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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第7回   7


太盛の家を目指す一行。

最寄駅から電車に揺られ、田舎から田舎へと移動する。
ローカル線で真昼ということもあり、席は座り放題。
ミウは窓の外の景色をそれは珍しそうに観察していた。

「この辺りはどこまで行っても山ばかりなんだね。
 町の方から離れたらどんどん山奥になっていきます。
 すっごくのどかで空気がきれい。神社やお寺が多いんですね」

「まるで初めて栃木に来た人みたいな感想だね。
 ミウは本当にここで暮らしていた記憶が無くなっているんだ」

「記憶喪失系の美少女って先輩的に需要有りますか?」

「いや、需要とか言われても……。
 ミウも好きで記憶喪失になったわけじゃないと思うよ?」

「ミウ先輩は何がきっかけで記憶を失ったのですか?
 宇宙人に洗脳でもされたんですか?」

「私が一番知りたいよ……」

と言いつつ、まさか前の世界の記憶を
引き継いでいるとは間違っても口にできない。

「んふふ。それにしても、太盛先輩ったら大胆ですよね」

「なにがだ?」

「エリカさんというものがありながら、
 すぐ他の女に目移りしちゃうんだから」

太盛は驚き、ミウはいらだった。

「エリカ先輩って粘着質だから敵に回すと怖いんですよ?
 あの人、同じ学年で女子の手下とかいるそうですからね。
 それが分かってて浮気してるなら私は何も言いませんけど」

「マリーさんねぇ。さすがにその言い方は太盛君に失礼じゃない?」

「そうでしょうか? 太盛先輩ってモテるじゃないですか?
 そういうタイプの人ってもっと慎重に恋愛するべきだと
 思うんですよねー。適当に女の子を選んでると
 陰で誰かを泣かせてるかもしれませんよ?」

「俺はモテてないと思うけど」

「またまた、そんなご謙遜を。美術部でも先輩に
 熱い視線を送ってる子がいたりするのに」

ミウには面白くない話だった。ミウは部活中の太盛を全く知らない。
部員は女子ばかりという話は聞いていたが、エリカとマリー以外に
どんな生徒がいるのか、想像もつかなかった。

「私も結構さみしかったんです。 先輩が怪我されてから
  全然部活に顔を出してくれなくて」

「さすがに片腕じゃあ、絵を描く気にならないよ」

「お茶だけでも飲みに来てくださいな。
 いつでも歓迎いたしますわ」

「まあ、そこまで言うんだったらたまには行くよ」

「あっ、そろそろ駅に着きます。
 先輩、私の肩に捕まってください」

「悪いね」

「そこまでしなくていいよ、マリーさん!!
 太盛君のお世話は私の仕事ですから!!」

「いえいえ。私は同じ部の後輩ですから」

「マリーさん、小柄だから力ないでしょ」

「自宅で鍛えているからご心配なく。
 私は殿方のお世話をするのが好きですの」

「私は彼の使用人だから!!」

はぁ? とマリーと太盛が素っとん狂な声を上げた。

「い、いえっ。なんでもない。忘れて」

顔を真っ赤にしてうつむくミウ。
太盛の世話はこのままマリーに任せることになった。

(ミウは使用人って言ったのか……? 同級生なのに使用人……?
 どういう発想をしたらそんな言葉が出て来るんだ?
 しかし不思議と引っかかる言葉だな……。
 それより座席を立つのに女子の補助いらないんだけど……)

(彼女じゃなくてメイド願望でもあるのかしら?
 自分のことを使用人って言う女は初めて見たわ。
 どんだけ尽くすタイプなのよ)

「あ、ごめ…」

「お気になさらず。電車が揺れたせいですわ」

太盛が前のめりになり、マリーにずいぶんと
寄りかかる姿勢になったのだ。

鼻先に彼女の髪があるので、かんきつ系のリンスの匂いがした。
日光を浴びて無限に色を変える亜麻色の髪。

(俺は芸能人と一緒に電車に乗ってるのか?
 ミウもきれいだけど、この子もすごくきれいだ。
 今までエリカに邪魔されて他の女子のこと
 ちゃんと見る機会ってなかったな)

