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作品名:午後『2時55分』に何かが起きる 作者:なおちー

第14回   ミホ「兄貴と2人だけで会うの?」
信長とユキオはテレビを見ながら料理ができるのを待っていた。
信長はよくしゃべる男だった。
ユキオは彼のつまらない世間話を適当に聞き流していた。

「今夜のメニューは肉じゃが……じゃなくて
 カレーっすかwww夏らしくていいっすねwwww」

ユキオがカレー用の具材を買ってきたのでそのままカレーになった。
今日は家族三人と来客の信長用である。信長は若い男なの子なので
良く食べるだろうと思い、多めに作ってあげた。

「家庭の味って感じがしてマジ最高っすよねwwww
 しかもこれナスカレーですよwww
 今流行りのwwwまさにベジタボォすかwwww」

「その発音むかつくからやめなさい」

ママがスプーンを口に運びながら言った。

「えwwwなんでですかwww英語の先生から
 ベジタボォって発音するよう教わりましたけどwwww」 

「アメリカの英語はなまりすぎて英語とは別言語じゃない。
 イングランドはちゃんとベジタブルって発音してるわよ」

「はぁwww? 英語になまりとか有るんすかwww?」

「英連邦諸国ならカナダ、NZ、オーストラリアでそれぞれ
 違う発音をしてるわ。特にシンガポールなんてかなり特殊よ」

「ちょwwwなんすかその豆知識www学校でそんなこと
 教わったことねえっすwwwさーせんすけどww
 俺、アメリカ人はペリーとトランプしか知らねえレベルっすwwww
 ペリーの黒船来航、チョリーッスwwww」

「あんたさぁ……」

信長の隣の席のミホが言う。

「元戦国武将のくせに、なんなのその話し方は。
 完全に今どきのチャラ男じゃん」

「はwww何言ってんすかwwww俺前世でもこんな感じでしたよwww
 本能寺で死ぬときは、なんか廊下が燃えてたんでwwww
 郷ひろみの曲、熱唱してましたよwwww」

「嘘つくなよ。戦国時代に郷ひろみ生きてねーよ。
 それにテレビの時代劇でも昔の人って
 今よりずっと固い話し方してるじゃん」

「時代劇とかwwwwあんなの適当に作ってあるだけっすよwww
 いい加減な知識に基づいて俺を描いたりするの、
 実はけっこう迷惑なんすよねwww」

「それ、NHKの人とかが聞いたら怒るぞ」

「マジすかwwさーせんwwww」

ちなみに信長が今座っているのは、兄のケイスケの席だ。
その向かい側に両親。4人家族の典型的な席順である。

ユキオは、カレーにはあまり手を付けず、
サラダの皿に盛られている、レタスとミニトマトを
ちまちまと食べていた。

「おとーさん、食欲ねーっすよwww大丈夫すかwwww」

「私は悩み事があると食欲がなくなるのだよ」

「悩み事wですかwww? それ、俺が聞いても大丈夫なことですかwww?」

「一向にかまわんよ。なにせ君たちの裁判に関わることだ」

「うはwwwwでたぁwwww裁判www」

「私は真面目に話しているのだがね。信長君は弁護側の人間が
 どれだけ頭を悩ましているかは知らないのだろう」

「いえいえwwwそんなことねえっすよwww俺はたまたま
 検察側に回っただけなんでwww弁護側の言い分もちゃんと
 聞いてから判断しますよwww ロベスの野郎がそう決めてるんでwww」

「それなんだけどさ」

ミホが横から入る。

「あんた、4話くらい前の話で、ロベスと論争しても10分も
 すれば負けるって設定はどうなったの? むかつくけど
 あんた、裁判ではすごい弁が立ったじゃない」

「ああ、あの地の分で書かれた設定っすかwww。 
 俺、ぶっちゃけ、あの設定にムカついちゃったんでwww
 ポトを連れて裁判所へ勉強(傍聴)しに行きましたwww
 裁判の実際の流れを見ると参考になりますよねwww 
 うち浦和市だから、さいたま地裁あるじゃねえっすかwww」

