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作品名:午後『2時55分』に何かが起きる 作者:なおちー

第6回   ところで、独裁政治とは何か?
「ママ。アントワネットが切れそうな顔してるから
 もういいよ。お兄ちゃんが心配なのはわかるけど、
 この子を責めたってしかたないでしょ」

とミホ。

「ケイスケさんのことは明日から神セブンで真剣に話し合います。
 アントワネットもお母さまと同じように貞子問題で
 悩んでますから、そんなに責めないであげてください」

ポルポトも助け舟を出す。彼は非常に温厚な性格をしていたから、
ママを説得することに成功した。
説得するのに30分もかかってしまったが。

ミホとユキオに謝罪され、菓子折りまで渡されあと、
夜の道を歩く二人の中学生。ポトとアントワネットである。

ユキオに車で送ると言われたが、丁寧にお断りした。

「もう夜の9時過ぎか、中学生が歩いて良い時間じゃないぞ」

「ポト君は真面目なのですね。今どきの学生は夜遊びくらい普通です」

「むしろ君の方が校則とか守りそうなのに、そっちの方が意外だよ。
 学校にティーポット持ってきたりとかさ。君に影響されて
 僕までゲーム機を持ってきてしまったよ」

「うふふ。ルールなんて赤の他人が決めたものじゃない。
 人生は楽しまないと損するわよ? 一度きりしかない人生なのだから」

地方都市の中心街を歩く二人。駅前通りなので車の往来がある。
通勤時間帯ほどではないが、行き来する車の明かりで道路は明るい。

「なあ、アントワネット。君はどうしてうちの中学に来たんだ?」

エンジンの低い音が彼の声をさえぎる。一台のタクシーが通ったのだ。
ライトが一瞬だけアントワネットの横顔を照らした。

「親の決められた通りに生きるのが嫌だったの」

「私立の学校のことか?」

「そう。私は庶民的な暮らしの方が性に合う気がするのよ」

「教室で優雅に紅茶を飲んでいる姿はどう見ても金持ちだけどな」

「ああいうのは、くせだから治せないの。でも今の学校は
 楽しいわよ? みんなと明るく、元気に話せて……。そうね。
 一年生の頃までは楽しかったかな。でも今は……」

コンビニエンス・ストアの近くに差し掛かった。
自動ドアが開き、男性の買い物客が出て来る。
彼はバイクにまたがり、さっさと消えてしまう。

「ここでお別れだな」 「ええ」

セブンイレブンが目印の交差点。ここから先は別々の道になる。
高級分譲マンションに住んでいるアントワネットと、
ごく普通の一軒家に住んでいるポトでは方角が違うのだ。

「アントワネット。さっき最後になんて言おうとしたんだ?」

「今日はもうこんな時間だから、明日話すわ」

「そっか。じゃあ、また明日な」 「おやすみなさい」

家に着いた時刻は九時半。アントワネットは帰りが遅いことを
親に心配され、説教までされてしまった。

アントワネットは貞子問題のことはふせておいて、
友達と夜遊びしてたことを告げると、
怒った母から門限通りに帰ることを強制された。

門限とは夕方の6時である。娘を心配してのことだろうが、
古風が過ぎる。思春期の子供にこういう教育をしたら
逆効果になるのが分からないのだろうか。

日付が翌日に変わった。月曜日である。

「今日はどうもおかしくないか?」 
「時間になっても先生が来ないようだな」

トロツキーとバルサンである。とっくに一時間目の授業が始まっており、
現に隣の5組からは英語の先生の声が聞こえる。だが4組だけ
忘れ去られたかのように先生がやってこないのである。

「おいおい、まさかうちのクラスだけ先生方が授業を
 ボイコットしてるってのか?」

織田信長が両手を大きく広げながら言う。それにポトが反応した。

「そうかもしれないな。まだ分からないから、自習でもしてようか。
 一時間目は国語だったな。おい信長。俺、しばらく授業中に
 ゲームばっかりやってたからノート見せてくれよ」

「ほらよ。今まで真面目にノート取ってたのがバカみたいに思えて来た。
 俺にはゲーム機貸してくれよ」

「PSPとDSどっちにする?」

「PSPにするか。ソフトは何を持ってるんだ?」

「アーマードコアとサイレントヒル、織田信奈の野望だ」

「織田信奈ってなんだ?」

「史実の織田信長を美少女にしたギャルゲーだよ。
 原作の漫画はすげえ人気なんだぞ。おすすめだ」

「じゃあそれにするか」

織田信長はPSPを握りしめ、ゲームに没頭した。
空気を読まず音を出しているが、それを注意する生徒はいなかった。

トロツキーとバルサンは隣の席でいつものように貞子問題や、
日本の資本主義や議会制民主主義の欠点について話し合っている。
こういう話が始まると女子たちはドン引きし、彼らと距離を取るのだった。

