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作品名:『学園生活』改 〜愛と収容所と五人の男女〜 作者:なおちー

第11回   「横田先生も収容されたんですか」
〜堀太盛〜

タイトルの通りだ。
担任の横田リエ先生も『クラスの関係者』なので
6号室に収容されることになった。

彼女は部屋の片隅で体育座り、何事かつぶやいている。
視線が宙を様っており、口からよだれまで垂らしてる。

精神的にかなり危険な状態になったのだろう。
男子のファンが多かった美人だけに、
残念な姿になってしまった。

俺たちが収容されたのは、『旧一年五組』にあたる教室だ。
一年の進学コースは一組から五組まである。

その全てが収容所(六号室)として改装された。

六号室と聞くと一部屋しかないように思えるが、
なんとこの五つのクラスが全て六号室なのだ。
(最大収容人数200余名)

ちなみに俺のマリーは元二組だった←ここ重要★

今回収容された馬鹿どもの中で

『収容所経験』

があるのは俺だけだ。

これがあるかないかは、決定的な違いになる。
なぜなら、1組のアホどもは収容所の勝手を知らないため、
自分たちが即拷問され粛清されるものだと勘違いしている。

「ふうあわあああああああ!! 収容所なんて嫌だよおおお!!」

「もういやああああああああ!! こんな学校辞めたい!!」

などと騒ぎ立て、教室の中を走り回ったり、
どれだけ叩いても割れない超強化ガラスを叩くなど、
無意味な抵抗する男女の姿がみられる。

……バカが。

「貴様ら。さっきから何を騒いでおるのか。
 収容所内でみだりに騒ぐものは指導の対象だぞ!!」

ほらみろ。執行部の方々が警棒を片手に入って来たぞ。
奴らは泣きながら土下座し、許しを請うのだ。

初日だからと大目に見てもらったようだが、考えが甘いんだよ。

「貴様らはクラス単位でこの収容所へ移動してきた
 史上最強の大バカ者たちである。貴様らには
 脱走する権利も我々の命令に逆らう権利もないのだ!」

執行部の……女子?が声を張り上げている。
口調は完全に男だけど日本語になまりがある。
女性のロシア系の人は背が高いんだ。
手足が長く、声もでかくて威圧感がある。

「この収容所ではボリシェビキとしての
 知力体力気力を養うための訓練が行われる!!
 様々なプログラムが考えられているが、
 今日は初日なので比較的軽い訓練と罰を与える!!」

罰とは……収容されたこと自体が罪という意味だ。

「全員に50分間の正座を命じる!!」 

これは俺が三号室にいる時に毎日やってたよ。
なんで正座なのかは、いまだにわからん。

「一時間目の間はその姿勢を維持しろ!!
 途中で姿勢を崩したり、
 居眠りした物には体罰を与える!!」

俺は自分のイスを部屋の後ろに片付けて正座を始めた。
教室は40人もいるので手狭だが、どこでもいいから
空いてる場所に座ればいいんだよ。ただし床の上にな。

「よっこらしょ」

俺はじいさんくさい動作で腰を下ろした。

「太盛様。失礼しますわ」

するとエリカがすぐに真似をして俺の隣に座った。
密着してるが……執行部員さんはつっこまないのな。
ならいいや。なぜだかエリカがいると安心する。

他の奴らも同じように正座を始めた。
なんと40人近い人数が一斉に正座を始めたのだから
異常な光景だ。例えば掃除の時間に椅子と机を
片したあの状態でやってるわけだからな。

「エリカ。俺は慣れてるからいいけど。
 お前はつらくないのか?」

「私の母方の家の関係で日本の文化には
 慣れ親しんでいます。華道、茶道の経験がありますから、
 正座は朝飯前といったところです」

さすがエリカは強いな。

「俺は君の気持ちがうれしかった。俺と一緒に
 収容所に入ると言ってくれたこと、忘れないよ」

「そんなふうに思っていただけると、私もうれしいですわ。
 私はどこまでも太盛君に着いて行くから安心してください」

ここまでくると俺の奥さんだな。
彼女ポジションをスルーして
婚約を結ぼうとするほどの猛者だからな。

「たとえこの先どんな辛い目にあっても、
 二人で乗り切っていきましょう。
 私が微力ながら太盛様を支えますわ」

ムラムラしてきた。
無性にエリカを抱きたくなったが我慢だ。
そのカナが言ってたのと同じ文句に俺は弱いんだよ。

閑話休題。

実はこのクラスは定員割れしている。

まずカナはもはや説明不要だな。

他に生徒会を「北朝鮮」呼ばわりした田中。
ミウを倒すために「クラスを扇動」した柿原。

この男子二人はすでに2号室に送られている。
あの絶滅収容所に。その後、彼らがどうなったか。
確かなことは分からないが、
風のうわさで粛清されたと聞いている。

(今のはエリカから聞いた話だ)

