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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

最終回   『収容所爆破事件』
ついに運命の日がやって来た。
この事件によりミウの物語は終息に向かう。

11月9日。革命記念日を二週間後にひかえた快晴の日である。
一年の進学コース(一組から五組)で大規模な反乱が起きた。

生徒会に対して生徒会選挙への不参加を表明。
続いて建造中のC棟を爆破した。

この事件は、のちに『収容所爆破事件』別名C4事件と呼ばれた。
名前の由来は使用された爆薬、コンポジション『C-4』からとられた。
C-4とは、極めて強力なプラスチック爆弾のことだ。
これによって完成間近だった収容所、監視塔、鉄条網などを一気に爆破した。

夏休み前に実施されたC棟爆破を模倣したものだが、
突発的だった前回と違い、計画的だった。

一般ルートで入手困難な爆弾を彼らは多数所持していた。

『圧力鍋で爆弾が作れるぞ』 五組の生徒の何気ない一言がきっかけになった。

英語版の『イスラム国が発行する雑誌』を取り寄せ、日本語に翻訳して
大いに参考にした。日本語版は入手できなかったため、
英語が得意な生徒らが翻訳した。
雑誌の全ページを正確に翻訳するだけで一か月かかった。

圧力鍋爆弾は、即席爆破装置である。

圧力鍋や消火器など密閉される容器に爆薬を入れて燃焼させると、
圧力が容器を破壊する極限まで高まった時、一気に爆発する。
つまり、密閉力が高い容器ほど、破壊力が大きくなるのである。

その威力を決定づけるのは燃焼ガスである。爆薬が燃焼した際、
元の体積の何倍ものガスが発生するかが威力のカギを握る。

爆発の威力は、例えば人込みの中で爆破させれば
周囲にいる十数名を死傷させることができる。

記事には、家庭で取り寄せられる材料を使用した爆弾の作り方が紹介されている。
文系の生徒が翻訳したものを頼りに、理系の生徒が実験した。

彼ら進学クラスは、少数の反対者を覗き、ほとんどの生徒が団結して
非公式の反生徒会グループを作成。学校の勉強を放棄してまで
爆弾作りに専念した。日本の未来を担うエリート高校生たちが、
その頭脳と気力をテロ行為のために使ったのである。

生徒会は、事件が起きるまで彼らの詳細をつかめなかった。
生徒会の広大な諜報網をかいくぐり、
これだけのテロを実施できたことは、驚愕に値する。

彼らは執行部員のカバンにあえて爆弾の設計図を入れた。
生徒会では内部のスパイを疑わざるを得ず、
現実として執行部は機能不全状態に陥った。
猜疑心の強いボリシェビキの裏を突いた高度な工作だった。

彼らは休日のたびに他県の山中まで遠征に行き、爆破実験を繰り返した。
過酷を極めた実験では負傷者まで出た。
熱意のある一部の生徒はアラビア語を理解するようになり、
外国のテロリストとSNSでつながりを持つに至った。

するとこんな情報が入ってくる。

『アフガンを根拠地とする武装戦闘員募集。給料九十万(円で換算)。
 福利厚生として、奴隷(拉致した白人の奥さん)所有制度あり。
 無料アパートへの入居可。武器弾薬も至急。
 戦車、装甲車への搭乗訓練あり』

望まれる人…
・人種国籍は問わない
・神の言葉(アラビア語)で話ができる人
・ムスリムであること
・喜んで自分の命を投げ出せる人
・生命保険に加入していない人

Twitterで紹介されているテロリストの求人の例だ
(実話をもとにした)
アラビア語を日本語に訳すとこのような感じである。

「マリエちゃんも一緒にやろうよ」

「のー。ばくだん、こわい」

マリーは進学コースで少数の爆破テロ反対派だったが、
結局全体の流れには逆らえず、キャンプに参加させられた。
今面倒を見てくれているのは、五組の女子のクラス委員。

成績的には一組が相応しい彼女は五組である。
中等部の時から先生を言い負かすのが有名だったので、
先生たちから嫌われて五組に配属されていた。

彼女は生徒会直属組織であるクラス委員に属しておきながら、
反生徒会の立場をとるスパイだった。

「慣れれば大丈夫。怖いのは最初だけよ?
 マリーちゃんも理系クラスなんだから
 爆弾作りは慣れておかないとだめだよ」

時間は一か月以上前にさかのぼる。
ここは茨城県の山中だ。
生徒達は山奥で大規模キャンプを実施していた。
目的はテロに使う爆弾の製造と実験である。

女子に言われ、マリエも圧力鍋爆弾作りに励む。
マリーは『お母さんの台所で爆弾製造』と書かれた記事の
日本語訳を熟読させられた。(こういう雑誌も実在するから恐ろしい…)
記事によるとマッチ、砂糖、バッテリーを材料にして
1〜2日で手軽に爆弾が作れてしまうのだ。

