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作品名:午後『2時55分』に何かが起きる 作者:なおちー

第11回   神セブンは知恵を出し合った
「前話のソ連軍の話とか、誰得だよ!! あんな余談いらねえよ!!
 無駄に文字数使うと話数が増えて読みにくくなるだろうが!!」

ケイスケは作品に対する批評を始めてしまった。
真面目に答弁するようにトロツキーに注意されたが、無視した。

「そもそも文字数ってなんだよ!? 
 一万文字以上書いたらダメな決まりなのか?」

この小説サイトには文字数制限があるが、
一万文字以上書いても全く問題ない。
要は書いている人の気分といったところである。

「あとなんで俺のセリフの時に限って話数をまたぐんだよ!?
 適当に書いてたらこうなったのか!?」

その通りである。思った通りに書いたら、たまたまこうなったのだ。

「まだあるぞ!! なんでロベスピエールは裁判官でもねえのに
 偉そうに弁護側証人の俺に質問できるんだよ!!
 ロベスが座ってるのは、傍聴席にしか見えねえのは気のせいか!?」

前話で説明したが、この裁判は傍聴席側の人間にも
発言権がある特殊な裁判である。
そこまで細かいことは筆者も考えてないから聞かれても困る。

「ケイスケ君。ナレーションと会話するのをやめて
 ロベスピエールさんの質問に答えなさい」

呆れた顔でトロツキーに言われたのでケイスケが我を取り戻す。
ロベスピエールはため息を吐いた。

「地の分と質疑するなど前代未聞だよ。
 君はこの物語の根底さえ否定するつもりかね?」

「うるせー。このピエールが!! だいたいおまえの名前
 聞くとドラクエ5のスライムナイトにしか思えないんだよ!!」

「……ほう。確かに私も5のファンだが、
 私をスライム呼ばわりするとは
 良い度胸ではないか。表に出たまえ。決闘だ!!」

「上等だこら。どうせなら屋上行こうぜ!!」

二人は法廷(四組)のど真ん中で互いの胸ぐらをつかみ、
大舌戦を始めてしまった。学生らしく元気いっぱいである。

実際に殴りあうわけではなく、至近距離で
罵詈雑言を口にするだけの低次元な争いであった。

「裁判官、なにやってるの!? 早くあの2人を止めなさいよ!!」

「い、いや、だって……まさか喧嘩が始まるとは……」

ミホに怒鳴られ、トロツキーはたじたじだった。
妻に説教されている旦那の姿そのものである。

(バカな……ロベスさんが自発的に喧嘩を始めたのか……?
 事前に渡された台本にこんなことは書かれてなかったが)

バルサンも呆気に取られていた。

裁判記録(議事録)をとっていた織田信長も、どうしたら
いいか分からず、なぜかあくびをした。

その間もロベス・ケイスケ間の言い争いは続いている。

「このフランス気取りのオカマ野郎が!! 
 人の恋愛事情に口出す奴は馬に蹴られて死んじまえ!! 
 てめえみたいな頭でっかちは女と恋愛したこともねえんだろうが!!」