そしてこの6号室は、つい最近反乱が起き(何組かは知らん)、
その反省から、保安委員会からミウの管理下へ変わった。

『6号室は高野ミウが管理している』

この事実は、1組の奴らを絶望させた。

「あは、あは…あはは……はぁー。楽しいなぁ」

こいつは将来を悲観して狂ってしまった男子だ。

今は正座で許されている。だが遅かれ早かれ自分たちは
拷問、制裁、粛清される対象。もはや人ではなく、生徒会の
ストレス解消のための『おもちゃ』と化すのは時間の問題。

「ちょっと誰かさぁ……手首切るものとか持ってないのぉ?
 それとも有毒なガスとかでもいいよぉ。早く死なせてよぉ……」

その女子は、正座の姿勢を崩すなと言われているのに、
室内をみだりにうろついている。両手を前に伸ばしながら
歩く姿は、精神病患者のそれである。

「きっさまぁ!!」

「ああああっ!!」

お尻を警棒で叩かれ、床に崩れ落ちた。
彼女に3人の執行部員さんが寄ってたかって
棒を振り下ろしている。

女子は泣きながら謝るが、許してもらえない。
頭を抱え、耳をふさぎ、苦痛の時間が
過ぎ去るのを待つのみだった。

「死なせてよ。早く死なせてよ」

別の女子は呪文のようにその言葉を繰り返す。
彼女は正座の姿勢こそ崩さなかったが、血の涙を流していた。

どうやったらそんな色の涙が流せるのか。
限界まで噛んだ唇からも血が垂れている。

……おまえらは分かってないんだよ。

収容所ってのは、基本的に生徒を構成させるための
施設であることに変わりはない。

生徒会の皆さんに逆らわなければ暴行なんてされないのに。
みんな被害妄想ばかりが先行して奇行に走り、
結果的に痛めつけられるという悪循環に陥っている。

俺とエリカを見てみろ。たまに雑談しながらだが、
きちんと正座しているから何も言われないじゃないか。
自慢じゃないが、俺は三号室では模範囚とまで呼ばれたんだ。

マラソンのあとに、執行部員さんから
ミルキーはママの味まで頂戴した俺をなめるなよ。

だが、こいつらを擁護するとしたら。
こいつらが学年トップのエリート集団ってことだな。
一組と二組は特別進学クラスだ。
成績が学年のトップの奴らを均等に配分してる。