「地裁に法廷傍聴しに行ったってことね」とママ。

「そうっすよwww あと図書館とかに行って法律の勉強も
 したら結構知識つきましたよwww民法とかすげー生活に
 役立つ知識満載じゃねえっすかwwwマジぱねえっすwww」

「話を戻すが」

今度はパパだ。

「これは信長君だけではなく、ミホやマリエにも言っておきたい。
 人を裁くのはすぐ終わることかもしれないが、
 人の死は一生記憶に残るものだ。君たちの判断で
 一人の少女の命を奪うことの重大さをよく分かってほしい」

「ふん」

ミホが鼻を鳴らす。

「別に殺すつもりはないんだけど。
 ただ奴が無罪になるのは我慢できない。
 うちにあれだけのことをしておいてさ…」

「まあ気持ちは分かる。ではミホはどうしたいのかね?」

「とりあえず兄貴が不登校になって
 推薦取り消された責任取ってほしいかな。
 そうだよね、ママ?」

「ケイスケの将来を狂わせた罪は重いわね。
 私も死刑までは望まないけど、損害賠償は請求しようかしら。
 具体的には、仮にケイスケが退学した場合、将来つけるはずだった
 就職先等の影響を考慮したうえでの、相当因果関係の賠償ね」

その額はどれくらいなのか。誰にも予想できないだけに怖い。

「貞子から金取る気っすかwwwwパねえっすwww
 そんなことしたら貞子、借金地獄の人生になるんすかねwwww
 つか貞子に現時点での支払い能力無いと思いますよwww
 それにケイスケさんは高校辞めるとは一言も言ってねえっすwww」

「君の態度はさっきからなんだね。笑い事じゃないのだよ。
 私も私なりに今回の裁判が良い方向になるよう
 真剣に考えているのだ」

「おとーさんwww怒らないでくださいwww
 俺、普段からこんな口調なんすよwww
 別にからかってねーんでwww

「そうなのか。ミホ?」

「半分嘘かな。だってこいつ、裁判始まる前の日まで
 普通のしゃべりかただったよ? 
 とつぜんキャラ変わり過ぎて誰だか分からないレベルだよ」

「それ、ポトにも言われちゃったんですけどwww
 俺は夏だからキャラチェンしたんすよwwww」

ママがあきれ顔で言う。

「私もずっと信長君のチャラ男口調うざいと思っていたのよ。
 語尾が常に笑っている感じなのよね。
 誰だって挑発されてるように感じると思うけど」

「まあいいじゃねえっすかwwwそれよりママさんwwww
 カレーのお代わり貰ってもいいっすかwww」

「はいはい。信長君は若い子にしても良く食べるわね」

「俺、普段から頭使って生きてるからwww食べねえっと
 やっていけねえんすよwww自分の体、
 代謝良すぎてびびるわぁwww」

信長はミホの3倍は平気で食べていた。
しゃべるのも早いが、食べる量もすごい。

「あー、本村家のカレー、まじうめえwww
 そろそろ真面目な話ししてもいいっすかwww」

「どうぞどうぞ。てか最初から本題話せよ」とミホ。

「あぃーすww で、今回の裁判なんすけどね、
 貞子とケイスケさんがマジで愛し合ってるかが
 結構重要なポイントかと思うんすけど、あの二人
 ガチっすね。ああいう愛の逃避行をするカップルって強いっすよww」

マリエが明らかに不愉快そうな顔をした。

「別れさせることは難しいってこと?」

「結論から言うとそうっすねwww
 なにせ仮に貞子に賠償責任を負わせたら、
 ケイスケさんは家族を逆恨みしてたぶん
 家には帰ってこないと思いますよwww」

「そうなのかしら? 恋仲の解消を公的に
 認めさせるために裁判をしてるつもりだけど」

「いくら公権力(この場合は神エイトによる)で強制させたって、
 人には内心の自由とかあるんでwww恋する権利までは憲法や法律で
 規制できねえ決まりになってまーすwww
 うちの国はソ連と違いますよwww」

