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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第18回   12月27日 夜
12月27日 夜

〜ミウ・タカノの語り〜

「もうこんな時間か」

私はベッドサイドにある目覚まし時計をそっと置いた。
最近六号室の反乱とか、太盛君の三号室のこととか、
斉藤マリエのことで頭を悩ませてた。

学校では副会長の顔をしないといけないから、
余計に気を張っている。家に帰るとその疲れがどっと
出て、こうしてベッドでお昼寝しちゃうの。

お昼寝にしては少し遅い時間だけど。
今の時刻は夜8時前だよ。

ダイニング兼リビングに行く。
うちはご飯を食べるスペースとゆったりくつろげる
スペースに分かれている。

私は冷蔵庫から冷たい水のボトルを出して、コップに注いだ。
一気に飲むと、冷たさのあまり頭が一瞬で冴えてしまう。
本当は暖かいお湯でも飲めばいいんだろうけど、ストレスが
溜まっている時は水が恋しくなる。私は血圧高いからね。

「よ、よう。良く寝れたか?」

リビング部のソファでくつろいでいる太盛君。
クッションを枕代わりにして、足をだらしなく伸ばしている。
はっきりって行儀は良くないけど、
本当に自分の家みたいに過ごしてくれるのがすこしうれしいよ。

「すっきりしたよ。色々な意味でね」

「そ、そうか」

太盛君はずっと読書をしていたみたい。
テレビつければいいのに。そんな気分にならなかったのかな?

「何を読んでるの?」

「ジューコフ元帥って人の回顧録だよ」

ママが私に読むように勧めてくれた本だね。

ゲオルギー・ジューコフは、
ソ連で一番優秀な司令官だったんだよ。

ドイツと日本の二大軍事大国を撃破したことで
スターリンからソ連邦英雄として認められた人。

特に日本軍相手は、モンゴル国境で生起した
『ノモンハン紛争』において、日本軍の侵攻を
食い止めたことが高く評価された。

スターリンは、日本の軍部を異常に恐れていて、
例えばアメリカ海軍がベーリング海(太平洋の上の方)
を通過しての物資輸送を提案したら、
『日本を刺激したら困る』として断ったそうなの。

その功績によって、そのあとの
対ドイツ戦では最高の頭脳として扱われたの。
ドイツ戦と言うのは、第二次大戦の東欧州戦線のこと。
同じ時期に日本は地球の裏側で太平洋戦争をやっていた。

★文章の抜粋

率直にいって我々は、経験をつんだ権威ある共産党、社会主義国家制度、
それに短期間に国民生活の建直しを可能にし、ドイツ帝国主義の
軍事力の破壊のためにかかせない生産物の創造を可能にした
大きな資源と精神力とがなかったなら、
到底敵に打ちかつことはできなかったろう。

「すべてを戦線へ、すべてを勝利のために」というスローガンと
旗印の下に、社会主義的諸民族が固く結びあい、
労働者と農民が結合し、全勤労者、青年、
インテリの結集が行われ、我々の実力は倍加したのである。


ブレジネフ党書記(最高権力者)の演説より

ソ連国民が、大祖国戦争でたてた仕事の上の、
あるいは戦争の上での手柄は、いくらほめても過ぎることはない。

私は、ソ連の兵士にこの本を奉げる。
強力な敵に対する勝利は、彼らの血と汗がもたらしたものだ。
彼らは、死の危険に堂々と直面し、最高の英雄的行為を示した。

ソ連国民のファシスト・ドイツとの闘争における偉大なる勝利は、
ソ連国民が、ただ自分たちの社会主義国家だけを守ったのではない、
という点に特徴がある。 

彼らは、ヨーロッパ国民をファシズムから
守るという世界的な目的のために献身的に戦ったのである。

「ソ連の戦争目的は、社会主義革命を守ることだったようだな。
 なんか普通の国と戦争目的が違うみたいだが」

「社会主義は思想そのものを守らないといけないの。
 そのための闘争だよ。私達生徒会が反対主義者を
 粛清するのも、革命を防衛するため」

「それは好戦的じゃないって意味だよな?」

「そうだよ。私達は極左勢力なんだから
 軍国主義と違って自分から攻めることはまずない。
 大祖国戦争だって、ドイツの方から侵攻してきたでしょ?」

(極左←きょくさ。と読む。もっとも左寄りの思想のこと)