「勝手に決めつけてもらっては困る!! これでも前世は
 下宿先の家のお嬢さんとは恋仲だったのだぞ!!」

「はっ? 嘘くせな。ネットで調べると、てめえは
 史上最恐の独裁者であり、偉大なる童貞だったってことになってるぜ!?」

「き、きさま……。なんという名誉棄損だ……
 後世の奴らはよく勉強もせずに適当なことを書きおって」

「しかもてめえも最後はギロチン台に送られて
 首チョンパされたんだろうが。ざまあねえな!!」

「本村ケイスケ……貴様は明確に私の敵のようだな……」

ミホは裁判官席に張り付き、トロツキーを怒鳴り続けていた。
その隣にポトも加わり、この2人によってトロツキーは
激しい攻撃を受けることになってしまった。

「おい、裁判官!! 眠たいこと言ってるんじゃないぞ!!
 この状況で裁判を進めるのは無理だろう!?
 そこで今日は中断して明日以降やり直すのはどうだ!?」

「う、うーんと……」

「うーんとじゃないんだよ!! あんたが裁判官なんだから
 あんたが早く決めなさいよ!! せっかく裁判が
 できたのにこれじゃ台無しじゃなない!!」

トロツキーは半泣きになってしまう。 (>_<)←こんな感じの顔

裁判を裏で仕切っているのはロベスである。
彼の許可なく勝手に法廷を閉じたら、
あとで何を言われるか分からない

バルサンも同じくロベスの犬である。
彼は親友が説教されるのを戦々恐々と見守っていた。

(本村こえー。あいつ今までぶりっ子してたのか?
 裁判官はジャンケンで決めたけど、
 あいつになってもらって助かったわ)

アントワネットは、こういう争いごとを遠くから見守っているタイプだった。
だから静観を決め込んでいたのだが、実は今日の裁判に出席していたのは
生徒ばかりではない。ユキオはさすがに仕事を休めないので欠席だが、
専業主婦のママは時間が余っている。

「ふたりとも。いい加減にしなさい」

何かが、ケイスケたちの方へ飛んできた。

それは、つかみあっているロベスピエールと
ケイスケの頭上を通り越した。
ケイスケの毛先が少しだけかすり、持っていかれた。

それは何の変哲もない机だった。
だが、ママが投げることによって大砲並みの破壊力を持っていた。

机は壁にめり込んでしまっている。
その状況は神エイトらを黙らせるのに十分だった。

「ロベス君。あなたがしっかりしないとダメでしょ?」

「面目ない。ご子息のあまりにも無粋な言い方に冷静さを失ってしまった」

「あーもう、こんなんじゃ話し合いにならないわねぇ。
 トロツキー君、今日の裁判は中止にして明日からまた始めましょう。
 それとロベス君に話があるから、今日はうちに寄って来なさい」

「え!?」

これにて法廷は閉じられたのだが、ロベスはまたしても
本村家に招待されるのだった。今日の裁判の失態から
ママに説教される可能性が高く、ロベスは猛省したが、もう遅い。

「裁判が終わるまでしばらくかかりますから、ケイスケさんと貞子さん
 カップルは、よろしかったらうちで泊まっていきます?
 部屋なら余っておりますから、お気になさらず」

とアントワネットからの提案。カップルに気を利かせての配慮だ。
確かにケイスケが自宅に帰った場合、貞子と離れ離れ。
貞子には帰る家がないのだから、ケイスケが納得しないのは分かる。

「お言葉に甘えてお邪魔するか?」
「そうだね。私もケイスケと一緒にいたい」

その流れでアントワネットの自宅へ招待された。
まず中学校の校門まで黒塗りの車が迎えに来たのは想定内だった。

車は、巨大な門の前で止まった。
そこで警備の人に顔を見せて通過する。

門の先には深い森が広がっており、
ここからでは屋敷が見えない。
車は、日の当たらない森の中を進み始めた。

10分ほどすると、建物が見えて来た。

(あれがゴシック様式ってやつか……
 中世の教会をでっかくした感じの建物だ)

ケイスケは開いた口がふさがらなかった。
完璧に手入れされた西洋式庭園。
芝生と噴水。大理石で作られた像。
敷地は、広いなどと言うレベルではない。

埼玉県にこれほどの富豪が存在すること自体脅威である。
県議会議員のレベルすら軽く超越しており、
もはや国務大臣レベルの財力かと思われた。

「Ich bin wieder da. mit meine Freunde.」
(今帰ったわ。お友達も一緒よ)

「ヴィルコメン。マイネ・フロエライン und マイン ヘアン」
(ご学友の方々、ようこそいらっしゃいました)

アントワネット嬢が母国語のドイツ語で執事の男性と会話し、
友達二人を屋敷の中に案内した

ケイスケは小声で貞子に悪態をついていた。

(外国語うぜー。ここは日本なんだから日本語で話せよ)

(まあまあ。あの子はオーストリア人だからしょがないよ)