(先輩は見た目より筋肉質なのね。中学時代は
 荒れてたっていうの、本当なのかしら)

ミウは一つ確信していた。

(マリーさんは絶対マリン様の生まれ変わりだよ。
 この執着心の強さとか、頭の回転が速いところとかそっくり。
 見た目もマリン様がそのまま大きくなったって感じじゃない)

下車。階段のない小さな駅から道へ出る。

「太盛先輩。のど乾いたでしょ?」

ガコン

「自販機でジュース買ってきました。
 紅茶でよろしかったかしら?」

「あ、ああ……。すまないね、おごってもらっちゃって」

「いいえ。好きでやっていることですから。
 暑いから日傘をさしましょうか」

と言い、堂々と相合傘をするマリー。
田舎道で人目がないとはいえ、大胆である。

もちろんミウは憤慨(ふんがい)した。

「ちょっとお二人さん……。
 そんなに密着してるとさぁ……。余計暑くなるんじゃない?」

「でも真夏の紫外線から、けが人の太盛さんをお守りしないと」

『でも』が多いなとミウは思い、ますますイライラした。

「わ、私一応あなたより年上なんだけど……。年上を
 のけ者にして太盛君を独り占めするのはどうなのかなぁ?」

「いやぁ!! ミウ先輩の目ったら、すごく怖いわ!!
 そんな目で見ないでください。怖くて心臓が止まっちゃいますわ!!」

「あなたねぇ……さっきから……」

ミウは爆発寸前だ。

ただでさえ暑いこの季節。梅雨明けの青天の日差しは
暑いのを通り越して主が与えた罰に等しいほど。

ミウは帽子や日傘(折り畳み)など気の利いた物は持っていないので
日差しから身を守る手段がなかった。

そして、暑さで参っているのはミウだけではなかった。

(まだ家まで二キロあるんだよなぁあ)

太盛の家は歩きで30分ほどかかる。

太盛は自転車より徒歩の方が好きなので
四季の変化を楽しみながら、のんびりとこの田舎道を歩く。

彼は若者の割には田舎が好きで、田んぼや水路、小川など
何でもないものを眺めては心を癒していたのだった。

「せんぱぁーい。ミウさんが私のことにらんでくるんですよぉ」

そして突如として自分になついてくるようになった、この下級生の美少女。
実におしゃべりで、一度話し始めたら止まることがない。
MIグランプリ決勝のような勢いである。

そしてどうやら相手をコケにするのが大好きな性格のようだ。
この頃には鈍感な太盛でも彼女の演技には気づいていた。
現に太盛に媚を売る一方、上級生のミウに対し敬意もかけらも感じない。

そんな彼女に対し、太盛が思ったことは……

(うぜえ……)