一学年時に内申点を含めて優秀な成績を
修めた人が選抜されて特進に進級するんだよ。

卒業生たちは国立大を中心とした進学実績があるから、
こいつらもその一員ってわけだ。なのに二年の途中で
収容所送りになったんだからショックだろうよ。

他人事みたいに言ってるが、俺はすでに
三号室の経験があるので開き直っている。

「うわぁぁぁ。うわぁぁ。うわぁぁああああ。
 お父さん、親不孝な娘でごめんなさい」

さっきからうるせえな。
俺とエリカの後ろにいる女子がずっと
泣きごと言ってるんだよ。

振り返ってみてみると、
ハンカチで顔を押さえて泣いてやがる。
って、井上さんかよ。

大人しそうで可愛い顔してるけど、
マサヤ派の人間だった気がするな。
マサヤ派は死ねよ。同情の余地はないね。

「全部堀太盛のせいですぅ……私は悪くないんですぅ。
 堀太盛のクソ野郎がクラスを惑わしたのがいけないんですぅ」

「天にいる神様、お父さん、お母さん。みんな私の無実を
 信じてください。太盛は愚かにも罪を犯しました。
 ついでに小倉カナも地獄に落としてください」

この女、クリスチャンだったのか……。
しかもナチュラルに俺とカナの悪口を言ってんじゃねえ。

カナの悪口を言う奴は許せねえって言ったの忘れたのか?
可愛い顔してるくせに意外と毒舌なのが腹立つな。
ちょっとぶっとば…

「ダメよ」

エリカ、だがこいつはカナのことを……

「太盛君は模範囚だったんでしょ?
 クラスのザコの言うことなんて気にしないで」

エリカは俺をかばうためにザコ呼ばわりしたのだろうが、
井上マリカはかなりの優等生だ。
この女は常にクラスが学年でトップ5に入っている。

隣のクラスのナツキ会長殿と成績を争うほどだったらしい。
ナツキの聡明さはボリシェビキの中でも群を抜いているそうだ。
奴と互角なのだから、ただ者ではない。

なによりすごいのが、井上マリカは入学してから
一度もトップ5圏内を逃したことがないことだ。

これはすごいことだ。およそ二年近く学年の
成績トップを走り続けたのだから。
どんな人間でも油断や怠慢などに
よって成績の上下があるものだ。

だが、井上にはそれがない。

気になって答案用紙を見せてもらったことがあるのだが、
ほぼ全ての科目で90〜95点近く取っている。
こいつに苦手な科目はないのか?
逆に満点は一つもないのが不自然だった。

これほど『安定感のある成績』を残せるコツは?
俺の問いに対し、井上マリカはこう答えた。

「私はテスト勉強したことがないから」

俺は、鈍器のような物で井上さんの頭をカチ割りたくなった。
なんとかその衝動を押さえ、さらに質問すると、

「勉強は予習が中心。半年先の内容まで勉強しているから、
 普段の授業は復習の代わりにしてる。テスト期間中も
 今までに教わった内容をさらっと見直して終わり」

そのようにほざくのだった。なるほど。彼女は予習を
重視することによって学園の授業速度を半年遅れにしているのだ。
授業で習うことなど、半年前に勉強したことなので
昔を懐かしむ思いで聞いているのだろう。

「コツは、理解すること。まず記憶する。国語とか英語は
 声に出して読むといいかもね。まず脳に記憶させる。
 分からない問題でも、そのあとに理解が追い付くことがある。
 記憶と理解の仕組みが分かれば、テストに強くなるよ」

そんな哲学があったのか。

勉強時間だけを増やしていた俺とは次元が違う。
本当に要領の良い人間とは、テスト勉強など不要なのだ。

おまけに井上は高校生になってから塾通いを止め、
自主学習に専念しているらしい。すげえな。

秀才を極めた井上お嬢さんは、
東大でも京大でも好きなところに進学しなさい。

そう言ってやりたいのだが。

「うわあああああああん!! 
 パパあぁぁあああ!!
 パぁああぁあパぁああああああ!!」

↑これが井上の現状だ。こいつ、ファザコンだったのか?
ちょっと可愛いところあるじゃねえか。
いずれにせよお前の将来は終わったようなものだ。

収容所を見渡すと、他の奴らも似たようなものだ。

泣き叫ばなくても無表情になって床を見つめたり、
俺をすごい顔でにらみ続ける男子など、
危なそうな奴らの集会場となっている。

「なんてうるさい教室だ。ここはいつから
 幼稚園児のたまり場になったのだ!? 
 六号室は日本の国会じゃないのだぞ!!」

なんか偉そうな人がやって来たぞ。
保安委員部のバッジをつけてるから、
執行部の上司の人だな。

「まず泣くのをやめろ!! 
 おい貴様、高校二年生にもなって
 メソメソ泣いて恥ずかしくないのか!!」

旧クラスメイトらを蹴飛ばしてカツを入れているのは、
イワノフという保安委員の代表だ。なんてゴツイ顔だよ。

あれのどこが高校生だ。しかもまたロシア野郎か。
うちの学校、無駄に留学生ばかり取ってんじゃねえ。

「貴様ら、正座の時間は終わりだ!!
 これから二時間目に入る前に私から説明することがある!!」

「同士・ミウはご多忙のため本日は職務に着けない。
 そのため私が代わりに貴様らを指導する!! 
 まずこの教室でのルールだが、貴様らが作れ!!」

なに?

「6号室は雑多な囚人を囲んでいる。教室ごとに複雑な
 人間関係等の事情があるため、貴様らの所感で
 ルールを作ってよろしい。これをクラス内条例と呼ぶ。
 クラス内で代表となる委員を5名選出し、そいつらが
 クラス内でスパイ容疑者等を取り締まる委員会を作れ!!」

なんだそれ? クラス内条例なんて初めて聞いたぞ。
だいたい、なんで俺たちが俺たちを
取り締まらないといけないんだ?