「ケイちゃんは未成年だから自分で正しく判断できていないのよ。
 親が介入することは民法でも認められているじゃない」

「あ、それで言うと、親の許可なしに居住場所を変えたのは
 確かにアウトっすねwww あ、話変わりますけど、
 おとーさんは貞子弁護側の人間であってますよね?wwww」

「そうだが…」

「お父さんはケイスケさんと貞子の交際は認めるんすよねw?」

「まあそうだね。ケイスケがそうだと思える女性がいたなら
 あえて反対する必要はないと思っているよ」

「ほらねwww法なんて警察の取り締まりとか司法で使う言葉っすよwww
 家族の中のルールは家族の中で決めるべきだって、
 モンゴルへの逃避でエリカさんも言ってたじゃねえスカwww
 おれ、あの人の発言全面的に肯定するっすwwww」

「別作品の話をされても困るよ。信長君はいったい
 どちら側の人間なんだ? 検察側のわりには
 ミホたちに否定的なことを言うではないか」

「自分は、ただ貞子に殺されたクラスメイト達の責任をって
 欲しいだけなんでwww俺の友達とか殺されたから
 その私怨っすかねwww他の理由もありますけどwww」

「どんな理由?」とミホ。不機嫌そうな顔である。

「貞子を逮捕してムショに入れてほしいっすねwww
 あ、もちろん俺らみたいな裁判ごっこじゃなくて、
 刑事訴訟して実刑に処されるべきだと思うんすよwww
 だってあんな奴が平気な顔でコンビニで働いてたりしたら
 社会規範上問題大ありっすよwww」

「社会的に問題があるってことね」

「うっすwww俺、これでも元征夷大将軍なんでwww
 さりげなく社会の安定とか、国民の幸せとか
 意識して生きてますよwww
 これ以上の犠牲者を出すわけにはいかねえっすwww」

マリエが少しだけ感心した顔をした。

「確か信長君は貞子の再犯を懸念してたわね」

「そうっすwwwチョリーッスwww」

信長は日本茶を飲み干し、落ち着くのかと思ったら
さらにテンションが上がった。

「ケイスケさんと貞子が恋人関係だから話がややこしくなるんすよねwww
 仮に貞子を弁護する人間がいなければ即有罪で終わりなんすけどwww
 弁護側のアントワネットが強敵っすwwww
 あの女、全員に問いかけるように話すんすけど、あのしゃべり方、
 たとえば裁判員裁判とかだとめっちゃ一般人の受け良いっすよwww」

「さすが私のマリーだ。かしこい」

ユキオが腕組しながら頷くと、
嫉妬したマリエに熱い茶を顔面にぶちまけられた。

「ふああああああアアあああああああああい!?」

ユキオは床の上を元気に転げまわり
うるさいが、誰も気にしなかった。

「俺ら検察側って意見がまとまってねえんすよwww
 お互いの立場が明確じゃねえし、目的も違うwww
 その点、弁護側は貞子の命を救う、ケイスケ氏との恋を
 応援するって一致団結してるのにwww」

「言われてみればそうかもね」とマリエ。

「ロベスの野郎はママが怖くてこの家に
 来てくれねえし、トロツキー、バルサンと相談もしてないwww
 はっきり言ってバラバラっすwww
 ぶっちゃけ裁判する意味あるんすかねwww
 家族で個別に話し合ったほうが良いと思いますけどwww」

「私がケイスケに直接会いに行けばいいの?」

「あ、おかーさんはやめたほうが良いっすよwwww
 たぶん親だと上から目線になっちゃってケイスケさんに
 拒否られる可能性が高いんでwwww そこでミホさん、おなっしゃすwww」