ということだった。ウザ系美少女である。




「本日は暑い中お越しいただき、誠に…」

屋敷の玄関先では三人の使用人が頭を下げてお出迎えである。
中年女性と若い女性。そしてミウの知ってる後藤がいたので思わず
声をかけそうになり、口を両手でふさいだ。

「……どうされましたか? 具合でも悪いのですか?」

と当の後藤に心配された。

「ご、ごごごめんささい? なんでもないんですよ。おほほ」

下手な作り笑顔。挙動不審のため使用人たちが本気で心配していた。

「ミウ先輩はたまに発作が出るんですよ。
 ちょっと変な人だけど、気にしないでくださいね?」

「年下のくせに、生意気なこと言わないでよ!!」

「でも早く教えてあげたほうが誤解されなくていいじゃないですか。
 本気で頭の心配をされたらミウ先輩がかわいそうです」

「余計なお世話よ。あんた、さっきからなんなの?
 さっきからずっと私に喧嘩売ってきてさぁ」

「おいおい。玄関先で止めろよみっともない」

「ご学友のお嬢様方。こんなところで話をされていては
 暑さでまいってしまいますよ。中で冷たい飲み物を
 ご用意してありますから、どうぞお入りください」

「そ、そうですよねっ。ああははは。みっともないところを
 見られてしまいました。おバカな後輩でごめんなさいね後藤さん?」

「へ?」 「おや?」

太盛と後藤が顔を見合わせた。メイド達も違和感に気づいている。

「ミウ様は、初対面なのに私の名前をご存知でしたか。
 太盛様が事前にお話しされていたのですね?」

「……後藤の話はしたことあるけど。
 ミウは後藤のことを前から知ってる感じだったね」

全員の視線がミウに注がれる。
さすがに気まずくてどうしようかとミウが思った時。

「さて。みさなん」

後藤が手を叩いた。

「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
 私はこの屋敷で料理人として働いている、後藤と申します」

同じようにメイド達も挨拶し、中へ案内された。
女性たちはミウの知らない人だった。
ユーリがいるかもしれないと密かに期待していたのだが。

案内された大食堂では三人分の昼食が用意されていた。
フレンチのフルコースである。

てきぱきと使用人の人達が食材を運んでくる。
相手が学生だからか、もったいぶらずにどんどん皿を
運んでくるので実に豪華なテーブルになった。

「わー。すごー」 「ほんと、おいしそう……」

はしゃぐマリーと気乗りがしないミウ。

ミウは普段と立場が逆になったので不思議な感じだった。

(使ってるお皿の種類も同じね。持ってくるお皿の順番も
 私が教わった通り。いつものお昼のコース料理。
 後藤さんが作ってるから味なんて食べなくても分かってるよ)

太盛の向かい側の席に女子二人が並んで座っていた。
太盛へ使用人の一人が近づき、耳打ちした。

「え? お父さんはまだ仕事なの? いつ帰ってくるの?」

「それが、ちょっと仕事が立て込んでいるらしくて、
 最悪本日中には戻られないとのことで……」

「そっか、ミウの顔見せてあげたかったのに、残念だな」

「党首様も残念がっております。
 ぜひ次の機会を設けていただければと……」

「分かったよ。仕方ないよね。親父殿の会社も大変みたいだし」

太盛がそのことを二人に伝える。

「えええっ、お父様に会えないんですの!?
 残念ですわー」

「声でかいよ。あとなにがお父様よ」

「だって太盛さんのお父様なら、お父様ってお呼びしないと」

「あんたは初対面の人に馴れ馴れしすぎなの。
 党首様はお堅い方なんだからそんな口調だと怒らるよ」

「党首様に会ったことがあるみたいな言い方ですね?」

「あっ……。いえ、ただ太盛様のお父様は立派な方らしいからさ、
 たぶんお堅い感じの人なんじゃないのかなぁっと」

「じゃあミウさんもその変なくせ直さないといけませんね。
 初対面の人に失礼ですよ?」

「なんですって!!」

「あー怖い怖い。これがテレビでやってた更年期障害だわ」

「あんたと一個しか年違わないよ!!
 私をババア扱いしたわね。もう怒った……!! 
 表出なさいよ。そんなに私が気に入らないんだったら決闘よ!!」

「きゃーこわーい。せんぱーい助けてー!!」

「うん。なんていうかさ……。
 親父殿がここにいなくて良かったよ。
 招待しておいてなんだが、そろそろ静かにしてくれると助かる」

部屋の隅でひかえているメイド達は呆れて声も出ないほどだ。
普段からこの屋敷の食事中に騒ぐ人などいないからだ。

食事中は時計の針の音と、庭の小鳥の鳴き声だけが
聞こえるほど静寂だった。

「太盛様、もう一時半になります。
 そろそろお部屋でくつろがれてはいかがですか?」

「もうそんな時間なのか。分かったよ」

後藤から暗に出てけと言われたのと同じである。
招待された客人としては大恥である。


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