大食堂(琥珀色の壁と天井だった)での食事を終え、
アントワネットの自室に移動。三人で今後の対策を練ることになった。

素晴らしく広い部屋の真ん中に天蓋付きのベッド。
ピアノ。大きなソファ。来客用に用意された長イス。
どこにでも座っていいというので、ケイスケは長イスに腰かけた。

「本格的なフルコースってなんであんなに食べても
 胃もたれしないんだろうな。今日はムカついてたから
 めっちゃ食ったけど、むしろ食べ終わった後の
 ほうがすっきりしてるわ」

「満足していただけましたか? もともとはイタリア王室の食事がもとに
 なってフランチが出来上がったのですが、食事中の血糖値上昇を考慮しながら
 消化に良い順に食べていくのです。たとえばお肉料理を出すタイミング、
 最後にデザートを食べることなどよく考えてあるのですよ」

「やっぱ欧州人って賢いんだな。大食堂も装飾がきらびやかで
 王宮みたいだった。てか完全に王宮だろ」

「うふふ。おじいさまが聞いたら喜びますわ。
 この屋敷はおじいさまの代に改修してからずっと使い続けてます」

「へえ。おじいさんいるのか」

「今別室にいるはずですよ。あとで挨拶します?」

「どうしようかな。どっちでもいいや。
 俺、上流階級の作法とか分からねえし」

「あははっ。そんなに難しいものなくてよ。すぐ慣れるわ」

「アントワネットちゃんは屋敷で生まれ育ってるから
 そういうのが板についてるよな。うちのミホとは大違いだぜ」

「そんなことはありませんわ。ミホさんだって素敵じゃないですか」

貞子が、そんな話はいいから早く本題に入れと目で訴えていた。
アントワネットとしてはもっとケイスケと話していたかったが、
さすがに貞子に悪い。

「おほん」

アントワネット。まずは咳払い。

「今日の裁判は結果的に私たちに有利に運びましたね。
 ロベスは弁護側証人への質問でケイスケさんを追い詰めようと
 していましたから」

「ああ、あれか。俺が家族を捨てたクソ野郎だって
 立証したかったんだろうな。結局裁判なんて俺が事実を
 否定し続ければ長引かせることができるんだろう?」

「よくご存じね。罪状を認めたらすぐ終わってしまうのよ。
 否定すれば相手もむきになって立証しようとするから、
 長期戦に持ち込めるわ」

「俺が今回やった茶番(喧嘩)も有効だってわけだろ?
 ロベスに裁判で発言する機会そのものを奪ってやったぜ」

「まさか、ケイスケさんは計画的に?」

「半分はそうだな。話数をまたいだのもうまく作用したから、
 やっぱり偶然かもしれないけど、あのままロベスに
 発言させたら負けそうな気がしたのは確かだな」

「うふふふ。やっぱりあなたは面白い方だわ」

楽しそうに笑うアントワネット。
クラスで決して見せることのない笑みだった。

貞子は、おばあさんの家にいた時と同じように嫉妬した。
女のカン以上にどう見てもアントワネットはケイスケに
気があるようにしか見えなかった。

現に貞子をそっちのけで二人だけで盛り上がっている。

そこでつい口に出てしまった。

「あんたにはルイ16世がいるでしょ」

「はい?」

首をかしげるアントワネット。貞子の目つきは鋭い。
アントワネットは、ここで初めて貞子が自分に
嫉妬していることに気が付いた。
自宅にいる安心から鈍感になってしまったのだろうか。

「そんなに怖い顔するなよ貞子。
 アントワネットはおまえの弁護を担当してくれてるんだぞ」

「分かってるけどさ……」

「おほん。本題に入りますけど、あれは裁判より議会に
 近い形式なの。ロベスはその気なら多数決で
 さっさと貞子さんを有罪にして終わりにしたいでしょうね。
 彼は元が弁護士で革命家だから、法と理性を絶対だと考えているの。
 キリスト教より理性を上に置いていた人なのよ。
 全員が納得できる結論が出るまで話し合いが続くと思う」

「理性って言っても、一概には言えないんだろう?」

「ちょっと難しい話になるけど、フランス革命で使われた
 一般意思のことね。全ての人がこうなるべきだと思う
 願望みたいなもの。幸福実現欲求に基づく理想かしら。
 彼なりに納得できる方法で裁判の結論を出さない限り実刑はないわ」