「私が行くのかよ」

「アィ―すwww ミホさんもたまには主人公らしく
 活躍してくださいよwww ここまで読んでる人は
 ケイスケさんが主人公だと思ってるんじゃねえすかwww」

この小説は群像劇として描いているので、
明確な主人公は存在しないことにしている。

「なんすかそれwwwじゃあ、あらすじに
 書いてあること嘘ってことですよねwww
 あとお母さんが口数が少ないって
 初期設定、完全に破たんしてますよねwww
 書き直さなくていいんすかwwww」

「信長黙れ。とにかく私が兄貴に会えばいいんだね?」

「うっすwwwwあとで俺の方からアントワネットに
 連絡して日時や場所とか指定しておくんでwwww
 場所の候補は2年4組がベストだと思うっすよwww
 兄妹水入らずで会話してもらいたいですwww」

だが、ミホは首をひねってしまう。

「うーん、冷静に考えたら私と兄貴が会っても
 即喧嘩にしかならないと思うけどな。今までも
 怒鳴り合いが日常会話みたいなものだったから」

「離婚寸前の夫婦みたいっすねwwww
 ま、とにかく話し合いの機会を作らないことには
 永遠に問題が解決しないと思うんでwwww
 よろしくオナシャーッスww」

ミホは不安になり、両親の顔を見たら、
二人とも首を縦に振ってくれた。

しょうじき兄貴とタイマンで話などしたくもないが、
確かに裁判は延長が続く甲子園状態なので仕方ない。


そして次回の裁判(一週間後の予定だった)が始まる『前日』である。

アントワネットら弁護側に同意してもらい、一方ロベスなど
検察側には内緒でミホ、ケイスケの対談が実現した。

これは公式記録(神8の議事録)に残らない秘密の会合である。

場所は予定通り2年4組の教室に決まった!!

貞子事件により数多の生徒が殺害されるか、
再起不能にされたため、教室はすごく広く感じる。

神エイトらが裁判で使用した時の座席がそのまま残してある。

ケイスケは、そのうちの机を一つ持ってきて、自分の前に置いた。

「ミホも座れよ」 「言われなくても分かってるよ」

机を中心にして向かい合う。

「俺は普段からミホって何気なく呼んでるけど、
 おまえと同じ名前の選手がピョンチャンでメダル取ったな」

ケイスケは、なぜか世間話から始まった。
何かの意図があるのだろうか。

ミホは久しぶりに兄に会うこともあり、
とりあえず合わせることにした。

「知ってるよ。スピードスケートの人だよね?」

「姉妹でメダル取ったよな。妹さんの方だったか」

「同じ名前だからって私の格が上がるわけじゃないけどね。
 私はスポーツとかできない」

「おまえには立派なジャニオタじゃないか」

「立派って……意味わかんないし。ただの趣味だよ」

「コンサートにも行ったんだってな。めでたいことだ。
 おまえも一人前のジャニオタに昇格したってことだよ」

「それ、褒めてんの? それともバカにしてんの?
 なんで私がコンサートに行ったこと知ってるんだよ」

「親父から聞いたんだよ。この前アントワネットの
 屋敷に急に遊びに着てびっくりしてな…」

「あにき」

ミホは低い声で言った。

「そんなことを話しに来たわけじゃないでしょ」

「もちろん分かってるさ。俺だってバカじゃない」

「先にこっちの要求を伝えるね?
 学校へ通え。あと貞子と別れろ。
 その代わり貞子の死刑要求は撤回する」

単刀直入だった。ケイスケは長考してしまう。

ミホに世間話から入ったのは機嫌を取るためだ。
ケイスケは家族側代表の妹をうまく取り入れて
今回の裁判自体を無効にしようと思っていた。

実は裁判を中止にしようとしているのはミホも同じだった。
裁判でいつまでも論戦が続いていたら色々まずい。
(特に作者のネタがつきることが)

