふふふ。今のは20秒。電圧はさっきよりも
 弱いけど、長い時間のほうが辛く感じるでしょ?」

なんて醜い笑みだ。
こいつは、悪魔に魂を売っている。

「太盛君の低い叫び声、大好き。
 バッハのオルガン曲より
 美しくて私を興奮させてくれるの」

ミウはさらに笑いながら、
「もっとやってあげようか?」と言った。

俺は、もうミウに逆らうつもりはなかった。

ふと檻の中を見ると、本村家の家族は恐怖のあまり
全員涙を流していた。イスラム教徒が礼拝する時みたいな
姿勢で床に顔をこすりつけて泣いている。

「太盛君は私のことを愛してるならやめてあげる」

「あ、 ああ……あ、」

くそ。ろれつが回らない。

「なあに? あ、のあとに何が言いたいのかな?
 日本語の母音が発音しにくいなら、
 英語でもロシア語でもいいよ?」

「あい」

「うん?」

「あい、らぶ ゆう」

「Wow. You leve me?」

「い……。えす」

「You may say that hundred times」

同じことを百回言えだと? 
バカげてるが、逆らうわけにはいかない。

「I love you」

「Go on?」

「I love you. you are my girl. you are my one.
 I love you. l really love you miu」

こんな茶番をさせられてるが、電流に比べたら
文字通り百倍ましだ。体は痙攣してるし、舌も良く回らない。

ミウは俺の膝の上にまたがり、俺にキスしてくれた。
俺は愛想笑いもすることもできず、目の前の女に
恐怖するだけだ。この女は日本語より英語のほうが
気持ちが伝わるんだったな。

こいつの影響で英語を話す奴は大嫌いになってしまったよ。
もし自由になったら二度と自分から英語を話すものか。
学校の英語の授業もボイコットしたいくらいだ。

「素直になってくれてよかった」

ミウが俺の手足の校則を解いてくれたまでは覚えている。
俺は安心したからか、急に眠気が襲ってきて、
その後のことは良く覚えていない。


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