「最初は簡単なのからやってみようね。
 まずはふたを開けて火薬を中にセットして」

「ひぅっ」

「触っただけじゃ爆発しないから怖がらなくていいのよ?
 空いた部分に釘やベアリング(金属球)と金属片を入れて。
 ぎゅってなるくらいたくさん押し込むのよ?」

「What for?」(なんのために?)

「爆発した時にこれが飛散して人体を殺傷させるのよ。
 爆弾っていうのはね、漫画だと爆風と火炎で
 人を傷つけてるように見えるでしょ? 
 実際に広範囲の人を殺すには破片の方が重要なのよ」

マリエは、淡々と話すその女子に戦慄した。
彼女の名は『八木ナコ』。友達からは親しみを込めて
なこりん、なこっちと呼ばれていた。

「いっと うぃる きる ぴーぽ」(これは人を殺すんだね)

「そうよ」

「よう どんと まいんど? よう うぃる きる ぴーぽ」
(人を殺すことに抵抗はないの?)

「全然。だってあいつらは生きてる価値がないもの」

ナコは吐き捨てるように言った。

「マリエちゃんも生徒会に恨みがあるでしょ?
 あなたの失語症が治るきっかけになるかもしれないわ。
 最近は少し日本語も話せるようになってきたけど、
 あなたの心の傷は決して消えるものではないの。
 復讐はね、早く実行してすっきりしたほうがいいのよ」

ナコは多弁で理屈屋だった。
進学コースの各クラスの委員の中でも彼女の個性は突出していた。
今回の大規模キャンプも彼女が中心となって実施されたものだった。

ここでは生徒達は高度に組織化されていた。

キャンプのための「設営、炊事係」
外部からの探知を防ぐための「諜報係」
爆弾に必要な材料や道具を揃えるための「調達係」
爆弾を使い、試行錯誤をする「実験係」
さらに学校で爆破を設置するための「計画、実行係」

ナコの指示により、それぞれの役割に分かれ、日々研究を行っていた。
彼らは部活動にも適当な理由をつけて休み、
自宅では爆弾に関するあらゆる情報の収集にはげんだ。
調達係は科学系の工場に侵入し、貴重な材料を盗むこともあった。

全ての生徒が何らかの係に加入することを義務化された。
特に女子はこの危険な仕事を嫌がった。マリーもそうだが、
全体主義的な流れに乗せられ、「実験係」に編入された。

「爆破、五秒前」

圧力鍋の四方を大きな仕切り板で囲んでいる。

みんなが安全な場所に避難したうえで、爆破させた。
仕切り板は粉々に吹き飛び、煙が上がった。
生徒達から歓声が上がる。

いちおうキャンプも兼ねているので、炊事係がカレーを作っていた。
一生の思い出になるテロリスト養成キャンプである。
蒸し暑さに悩まされる九月の夕方。どれだけ蚊取り線香を炊いても
蚊はよってくる。中にはダニなどの危険な生物もいるから危険だ。

生徒達は蚊帳付きのタープの中に入ってご飯を食べた。
全面タープ式の大型テントを集めた、200名近くの大所帯である。
一つのテントに、五、六人の生徒が一緒になって寝た。
上空から見たらナバホ族(インディアン)の集落に見えたことだろう。

何もない木のそばにランタンを炊くと、
そこに虫が集まっていくのだった。
こうすると虫よけになる。

「マリーちゃん、泣いているの?」

深夜。目が覚めたマリーは、芝生の上で
両ひざを抱えながら座っていた。
天の川をぼーっと眺めていたら、太盛の懐かしい笑顔が
思い浮かんでしまい、泣きたくなってしまったのだ。