「ミホ。俺にも俺なりの考えがあるから、よく聞いてくれ」

ケイスケは長い沈黙を破った。真顔である。

「学校に戻るのは良しとしよう。一度休学したから
 死ぬほど気まずいけど、確かに中卒になるのはまずい」

「うん」

「ところで、おまえにとって水と空気は重要か?」

「は?」

「いいから答えろ」

「……ないと生きてけないよね?」

「俺にとっての貞子がそういう感じだ。
 つまり貞子と別れろっていう、
 お前たちの要求は飲めない。悪いな」

ミホは、こんなにはっきり拒否されると思わなかった。
兄は貞子と別れるつもりが全くないのは、
信長に指摘された通り明らかだった。

これでは、交渉は進まない。それどころか
来た意味ががなかったとすら考えられる。

やがて怒りの感情が強くなっていく。

「あっそ。じゃあ
 交渉決裂ってことになるけど。いいの?」

ケイスケは机の上に両肘をつき、
頭を両手で抱えて悩み込んだ。

「そう結論を急ぐなよ。せっかちなのは
 昔からお前の悪い癖だもんな」

「うん。時間がもったいないからさ。
 明日からまた裁判で話し合おうよ」

「ミホが小5の時好きな男の子がいただろ?
 おまえだって人を好きになる気持ちが
 抑えられないってことは分かってくれるよな?」

「兄貴の恋人は幽霊かゾンビもどきじゃん。
 このまま付き合って将来結婚とか
 意識されたら大問題じゃん。ママ切れるじゃん?
 そいういうの考えてもらっていい?」

どことなく信長っぽい攻撃的な口調になってしまっている。
ミホは無意識のうちに影響されていたのだ。

「俺と貞子はコンビニの店員が勤まったんだぞ。
 タバコの名前覚えるの大変だったけどな。
 貞子は店長からも働きを褒められて…」

「コンビニなんて自給安いんだから誰でも勤まるでしょ」

「おい、働くってのはそんなに簡単なことじゃねえんだぞ。
 俺はおばあさんの家での生活が貴重な体験だったと思ってる。
 学校で勉強だけ出来るお利口さんが
 世の中を知っているわけじゃないってのが分かった気がする」

「はいはい。貴重な思い出だったのね。
 分かった分かった。じゃあ今日の話は
 無駄だったってことで、私帰るから」

「待てよ!! まだ離したいことがたくさんあるんだ!!」

「漢字の変換間違えてるよ」

「あっ。悪い。てかそれどころじゃねえ。なあミホ。
 もう少しだけ俺と話をしてくれよ。俺だって
 いきなりこんな裁判にかけられて不満だらけの
 日々だ。俺にだって言いたいことはあるんだよ」

「ごめん。私今すっごくムカついてるから。
 私は子供だからすぐ喧嘩腰になるから
 兄貴にとっても不愉快でしょ?
 続きは明日の法廷でお願いね」

「ミホ、おいっ!! 待てって!! マジで帰るつもりかよ!!」

ミホは兄を全く無視して教室の扉に手を駆けようとした。

「あぃーーーすwwwww」

そしたら、どういうわけかチャラ男がいた。
説明するのもめんどくさいが、織田信長である。

「あれwwww ミホさんwwwこんなとこで
 会うなんて偶然っすねwww」

「なんで扉の先にあんたがいるの。
 私これから友達と遊びに行くからどいて」

「友達と遊びってwwwもう夕方の4時っすよwww
 こんな時間に遊びに行くなんてパネえっすwww」

「ああ、嘘だよ。悪かったな。
 あんたこそ廊下で私らを監視してたんだろ」

「なんのことっすかwwww俺はたまたま忘れ物を
 取りに来ただけっすよwww」

ミホは盛大な溜息を吐き、どうせ止められるだろうからと
席に戻ることにした。乱暴にイスに座り、明後日の方を向く。
正面の兄の顔を見たくないためだ。

(やべえ。こいつ本気で怒ってやがる。
 引き留めておいてなんだが、
 簡単に交渉できる状態じゃねえぞ)

