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作品名:午後『2時55分』に何かが起きる 作者:なおちー

第18回   ミホ(お兄ちゃん。バカな妹でごめんなさい)
「フォロミー♪フォロミー♪フォロミーwww
 ベェェェイベーwwww♪」

これはユキオの歌声だ。
彼が精神に異常をきたしたのは前話で述べた。

ユキオは女性歌手グループに熱中している。
他のアイドル歌手とは一線を画しており、
本格的なダンサー集団だ。

いーがーるず、である。(あえてひらがな)

「両手をwwwww広げてwwwwwSky Highwwww」

「このまま飛べそうwwww君と出会ってwwwwはじめてwww
 自由になれた気がするよwwwwww♪」

「ひとりじゃないwwwそう思っているからwww踏み出せるwwww♪」

本人はこの上なく楽しそうだが、
家族にとって深刻なレベルで迷惑だった。

重低音は窓ガラスを振動させていた。

リビングには以前買い揃えたホームシアターシステムがあったが、
ユキオが勝手にハードオフで売ってしまった。

「音楽を聴くには音楽用のシステムのほうが良い」

マニアックな説明をされてもマリエには伝わらなかったが、
映画用と音楽用では根本的に作りが違うらしい。

ユキオはストレス解消の手段として音楽を選んだ。

たまたまテレビの音楽番組に、
いーがーるずが出演していたのがきっかけだ。
軍隊レベルで統制されたダンスの完成度に深い感銘を受けた。

(今読の若い娘もなかなかやるではないか。
 それに歌詞も良く聞くと、よくできている。
 この子たちの歌を聴いてると元気が出るぞ)

ライブに行こうかと思ったが、出かけるのが億劫である。
それにこの年のおっさんが会場に行くのは抵抗がある。
会場は10代から20代の若い人が中心だろう。

彼女らの曲を臨場感のある音で聴くためには
どうしたらしいか。もちろん自宅で聴きたい。

考えた末にたどり着いた趣味が

『オーディオ』だった。

オーディオ趣味とは何か。

主に自宅でスピーカー、アンプ、プレイヤーなどの
機器を揃え、『音楽鑑賞のレベル』を高める行為である。

ユキオは銀行に通ってないので平日は暇である。
すでに支店のことなど他人事だと思っていた。

ユキオは毎日本屋に通い、
オーディオの基礎知識を勉強することにした。
金を使うのがもったいないので立ち読みだ。
あいにくどの本屋にもこの手の本が必ず置いてある。

「重低音か」

両手で持った雑誌から顔を上げたユキオがつぶやく。

ダンスミュージックでは、床を震わせるほどの低音が要求される。
さらに現代音楽はコンプレッサーと言って、意図的に音圧を
あげる処理がスタジオで成されている。

これは、IPODやウォークマンなどの小型機器で再生しても
十分に音量が取れるようにしてあるのである。
(専門用語になるが、エフェクターの一種である)

端的に表現すると、Jポップの楽曲は、本格的な
オーディオシステムでの再生には向かないとされている。

「例えばクラシックを聴くためには。
 クラシック専用のシステムを組む必要がある……」

オーディオとは哲学である。
著名なオーディオマニアはそう語ったという。

スピーカーの種類は国外問わず無数にあるが、どれ一つとして
同じ音を奏でるものはない。人間のように個性(個体差)があるのだ。

スピーカーケーブル、プリメインアンプ、インシュレーター。

どれも聞きなれない専門的な言葉ばかりだが、
ユキオは職場では優秀な人なので、
趣味に全力を出すと覚えるのは光の速さだった。

「たまには小遣いで好きなものを買ってみるか。
 今まで子供のために尽くしてきたような人生だ。
 たまには贅沢をしてもバチは当たらないだろう」

彼の言う小遣いは、常軌を逸した支出につながった。

まず音楽を聴くためにCDやDVDは必須である。

彼は今まで発売した、いーがーるず、の全ての音楽メディアを
アマゾンで一括注文した。すでに発売済みで売り切れの
シングルは中古で頼んだ。

総額、実に13万。ライブDVDが特に割高だった。
贅沢な金の使い方であるが、
これでも下記に述べる買い物に比べるとまだ安い方だ。

ユキオはさらにアマゾンを利用した。

今度は、肝心のオーディオシステムだ。

現代録音の音楽にはそんなに高いシステムは必要ない。
マニアたちの助言を素直に聞き入れ、
まず買うアンプ(音量を調整する、音の司令塔的な装置)を決めた。

「初心者なので安物で良いだろう」

高級オーディオメーカーのデノンのアンプ。80万円。

(安物…?)

