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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第13回   「太盛先輩の声が聞けた……」
〜斎藤マリエ〜

クリスマス・イブも収容所には関係がない。
私達は24日の午前中に体操をさせられた。

朝ごはんを食べる前に
収容所前の校庭に女子たちが並んで体操をする。
これは日課なの。

雨の日は屋内ですることもあるけど、狭いし、
隣の人とぶつかりそうになるから大変。

この体操は、1960年代にソ連のオフィスや工場で
実施されていたそうよ。詳しくは知らないけどね。
ソ連政府は国民の健康維持、体力促進のために
日本でいうラジオ体操にあたるものをさせていた。

関節を効果的に動かすから疲労回復の
効果もあるらしいけど。強制されている
こっちはやる気がないし、精神的に疲れる。

その場駆け足のあとスクワットをして、
ヨガみたいな床運動をする。

運動の例をあげると

「ベリョスカ」「ボルカ」「コシカ」

これらは楽なほうだね。
床に這いつくばったり寝たりして同じ姿勢を維持したり、
足だけ動かしたりすればいいのだから。

顔のたるみをほぐすマッサージをしたり、
体を左右に振ったりと不思議な踊りをさせられる。

ソ連では子供も大人も関係なく、職場でも家庭でも
その辺の公園でも全ソ連国民に体操を推奨していた。

日本ではラジオ体操。
ソ連では「生産体操」と呼ばれていたそう。

体操の前に「生産」をつける理由が分からないけど。
共産主義とか重工業に関係あるのかな。

「ふぅふぅ」

私の隣の女子は、少し動いただけですぐ息が荒くなる。
太り過ぎだよ。収容所で質素な食事している割には
全然やせない。前髪が長すぎてオタクっぽい感じ。

「こんなの大したことないでしょ?」

と私が言うと、

「体操よりもここにいることが耐えられないの」

恨めしそうな顔でそう言った。

目が血走っていて精神的に
追い詰められているのが分かる。
気持ちは分かるけど、私たちは囚人だから仕方ないよ。

爆破テロが成功していたら生徒会の奴らを
逆に収容所送りにさせられたのに。

「全員、食堂に集合して朝食を取れ」

私たちはぞろぞろと移動した。
きびきび動いている。
そうしないと指導の対象になるかもしれないから。

淡々と食事を済ませた後、
このあとの予定が発表された。

「本日はビデオ鑑賞である」

ああ、バラックごとに、視聴覚室に移動するのね。
よくやるんだよねこれ。ソ連の戦争映画や
共産主義ドキュメンタリーをみせられるの。

視聴後に感想文を書かされる。視聴中は別の
ことを考えてやりすごしても、ある程度の
内容は覚えておかないとあとで困ることになる。 

「斎藤は別室行きだ」

はい?

「ミウ様が面談を希望しておられる。
 会議室まで来なさい」

また会議室か。会議室は食堂のある中央の棟の
二階部分にあるの。入ってみると意外と広いよ。

「あっ、マリエちゃん。おはよー」

気さくに挨拶してくるのはミウ。

あの女、私に気に入られたくて媚(こび)を売ってるみたい。
バッカじゃないの。太盛先輩に嫌われたくないから
こんなことしてるんでしょ。

そんなことしたって私が許すわけないのに。

「マリエちゃんも大人になってそろそろ
 素直になろうよ。マリエちゃんだって私と
 喧嘩してるの嫌でしょ?」

「私は喧嘩してるつもりはありません。
 普通に話しているだけですけど」

「前はそんな話し方じゃなかったじゃない」

「お言葉ですかが、
 ミウ殿も別人のように変わりましたね」

「そう? 自分だとよく分からないね。お互いに」

最後に含みを持たせているのが腹立つな。
「ちょっと待ってて」ミウはそう言って席を立った。

私は会議室で一人ぼっちになった。
40人分の席がある。私以外は空席のみ。
こんな小さな部屋でも一人だとすごく広く感じる

「お待たせ」

奴が戻って来た。早いな。

「これ、マリエちゃんの携帯でしょ。
 私がずっと預かっておいたの。返してあげるよ」

特徴的なストラップとスマホカバーだけで
私のだと分かってしまう。夏休みに太盛先輩と
家電量販店で買ったものだ。

「私は7号室の囚人なのに持っていいのですか」

「特別に許可してあげるよ。
 もちろん今日だけじゃなくて毎日持っていていいよ。
 ただし、脱走目的とかには使ったらダメよ?」

奴の目的が分からない。
なんで私にだけ? 