「確かに。この戦争はドイツが明らかに悪いな。
 不可侵条約を無視して奇襲攻撃をかけてる」

ドイツ第三帝国の強さは圧倒的だった。
膨大な航空戦力で大栄帝国を陥落寸前まで追いつめた。

私の生まれ育ったロンドンは集中攻撃されたよ……。
私は燃え盛るロンドンの街並み、がれきの下から
発見された子供や老人を写真で知ってるんだから。
ナチスは絶対に許さない。

ソ連に対しては陸上兵力の8割(300万人以上)を
差し向け、2000万人ものソ連人を殺した。

最終的に米英ソの三か国が同盟し、数に物を言わせて
ドイツを包囲して何年もかけてようやく倒せた。
これが第二次大戦の欧州戦線のお話。

ナチスドイツの強さはナポレオンすら超えてると思うよ。
イギリスも長い歴史の中でもこんなに強い敵と
戦ったことは一度も無いよ……。

ちなみにイギリスは600年間一度も戦争に負けていません
今の王室が生まれて、北アイルランドを含む
グレートブリテン連合王国として
成立してから、敗北を知らない偉大な国なの。

すごいでしょ?
グレートを名乗れる国がイギリス以外にあるのかな?

「ドイツは悪い国だったんだな。近年はシリア難民の
 積極的受け入れとかで良い国のイメージが強いけど」

「良い時もあれば悪い時もあるってことだよ。
 ま、ドイツの場合は本質が悪なんだろうけど。
 この点では悔しいけどエリカに同意しちゃうな」

「そういえばあいつもドイツ嫌いだったな。
 まえ東京に行った時に、ドイツ系の白人に
 声かけられたけど無視したそうだ」

死ぬほど、どうでもいい話をありがとう。
ほんとうはエリカをここに連れてきて拷問したい
くらいに憎んでるんだけどね。

私からエリカの話をしたわけけど、やっぱり
私の前で他の女の話はしてほしくない。

「人と人の関係も同じこと」

「え?」

「人はね。例えば営利目的とか、お金や利権が絡むと平気で 
 人を裏切ったりだましたりするんだよ。
 だから私は絶対に人を信用したりしないの」

革命を守るため。祖国の国土を守るため。ソ連は戦った。
私達生徒会も全く同じことをしてるだけなのよ。
反対主義者と思わしき人を取り締まるのは必要なことなの。

人に自由を与えたら堕落する。
意思表明? 宣誓? 約束? そんなものは
一瞬で簡単に破られる。全く信用できない。

人とは、堕落した生き物。
太盛君だって旧約聖書は読んでるでしょ?
旧約聖書は何百ページもかけて人類の愚かさ、
劣等生が書かれているじゃない。

「も、もうそういう話はあとにしないか。
 ミウも寝てたからまだ夕飯は食べてないよな?
 これから一緒に食べよう」

「いいけど、ママがいないね?」

「サロンに行くって6時過ぎに出て行ったぞ」

「ああ、あの集会に行ったのね。
 たぶん9時過ぎまで帰ってこないよ」

ママが夜で歩くのは、マンションの住民会議か、
市議会の役員の会議のことだよ。ママは優秀な
ボリシェビキだから、市議会にまで顔を出せるの。
普通の主婦なら門前払いだけどね。

ママは(資本主義者が好む)資産運用にすっかり飽きてしまい、
暇さえあれば社会主義系の論文を書いて本部へ送っている。
本部は、栃木県の共産党の本拠地のこと。

あそこに所属できるのは、限られた人だけ。
マルクス・レーニン主義者で、将来国家転覆を狙う人だけ。
日本社会を恨み、日本の資本主義を恨み、憲法、法律を恨み、
この国そのものが気に入らない人の集まり。