生徒を取り締まるのはあんたらの仕事だろ?

「この学園の囚人の数は増加する一方であり、
 また二号室と六号室は反乱の巣窟である!!
 貴様らの中から有望なボリシェビキを選出し、
 そいつによって教室内を管理させることにする!!」

要約すると、執行部の人手不足でーす。
クラスごとに自分らで取り締まりをしろー。
はいはい。

取り締まりの対象となるのは主に

『反革命容疑』『スパイ容疑』『武器の所持』『反乱の恐れ』
『反乱の扇動』『資本主義的思想』をしている者だ。

細かく書くともっとあるが、まずは生徒手帳に
書かれている内容に従えと言うことだ。
俺らの自由にルールが作れるわけではなく、
生徒会の規則を遵守しないといけないのか。

確かGHQに占領された日本が、マッカーサー元帥の
機嫌を伺いながら作った日本国憲法と同じだな。
今の憲法は旧帝国憲法の改正であり、
草案はマ元帥が作ったものらしいが。

「午前中の内に代表を民主的に選出するように!!
 午後には代表の氏名を我々に伝えること!! 以上だ!!」

ガラガラ。ピシャ。ウイーン

最後の電子音は、電子ロックされた音だ。
見た目は普通の引き戸なんだが、無駄に電子化されている。
これを無理にこじ開けても、廊下には
高圧電流の流れている有刺鉄線が張られている。

反対側の窓際には、超強化ガラスがある。
仮にこれを割ることに成功してベランダから降りても、
下にも鉄条網で囲まれた地雷原と思わしき陣地がある。

その中に落ちたら終わりだ。

「おまえら、委員殿の話を聞いたな?
 これから民主的な方法で代表を選ぼうじゃないか」

俺は教室の中央でみんなに語り掛けた。
だが俺が気に入らないらしく、
つっかかってくるのがいた。

「うるっせえんだよ。てめえが仕切るんじゃねえクソ野郎」

「あん? クラス委員が仕切って何が悪いんだ」

「おら。手帳だ。ここのページに書かれている校則を
 読んでみろよ。収容所に入ったら、元あった地位は
 全てはく奪されるんだ。つまり堀、てめえは
 ただの一般生徒。もちろん横田もだよな!!」

その口の悪い男子(刈り上げ)は、横田リエを指した。
先生はただ震えているだけで何も答えない。

「収容所で堀が威張る理由はねえ。
 そもそもてめえは前から気に入らなかったんだ。
 副会長殿や橘エリカと昼食べたりして
 調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

ぐっ……。

この野郎、重いストレートを食らわしやがった。
助けが来るのかと思ったら、次々に男子達が
群がって俺を袋にしやがる。

「このリア充が!!」「女にモテるこいつは資本主義者だ!!」
「堀太盛のせいで俺たちは収容されたんだ!!」
「堀は小倉カナの手先だ。きっとスパイに違いない!!」
「俺の斎藤マリーちゃんとイチャついてんじゃえねぞ!!」
「小倉と別れてミウ様と付き合えばよかったんだよ!!」

俺は亀のように丸まって暴力に耐えるしかなかった。
わき腹、背中、首などに休むことなく打撃が加わり、
呼吸する暇がないほどだ。

「死ね、死ねえええええ!!」「こいつ最低!!」
「あんたのせいで私たちは拷問されるんだ!!」
「私達より先にあんたが地獄に落ちてよ!!」
「神に変わって呪い殺してやる!!」

なんと、女子達も俺を襲撃したのだった。
彼女らは掃除用具入れにあるホウキやモップなどで
武装しており、極めて危険な存在である。
おい、モップとかやめろ。マジで頭割れる。