CDプレイヤーもデノンにした。
同じメーカーの方が、相性がいいのだ。
こちらは86万の品を選んだ。

さらにスピーカーは、外国製にするのが定番となっているが、
あえて日本製。パイオニアの高級機種を選んだ。

税込みで『317万』。これは1台の価格だから、
音楽を聴くためには当然2台買わねばならない。

それに加えてオーディオ・アクセサリーと呼ばれる
周辺部品を購入すると、総額は計算したくもない額になった。

ユキオはクレジットカードを使い、この買い物を
たった2週間で完了させたのである。

『芸術的な衝動買い』である。

子供一人を私立大学の院まで余裕で出せるほどの額だ。

「ちわーwwwwヤマト運輸っすwwww受け取りのハンコもらえますかwwww」

ミホの身長ほどの高さのスピーカー2台は、何の前触れもなく
本村家へやってきた。玄関先でそれを受け取ったマリエが
最初に思った事は「棺桶(かんおけ)?」だった。

丁寧に包装されたスピーカーのサイズは、まさに化け物級だった。

リビングのテレビの両サイドにスピーカーが占拠し、
床の上に直置きした、巨大なCDプレイヤーとアンプが鎮座する。

「実際に届いてみるとこんなに場所を取るのかね。
 あとでオーディオラックも買わないとだめだな」

誇らしく言う夫に対し、マリエは電気ポットを投げつけた。

「痛いじゃないか!!」 「私に何の相談もなくこんなものを!!」

夫婦の良い争いは一時間以上続いた。

マリエが一番許せなかったのは、本当に金額が分からないことだ。
ユキオが個人名義のカードで払ってしまったからだ。

マリエが管理していない口座から引き落とされた。
本村家の財務大臣である妻ですら把握していない財産であった。

聞けば、家族に不幸があった時のために、保険として
とっておいたお金だという。

本村家は、日本株と米国株で分散投資をしている。
デフレで低金利だが株価だけはバブル並みという
日本の不思議な経済状況から、『積極的な株式投資』を続けていた。

ママ曰く、もうけは絶好調だった。

特に2017年。日経平均だけでなく、NYダウ平均株価も
素晴らしく好調。株の素人でも楽にもうけられる状態
とまで雑誌やネットで言われていた。

(↑初心者は信じてはいけない。
 資産運用の世界はそんなに甘くないのだ)

少し予断をすると、日銀はインデックス(ETF)で日経平均銘柄を
毎年6兆円ほど購入している。不動産投資信託(J−REIT)は900億。
今までにETFの買い入れ残高は20兆を超えており、
日本の株価を支えている。

日本銀行は安倍政権、財務省の言いなりである。
なぜなら日銀総裁の黒田君が政府の手下だからだ。
(日銀の独立性とはいったい……?)

株価の上昇は意図的に操作されている。

ここ数年の動きを見ると、現在までに記録的な低金利である。
そして安倍君たちが円安方向に誘導して輸出関連企業が
稼ぎ、また来日客には為替レートで損をさせる。

両替で損をしてまでよく日本に来るものだと感心する。
(来日客の落としたお金は、国家予算の4パーセントに匹敵)

とにかく株式のことは高度なので
筆者のような素人にはよく分からない。(←なら書くなよ)

日本株の保有者は7割が外国人であり、為替相場や
アメリカの政治状況などの影響を極めて受けやすいから困る。
(日本人の投資意欲は極めて低い…)