中学生が政治経済の話に夢中になるのは普通ではない。
彼らは今すぐ参政権が欲しいタイプの未成年だった。

ちなみにトロツキーとバルサンは史実では熱烈な共産主義者である。
(バルサンはモンゴル人民共和国の独裁者であり、お風呂場で使うあれではない)

ポルポトは貞子問題による負担により、しばらく真面目に授業を
聞いてなかった遅れを取り戻そうと、ノートを必死に取っている。
彼は生真面目で優しい人柄であり、容姿が優れてなくても
人から支持を集めるタイプだった。

現に女子のミホとアントワネットから一番慕われているのが彼だった。

「では、一時間目は自習の時間としましょうか。
 まずはお茶でも淹れましょう」

「いつも高いお茶をありがとね」

アントワネットとミホは小さなお茶会を開いていた。
朝一からこれである。神セブンしかいない教室には
もはや学校としての規律など存在しなかった。

「あーおいし。兄貴のことだけど、ほんとにどうすればいいんだろ」

「実は今朝、私の部屋の前に新しい書置きがありまして」

「ぶぅ!?」

ミホは耐え切れず、お茶を吹いてしまう。
机の上が汚れてしまった。

その書置きにはこう書いてあったそうだ。

『向こうでケイスケ君と幸せに暮らしてます。山村貞子より』

しかもスーパーのチラシの裏にである。

ツッコミどころは山ほどある。向こうとは、いったい何を指すのか。
異世界のことを言っているのか。ではケイスケは異世界に連れて行かれたのか。
そして暮らしているとは……どういう意味なのか。同棲でもしたのか。
アントワネットの部屋の前に書置きを残す意味は?

ミホはアントワネットに顔を近づけ、小声で言う。

「これ、やばい内容じゃん。他の人に見せなくていいの?」

「バルサンたちに知られたらまたうるさいでしょ。
 今は私たちだけで良いわ。あとでポト君と信長君には見せてあげるけど」

チョイバルとトロツキーは話が盛り上がり、
粛清するべき日本の国会議員の名前を次々にノートに書きだしていた。
そしてこの国に必要ない政党は、現存する全ての野党という結論に至った。

これは共産主義者でなくとも、ほとんどの日本国民が同意することであろう。

余談になるが、前回の衆議院総選挙(2017)など盛大な茶番劇である。
予想通り自民の圧勝であった。別の政党と政権交代する可能性が限りなくゼロに
近い以上、選挙をやる意味がなく、費用も無駄である。
(ところで希望の党の政党支持率は、この小説執筆時点でなんと1%まで落ち込んだ)

野党によるモリカケ問題の追及から逃れるための
衆議院の解散だったのは明らかだった。首相は自ら罪を認めたようなものだ。

与党がどれだけ悪事を働いても国会や司法で裁くことができないならば、
現在の日本は自民党一党独裁国家にかなり近いと考えられる。

このおそまつな現状でお隣の中国や北朝鮮の独裁政治を批判できるだろうか?


「ほぁわあああ!! 選択肢間違えて決定ボタン押しちまったよ!! 
 これ、どうすりゃいんだ?」

「さっきセーブしたところからやり直せばいいんだよ。
 ちょっと貸してみろ」

織田信長とポトは楽しそうだった。

信長もポトに負けないくらい人情に厚く、気が合った。
彼は困った生徒を積極的に助けるのが好きで、保険委員でもあった。
ただ、名前が名前なのでどうしても残酷なイメージがつきまとってしまう。

彼のイメージソングは郷ひろみの
ゴールドフィンガー(4話のタイトル参照)である。
本能寺で壮絶な死を遂げる際に熱唱したという(嘘である)

ガラガラ ←扉が開いた音

ついに先生がやって来たかと、神セブンたちが身構える。

「あー、おほん」

わざとらしく咳払いをしたのは初老の老人。この学校の校長である。
相当に年老いていて、腰は曲がり、ふさふさの白髪。メガネの調整が
あってないのか、鼻から垂れてしまいそうである。

