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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第6回   「この、大バカ者が」
「この、大バカ者が」

案の定、太盛は党首から厳しい叱責を受けることになった。

「貴様というものは、高校生にもなってつまらぬ喧嘩をして
 怪我をして帰ってくるとは。おまえはいったい何歳になったら
 堀家の人間の自覚が身に着くのだ?」

食道の長テーブルの上座に座った父。床に正座する太盛。
これが説教の基本スタイルだった。
特に太盛が荒れていた中学時代は事あるごとに説教されていた。

意外に思わるかもしれないが、思春期の太盛は
けんかっ早く、親に逆らえないうっぷんを同級生にぶつけた。

ささいなことで口げんかになり、殴り合った。
素行の悪さから不良に目を付けられ、今回のように
集団でボコボコにされることは初めてではなかった。

女顔なのに意外とキレる系。
勉強のできる暴力男子。
周りからそう陰口を言われたものだ。

実は一部のマニアックな女子から異常に人気があった。

「おまえは推薦で大学入試を望む身である。
白昼堂々とこのような暴力事件を
起こして内申点に響くのが分からんのか!!」

「……はい。自分でもバカなことをしたと思ってます」

「テスト前の大事な時期に貴様ともあろうものは!!
 喧嘩の原因は何だったのだ!!
 またおまえが下級生に食って掛かったのか?」

「違います……」

「ではなにか!? 向こうから一方的に喧嘩を売って来たと!?」

「その通りです。帰ろうとしたら、机に書置きがあって、
 中庭に来いと。そしたら一年生の集団にボッコにされました。
 彼らはちょっと普通の集団ではなくて」

「ふむ?」

「とある女子のファンクラブなのです。
  その子は学年トップの美人で性格も良いって評判で」

「エリカ君のことか?」

「エリカじゃありません。エリカとは全然違う、優しい感じの娘です」

「その娘、なんという名だ」

「ミウさんです。高野ミウさん」

その名を聞いた瞬間、党首の頭の奥に何かが引っかかった。

「むぅ」

思わず頭を押さえる。持病の偏頭痛の発作かと思ったが違う。
党首の脳内に見知らぬ海岸の映像が浮かんだ。理由は全く分からない。

「お父さん。どうしましたか?」

「……その娘。外国育ちのような気がするな」

「生まれと育ちはイングランドだそうです。
 まだ説明してないのによく分かりましたね?」

「いや、なんとなくな……」

党首はなんとなく、その娘を見てみたいと思った。
親として、息子の好きになった女の子が気になるというのもある。

「おまえは、まだエリカ君と付き合うつもりはないのか?」

「いいえ。僕は一方的に女性からアプローチされるのは
 好きではありませんから。自分の好きな相手は自分で
 見つけようと思っております」

「ふむ。その考え方は良い。それとそのミウという娘に
迷惑をかけたのだから、謝罪をしなければな。
応急処置をしてもらった件もある。今度屋敷に連れてくるといい」

「よ、よろしいのですか? エリカがあとで嫉妬して
 大変なことになると思いますけど」

「かまわぬ。私が決めたことだ」

党首の決定は、神の意思決定に等しい力を持つ。
雷鳴のような父の声が食堂に響き渡った時、
太盛は確かな手ごたえを感じていた。

ミウと接近するのにこれ以上ない後ろ盾。
今回の暴行事件が、太盛の運命をより良い方向へ
導くものだと確信できるほどに。

党首は、結婚に関しては自由恋愛主義である。

息子の結婚は親同士が決めた相手ではなく、
できれば学生の頃から交際した相手と
決めるべきだと考えていた。





時は過ぎ、学期末テストの時期がやって来た。
太盛のクラスは優秀な生徒が集まっているので
テスト前だからと慌てる人はいない。