私もそのうちの一人だけどね。

「私、料理作れないんだけど」

「俺もだよ。家じゃ後藤さんに作ってもらってるからな」

「後藤さんの料理美味しいよね」

「は……?」

なんで私がコックの味を知ってるんだって視線だね。
いくら太盛君でも、ちょっとうざい。前世の記憶が
あるとか言ってもエミさん以外に信じてくれないだろうし。

「ピザーラでも頼もうか? 
太盛君はピザ嫌いじゃないよね?」

「むしろ好きだけど、どっちかというと、
 食べに行きたい気分だな。
 近所にイタリアン・レストランあるだろ?」

〇イゼのことを言ってるのかな?
一応ママが株主なんだけど。そういう言い方をするってことは、
太盛君はこの家から少しでも離れたい意図があるとしか思えないの。

私がそのことを口にしたら、焦ってるのが面白かった。

「ミウっ、そんなつもりはないんだよっ。ミウッ」

ぎゅっとされた。
なんかさ……。都合の悪いことがあると
私を抱き締めれば済むと思ってない?
確かに太盛君と密着できるとうれしいけど。

「不安にさせちゃってごめんね? 俺はただ、ミウと
 たまには外でデートしたいと思っただけなんだっ。
 ずっと一緒に君といたいと思ってる。嘘じゃないぞ?」

そっと頭を撫でてくれる。太盛君は女の扱いがうまいね。

サイゼって懐かしいな。この世界に飛ぶ前に……
多摩市に住んでた頃……。後藤さんと二人で食べに行った。
私が英語を話して注意されて、私は世間知らずで……。

後藤さんが、転職先がどうとか、ご党首様に解雇されるかも
しれないとか……マリン様が蒙古で行方不明……。
エリカ奥様と太盛様も……北朝鮮の強制収容所……。

ああ……いろんなことがあったな。
嫌なことばかり思い出しちゃったよ。

「私はね!! 君を救いたかっただけなんだよ!!」

「うわああっ」

太盛君が腰を抜かしたけど、構わず続ける。

「こんなこと言っても信じてもらえないだろうけど、
 私は前の世界にいる時から君のことがずっと心配で
 心が死んでしまいそうになりながらも、精一杯生きて来た!! 
 私は何も間違ったことはしてないんだよ!!」

「私は君のお父さんとか、能面の男とか、色々な人に
 運命を託された女なんだよ!! 私のすることは
 全ての運命の導きなの!! 君と私が
 付き合うことも運命なんだから当然でしょ!?」

「なのに途中で邪魔する女とかでてきて、本当に
 イライラした!! カナもエリカもマリエも、みんな
 殺してやりたいのをギリギリのところで我慢してるんだよ!?
 私の我慢強さを褒めてもらいたいくらいだよ!!
 ねえ、どう思うの太盛君!?」