「で、俺らには奴に勝てる保証がないって言いたいんだろう?
 奴の知性がずば抜けてたのは歴史書に書いてある」

「……どうしてそこまで私の考えが読めるの?」

「別に読んだわけじゃないさ。フィーリング?
 なんとなく君の考えが良く伝わってくるんだよ。
 相性がいいのかな。うぐぅ…」

貞子にわき腹にチョップされたケイスケ。さすがに親しすぎたか。

「貞子さん……あくまで裁判の対策ですから」

「分かってるわよ……でも相性がいいとか言われたらムカつく」

「あなたも話に混ざればいいではないですか」

「あんたらの話はインテリっぽくてついていけない。
 私は聞いてるだけで良いから、続けて」

アントワネットは、裁判に対する心構えを2人に説いた。
とにかく諦めず、たとえどんな内容を主張、立証されても
反撃の機会を常に伺うこと。知恵を出し続けること。
考えるのをやめた方が先に敗北する。

この裁判は、傍聴席側の人にも主張や陳述が
認められていることから、被告以外の全員に発言権がある。
やはり裁判とは名ばかりであり、議会に近い。

ロベスが、全ての関係者の発言を聞いてから
判決内容を総合的に判断したいためだ。
法人で例えると、神セブンは理事(意思決定)としての
役割を有していると解釈すればいいか

「弁護側は私たちの他に、ポト君。
 あとルイ(パパ)も来てくれれば心強いわ。 
 これだけいれば弁護側の数は十分ね」

「あのポルポトって男もただ者じゃねえんだろ?
 地味な外見だけど内に秘めた闘志は感じたぜ」

「彼にも自宅で対策を考えてもらっている。
 貞子さんも忘れないでね? 貴方には味方がたくさんいるから、
 決して裁判の行く末を悲観しないで」

「そこまで言ってくれるならひとまず安心ね。
 あんたは頭良さそうだから期待してるよ」


日付が変わり、翌日の四組である。
今日も昨日と同じメンバー。
神7プラス・ワン(マリエ)である。

「昨日は僕の失態によって裁判が中断されたことを全力で謝罪する!!」

ロベスピエールにいつもの威厳が戻っていた。
昨日マリエに説教されたのが聞いたようだ。

「本日はこの僕が検察役として陳述をしようと思う」

手元の用紙とにらめっこしながら、じょう舌に話す。

「今回の裁判で争点になっているのは、貞子が殺人をしたことではない。
 それについては、被告は罪を認めているし、過去にしたことは
 誰にも否定できない。明白なる犯罪行為である。
 問題はケイスケ君を誘拐したことである」

(年下のくせに俺を君付けかよ。うぜー)
  ケイスケは頬杖をつきながら聞いていた。

「アントワネット弁護人が昨日に発言した通り、ケイスケ君の
 ナンパが引き金となり、貞子は彼を異性として意識したのだよ!!
 そこにいるケイスケ君!! 貞子をナンパした事実をみとめ…」

「認めるって言ってるだろうが!! 
 昨日も言ったはずだぞ、この痴呆症野郎!!」

「ち、痴呆症だと……? 貴様は口の聞き方がいちいち…」

「はいはい!! 2人とも喧嘩しない!! 裁判中は静粛にお願いしますよ!!」

トロツキーも少しは裁判官が板についたのか、しっかりと注意している。
こうしないとまたミホとポトに説教されるから、そっちの方が厄介だ。

「検察官は陳述を続けなさい!! 気取った言い方は良いから、手短に」

「うむ。引っかかる言い方だが、よかろう」

ロベスは襟(えり)を正した。

「ケイスケ君と貞子の恋愛は本村家として認められないそうだ。
 ママさんやミホさんからすれば当然だろうね。お父上も
 君に学業への復帰を望んでいる。どうだろうケイスケ君。
 幽霊もどきと田舎へ逢引するのは不誠実なことだと思わないか?」

「それは俺に対する質問か。ぜんぜん陳述になってねえだろ。
 もっと事実に基づいた発言をしてくれよ。俺はミホに 
 ぶち殺すと言われたから命を守るために住む場所を変えたんだ」