太盛は大怪我をしたが、テスト一か月前から
計画的に勉強を進めていたのでそれほど影響はなかった。

一週間のテスト日程を終えた後は、
テスト返却を兼ねた半日授業になる。

教室内では緊張感が失われ、誰しも夏休みの予定で
頭がいっぱいだ。比較的裕福な生徒が多いこの学校では、
太盛のように海外旅行の計画を立てる者が少なくなかった。

人は長期の休みがあるけで興奮するものだ。
夏祭り。海。プール。花火。カラオケ。
やりたいことはたくさんある。

「太盛君。私がカバン持ってあげるから」

「助かるよ」

帰りのHRが終わり、当たり前のようにミウが太盛を連れて帰ろうとすると

「ちょっと待ちなさい」

エリカが立ちはだかる。

「ミウさん。あなたは頭が悪いのか、それともわざとなのかどっち?
 あなたが太盛君とそうやって関わろうとすると
また研究会の人達を怒らせるのが分からないの? 
間接的に太盛君を傷つけることになるのよ?」

「あっそうですか。
それはエリカさんには関係ないことですよ」

と言って相手にしようとしない。

太盛は明後日の方向を向き、
エリカと目を合わせないようにしている。

エリカはしばらくミウとにらみ合いを続けていた。
エリカの視線は熱量を持って相手を射抜いてしまいそうなほどだった。

ミウは屋敷時代からエリカの恐ろしさをよく知っている。
卒倒しそうなほどの恐怖に耐えながら、視線をそらさなかった。

……修羅場が始まったぞ。

と生徒たちの視線が集まってくる。

『俺、先帰るからあとで結果教えてくれよな!!』
『おう。ビデオ撮っとくよ』
『これ、ようつべにUPしたら再生回数稼げんじゃねえの?』
『リアルでこういうの見れる機会ってなくない?』
『昼ドラより面白いんだけどー』

ミウとエリカは戦うのに必死で
スマホを構えるクラスメイト達の視線を気にしていない。

ちなみに太盛達の写真や動画が全校に流出してるのを
知らないのは本人たちだけだ。

「ミウが親切でやってくれてるんだから、ほっとけよ」

小声で太盛が言うと、エリカは思うところがあったのか、
大きく息を吐いてから走り去った。
例えるなら狩りに失敗したチーターである。

(あー怖かったぁ……。屋敷時代なら収容所行き確定だったよ……)

呆気にとられる教室の面々。今日の修羅場はこれで終わったのだ。
生徒たちは『今日カラオケ寄ってかねー?』など軽いノリで帰っていく。
もう少し派手な争いを期待していた女子達は物足りなそうな顔をしていた。

ミウと太盛は廊下へ出たが、今度は一人の男子が追いかけて来た。

「待て待て2人とも。
 さすがにそのまま帰ったらまずいことになる」

ボーズ頭の黒髪。顔は下膨(しもぶく)れで、若干サルっぽい。
筋肉質で小太り。お世辞にも美男子とはいえないが、
成績は大変に優秀で、常に学年トップ5内に入る。太盛の友人だ。

「高野さん。君の気持ちは分かるけど、ほとぼりが冷めるまで太盛と
 距離を置いた方がいい。今はテスト明けだから奴らに襲われるリスクが高いぞ」

「もう太盛君には手を出さないでって言ってあるから大丈夫だよ」

「そんな簡単に手を引くような奴らだったら苦労しないよ。
 実はあの中の黒幕が学校関係者の息子でね。
 先生方も手を出せないようになってるんだよ」

「え? そうなの……?」

「誤解されないように言っておくが、俺は何も二人の関係を
 邪魔するつもりはないんだ。ただクラスメイトとして心配してるんだ。
 うちのクラス、学園中で超有名になっちまってるぞ。
 太盛の腕さ、折れてるんだろ?」

「いいや。折れてはいないよ」

太盛が首から下げた三角巾から包帯で巻かれた手を出した。

「転んだ時に左手をついてしまってね。ねんざしたんだ。
 念のため三角巾をして保護してるのさ。
 ある程度怪我してるアピールをしておかないと
 また襲われるかもしれないしな。
 心配かけてすまないな、マサヤ」