今年度一月の金融政策決定会合でも黒田君は、

「規制緩和、維持するよ♪ 
  識者らが気にする出口戦略? 知らないよ(^^♪」

その後の記者会見で

「物価上昇率(2ぱー)を達成するまで
  規制緩和を続けるからね♪!(^^)!」

などと、楽しそうにぬかしていた。(ように見えた)←偏見

米国は長期金利が上昇したのに(FRBの利上げ)、
日本は影響を受けないのだろうか。

平成30年の衆議院予算委員会にて。

野党のベテラン議員の男性に次のことを質問された黒田君。

『アベノミクスが好調なのに一般の国民のエンゲル係数は
 年々高まってんだけどー。なにこれ? いつになったら全ての国民は
 豊かになんのよ? お前の金融政策のせいだろ(>_<)
 黒田ちゃんは責任取って辞めちゃえよ☆(その場のノリで)』

黒田ハルヒコ君。73歳。第31代日本銀行総裁はこう返した。

「はぁwww超ウザwww」

「俺が辞めるとかwwwそんなのやだーwwwww」
 
「大半の国民生活が豊かにならないのはですねwww」

「デフレ、マーインド♪ が国全体に浸透してるからじゃないすかwwww
 個人消費者も企業も。もっと積極的にお金動かしてよwwww
 日本の不景気が長すぎたのが根本の原因だと思うんでー♪」

「あと、雇用情勢を見ると売り手市場になりつつあるから、
 そのうち賃上げとかして景気は良くなるよ。
 すぐにではないけど、そのうちねwww( ^^) 」

実際にこんな話し方ではなかったが、
小説を盛り上げるために
多少脚色した(名誉棄損の恐れあり)