「いえす」

「元気出して。来月には生徒会ぎゃふんと言わせるんだから」

マリーの隣に座るのは、ナコだ。
彼女はマリエのことを特に可愛がっていた。
マリエの露出した肌に虫よけスプレーをかけてくれた。

「せまる、センパイは……しゅうようじょ にいる」

「そうね。あの方をいつまで収容所に閉じ込めて
 おくつもりなのかしら。生徒会の腐った奴らは許せないわ」

ナコにハンカチから受け取り、涙をぬぐうと気持ちが落ち着いた。
自分でも不思議なことに言葉が口からすらすら出て来た。

「私は友達に囲まれて……楽しい。でも太盛は……」

「うん。気持ちは分かるわ。でも私たちは、なげいている時間さえ惜しいの。
 奴らを一日でも早く倒すために爆弾作りに励みましょう?」

「私も頑張る」

「え?」

「爆弾、たくさん作る。それで生徒会の奴ら……ころす」

ナコは、これ以上ないくらい愉快な笑みを浮かべた。
彼女らの学年において、マリエは女子でトップの人気を誇るアイドルだ。
ナコは、マリエの病気を心配していたのもあるが、彼女を
爆弾テロ組織のシンボルとして利用したいと思っていた。

つまり彼女を組織の顔にして統制を強化するというものである。
「調達係」は外国の組織と取引し、中東からシルクロードを
経由して武器弾薬を密輸している。

実際にこんなことをしたら関税法や銃刀法などに
抵触しそうだが、小説なので気にしないことにする。

そういえば自民党が五輪のテロ対策にテロ等準備罪を
作ったことを筆者は思い出した。総務省のHPで
組織犯罪の定義を調べると、彼ら進学コースの
やっていることすべてが該当している。

与党が急いで可決させた法律のため、
途中で追加された項目が多く、筆者も未だに全体がよく分からない。

つまり一年生たちは非常にまずいことをしているわけだ。
強力な生徒会に対抗する勢力を作るためには爆弾テロしかないと思い、
このような設定を考えた次第である。しかし読み直してみると、
かなり無理がある設定だった。これは小説全体にいえることだが。

余談が過ぎたので本編に戻る。

ナコたちが目指しているのは、本物の武装集団だった。
生徒会のボリシェビキたちは、拷問は好むが
直接的な手段で生徒虐殺することはしなかった。ナコたちは違う。
彼女らは初めから人間を殺害する目的で爆弾を作っていた。

その目的は単純。生徒会に所属するすべての人間の抹殺であった。
そして強制収容所の囚人の解放であった。
内申点とか、進学先がどうとか。そんなことは重要ではない。
すでにボリシェビキに粛清された人の数は100を超えている。

愛する人、友人知人。恩師。かけがえのない人々を生徒会に
奪われた彼らの恨みは、膨大なエネルギーとなって
彼女らの組織を動かしていたのだった。






時間軸を進ませ、反乱が起きた場面に戻す。
一学年の大規模反乱は、生徒会本部にただちに報告された。

「人質を取って立てこもっているだと?」

「中央委員会のメンバーが何人か拉致されたようです。
 武装した集団が体育館に立てこもり、要求をのまなければ
 人質を殺害すると言っています」

会長の椅子に座るのはアキラ。
報告しているのは会長の側近の三年の女子だ。
彼女はロシア人で名前はナジェージダ。

ナジェージダはナツキと仲良しのミウを嫌い、
組織委員を辞め、会長の側近に役職を変えた。

長いのでナージャと呼ばれていることが多い。

また関係ない話になるが、
ナジェージダはスターリンの奥さんの名からとった。

監視モニターに体育館何の様子が映っている。

「奴らの要求はなんだ?」

「要約すると、以下の三点です。
 次の生徒会選挙に、彼らが支持する人物を出馬させること。
 選挙結果に不正がないように、第三者の監視を入れること。
 そしてその結果を正しく公表すること」

「つまり我々の選挙を妨害したいというわけか」

「とんでもない条件ですね。
 これほどの悪意を持った集団が一年生たちにいるとは」

呆れた顔でため息を吐き、ナジェージダは報告書を机の上に投げた。
長身でスタイル抜群の美女である。外国人だからか日本の成人女性並みの
色気がある。豊満な胸と腰のくびれが強調された魅力的なスタイルは、
アキラのお気に入りだった。