ケイスケは芥川龍之介のような賢者の顔で策を練ることにした。

「ちょwwwwなんか教室の空気悪くねえっすかwwww
 なんか鼻がムズムズするんすけどwwww花粉症っすかねwww」

「八月に花粉が飛ぶかよ」ミホがにらむ。

「あっ、そうでしたねwwwさーせん、さーせんwww」

信長は自然な動作で、机の一角に椅子を並べて座った。
ケイスケとミホから見て、上座の位置に当たる。

「信長。あんたいっつもふざけてるけどさぁ。
 そろそろ本気でぶち殺していい?」

「えっwwwwなんでですかwwwもしかして激おこすかwwww」

「私ら兄妹の二者面談を提案したのって、あんただったよね?
 まさかずっとそこで私らの話を聞いてるつもり?」

「いやぁんwwwwそんな目で見ないでくださーいwww
 俺はミホさんがキレて席をはずそうとするのが
 怖くてここで見てるだけっすよwww もちろん
 俺には発言権ないっすからwww質問されたら答えますけどwww」

ダン!!

ミホが机に対し、拳を振り下ろした。
ケイスケは反射的に体がびくっとした。
まるで金魚すくいの中の…

「そういう例え、もういらない!! うざいしつまらない!!
 まるで…の表現何回使ってるんだよこの小説!!」

ミホは熱中症対策に持ってきたアクエリアスの
ペットボトルを握る。まだ半分ほど残ってるそれを
一気飲みし、ごみ箱にぶん投げる。

「ナイスショットwwwwwミホさんかっけーwww」

ごみ箱は教室の隅にあり、ミホの席から
離れていたが、奇跡的に一度で入った。

「私、イライラすると飲み物飲むことにしてるの。
 ママにそうしたほうが良いって言われてさ。
 アントワネットがお茶タイム命にしてる理由が分かったよ」

「そ、そうなのか。あはは。アントワネットのお茶うまいよな」

ケイスケ。思わず愛想笑い。完全に妹のターンである。

「信長は置物だと思って話続けてあげるよ。
 兄貴。貞子と別れてアントワネットと付き合えば?」

「はぁ!?」

「兄貴は女がいないとダメなんでしょ?
 女のカンで分かるんだけど、あの子は兄貴に気があるよ。
 アントワネットがあんたとイチャイチャしてたの
 パパから聞いてるから」

「イチャイチャとか人聞きの悪いこと言うな。五階だ」

「ここは二階だよ」

「変換ミスだよ!! 話を戻すが、それじゃ本末転倒だろ。
 だいたいそんなことしたら貞子が…」

「別に貞子が殺人鬼に戻りそうになったら
 その時は警察に通報すればいいじゃん。
 そうすれば奴は刑務所に入れられて世界は平和だよ。
 あんたには少しショックかもしれないけど」

「兄に対してあんた、とは何だ」

「うっせえ。あんた!!」

信長が腹を抱えて笑っている。所詮は他人事か。
ミホが彼のすねに蹴りを入れると、悶絶するのだった。

「うはあああああwwwwいてええwwwwwしぬーww」

イスから転げ落ち、床の上をゴロゴロしている。
死ぬと言ってる割には元気そうである。
ケイスケは彼のことなど視界に入ってなかった。

「くそ……まさかこんな提案をされるとは思ってなかったぞ。
 ミホは他人事だと思ってるんだろうが、今の日本で例えると
 憲法9条二項の改正並みに重いんだぞ」

「そういう知識自慢いらないから。うざい。
 兄貴が女好きなのは裁判でも公表された。
 本当に貞子と付き合って長続きするの?
 ママもこれを一番心配してたみたいだけど」

「愚問だな。俺が貞子を振るかもしれないだって?
 それはないよ。なぜなら俺は、あいつを愛しているからだ!!」

ミホは、明らかに兄を侮蔑する目で見た。

空気が凍り付くように重くなるが、
また信長が爆笑し始めたので、ミホが彼のボディに拳を当てた。

当てただけ。表現としてはそれが適当である。
そのくらいミホは軽く殴ったつもりだった。

それなのに!!