「そ、そうだな。ミウの慈悲の心に感謝するよ」

「なのに太盛君は、私のこと何度もぶったりしたよね!?
 痛かったんだよあれ? ぶたれた日は家に
 帰ってから泣いたんだからね!!」
 
「ごめん……本当にごめん……」

太盛君が私の足にすがり付いて謝っている。
一般生徒みたいな反応だけど、今は突っ込む余裕がない。

「私をぶつなんてひどいじゃない!!
 彼女に手を上げるなんて太盛君、最低だよ!!」

「許してください……」

うなだれて震えている。
怖くて私の顔を見ることもできないみたい。
私に反抗した時とはまるで別人。

「うん。いいよ許す」

「へ?」

「その代わり、次ああいうことしたら、その時は
 本気で怒るからね!? その時はどんな目にあっても
 文句言わせないから!! 覚悟しておいてよ!!」

「はい……ミウ……さま」

「さま、はいらないんだよ!!」

「はいっ!!」

顔を上げた太盛君。よほど怖かったのか。
泣きはらした顔が真っ赤になっている。

こんなに怖がらせるつもりはなかったんだけどな。
前の世界の記憶が蘇ると、つい感情的になっちゃうんだよね。
少し罪悪感がある。

「言いすぎちゃってごめんね?
 お説教はもう終わりにしようか。
 太盛君は私の彼氏だからね」

私が頭を撫でてあげると、太盛君はすっかり良い子になりました。
聞き分けの良い子犬みたいだけど、こんな太盛君も私は好きだよ。

私はボリシェビキだから、『私を好きになってもらう』
ではなくて『私を好きにさせる』ことが目的だから。

私が電話すると、15分もせずにピザーラが届いた。
思っていたより早いね。

「ごちそうさまでした」

どちらともなく言い、食べ終わった箱をごみ袋に入れた。
後藤さんのピザに比べたら味も量も物足りないよね?
太盛君が口にせずとも表情で分かるよ。

「太盛君。先にお風呂入ってきていいよ?」

うちのお風呂はタイマー式で決まった時間に沸くから、
今九時半だからとっくにできてる。

「分かった。俺は長湯するほうだけど、構わないか?」

「全然いいよ。ごゆっくりどうぞ」

お風呂に仕掛けた盗聴器から、
太盛君のすすり泣く声が聞こえて来た。
私はさりげなくテレビを見るふりをしながら、
太盛君の声に耳を傾けた。

『マリエ……マリエ……俺が一番大切に思ってるのは
 おまえだけだ……おまえにもう一度会いたい……。
 こんなクソみたいなマンションで死ぬのだけは嫌だ……』

私の彼はお湯につかりながら、とんでもないことを口にしていました。
私はこの怒りをどこにぶつければいいか分かりません。

いっそガスを解放して太盛君ごと殺してやりたいくらい。
もちろんマリエを拷問した後だけど。

太盛君が入浴後、ドライヤーで髪を乾かした。
彼はのんきな顔でリビングに顔を出した。
私は衝動的に彼の頬を叩いてしまった。

「正直に答えてほしいんだけど、
お風呂で他の女の名前を口にしたでしょ?」

「う……うぅ……うー……」

「うーじゃ分からないよ。日本語か英語でよろしくね。
 私は太盛君にだけは暴力を振るわないって心に決めてたのに、
 私がどれだけ不愉快な思いをしたか伝わったかな?」

「盗聴器が仕掛けられていた……?」

当たり前でしょ? 
マンション全体を盗聴できるようになってるんだよ。
反革命容疑者がいないか監視するためにね。

「どうなの?」

「確かに言いました」

「うん。斎藤のことを言ったんだよね?」

「ああ」

「なんて言ってたか、自分で繰り返してみて」

「お、俺が、一番……大切に思ってるのはマリエだと……」

「それ、おかしいよね?」

私は目の前に座るように指示した。
太盛君は正座して私を見上げる格好になった。

「太盛君、今日の日中に誓ったはずだよね?
 私のことだけを愛してるって。
 もしかして私の聞き間違えだったのかな?」

「確かに言いました。間違いではありません」

「敬語やめてよ。で、どっちが本当の気持ちなの?
 私の前で言ったことと、お風呂場で言ったこと。
 私に嘘ついたとしたら、制裁しないといけないのかな?」

「……俺を殺すか? それとも拷問するか?」

「拷問って程じゃないけど、お仕置きは必要だよね。
 一緒に生活する初日からこれじゃ、
 先が思いやられちゃう」

ちょうどママが帰ってきた。
集会の後、ドラッグストアで買い物をしてきたみたい。
私が急いでママに事情を説明すると、
ニコニコしながら切れていた。

「はい太盛君。これをあげる」

「これは……」

「リポビタンDよ」

なんで栄養剤を……。
太盛君は完全に困惑している。

「早く飲みなさい」

「今は夜なのですが」

「私は飲みなさいと言ったの。
 普通のリポビタンよ。
 毒じゃないから安心しなさい」

太盛君は瓶のふたを開け、飲んだ。
すぐに空になった。

「飲んだら檻に入りなさい」

「はい……?」

太盛君はママに連れて行かれた。
たぶん一階にある檻に入れられたんだと思う。

檻とは、このマンション内に存在する収容所のこと。
住民の中で反革命容疑者が入れられている場所だよ。

エントランスは脱走防止用のトーチカ(重機関銃)が二か所。
壁際にそれぞれ設置されている。それと管理人室の隣に
大きなスペースがあって、そこに鉄製の檻が用意されている。

檻は、拘置所の牢屋をイメージしてくれれば分かりやすいよ。
もしくは、犬とかを入れるケージの巨大版。
鉄格子越しにちゃんと空気は入るし、エントランス自体が
空調完備だから、寒さで凍えることはないよ。