髪の毛は金髪で、おかっぱに近いショートカットだ。
皮肉にも髪の長さがミウと全く同じだった。
生徒会の女性の間でショートカットが流行していたのだ。

「奴らはどこにいる?」

「体育館を占拠して立てこもっているようです。
 報告によると多数の銃と爆弾を所持しているとのこと」

アキラは、直ちに武力によって鎮圧することを命じた。
今回は相手が多いので収容所二号室の囚人を使役する。

彼ら囚人を最前線で突撃する使い捨ての兵にしようというのだ。
執行部を含めて総勢100名の大部隊で包囲した。

非常事態のため執行部員らの
スパイ容疑は一時的に解除され、動員されたのだ。

体育館は異様な雰囲気に包まれていた。この暑さの中、
全ての窓が閉じられている。放置すれば熱中症になるだろうと
思ったら、いつの間にか空調が設置してあった。

エアコン設置も生徒会にばれないように計画したものだった。
窓ガラスは黒いカーテンで覆われており、
出入りできる全ての扉にバリケードが張ってある。

室外機の周りには遠隔操作できる地雷が仕掛けてあり、
近づくことはできなかった

執行部員が拡声器で中の者たちに語り掛ける。

「一年生の勇敢な生徒諸君。無駄な抵抗はやめて武器を置きたまえ。
 我が生徒会の同士たちをただちに開放しなければ、血の粛清を
 行うことになる。我々の要求に従わない場合は強制収容所送りである。
 学園は君たちの血で赤く染まることだろう」

女性の声である。体育館の外側にはスピーカーが設置してあったのだ。

「私たちは対等な立場で対話を望んでいます。もしあなた方が
 武力によって私たちを押さえつけようとするならば、私たちは
 最後の一人になるまで戦います。体育館の周りには爆弾が設置してあります。
 その扉に指一本触れたら爆破するよう設定してあります」

まさかと思って執行部員が金属探知機で調べると、確かに反応がある。
この緊迫した状況から嘘をつくとは思えないので、
爆破物があると考えたほうが良い。

「おい。貴様」

「は、はひ!?」

執行部員は、一人の囚人を指した。一年生の細身の男子だ。

「入り口にある扉に手をかけてこい」

「と、扉には爆弾が仕掛けてあるんだろう!?」

「いいから行け」

「僕に死ねっていうのか!?」

「貴様ら囚人に人権はない。
 それとも爪をはがす拷問をされるのとどっちがいい?
 三秒だけ時間をやろう」

男子に抵抗の意思は失われた。
震え、絶望し、やけくそになって扉に右手をかけた。

男子の手首から先が、飛んだ。
小さく、一瞬の爆発だった。

「あ…」

床に落ちた手をみる。
遅れて大量の血がぼたぼたと腕から落ちていく。

「うわああああああああああああああああああああああああああ」

さっきまで自分のものだった手。
両親から授かった大事な手。

こんなにも簡単に、人は手を失ってしまうものなのか。
よく見ると、胸にも破片が刺さっている。
服の破れた隙間から血が垂れる。
惨状に耐え切れず、男子は発狂した。

(高性能爆薬か。煙もほとんど出ないうえ、
 腕を一撃で破壊するとは)

執行部員にとって囚人がどうなろうと知ったことではない。
冷静に観察しながら、別の囚人に彼を医務室まで運ぶよう命じた。
彼がのちに再起不能になったことは言うまでもない。

「次はお前だ」

「え……?」

たまたま近くにいた女子の囚人を指した。

「さっきの奴は前の扉だった。おまえは後ろの扉から入っていけ」

「あ、あんな目に合うくらいなら、拷問されたほうがましです」

「私は行けと言ったのだよ。まだ分からないではないか。
 もしかしたら、あっちの扉には何もないかもしれないぞ?
 もし扉を開けることができたら収容所から解放してやる」

とても信じられないが、どのみち従わなければ殺されるかもしれないのだ。

「……嘘じゃないのね?」

「約束してやる。成功したらおまえを英雄として扱おう」

女子は覚悟を決めて、扉へ一気に近づいた。
その時であった。扉が向こうから空いたかと思うと、
生徒が手りゅう弾を外に投げ捨てた。扉をそのまま閉めてしまう。

「は……?」

近くにいた数名の囚人をまきこんで爆発した。
手りゅう弾は、爆風と破片を四散させて人を殺傷させる軍事兵器である。
直撃を食らった女子は瀕死の重症になった。
他の囚人も同様であり、廊下は彼らの血で汚された。
放置したら間違いなく死ぬだろう。