いったい何人の生徒が俺をボッコにしてるのか。

「死ね死ねえええ!!」

井上。俺の頭をホウキで叩くのをやめないか。
おまえ、あとでボコるわ。

エリカはずっと何事か叫んでいるが、
暴徒どもには響かなかったようだ。

エリカの方にも女子の敵意が向かったようで、
女子の集団がエリカに襲撃するのだった。

「いやあああああ!! 太盛君、助けてえええええ!!」

エリカの周囲に女子の暴力の輪ができた。
掃除道具を振り下ろしたり、カラのバケツを投げる、
雑巾で髪の毛を吹くなど、好き放題やっている。

どうでもいいが、俺は自分がフルボッコにされているのに
どうやってエリカの状況を実況しているんだろうな。

これが強制収容所6号室か。
まさに阿鼻驚嘆の地獄にふさわしい。

てかこれアウトだろ。生徒会的に。

こんだけ騒ぎ続けたら、すぐに執行部を通り越して
保安委員の人が直接注意しに来るレベルだぞ。

そう思っていたら、案の定扉が開いた。

「Hi. I am here .how do you do everybody?」

流暢ない英語を話すのは一人しかいないのである。
我らがアイドル・高野ミウ同士である。
そいつは俺の彼女を名乗っているが、俺は認めない。

「ごふぅ」

ミウの拳をお腹に食らった男子である。

ミウは俺を袋にしているメンバーを一人、
また一人とはがしていき、ボディを食らわせていった。
良い動きだ、両足の開きとステップの踏み方が本格的だ。
ボクシングの経験があるのだろうか?

「がは」

また一人の男が片膝をついた。
ミウの拳は強力だ。
なぜならメリケンサックをつけているからだ 

「ガードしたら拷問するから」

「ひぃ」

男たちはお腹にメリケンサックを食らい、
一時的な呼吸困難と闘うのだった。

10人くらいの男がそうされた。
俺はこんなに多くの男子から恨みを買っていたのか。

「このクラスの人達は、クズだね」

ミウが吐き捨てるように言う。

「みんなお勉強はできるのに、どうして問題ばかり
 起こすの? 私がバカだから分からないのかな?
 どうなの。みんな。黙ってないで早く答えてよ
 愚かな私にも分かりやすく教えてくれる?」

ミウが後ろで腕を組んで、教室内を歩き回る。
ミウが近くに寄ると、
囚人たちはおびえて距離を取るのだった。

「ねえねえ井上さん。賢いあなたなら納得のいく説明を
 してもらっていいかな。エリカをボコってたけど、
 エリカが太盛君の友達なのを理解したうえで
 やってたんだよね?」

「ミ、ミウ様あああああああ!!
 ミウ様ぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ。
 ごめんなさあぁぁあぁああぁい!!」

胸ぐらをつかまれた井上だが、どうも様子がおかしい。
泣いて謝罪しながら半ギレしてる。どんな精神状態なんだよ。

「私だって…私だって!! 好きでこんなクラスに
 入ったわけじゃないですよ!! ミウ様は一般生徒
 だったころは私の友達だったじゃないですか!!
 昔の友達を奴隷のように扱うのは楽しいですかぁ!?」

「友達だったのは昔の話だね。ボリシェビキには
 過去の話は通用しないって覚えておいてね?」

「私たちが何をしたって言うんですか……!!
 私たちは2組と並んで特別進学クラスですよ。
 学年トップのクラスとして常に勉学に励み、
 正しく学園生活を送っていたのに!! 
 なんで私たちが六号室の囚人なんですか!!」

それは他の奴らの意見を代弁したのと同じだな。

「そういう問題じゃないんだよ」

「そういう問題ですよ!!」

井上が負けてないぞ。

「自分で言うのもあれですけど、私たちは
 将来立派な大人になる人ばかりですよ!!
 国のためになる仕事に就く人もたくさん
 いると思いますよ!! それなのに私たちを
 粛清して国のためになりますか!!」

「私は父の影響で法律の知識がありますよ!!
 私のお父さんが弁護士なんです!! 憲法は
 基本的人権と拷問の禁止を謳っていますよ。
 もちろん同士閣下も知ってますよね!?」

あいつの親父さんは弁護士だったのか。

「生徒が拷問されても警察は動いてくれないし、
 保護者が訴えても、上からの権力でもみ消される。
 私たちの人権が守られてないじゃないですか!!」

「今すぐ警察を動員して操作するべきですよ!!
 だって憲法は公権力を律するために作られているのだから!!
 公権力が正当に力を発揮しないのも憲法に違反してますよ!!
 栃木県の行政はどうなってるんですか!?
 この学校はどこの国の学校なんですか!?」