「あぁぁあああああああああああぁぁ?wwwww」 ←信長

ママの血筋なだけに極めて強力な一撃だった。
信長は壁を突き破り、隣のクラスまで吹き飛んでしまった。

この惨状でもチャラさを維持するのは、もはや芸術的ですらある。

「あ、理科の先生wwwwさーせん。すぐ自分のクラスに戻るんでwwww」

3組の人に多大な迷惑をかけてしまったのに軽いノリの信長。

信長は壁を突き破った際に服がボロボロになってしまい、
粉末?(白い粉みたいなの)によって汚れているが、
気にした様子はない。

3組の人らは、4組と壁がつながってしまったので
授業に集中できなくなった。教室の壁に大きな穴が
開いたのだから当然だ。3組の生徒は、震えながら
四組をのぞき込んだり、廊下へ逃げたりと忙しい。

彼らにとって四組とは呪いの象徴である。きっとまた貞子が
暴れたのだろうと思って恐慌状態に陥っていた。

前にいつ書いたのか忘れたが、
4組は学園から放置されたクラス。
しかし当然他のクラスは普通に授業流行っている。

「あーwwww3組の人達、こっちをめっちゃ見てるwwww
 まじうぜーwwwwこの状態で二者面談とか無理じゃねえwww」

「あんたも含めて三者面談だろうが。あとどうせ私が壁壊したのを
 責めたいんだろ。悪かったよ。今日はもう帰ろう」

「おkwwwつかミホさん、素直っすよねww 
 ちゃんと悪いことした後に謝れるあたりがwwww」

「ママが公共物破損は罪が重いって言ってたからだよ。
 それに壊したのは私だから認めるしかないじゃん」

「俺、ミホさんのこと嫌いじゃねえっすよwwww」

「あんたに好かれたって一円の特にもならないよ」

「んなことねえっすよwww良いキャラしてると思いますよwww
 トリビアなんすけど、素直な人って主人公に選ばれる傾向が
 高いらしいっすよwww」

「そうなの?」

「はいwwwなんかぁwwwミホさんみたいな人って
 読者が感情移入しやすいかららしいっすよwww」

「ふん。主人公なんてただの肩書だよ。
 私よりアントワネットの方が絶対目立ってるし」

「あーそれは俺も思ってましたwwww
 しかもなんでマリーじゃなくてアントワネットって
 表記するんすかねwwww実質あいつがメインヒロインすよねwww」

(この2人仲良いじゃねえか。ミホにも仲良しの男子っていたんだな)

ケイスケはそう思ったが、口には出さなかった。

結局、今日の対談は失敗に終わってしまった。
また明日から裁判が再開してしまうのだが、究極の問題があった。

『4組の壁が壊れている』

これは、秘密の対談があったことを露呈してしまう。
つまり、このままの状態で明日を迎えればロベスの
知るところになり、大変なことになってしまう。

兄が妹に聞いた。

「明日からどうするつもりだ?」

「もうめんどくさいから、ロベス君をぶっ飛ばすね」

「な……」

たか…本村ミホ。まさかの武力行使宣言である。
しかも相手は同じ検察側のロベスピエールである。
なぜロベスをぶっ飛ばす必要があるのか?

「ストレス解消」 

ミホは短くそう答えた。信長はまた爆笑し、床を転げまわった。

ロベスをぶっ飛ばしたら、手下のトロツキーとバルサンも
敵に回すことになり、検察側は事実上分裂することになる。

まさに検察側が自壊するに等しい暴挙となってしまうのだが……

いったい明日からの裁判はどうなってしまうのか。


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