私に携帯を持たせたら
太盛先輩と連絡するに決まってるのに。
脱走目的じゃなくてもLINEやTwitterとか。
彼と電子上で会話する手段はたくさんある。

……あ、そっか。太盛先輩の連絡先は
消されてるに決まってるか。

「ちゃんと残ってるでしょ?」

私の意図を読み取ったのか、
ミウが得意げに言った。

これで太盛先輩と会話してもいいのですか?
電話は?

「なにしても自由だよ。太盛君もあなたと
 話したがっているみたいだから」

「ずいぶん気前がいいですね。
 疑ってしまってすみませんが、
 何か裏がありそうな気が……」

「ないよ」

断言した。

「あなたに携帯を返したのは私の善意だよ」

生徒会の人間は囚人に施しをするときに
「善意」
と言うことが良くある。これはボリシェビキにとって
裏表なく、親切にするって意味なんだろうね。

「今すぐ先輩に電話をしてもいいですか?
 あなたにとっては嫌かもしれませんが、
 私はずっと先輩と話せなくて…」

「いいよ」

全部言い終わる前に許可された。
なら本当に電話してみよう。

あっ、ボタン押した後に気付いたけど、
先輩は授業中に決まってるか。
時間の感覚がないけどね。今何時なんだろう。

「まさか、マリンか? 本人なんだよな?」

太盛先輩が出てくれた。たまに私のこと
マリンって呼び間違えることがあるけど、
不思議と嫌な感じはしない。

「太盛さん、私です。マリーです」

「マリー。君はどうして電話をかけられるんだ?
 囚人が携帯を持ったら違反だ」

「ミウ殿が許可してくれたのです」

「ミウが……?」

電話越しでも先輩の緊張が伝わってくるよ。

「ミウ殿が私と先輩が話をするのを許可してくれたのです」

「そうか、実は俺もだ」

え?

「俺も今は六号室の囚人なんだが、今日になって
 いきなり携帯の所持が許可された。
 もちろんクラスの奴らには内緒でな」

先輩は授業中に突然廊下に出るように
言われて、そこで携帯を手渡されたみたい。

「先輩も囚人になっていたんですね。
 風のうわさで聞きました」

「俺は今、高圧電流の流れる鉄条網の近くで
 マリーと会話をしている」

どんな状況なの? 
学校の廊下で高圧電流……?
さすがの7号室でもそんな物騒なものないよ。
校庭の周りにバリケードと監視塔はあるけど。

「周りに警備の方もたくさんいる。はっきり言って
 ロマンのかけらもない。だが俺はうれしかった。
 おまえの声が聞けてうれしかったよ。マリエ」

「私もです」

感動のあまり携帯を持つ手が震える。

「私も太盛先輩と会いたくて、会いたくて。
 顔を見たくて話をしたくて……ずっとそう思っていました。
 今は電話だけですけど、早く会って話がしたいです」

「マリー。俺は君のことが好きだ」

「私も好きです。太盛先輩」

バン

突然机を叩く音が聞こえた。
ミウが軽く叩いたのだ。

やばい。先輩と恋人の会話をしたから
携帯を没収されるかもしれない。

奴は私にジェスチャーでスマホを
寄こせと言ってきた。
逆らえないのでしぶしぶ渡す。

「太盛君。マリエと会話できて楽しかったでしょ。
 それで私に何か言うことないの?」

「え?」

「私があなた達に電話することを許可したんだよ?
 収容所の人達が携帯で電話するなんて言語道断。
 携帯を所持したら即反革命容疑。
 地下室行きのところを見逃しているのは誰?」

「それは……ありがとう」

「うんうん」

ミウは大げさにうなずいた。
口元がにやけている。

私にも太盛先輩の声が
聞こえるようにスピーカーフォンにしている。
(通話中の相手の声を外に聞こえるようにする機能)