「トロツキー裁判官、この男は質問に答えるつもりがないぞ!!」

「はいはい。ロベスさんは熱くならないでください。
 ここは国会みたいに答弁の義務があるんですよ。
 ケイスケ君は質問されたらちゃんと答えて」

「じゃあ答えるけどよ。日本の法律のどこに
 幽霊もどき?と恋愛しちゃいけないなんて書いてあるんだよ?
 結婚とかに関係するのは民法か? 俺は読んだことないけど、
 たぶん書いてないだろ。違法性はないと思うぜ」

「違法性はともかく、君の家族はどうするんだ?
 君を大切に思う家族の意思を踏みにじっている自覚はないのか?」

「あるよ? ないわけないだろ。だけど仮に俺が貞子を振ったりしたら
 さみしくなってまた殺人を犯すんじゃねえのか。
 それだとおまえら四組の連中も殺されるかもしれねえな」

「ぐ……」

「苦しそうだな? 俺は家族の思いを犠牲にしたかもしれないが、
 他方でおまえら中学生を間接的に救っているんだよ。
 俺を悪人だと主張したいようだが、ちっと無理ねえか?」

アントワネットは心の中で盛大な拍手をしていた。
ミホも兄の聡明さに驚くばかり。

(ロベス君が押されてるの初めて見た。兄貴は無駄に口がうまいな…)

引きこもりニートだとさんざん罵ったが、やはり兄は
腐ってもエリート高校生。しかも文系でクラス委員も良くやっていた。
言葉を使わせれば右に出る者はいないのだろうか。

「そこの裁判官。おまえソ連人みたいな顔してるな」

「なっ、いきなりなんて失礼な男だ」

「もう貞子は無罪でいいだろ。これ以上話す意味ねえぞ」

「何を言うか。まだ終わってませんよ!!
 現に過去の出演作、および4組の生徒に対する殺人事件は
 彼女自身が訴状を認めてる!!」

「じゃあ、それについての弁護始めるわ。
 なにせ俺、別世界で貞子の過去を直接見たからな」

ケイスケは自分で陳述書を書いてきた。
膨大なA4ファイルの束をどしんと机の上に置いた。

「待て待て!! 殺人は被告が罪を認めた以上、
 今更弁護する機会があるわけがない!!」

バルサンが吠えるが、ロベスは重苦しい顔で彼の陳述を認めた。

「なぜですか!? 奴に発言機会を与えれば
 こちらが不利になりますが!!」

「どんな内容でもいいのだよ。主張したい者には言わせてやれ。
 私は前の世界で人々から言論の自由を奪い、失敗してしまった。
 あの時のフランスは対外戦争により国家の非常事態だったが、
 それでも議会の声を無視したのはやりすぎだった……」

ロベスが沈んだ声でそう言うから、バルサンも黙るしかなかった。
勝気なロベスが憔悴しているのはめずらしい。

貞子は、被告人の椅子に座って愛するケイスケの活躍を見持っていた。
彼女の熱い視線を受け止めたケイスケは、
追い風を受けたように言葉が熱を帯びていく。

「貞子が超能力者だったことは今更立証する必要ねえだろ?
 おいみんな。超能力者だぞ。分かってるんだよな?」

周りを見渡すが、検察側のバルサンらは黙り込んでいる。
アントワネットとポトだけが得意げな顔をしていた。

「検察側の席が静かだな。裁判官。どう判断する?」

「弁護人の主張を認めます。その件はWikiに書いてあります」

「よっしゃ」

ケイスケはガッツポーズ。

「超能力者で気味悪がられたから社会に適応できなかったんだよ。
 学校でも職場でもうまくいかなかったみたいだ。そうだろうな。
 そのことは心から同情するよ。そして親や恋人からも迫害され、
 死にまで追いやられた。だが問題はよ……」

大きく息を吸ってから……

「おまえらが貞子を幽霊もどきと定義してることだ。
 もどき?ってなんだよ。そんなもんがこの世に存在するのか?
 どうなんだよ裁判官」

「え……?」

「幽霊だよ。幽霊ってなんだ? まず貞子が人間なのか
 幽霊なのか判断しろよ。仮に幽霊だとしたら、法の裁きを
 受ける対象じゃねえな。幽霊を有罪にした判例は過去に存在しねえだろ」