長いな。井上マリカの演説会場になってる。

「スパイがいる? 反革命主義者がいる!?
 どこに証拠があるんですか? 証拠調べの
 方法を具体的に示してくださいよ!!」

「生徒会のやってることは恣意的(しいてき)な
 捜査であり、中世欧州とレベルが変わりません!!
 ミウ閣下が作った反革命容疑の取り締まりの校則が
 まさにそれですよ!! そういう思い付きでの取り締まりを
 なくすために日本の司法があるんですよ!!」

「この学園のどこに文明的な司法があるんですか?
 子供のお遊びに付き合わされて生徒が逮捕されるなんて
 かわいそうだと思いません?」

ミウは自分の髪を指でもてあそんでいた。
いかにもつまらなそうな態度だ。

「ふーん。その話、まだ続くの?」

「ええ。いくらでも言いますよ!! 確かボリシェビキは
 相手の主張を全部聞いてから判断するんですよね?
 次にミウ閣下の男性問題ですけど」

おいおい。それを言ったら拷問確定だぞ。

「堀太盛さんはあなたに気がないですよ!!
 ええ。もう全く。これっぽっちもあなたに
 気がありません。別の表現で言うと大っ嫌いなんですよ!!」

「あなたの大好きな英語で言いましょうか?
 He hates you. because he likes Erika and marie.
 It’s not you. never !! Our god says that semaru
 Will never be your boy !! never !! hey, you understand it ?」

さすが井上ほどの秀才は英語も話せるのか。
発音はへたくそだけど言葉が途切れないのがすごいな。

「堀はね、根っからの悪者じゃない!! あいつは
 生徒会にいじめれてる人を助けたいと思ってる!!
 カナ、エリカ、あとマリーって子をミウ閣下が
 いじめるのは逆効果。彼に嫌われる原因を自分で
 作ってるんだから笑えるわよ!!」

「……私は今日の朝はマリーに謝りに行ってたんだけどね」

「あらそうですか。それでご多忙だったのですね。
 結果はいかがでしたか?」

「話も聞いてもらえなかったよ」

「あははっ!! それは残念でしたね!!」

井上マリカさんは手を叩いて爆笑している。

ここまでミウに食って掛かるとは。
もはや無謀を通り越して芸術の域にまで達している。
この偉大なるクラスメイトをマリカさんと呼ばせていただく。

「一組のみんなも良く聞いてね!?
 ミウ閣下がマリーに嫌われる。
 するとマリーを虐待したくなる。
 すると堀君に嫌われる。
 はい。悪循環のできあがり!!」

「こうして副会長殿は永遠に堀君に
 好かれることがないのでした!!
 そしてストレスを私たちのクラスにぶつけ、
 私たちを収容所送りにして満足してるのよ!!」

「私たちを収容所に送ったのは堀君だけどね!!
 堀君の暴走の原因もカナが収容所送りになって
 さみしかったからだよね!! まだ堀には弁護の
 余地はあるかな。でも副会長にはないよね!!」

「それと……うぷ」

ミウは真顔になり、マリカさんの口を手で塞いだ。
アイアンクローの手つきだ。

「そろそろ黙ろうか」

ミウは怒鳴りもせず、泣きもしない。
ただ、マリカさんの瞳だけを見つめていた。
絶対零度の冷たい視線で。

「あなたの名前は井上マリカさんね。
 しっかりと覚えたよ。
死んだ後もあなたのこと忘れないから」

ミウは『地下室行き』を宣言した。

地下とは、拷問と粛清をするための施設である。
選挙後にアナスタシアと前会長が送られた場所だ。

そこに送られたら、仮に死なないとしても
二度と社会復帰ができない体にされる。

「先に拷問内容を説明しておくね?
 ベッドに縛り付けて微量の電流を死ぬまで
 断続的に流してあげる」

「寝たり気絶したら、眼に熱湯をかけてあげる。
 どれだけ痛いか想像できる? もちろん沸騰した
 お湯をたっぷり注いであげるからね。
 あなたのお口にもね」

「井上さん、少し髪伸びたんじゃない?
 地下に行ったら髪だけ火あぶりにして
 短くしてあげようか。火のそばに行くと
 熱くて苦しいけど頑張ってね?」

ああ、マリカさん……。
マリカさんは力なくその場に崩れ落ちた。

俺たちの正当なる代弁者であるマリカさんが
ついに粛清されてしまうのか。


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