「もっと言ってくれてもいいんだよ?」

「ありがとうミウ。心から感謝してる」

「うんうん。そうだよね」

どんだけ喜んでるの、このキチガイは。
イスに座ったまま足を前後に動かしている。

「俺は二度とマリーと話せないかと思っていた。
 あの子の声を聞けただけで思わず震えた。
 それほどうれしかった」

よかった。太盛先輩も私と同じ気持ちだったんだね。

「そんなにうれしかったの?」

「ああ。六号室に入ってからこんなに
 うれしいことはなかった。できれば
 今すぐ7号室に行ってマリエに……」

「その前に」

ミウの声のトーンが低くなった。

「私に謝ることがあるよね?」

「えっ」

「何も思い出せないの? 
 私の顔をひっぱたいたりしたでしょ。
 忘れたとは言わせないよ?」

「……すまなかった。
 あの時は俺もカッとなってつい」

「うん」

「ごめん。ミウ」

「本当に悪いと思ってるんだよね?」

「もちろんだよ。すみませんでした」

「うんうん」

ミウがまた足をぷらぷらさせた。
太盛先輩に台本通りのことを言わせるのが目的なのね。
太盛先輩はこんな奴を殴ったことなんて謝る必要ないのに。

「太盛君もこっちにおいでよ」

「7号室にか?」

「うん」

そして彼と会うのを許可された。

最初は私も半信半疑だったけど、
ミウは約束を守ってくれると確信できた。

私とミウは無言で時が過ぎるのを待った。
お互いに自分のスマホをいじっているだけで
顔すら見ない。まさに険悪だよ。

10分ほどして先輩が、
たった一人でこの会議室の扉を開けた。

「マリーか……。ついに会えたな」

太盛先輩が私に向けて駆けだそうとしたけど

「Hold it」

止まれとミウに言われた。
奴が英語を出すときは余裕がない時だ。

「ただで再開させるわけにはいかないよ」

「なに?」

「さっきも言ったけど、二人に会う許可をしたのは私だよ?
 生徒会でこんなに優しい人、他にいるのかな?」

生徒会であんた以上の性悪を探す方が難しいと思うけど。

「心優しい私の顔を太盛君はぶったよね?
 それも一度や二度じゃないよね?」

「す、すみませんでした」

太盛先輩がその場で頭を下げた。
ミウは電話中と同じように口元がにやけた。

「いいよ。そんなにかしこまって謝らなくて。
 私に敬語は使わない約束だったよね?」

「……君が謝るように言ったんじゃないか」

「そうだけど、謝る方法は他にもあるよね?」

奴は右手を伸ばし、太盛君の手を握った。
一瞬だけ太盛先輩が緊張して顔がこわばった。

「屋上の前で私からキスしたの覚えてる?」

「ああ…」

「太盛君からはしてくれないんだ?」

なにその条件? 
得意げな顔でナニ言ってるのこの馬鹿は。

そもそもキスとか、
そういう次元の話になることが意味不明。

私と太盛先輩が両思いなの確認してないの?
耳ついてないの? 

「ここにはマリーがいるんだぞ?」

「それがどうしたの?」

いやいや。あんたの頭がどうしたの?

「太盛君が少しだけ浮気するのは許してあげる。
 女の方から束縛しても男性は逃げていくだけ。
 だから今回は見逃してあげることにしたの」

そのニュアンスは、本命が自分だと
言ってるようなものじゃない。
やっぱりこいつ、イカれている。

「改めて確認してもいいかな。
 太盛君は私の彼氏なんだよね?」

太盛先輩は固まった。

誰だって固まるよね。
権力で交際関係を強制されるなんてパワハラだよ。
それにキスを強要するなんて逆セクハラじゃん。

「どうして黙ってるの? 
 マリエがいるのは気にしないで。
 私は太盛君の本心が聞きたいの」

ミウは震える先輩の肩を触り、なれなれしく
体を寄せている。ダンスでも踊りたいのかしら?
しかもあの女、化粧してるんだ。校則違反じゃないの?

私の太盛先輩に近寄らないでよ。
確かに顔は綺麗だけど、中身は史上最低の悪女じゃない。

「俺が!!」

太盛先輩が歯を食いしばっている。

「ミウを好きだと言わないとダメなんだろ?
 初めから答えが分かってることをいちいち
 聞いてくるなよ。俺はどうせミウの奴隷なんだ。
 俺に自由な意思は許されないんだ。だったら!!」

「その言い方、気に入らない」

ミウの鋭い目が太盛先輩を射抜いた。
それだけで先輩はそれ以上まくし立てるのを
やめてしまった。

本当にミウの目つきはヤバい。
薬でもやってるんじゃないの?