トロツキーは困り果て、首を左右に振って
検察側の仲間たちの方をキョロキョロした。
(書いていて今気づいたが、
 裁判官が検察官寄りなのは公平性に欠ける)

ミホたちも同じようにキョロキョロし、
助け舟を出してほしそうな感じである。

(その手で来たか……)

ロベスピエールは爪をかじっていた。
次々にケイスケの攻勢が続き、
幼いころからの悪い癖が出てしまった。

「ほらみろ。あいつらキョドってんじゃねえか。
 貞子を死刑にしたいならきちんと
 理性と法の裁きをしてみろよ。できるもんならな」

「そろそろ私の出番かしらね」

と言ってママが挙手したので、音速でトロツキーが許可した。

「貞子ちゃんは特殊能力が消えたんでしょう?
 異次元に移動するのが特殊能力。具体的には四組のテレビの中から
 出て来たり、旅行などの出先で生徒に襲い掛かるのとか。
 それが不可能になったのは間違いないのよね? 
 私らは盗聴して状況を知ったわけだけど」

「それはたし…」

「待ってください。ケイスケさんではなく、被告人が直接答えてください」

貞子が席を立ちあがった。

「お母さまが話しているのは、端的に言うと次元のはざまのことですね?
 私はあの夜、ミホさんによる猛攻のため、ATフィールドの
 一部を破壊され、その影響ではざまが出せなくなりました。
 立証しようがないので口頭でしか説明できません」

「それで十分よ」

ママはしてやったりと言う顔で微笑む。

「なら単純よ。貞子ちゃんは人間じゃない。
 いえ、人間に戻ったと考えるべきかしら。あと物理的に
 この子に触れられる。これも幽霊じゃない証拠に出来ないかしら? 
 だって幽霊と殴り合いとかできた人って地上に存在するの?
 あっ、今のに反論できる人とかいたら手を挙げてもらえる?」

と言うと、今度は弁護側の席が静かになった。

ママが株の売却益でもうけた時の顔をし、喜びを表した。

普通の中学生が相手なら論破できたことだろうが
ここは二年四組。神セブンの本拠地である。

弁護側にはまだ精鋭がいるのだ。

「裁判官。よろしいですか?」とポトが手を挙げたのだった。

「僕は本村のお母さんの説を否定します。
 そして貞子ゾンビ説を主張します」

全く新しい説である。あの歴史上の超有名人である、
カンボジアのポルポトの今次裁判で初めての
発言だけに会場がざわついた。

「貞子は一度井戸の中に落ちて死んだことは事実です。
 その後、何らかの力によって蘇生し、現在に至ります。
 物理的に人間の少女としてそこに存在します。
 ならば、これは死者がよみがえった姿であり……」

「待って。ゾンビの定義をお願い」とママ。

「はい。僕は死者が蘇生した姿を定義するための
 適当な言葉が思い浮かばなかったため、便宜上
 ゾンビと呼称しました。裁判官、この呼称は認められますか?」

「あくまで個人の主張としてなら認めます。
 問題は被告がどう思うかですが、貞子さん。どうですか?」

「良いと思うわ。女としてゾンビ呼ばわりされるのは腹立つけど、
 人間よりゾンビに近いのは確かね。ならゾンビでいいわ」

被告は自らをゾンビと認めた。これは大きな収穫であった。
もっとも完全なる美少女ルックのゾンビなど地球上に存在しないだろうが。
そしてその件についてロベスがつっこまないわけがなかった。

「ただいまの被告の発言は、弁護人に誘導されたものにすぎず、
 事実として認めるには無理がある!!」

彼はいきり立った。(色んな意味で)

「映画やゲームなどでゾンビのイメージは世間に広まっているが、
 たとえばカプコンの某ゲームソフトのゾンビは、
 肉体が腐敗した不潔な姿だった!! 海外の映画作品なども同様である!!
 そこにいる被告は清潔感にあふれ、若さにあふれ、
 俗世間風な表現では美のつく少女の姿である!!」