しかし実際の国会も茶番会や学級崩壊をよくやる。

特に自由民主党。モリカケ問題など不正が続き、
野党の質問にはまともに答えないし、
理事会に提出する資料もデタラメや捏造。

党の名前通りフリーダムを極めている。

我慢できなくなった立憲民主党の議員らが、
席を出歩き、国会委員長の席を包囲する。

そして『委員長を集団で説教し』、『審議を中断させる』
という荒業をたびたび披露するが、
これぞ国会議員風の斬新なギャグである。

この小説を書いていたら佐川国税庁長官、
辞任のニュースがラジオから流れて来た。

佐川君は『大阪地検特捜部』に送られるらしいが、
ざまあみろである。

彼は切れ者で野党の質問を避けるのがうまかったが、要約すると
「俺は悪くねえしwwwwみんな死ねよwwうぜえなwww」である。

地検特捜部は日本の検察官のトップが集う組織であり、
高度な行政問題を扱う所である。
『国家レベルの犯罪者』が裁かれる場所と言って差し支えない。

実際の国会でも↑のwwwwをつけたニュアンスで答弁すれば
分かりやすいし、質疑の時間も短縮できて一石二鳥だ。

分かりやすさと言えば、

日本維新の会の『足立康史(アダチヤスシ)君』は
希代の逸材であり、明らかに賢者である。

暴言と正論を武器に戦う、筆者の支持する数少ない議員である。

不適切発言が多すぎるとされ、たびたび懲罰動議を受け、
しばらく国会に出てこなくなったのが残念だ。

ヤスシ君ほどの人間ならば、地上最高の頭脳がそろった
18世紀の『フランス国民公会』でも
頭角を現したことであろう。

彼は『全20分ある質問時間の90%』を自説の演説に使い、
残りのわずかな時間で質問をするという、離れ業が得意だ。

ちなみに他党の批判がメインである。

『彼も野党でありながら別の野党の批判』を行い、
 矛盾点や汚職を指摘するのだ。

その演説内容は理論整然としていて、
まるで疑問を挟む余地がなく、悪魔的な説得力がある。

もちろん与党を攻撃するのも忘れてないし、短く質問して適格だ。
凡人が20分かけてやることを彼なら3分で済ませる。

彼の演説が進む頃には国会特有のヤジさえ静かになる。
みんな彼に批判されるのを恐れているのだ。

時代と国が違えば、ドイツ国家社会主義的労働者党
(ナチスのこと)でも幹部に推薦されたかもしれない。

これほどの切れ者であり賢人が、幼稚園児の
集会場(日本の国会)にいること自体驚きである。

もし彼に興味を持った人は、
ニコニコ動画で彼の名を検索してほしい。

黒田君に話を戻そう。

『★デフレ・マインド★』とは、

さすが日銀総裁だけに端的に日本経済の弱点を突いたと言える。

筆者は脱帽した。

日本人の貯蓄性向の高さと将来不安の強さは仕方ないにしても、
大企業を中心にした巨額の内部留保は大問題。
もはや日本の国名を★デフレ・マインド★に改名するべきである。

(次回作のタイトルはデフレ・マインドにしようか…)

米国FRBのパウエル君も

「うちの国、今年もまた利上げしますけどwwwゆるやかにしか
 景気回復はしないんでwwwwそんなすぐに景気が
良く なるわけねーだろwwwサーセンwww」

などとぬかしていた。(筆者が文化放送のラジオで聞いた)
アメリカン・アクセントの英語は何を話しても
飲み屋のおっさんにしか聞こえないから困る。


★★ ↑余談が長すぎて作者の日記帳と
    なってしまったことを謝罪する  ★★


さて、デフレにおいては物よりもお金の価値が高くなる。

マリエもそれは熟知していた。今は投資がもうかる状況。
ゆえに、本村家の総資産における現金保有率は比較的低かった。

……はずだった。

なんとユキオが安全資産として秘密裏にとっておいた現金を、
趣味のために使い果たしたのだという。
口座残高を調べると、73円となっていた。

2週間前までは900万円以上あったという。

それを、たった2週間で使い切ったのだ。

ちなみにユキオが支払いに使ったのは『ブラックカード』である。

ブラックカードとは何か。

利用限度額が億単位とも言われている
『最上位のクレジットカードの総称』である。

クレカは、利用者の年収や利用回数によって限度額が高められている。
クレカ初心者の支払い限度額は低く設定される。

ブラックカードは、幾重ものクレジットカード会社による審査を
突破しなければ持つことが許されない。
(会社にもよるが、年会費は万単位でかかる。高いところで35万)

「ミホは高校中退だ。あの子が大学に行く必要が
 なくなったから貯金を使った。文句あるか?」

また、電気ポットが飛んできた。
今度はユキオの頭部に命中した。

結婚生活20年。めったに言い争うこともなかった夫婦が、
戦争並みの夫婦喧嘩を始めたのだった。

マリエは怒り、発狂し、コップや皿など、投げられるものは
何でも投げた。それらがユキオの体に当たっては床に落ち、
砕け、破片が床に散乱する。

破砕音。ユキオの女々しい悲鳴。
マリエが叫ぶ。投球フォームをする。

すでにリビングに歩くスペースはなくなっていた。

マリエはいっそ包丁で夫を刺し殺そうかと思ったが、
さすがに思いとどまった。

「そろそろ気はすんだか?」

ユキオは自分の乱れた髪と破片の刺さった顔を気にしないのか、
ソファに体重をあずけて、いーがるず、のライブDVDを再生した。
BDプレイヤーは以前の安物を使うことにしている。

画面の中で体育会系の少女たちの踊りが披露されると、
マリエは怒りを通り越して脱力し、静かにその場を去るのだった。

マリエはその日以来、夫と口を聞くのをやめた。

会話のない夫婦。それは極めて冷え切った関係と言える。
統計では会話が無くなった夫婦は、その後の関係が
改善されない限り高確率で離婚するという(誰でもわかることだ)


とある平日の昼間。風もなく天気の良い日だった。
昼食の洗い物を終えたマリエは廊下を歩き、階段を見上げた。

ミホとケイスケは不登校になり、
家で過ごすようになった。
父親同様の引きこもり生活だ。

つまり現状本村家は、年金生活者でもないのに
家族全員が平日の昼間から家にいる異常な状態だった。

マリエは階段を登り、ケイスケの部屋を開けた。

いない。

ではミホの部屋か?