「あんまり私を怒らせないでほしいな。
 太盛君のわがままを聞いて
 あげるのも疲れちゃったよ」

「私も人間だからさ、あんまり太盛君が
 私を困らせるようだったら、
 最後の手段を考えちゃおうかな」

ポタポタと、先輩の涙が床にこぼれ落ちた。
脅されただけで泣くなんて女々しい、
なんて言う気にはならない。

先輩は六号室行きになって色々あったと思う。
どこへ所属を変えてもミウに付きまとわれて
拷問と粛清の恐怖と戦い、今日まで生きてきた。

誰だって泣きたくなるよね。

「先輩……」

あっ、声が出ちゃった。ミウがにらんでくる。
さみしいけど、太盛先輩は私の方を見てこない。

「私は怒ってるわけじゃないの。
 泣くことないでしょ?」

「もうこんな学校嫌だ……。
 家に帰りたい……。転校したい……」

「何言ってるの」

新婚の奥さんが語りかけるような
優しい口調だけど、ミウの顔は全く笑ってない。

「転校は言葉自体が禁句だよ? その言葉を出しただけで
 取り調べの対象になるの分かってるんだよね?」

「……地下室行きでもなんでも好きにしろよ。
 もうこんな学校にいるのが限界だ。
 俺は好きな女の子に好きって言うこともできないのか」

「どうしてそんなにネガティブに考えるのかな。
 私は冷静に話し合いがしたいと思っただけなのに」

「いっそ正直に気持ちを伝えるよ。
 俺は斎藤マリエが好きだ。
 ミウのことは好きじゃない」

「は?」

とだけミウは言って、その後何もしゃべらなくなった。

やめてよこの展開。また修羅場なの?

ミウが私に目線を向けた。横目なのがむかつく。
また私を殴るつもりなのかな?

「太盛君は意外と強情なんだね。私がこれだけ
 太盛君のために尽くしてるのに。私があなたを
 三号室から解放してあげたのに。それでも
 他の女を取ろうとするの? 爆破テロ未遂犯を?」

「そうだよ!!」

太盛先輩が急に吠えた。泣きはらした顔に今度は
怒りがこもっている。情緒不安定なのね。

「マリエが好きで悪いかよ!! 
 誰だって好きな女の子の一人や二人はいるだろうが!! 
 爆破テロ未遂とかそんなの関係ねえよ!! 
 生徒会の奴らはクソの集まりなんだから、
 命狙われるのは当然だろ!! マリエは何も悪くねえ!!」

「マリエを犯罪者みたいに言うのやめろよ!!
 ミウこそ学園中の生徒を服従させて
 好き放題やってるじゃないか!!
 マリエを悪だと言うなら、おまえの方がよっぽど悪だよ!!」

ミウは腕組し、目を閉じて聞いていた。
余裕ぶってるようだけど、
どうせ心の中は穏やかじゃないんでしょ。

ほら。今にも暴れるぞ。

「Now. it is time to do it.」

は……? ネイティブ英語やめろ。
急に言われても聞き取れないよ。

「今がその時だね」

日本語で言い直した。

「これから二人を別の収容所へ移動させます」

「な……」

「うふふふふ。太盛君、驚いているでしょ?
 マリエとは一緒にいさせてあげるから大丈夫だよ」

「どこへ移動になる? まさか二号室じゃないだろうな」

「三号室だよ」

太盛先輩は椅子から転げ落ちるほど驚いていた。
私もそうだけどね。
三号室って太盛先輩が以前収容されていた場所じゃん。

「現時刻を持ち、掘太盛君と斎藤マリエの
 移動を命じます。直ちに三号室へ移動しなさい。
 これは生徒会副会長としての正式な命令です」

私と太盛さんは、警備の人達に付き添われて
三号室のある棟へ向かった。

たしか、職員室がある場所だから
A棟だったかな。もうどこでもいいよ。
太盛先輩とずっと一緒にいられるなら


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