「そうだそうだ!!」←バルサンの声。

「意義あり」

ポトである。トロツキーは、威勢の良い彼をすぐに指名した。

「ロベスピエール君は被告の外見の特徴だけでゾンビでないと主張した。
 これも無理があります。蘇生したという事実を考えてもらいたいです」

「蘇生したのはもちろん分かっているさ。
 見たところ、この女は人として完全蘇生をしている!! 現に…」

「ロベスさん。被告をこの女と呼ぶのは不適切であり、
 個人に対する侮辱です。撤回してください」

「ぐ……分かったよ。ポト氏。言い直そう。被告は、どう見ても
 完全なる人間としてこの世界で活動し、生活をしている事実から、
 人間と認めるのが妥当だと思う」

「甘いね」

ポトの目が輝く。彼の内に秘めた闘志が燃え盛っていた。

「彼女の現在の状況からゾンビ説を否定するか。
 ならば、互いの主張の根拠を明らかにするためにも
 ゾンビ、という言葉の意味を知る必要がある。
 裁判官はゾンビの定義をどう考えるのか?」

「率直に申し上げて分かりませんな。ゾンビとは世間一般で
 認知されておらず、架空の存在だとされています。
 過去に存在した事例もないでしょう」

「みんな聞いたか!? 裁判官はゾンビの定義を分からないと言ったぞ!!
 したがって彼女がゾンビだと主張すること自体無効である!!」

ロベスが声を荒げたが、ポトがなおも食らいつく。

「裁判官。僕から貞子氏へ質問することは可能でしょうか?」

「可能です。どうぞ」

「では」

ポトが優しい口調で貞子に語り掛けた。

「このようなことを女性に聞くのは失礼なことを承知の上であるが……」

「どんなことでもいいよ。なに?」

「あなたが当初、我らが4組に現れた時は、映像作品に出演した時の 
 ゾンビ風ルックだったと思うが、次第にオシャレを覚えていった。
 それはオシャレを覚えたから清潔なのであって、
 以前のあなたは、決してきれいな身なりではなかった」

「そのとおりね。全面的に認めるわ。
 だって死んだ姿でみんなの前に現れていたから」

「今現在、あなたの肉体年齢は何歳なのだろうか?
 見たところ10代後半で、アントワネットたちと
 同じくらいの年齢に見える」

「14歳だよ。特殊能力で若返ったの。
 そのあと戻せなくなったけどね」

「あなたは19歳の時に死亡し、ゾンビ化した時も同じ年齢であった。
 過去に殺人を犯した際、また我らのクラスに現れる時も
 19歳だったのは間違いないですね?」

「間違いありません」

「ありがとうございます」

質疑はこれで終わりだった。
ポトは会場全体を見渡しながら両手を大きく広げた。

「殺人をしていた時期の貞子さんの年齢はみんなが知っているとおりですが、
 現在と異なります。現在はご覧の通り14歳の少女となっています。
 この事実からも彼女を人間とするのは不可能だと思う。
 生まれ変わることに加えて、若返るという人知を超えたことをしている」

ここでママが挙手し、席を立った。

「若返ったからなによ? より人間に近くなったとも解釈できるわ。
 さっきも言ったけど今は特殊能力が使えないんでしょ。
 埼玉北部の田舎で畑仕事とコンビニ定員もできたなら
 普通の人間と変わらないじゃない。それよりうちの
 大切な息子を誘拐した事実について主張したいんだけど」

いいところで時間が来てしまったので法廷は閉じられた。
一度の裁判時間は午前中の9時から12時までの3時間で終わりだ。

今回は貞子が人間か否かについての話し合い(議論?)だったが、
結論は出なかったので翌日以降に持ち越しである。
次回はママの主張する誘拐の事実について議論したりと、色々忙しいのだ。

あとは各自家に帰るなどして対策を練り、翌日の裁判に備える。
別の日に今まで発言機会のなかった人の主張や陳述を聞くのだ。
証拠品も余すことなく提出してもらい、検証する。やはり国会に近いだろうか。

判決を出されるまで、しばらく時間がかかる。


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