「みなさん。少し手を止めて聞いてください」

しわがれたおじいさんの声である。

ポトはノートから顔を上げ、織田信長はゲームを机に置いた。
ティーカップを手にしているミホとアントワネットは、
申し訳なさそうな顔をした。

「先ほどの職員会議により、君たち4組に対する今後の方針が決まりました。
 君たちは今学年が終了するまで教室で自主学習に励むこと。
 それと自宅から私物を持ち込んでいるようですが、どうやら
 学生生活を送るのに必要だと思われるため、許可します」

その内容を生徒達はすぐには理解できなかった。

PSPからはゲーム音楽とキャラクターの声が流れっぱなしだが、
これをどう解釈したら学生生活に必要になるのだろうか。
アントワネットのお茶タイム用品も同様。

バルサンたちの共産主義的トークも学生らしくない。
中学生で政治的危険思想を持っている人などそういないだろう。

そのような混沌の中、ポルポトが真顔で挙手した。

「先生。それはつまり、俺らはこの教室で自由に
 していいってことですよね?」

「それはあなた達の自主性にお任せするということですね」

「同じ意味じゃないですか……。ちなみに朝のHRとかは」

「そんなものありません」

「体育の授業とか」

「校庭や体育館に出る必要はありません。
 帰りの時間までこの部屋にいなさい。 
 あと職員室に来るのも止めなさい。
 理由は言わなくても分かるね?」

ポルポトは首を縦に振った。
担任のじいさんが殺害されてからというもの、
教師陣はこのクラスに対する不干渉を決めたのだ。

それも無理はないだろう。クラスの40名の定員に対し
現在残っているのは、たったの7名。

神セブンとは聞こえがいいが、ようはそれだけ多くの生徒が
死んだか、再起不能になったのである。

「そいうことですから、よろしくお願います」

扉を閉めていく弱弱しい校長の姿が、
晩年のニコライ二世の姿にかぶった。
のちにそうトロツキーは語る。

「聞いたか、諸君。
 我々は今日からいつでも貞子問題について話し合えるぞ!!」

トロツキーが言うが、喜んでもいられない。

学園側が4組を放置することを決定したのである。
これにより生徒達は自分たちで貞子と立ち向かわなければならない。
未来の希望などまるでない。

今日もまた『2時55分』はやってくる(6時間目の授業は毎日ではないが)
貞子は時間割通りに授業を受けない人には容赦しない。
普通に考えたら若干7名の生徒が来年の3月まで生き残っている保障はない。

「さあて諸君。さっそく会議を始めるぞ。席を会議用に並べ替えろ。
 織田信長はゲームを中断しなさい」

バルサンの指示で全員がコの字になるよう席を入れ替える。

アントワネットは話し合いがめんどくさいので、
書置きのチラシを机の引き出しにしまおうとした。

「ちょっと待った」

真後ろから声をかけられ、振り返ると男子がいた。
神セブンの一員であり、今回まで本編で紹介されなかった最後の一人である。

「そのチラシ、何が書いてある? 見せてもらおうか」

「あっ」

奪うようにチラシを見たあと、すぐに返してくれた。
その男子は席に深く座り込み、また考え事をした。

彼は寡黙な男だった。制服を着ることを好まず、いつもグレーや
黒のパーカーを着ている。寒い季節じゃないのにフードを被り、
マスクをして表情を隠していた。

アントワネットは、このクラスになってはじめて彼の声を聴いた。
沈んだ音色だが、確かな知性を感じさせる深みのある声だった。

「おい。そこの男。今何を見た?」バルサンが目を細める。

「低俗な貴様らが見てもまたすぐに騒ぐだけだ」

「なに?」

早口で無礼なことを口にされ、バルサンが鼻息を荒くした。

「互いに知りえた情報の開示は、我々の義務だろう。忘れたのか?
 おいアントワネット。そのチラシをよこせ」

アントワネットが諦めた顔で手渡すと、
共産主義コンビはやはり驚いていた。

「わざわざ書置きを残す理由が気になるな……」 
「なぜもっと早く我々に教えなかった?」
「本村さん。ケイスケさんが消えた場所や時刻を正確に教えてくれ」

「ケイスケさんが買い物に行った理由もだ。
 何を買うつもりだったか判断する手掛かりはないのか?」
「本村さん。そのふてくされた顔はなんだ? 君は神セブンとしての自覚が……」

ミホはしばらく共産主義者たち特有の尋問に付き合わされた。
矢継ぎ早に質問されると非常に疲れる。それにムカついた。
ケイスケが消えた理由を一番先に知りたいのはミホ自身だ。