「いや、おまえが謝ることじゃないさ。
 重症じゃなくて良かったな」

その男子はマサヤと言う名前で、クラスメイト全員から
下の名前で呼ばれるほど人気者だった。

どんな時でも焦らず、のんびり屋なところが不思議と人を引き付ける。
太盛と同じく真面目で委員長気質の人間だった。
というか一年の時は委員長だった。現生徒会役員でもある。

「マサヤ君、心配してくれてありがと。
 でもね、私は今日太盛君とどうしても外せない用事があるの」

「用事? 気になるね。どんな用事か聞いてもいいかな?」

「いいよ。どうせあとでみんなにばれると思うから。
 私ね。これから太盛君の家に遊びに行くの。
 ご党首様にお呼ばれしてるから」

この一言で、教室にまだ残っていた何人かがずっこけた。

「な、なにぃ……」マサヤは驚愕(きょうがく)。

「それこそ火に油を注ぐようなもんだ。
 ヤツラ、それを口実にしてまた襲ってくるぞ。
 しかも党首様って、太盛の親父さんかよ。あの大企業家の」

「うちの父は普通のサラリーマンだよ」

「いやいや。すげーお方だよ」

「あのー」

観衆の一人だった女子が会話に入ってくる。

「いっそ公言したほうがよろしいかと。
 親公認ってことは、お二人は完全に付き合ってますよね?」

「あなたは、この前太盛君を助けてくれた人?」

「はい。一年の斎藤です」

まさかのマリーである。彼女も校内では有名人だ。
いつからここにいたのかと周りがざわつく。

「えっへへー。暇だから二年生のクラスに遊びに来ちゃいました」

「そ、そうなの。久しぶり。この前はお世話になりました」

「ミウ先輩。年下に頭下げないでくださいよぉ。
 困っている人を助けるのは淑女として当然の務めですわ」

このわざとらしいほどに軽い口調。
民放のFMラジオの女性DJのようである。

彼女の明るさで教室内の殺伐とした空気がにわかに和らいだ。

「ミウ先輩。これから太盛先輩の家にお呼ばれですか?
 いいないいな。お金持ちの家。あこがれるなー」

(うわ。今どきこんな分かりやすい
 ぶりっ子っているんだ。ちょっとうざいな……)

とミウは思いつつ

「斎藤さんの家もお金持ちだって聞くけど?」

「太盛様の家に比べたら大したことありません。
 それと呼び名はマリエかマリーでけっこうですわ」

「じゃあマリーさんって呼ぶね……。私一応英語圏の生まれだから」

「お好きにどうぞ。で、私も先輩の家行っていいですか?」

「……マリーさんは午後の部活動があるでしょ」

「部活なら出ませんよ? 今日はエリカ先輩が来れないって
 メールがあったから話し相手がいなくて暇なんですよぉ。
 テストも終わっちゃいましたし」

「なら、友達と買い物でも行けばいいでしょ」

「あれれ? ミウ先輩って冷たい人なんですね?
 なんだかマリーに来てほしくないみたいです。
 太盛さんはマリーと遊ぶの嫌ですか?」

「え……!?」

さすがに返答に困る太盛。マリーは嘘っぽく泣きそうな
演技をする。太盛はこういう駆け引きにうといので
断るのは悪い気がした。

「おい太盛。彼女も連れてってやれよ。
 家で高野さんと二人きりよりまだ世間体が良い。
 それに斎藤さんはあの時に助けに来てくれた恩が
 ある。おまえの家にお呼ばれする口実になるだろ」

「しかしマサヤ……。ミウが怒るんじゃないかな」

「一年生の女子を振ったら余計悪いうわさが立つって。
 悪いこと言わないから両方とも連れていけ。
 ほら、またみんな見てるからさっさと行けよ」

「わーったよ。おまえがそこまで言うんだったらな」

太盛は賢いマサヤの言うことに従う傾向にあった。
それだけ彼を認めていたのである。

太盛は優柔不断な自分よりマサヤの方がクラス委員に
向いていると思っているほどだった。

(マサヤ先輩。グッジョブ♪)

(全部この子の策略通りに進んでてすごいムカつくんですけど。
 どことなくマリン様に似てるような……)


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