そう思って空けてみると、確かにいた。

「おにい……ちゃん……」

ミホはのんきな顔で寝ていた。
よだれが垂れていて、枕を汚している。

すぐ隣にケイスケがいて、妹に腕枕をしていた。
二人の顔の距離は近い。互いの吐息が顔にかかるほどだ。

ケイスケは扉が開けられた音で目覚めたが、
母と視線を合わせず、きまずそうにしていた。

「もうお昼過ぎよ」

マリエが威嚇するような低い声で言う。
時計の針は13時ちょうどを指していた。

ケイスケたちは昼夜逆転生活を送っていたのだ。
学校に通わず、社会生活を送ってないのだから
体内時計が狂うのは当然だ。

大学にも行かず、家でダラダラ過ごしている息子に母の怒声が飛ぶ。

「あんたは生まれてくる子のために働くんじゃなかったの!?」

「俺は……ミホのそばを離れたくない」

その返事は答えになっておらず、母をさらに怒らせた。

母は部屋にどんどん入っていき、息子の静止も
聞かずにミホの髪をつかんで持ち上げた。
頭がカチ割られるほどの激痛にミホは一瞬で目を覚ました。

「いたっ……!!」

「いつまでも寝てるんじゃないわよ!!
 母親になるなら今のうちから家事の一つでも覚えなさいよ!!」

「やめてよママ。暴力はやめてよ……暴力は最低だよ」

「あんたが悪いくせに何言ってるの!! 
 ほら。早く起きて着替えなさい!!
 学校を辞めるんだたら、
 せめて家の仕事くらい出来るようになりなさい!!」

パシン。パシン。平手の音が部屋に響く。

娘が素直に親の言うことを聞くまで
マリエは止めるつもりはなかった。

ケイスケは、鬼と化した母を恐れて止めることはしない。
本当ならミホを助けるべきだが。
今回の事件の責任を感じて何もできなかった。

母を誰よりも傷つけてしまったのは自分だと理解しているから。

「ミホ!! ちゃんと聞いてるの? 
 なによその反抗的な顔は!!」

「ミホぉ!! あんたは昔から馬鹿で勉強もできないくせに!! 
 親に恥ばっかりかかせて!! この大バカ娘!!」

抵抗しないのはミホも一緒だった。
言葉では「やめて」と言っても、それが限界だ。

母の暴行にいつまで耐えればいいのか。

マリエは、なおもベッドから
離れようとしないミホの胸ぐらをつかみ、
強引に持ち上げたあと、床に落とした。

ベッドから勢いよくずり降ろした形である。

「いたた……」

腰を押さえるミホ。
今の衝撃で腰を痛めてしまったのかもしれない。

「わっ!!」

休む暇はなかった。今度は自分の唾液で濡れた枕が、
顔面を目掛けて飛んできた。

枕とはいえ、勢い良く投げればそれなりに痛い。
ミホが痛めた鼻を押さえると、
今度は母の蹴りがお腹に突き刺さるのだった。

「うっ……お腹はダメだよ。私たちの子がいるんだから」

ミホはカメのように丸くなり、胎児を守っている。
たとえ呪われた子供でも、兄の間で
出来た子供に違いはなかった。

子を守ろうとする母の必至な姿。
それはマリエにとって滑稽(こっけい)だ。

「ませたこと言ってんじゃないよ。
 16歳の子供くせに!! このクソガキが!!」

体を丸くした娘の背中を、母の蹴りが襲う。にぶい音が響く。
蹴られるたびにミホは短く「うっ…」と声を上げるのだった。

「あんたたちは最低の子だよ!! 親不孝!!
 親を地獄の底へ突き落す悪魔だよ!!
 おまえたちは生まれた時から呪われてたんだよ!!」

捨て台詞を吐いてから、マリエは素知らぬ顔で
食料品の買いに町へ行くのだった。

一歩家を出たあとは、ごく普通の主婦の顔をする。
それが彼女の処世術。ミホの妊娠が発覚してひと月たつが、
まだ本村家は住所を変えていない。

引越しの予定すら立ってない。まず、ミホの子を
おろすのか生むのか、その判断すら立ってない。

家族は殴り合いと罵り合い以外でコミュニケーションが取れなかった。
夫婦間は前述のとおり。親と子供間でも話し合いは出来ない。
子供たちは母を一番に恐れ、狂ってしまった父と距離を置いた。