アントワネットはため息をつき、気分転換を兼ねて
ポトと信長にチョコレートを配った。

信長にあんこの方が好みだと言われたが、
残念ながら西洋菓子しか持ってきてない。

「あなたは食べないの? 
 甘いものを食べると心が落ち着くわよ」

「失礼だが、遠慮する。今はそんな気分じゃない」

男は足と腕を組んだまま姿勢を崩さない。
寄るな、近づくなというオーラを全身から放っており、
どう見ても人と群れるのを好むタイプではない。

フードとマスクの裏にどんな顔が隠されているのか。

「よせよマリー。そいつに関わるな」 「そ、そうね」

ポトに言われ、マリーは距離を取った。

アントワネットがあまりにもおびえているので逆に
気の毒になった男は、今度は優しい口調で返した。

「そんなに怖がらせるつもりはなかったのだがね。
 悪かった。僕にも一つ頂けないか?」

男が大きな手を差し出した。マリー・アントワネットは、贈答用の
チョコレートセットの箱を差し出した。何種類ものチョコが
並ぶ中で、彼はウイスキーボンボンを選んだ。

食べる時だけマスクを外した。口元はかなり整っていた。
目つきはおだやかだが、威厳に満ちていてとても
中学生とは思えない。彼はチョコを満足そうに食べていた。

「なかなかうまいな。もっと早くもらっておけば良かった」

すると彼は立ち上がり、いまだミホを
尋問しているコミュニスト(共産主義者)らを指さした。

「クラスメイトよ。いつまで本村を尋問しているつもりだ。
 どれだけ質問しても彼女が知ってることには限界がある。
 彼女が嫌がっているのに、それ以上続けるのはセクハラじゃないのか?」

「セクハラだと?」

カンに触ったのはバルサンだった。
彼の名前もなんとなくセクハラっぽいのは気のせいか。

「バカなことを言うじゃないか。貴様はまずセクハラの定義を述べてみろ」

「明確な定義はないが。少なくとも本村がそうだと判断したらそうなる。
 性的なものに限らず、嫌がらせに値する行為すべてに該当する可能性がある。
 もっともセクハラの定義は職場や学校など集団によって異なるから
 定義などできるわけがない」

「これは驚いた。意気地のない男だとばかり思っていたが、
 一度しゃべりだすと洪水のように言葉があふれ出て来るではないか」

「今まで無意味だと思うことに口を出さなかっただけだ」

「では今は意味があると?」

「そうだ。ある。大いにある」

「では貴様の意見を聞こうじゃないか。
 これからの貞子の問題についてどう考える?」

「静観だ」

「は……?」

「見守ると言った。我々にできることは何もない。
 そして、貞子が我々に危害が加えることはおそらくない」

彼の意見をまとめるとこうなる。

貞子は、おそらく死後の世界と思われる場所へケイスケを案内した。
両名は恋人として暮らしているから帰るつもりがない。
ケイスケは無理やり応じたのだろうが、少なくとも貞子は満足している。

彼女の殺人の根源的な欲求であった現世での未練を果たしている。
現世の人間で例えると婚約前の女とでも言おうか。

ケイスケ個人の意思を犠牲にすることにより、
神セブンはこのまま平穏無事な生活を送ることができる。

「ぼ、暴論だ……。ほとんど推測の域を出ないじゃないか」

トロツキーが狼狽(ろうばい)しつつも、なんとか言い返そうとする。

「根拠ならある。俺は今までにリング全シリーズをレンタルして観た。
 原作も買った。インターネットで情報収集した。それで分かったことがある。
 貞子の生前の未練とは、親と異性からの愛情の欠如だ」

「ケイスケさんを連れて行ったのはその愛情を埋めるための行為。
 彼を執拗に愛し、連れ去ったのがその良い証拠だ。
 以前にケイスケさんを自宅で襲撃した際に殺さなかったのはなぜだ?
 担任のじいさんは殺されたのに、貞子をナンパした張本人を生かした。
 女好きは全員殺すと言った彼女の考えに矛盾する。したがって……」

理論整然とした話し方は弁護士のそれだった。

低い音程には安心感と説得力があり、語尾がしっかりと止まる。
語尾を伸ばす人が多い若者と正反対の話し方だった。

神セブンたちは、彼の言葉が脳内に
直接叩きこまれるほど引き込まれていった。
人の話す言葉とは、こうも音楽的で心地よく感じるものなのか。

彼の中学生離れした知性はどうやって手に入れたのか。才能なのか。

トロツキーは沈黙してしまった。口達者な彼が
言い負かされることなどまずないのだが。

「君は何か言いたいことはあるか?」

「ない……」

バルサンも敗北を認めるしかなかった。

男の言う通り、現状は静観するしか方法はないと思われた。
教室に現れるのも、人を連れ去るのも貞子の勝手。

人類の常識が通用しない相手にこちらからアクションを起こそうとする
あらゆる行為が冒険的であり、無意味であると結論された。

(この男はいったい、なにものだ……?)