トイレの用意されている。
ただし、監視付きだからプライバシーは全くないけどね。

私は心配だから見に行った。

「あなたたち、今日から新しい住民が入るから、
 仲良く過ごしなさいね?」

ママが言うと、収容者たちがおびえて距離を取るのだった。

現在収容されているのは、このマンションに唯一存在する、
反革命容疑で逮捕された一家。本村(もとむら)さん
という苗字で、家族全員が収容された。

「お兄ちゃん。あの人、同じくらいの年なんじゃない?」

妹さんが、高校生のお兄さんに話しかけてる。
確か女の子はミホさんと言う。
お兄さんの方はケイスケ君。私と同い年だったかな?

両親は檻のすみの方でおとなしくしていて、
なんだか人生を諦めちゃってるみたい。
気の毒だね。もっとも彼らを通報したのは私のママなんだけど。

檻は広々としていて、10人以上が入れるようになってる。
今太盛君を入れて5人だから狭く感じることはないと思うよ。

全員首からプラカードを掲げていて、それには囚人番号と
『私は日本資本主義の手先です』と書かれている。

太盛君だけは『僕は日本のスパイです』と書かれている。
ママ、資本主義が抜けているよ。
太盛君は日本人なのに日本のスパイってどういう意味?

「ミウも遅くならないうちに部屋に戻りなさいね?」

ママはそう言って去っていった。

私は少しだけママに反対したかった。
だって、太盛君を閉じ込めたこの檻に
若い女の子が一人いるじゃない。

このミホちゃんって子、顔がかわいい。
まだ中学二年生でお兄ちゃん好きみたい。
太盛君はマリエのことでロリコンなのが
証明されてるから、手を出したりしないか心配だよ。

「ねえ太盛君。今の気持ちはどう?」

「……俺がどう答えれば君は満足するんだ?」

「少しで良いから、私の心の痛みを
 あなたに分かってほしかったの」

「逆に俺の心の痛みはどうなるんだ?」

「そんなの知らないよ」

時刻は10時の15分前。そろそろお風呂入らないとね。

「待てよ!! 待ってくれ!! まだ話があるんだ」

うん。それは分かるんだけど、
私がお風呂入ってからにしてよ。

「こんな物騒なエントランスの中で……
 檻の中で一人にしないでくれよ。
 一人にされたら不安で死にたくなるぞ!!」

「本村さんたちもいるから、さみしくないでしょ?」

「今始めて会ったばかりの他人じゃないか!!
 お願いだからまだそこにいてくれよ!!
 俺は放置されたりするのが一番苦手なんだ!!
 頼むよおおおお!!」

うふふ。逆切れしながら懇願する姿が可愛い★
私は太盛君をいたぶったりいじめる趣味はなかった
はずなんだけどな。面白いからしばらく放置しようかな。

「私も長湯だから、40分くらい待っててね♪」

「うそだろ……ミウ……ミウ。おまえこそ嘘つきだ。
 俺のこと好きなんだろ? 俺のこと好きなら
 檻の中に放置するじゃねえ。おいミウよおおおお!!」

私は笑い出しそうになるのをこらえながら、エレベーターへ走った。
高野家は4階にあるから、一度上の階へ登ってしまえば、
もう太盛君の声なんて聞こえないよね?

そう思ってたのに。

『うおおおおおおおおおおおおおお!!』

『だせよおおおおおおおおおおおおおおお!!
 ぶおおおおおおおおおおおおおおお!!』

彼の野獣のような低音が、マンション中に響き渡っているよ。
あんまり騒ぐものだから管理人殿が心配して見に来たけど、
ママが説得して事なきを得たみたい。

危ない危ない。うちのマンションは荒っぽい人が多いから、
高野家がマークされたらあとで面倒だからね。

お風呂に入ってさっぱりした。
急いで髪を乾かしたから、少しだけ湿ってるけど、
今は彼がどんな顔してるのか楽しみで仕方ない。

私は急いでエレベーターの中に入り、1階のボタンを押した。
太盛君。早く私を楽しませてね?


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