正直言ってケイスケたち自身も今後の見通しが立たない。
そう簡単に考えられることではない。

『児童相談所』へ相談に行くことは出来る。
ほぼ確実におろすことをすすめられるだろうが。

他者のアドバイスはとにかく、最大の当事者であり、
母親になるミホ個人の主張が重要である。

ミホは

「できれば生みたい」

と言った。そしてマリエを激怒させた。

マリエがミホに暴行を加えながら
奇形児などが生まれる可能性を力説したが、
効果はなかった。

聞いてみると、兄のケイスケも子供を育てたいという。
そこで怒りの矛先をケイスケに向け、ミホのように
ぼろ雑巾になるまで拳を振るってやろうかと思ったが、
できなかった。

子供に順位をつけるのが残酷なことだが、
母が最も愛を注いだのはケイスケだった。

娘のことは平気で殴れても、息子にはブレーキがかかってしまう。
皮肉なことにユキオはこれの逆パターンだった。

ユキオは深夜、ケイスケと廊下ですれ違った際に
何を思ったのか、ダスキンを片手に襲い掛かって来た。

無表情で追いかけてくる父に恐れをなしたケイスケは、
全速力で自分の部屋に避難するのだった。

父は部屋の中までは入ってこないので安心だったが、
ケイスケの心に強いトラウマを残したのだった。

それから少し経ち、

「強がってもwww本当は涙隠してる私にwwwフォロミーwwww♪」

オーディオ趣味でストレス解消しているのか、ユキオの奇行は
激減した。ユキオは900万円の出費によって精神を安定させたのだ。
精神安定剤代わりとしては破滅的な出費になってしまった。

マリエは別室でせんべいを食べながらテレビを見ていた。

「あー、トランプがチャイナの鉄鋼とアルミに対して
 輸入規制したわ。大統領権限で議会も通さずに関税引き上げとか、
 なめてるのかしらね。おかげさまで、またダウ平気株価が下がったわ。
 トランプを射殺するゲームとかどこかで売ってないかしら」

ストレス解消には人を殴るのが一番楽しい。
危険思想にたどり着いてからのマリエはまさに鬼だった。

気が向いたら娘の部屋の扉を開ける。
たまにケイスケの部屋にいる時もあるが、どうでもいい。

古いホームラジオを手にし、娘の頭部に何度も殴った。

「いたいっ……いたいよっママ!! 頭から血が出ちゃうよ」

次から次へと虐待されるので、傷が治りきる暇がなかった。

ミホは本当に血を流していた。額から流れた血が目に入り、
その激痛のために悲鳴を上げる。

「あああああああああっ!! いたいよおおおお!!」

ミホはまた床にうずくまった。
目をこすっても痛みは取れない。

今の体育座りを深くした体制を解けば、
ママの蹴りがお腹を襲うかもしれない。

顔をひざにぴったりとつけ、耳は両手でふさいだ。
これでもママの声も少しは聞こえなくなるか。

マリエは一度階段を降りていった。急ぎ足である。

(あきらめたかな?)