織田信長は本能寺で明智に襲撃された時の顔をしていた。
彼は前世が戦国武将だから、その男が普通でないことには
うすうす気づいていた。アントワネットもポトも同じように警戒していた。

だから今まで、みだりに話しかけたりはしなかった。

「あの」

「なんだい本村さん?」

「あなたの考えだと、私の兄はずっとあの世界に?」

「分からないな。貞子の気分次第と言ったところだろうね。
 わざわざ書置きを残すのだから
 書いた当時に上機嫌であったことは伝わるよ」

冷静過ぎる物言い。冷たくすらある。ミホは大嫌いな兄でも
肉親なのでなんとかして取り戻したい気持ちはある。
家に帰ればママはストレスでおかしくなっているかもしれない。

ママが参考人として求めるなら、目の前の男が適任だと思われた。

「あなたの名前、まだ聞いてなかったね」

「ロベスピエールだ」

その名を聞いた瞬間、トロツキーは椅子から転げ落ちた。
同じようにバルサンも椅子をガタガタいわせて動揺した。

「エクスキュゼモア ムッシュ ブゼット マクスミリアン?」

「そうだ」

アントワネットの仏語(名前の質問)に答える男。
彼の名前はマクシミリアン・ロベスピエールと言った。

日本ではあまり知られていないかもしれないが、
フランス革命期の政治家で、『史上初のテロリスト(恐怖政治家)』なのである。
ジャコバン派(山岳派)の指導者であり、ギヨティーヌ(ギロチン)で
多くの反対主義者の首をはねた(一万人以上)ことで有名である。

『ルイ16世の処刑』を実現させ、レーニンに絶大な影響を与えた人物である。

ソ連の恐怖政治は彼のやったこと(テロール)の拡大版だと、
レーニンが認めている。レーニンはロシア革命をに成功させるために
フランス革命を研究し尽くし、その失敗の原因を熟知していた。

レーニンがテロの徹底のために秘密警察を組織し、
のちにスターリンがそれを引き継ぎ、国内に膨大な数の強制収容所を作り出した。

もっとわかりやすく言うと、世界最大の社会主義国ソ連がもっとも
お手本とした政治家であり大先輩である。

(この男がロベスピーエル!?) ポトも恐怖のあまり手が震えた。

このクラスには世界史の有名人の生まれ変わりが何人もいるが、
この男から感じる威厳は政治家そのもの。もはや中学生ではなく、
ジャコバン派(フランス革命の派閥の一種)のリーダーが
そこにいるとしか思えない。そう思わせるほどに彼の存在感は圧倒的だった。

「あ……あぁ……。ロベス、ピエール……」

マリー・アントワネットは、彼に何をされたわけでもないのに
膝をついてしまい、震えていた。ナポレオン将軍がその地位に着く以前に
フランスで独裁者だった男だ。
西洋最強だった1000年王国(ブルボン家)を消滅させた男。

ロベスピエールはパーカーを脱ぎ、マスクをごみ箱に捨てた。
彼は中にちゃんと制服を着ていた。神セブンの前で堂々と顔をさらしたのだ。

彼が部屋の中央に立つだけで、後光が指しているようだった。
トロツキーとバルサンは彼の独裁者オーラに委縮してしまっている。

うちの国を天下統一した信長と、カンボジア共産党トップの
ポトも似たようなものだ。つまり格が違うのである。

「お願いだよ、ロベスピエール君。
 うちのママに貞子のことを話してあげて」

彼に臆してないのは、歴史上の人物の生まれ変わりではない本村ミホのみ。
彼女は小説のオリジナル人物なのだから当然だ。

「いいよ。いつにしようか?」

笑顔。そして自身に満ちあふれた顔。生前の彼そのものだ。
あふれる知性と端正な顔立ち。生涯独身であることも手伝って常に
女性のうわさが絶えなかったという。

「じゃあ、今日とか?」 

「構わないよ。学校が終わったらすぐに行こう」

ミホは、彼と2人だけだと不安なのでアントワネットと
ポトも呼ぼうとした。ポトはロべスピエールが怖いので拒否。
アントワネットは、逆にロベスピエールからぜひと言われたので断れなかった。

その日の『2時55分』はロベスピエールの予想通り何も起きず、
平和に放課後を迎えたのだった。ミホたち三人は寄り道せず本村家を目指した。



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