ミホの思い違いであることを思い知らされる。
マリエは洗面器の水を一杯にして戻って来た。
ミホはよける間もなく、水を食らってしまった。

水だと思っていたのはお湯だった。
なんと電気ポットのお湯をそのままぶちまけられたのだ。

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

頭から熱湯を被ったミホは、あまりの苦しみに
床を転げまわるしかなかった。皮膚がどうになったのか
確認するのも怖いが、今は熱さでそれどころではない。

「ミホ!! ミホぉおおお!!」

ケイスケは顔全体が真っ赤に染まっているミホを介抱したいが、
どうすればいいのか。大やけどを負ったら皮膚に後遺症が残る。

「いい加減にしてくれよ母さん!! 
 それ以上ミホを苦しめるなら
 俺は今すぐ自殺してやるからな!!」

血走った目で叫ぶ息子に、さすがの鬼も
何か思うところがあったのか、素直に引き上げて行った。
息子と娘でここまで対応が違うのは異常である。

「おい、ミホ、大丈夫か!!
 火傷の時ってどうすればいいんだよ!?
 すぐぬれタオルを持ってきてやる」

ミホは、ただ震えていた。

肌のヒリヒリした感じと、突き刺さる痛みは永遠と続いた。
鏡で見る自分の顔は、見たことももない色に変色していた。
女として生まれてこれほどの屈辱はない。

確かに母の怒りは自分が原因なのは分かる。
だが、なぜ自分だけ。
兄は一度も母に殴られていないのに(父には殴られているが)

ミホの母に対する恐怖は、殺意を込めた怒りへ変化した。

「あのババア。殺してやる。絶対に殺してやる」

ケイスケは、目の前にいる妹がすでに自分の知っている
妹ではないことを悟った。だから、止められなかった。

いずれこういう結果になることを知っていたからかもしれない。

深夜。本村家のリビングからは、のぎざか46の曲が
爆音で流れていた。ユキオは、いーがーるず、以外にも
守備範囲を広げ、アマゾンで買い増しをしていた。

「なーんどめーのwwww青空かーwwww
 おぼえーてはwwwいないーでしょwwww♪」

そして歌っていた。
本村ユキオ53歳。深夜のアイドルソング熱唱だ。

「日は沈みwwwまた昇るwwwwあたりまえのwwww毎日wwww」

廊下の隅に握手券と生写真が落ちていた。
「あしゅりん」というアイドルで18歳の美少女である。

「あーアイドル最高だわwwwwアイドルはミホと
 違って俺を裏切らないしwwwwまじさいこーwwww
 画面越しにあしゅりんにチュッチュしちゃうぞwwww」

ダイニングに包丁を取りに来たミホは、
父の言葉を聞き流すことにした。

今殺したいのは父ではない。

「写真集買いたいけどwww現金残高が806円しかねえwwww
 マリエに内緒でアメリカの株を売却して現金化しちまうかwww
 ちょwww今円高かよwwww為替相場とかまじうぜーwwww」

ちなみに彼の言う806円とは、
本村家の保有する現金の総額であった。
七つもあった預金通帳はユキオが綺麗に使い切った。

いつのまにか、リビングに置いてあるスピーカーや
アンプの数が増えていた。いったい何台買えば気が済むのか。
雑多なアイドルにはまっているせいで、
保有CDは400枚を超えていた。

一応、現金化してない株式が、時価総額1千万円はある。
これを使い切ったら、今度こそ本村家は終わりである。

マリエが長年運用してきた株式は、
本村家を防衛する最後の砦であった。

ユキオはマリエに無断で、
金融機関でお金をおろしまくっていたのだ。
なぜマリエがその暴挙を止めなかったのか。

マリエは生への欲求をすでに失っていたから、
お金のことは頭の中から消えていた。
自殺方法は練炭にしようと思っていた。

「その前に私が殺してあげる」

マリエは、自分の寝室の前に立っているミホを見た。
深夜の1時。マリエは遅くまでスマホで練炭自殺の
方法を調べていたから、まだ起きていた。

ミホは顔に包帯を巻いており、包帯の隙間から
野獣のごとき鋭い瞳が母を射抜いていた。

「ミホは面白いことを言うのね。誰を殺すつもり?」

「あんたを殺した後、みんなも殺す」

2018年7月27日

本村マリエ 50歳主婦。 
本村ミホ  16歳元学生。

夫婦の寝室にて。
母と娘による、最後の争いが幕を開けたのだった。

(お兄ちゃん。バカな妹でごめんなさい。
 私は最後まであなたを愛してました)

閉じた瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

それは、何に対しての涙なのか。
彼女に聞いてみなければ分からない。


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