「う、うわあああああああ!!」 「助けてくれええええええ!!」

次から次へと囚人が脱走を始めた。
今回動員された執行部員が60名。
対して囚人が40名(うち四名は再起不能)いたから、
一度に捕まえることはできない。

「きさまあああぅ!!」 「ぐっ」

何人かはこん棒で殴られ、捕らえられてしまう。
だがほとんどの生徒は脱出した。

彼らは校庭を走り、敷地の外へ脱走しようとしたが、
巨大な門が固く閉ざされており、その周りは高さ四メートルの鉄条網で
くくられていて出られない。学校の敷地全体が収容所のようになっていた。

彼らはパニックを起こしてしまい、どこか隠れる場所はないかと
学内を駆け回った。正確な数は36名。
およそ一クラス分の囚人の脱走劇であった。

生徒会からナジェージダの声で館内放送が流れる。

『現在、囚人たちはB棟付近を逃走中です。
 全校を上げて脱走者たちを捕えてください
 クラスごとに武装していただいて結構です
 手段は問いません』

この放送により、学内は混乱の極みに達した。

一方でミウはそんな茶番劇を気にしていなかった。
テロが起きて最初に狙われるのは自分であり、
ナツキである。自分が所属する組織委員会が一番大切なのだ。

ミウら拠点とする総務部(組織委員会)の部屋へ駆けた。
彼女の目に飛び込んできたのは驚くべき光景だった。

「ミウ……君はここに来ちゃだめだ」

ミウの想い人がテロリストに捕らえられていた。
ナツキは縛られて膝をついた状態だ。
吐血したのか、制服の上着が血の色で染まっている。

「ごきげんよう。高野ミウ先輩」

「あなた達は……一年生の子たちね?」

敵はざっと五人はいた。全員覆面をしている。
ナツキ以外の委員の姿はない。

「ミウ先輩にはお使いを頼まれていただきたい。
 ここに会長を呼んでいただけませんか?
 断ればこの男の首をナイフで切ります」

ミウは足元に何かが転がていると思ったら、
人の歯だった。信じたくなかったが、ナツキは
鈍器で顔を殴られて前歯が何本か折られてしまったのだ。

「分かったわ。今連絡するから待ってて」

会長は電話に出なかった。何度かけなおしても
電源が入っていないため、のアナウンスが流れる。

「まだですか。早くしなさい」

「会長が出ないのよ。嘘だと思うなら私の携帯を耳に当てて」

テロリストはミウのスマホを手に取ると、床に捨てる。
ナタで叩きつけ、壊してしまった。

「なんてことを……」

「やっぱり不要になったから壊した次第です。
 先ほど、逃走中の会長とナジェージダを
 捕えたと報告がありました」

「え……?」

「さらに別の報告がありました。諜報委員の大半と
 保安員の全てを捕えました。そしてこの部屋も占領したも同然。
 高野ミウ先輩と高倉ナツキ先輩には体育館まで同行願います」

ミウは、生まれて初めて手錠をされた。
硬く、冷たい感触に震えがとまらない。
自由を封じられるのが、こんなにみじめな
事だとは知らなかった。

ナツキは荒い息を吐きながら体育館までの道のりを歩いた。
体中に殴打の跡があるため、歩くだけで痛むのだ。

体育館には捕らえられた生徒会の中枢メンバーがいた。
前の会議に参加した人は、アナスタシアを覗いてほぼ全員いる。
ナツキのように暴行された人も珍しくない。
一か所に集められた彼らを大勢のテロリストが囲っている。

外でも銃で武装したテロリストたちが警戒に当たっている。

まだ執行部員が学内に待機していたが、
すでに中央委員のほぼ全員を体育館で人質にとったのだ。
生徒会の指揮系統は崩壊した。

校長のハゲ頭はこんなときでも輝いていた。
背中合わせで座っている会長に言う。

「同士アキラよ。我々の敗因は、ずばりなんだと思う?」

「うまくかく乱されたことだな。我々は体育館の人質に
 気を取られ過ぎて、本部の警戒をおろそかにしすぎた。
 なにせ執行部員の全力を体育館に向かわせたのだ」

「私は敵を侮っていた。そして我々に対し、一年の子達は
 数が多すぎるようだ。今回の反乱分子は少なくとも
 2百人以上はいるだろう」

最初に体育館で人質を取って立てこもっていた間、別のテロ集団が
生徒会の部屋を襲撃して捕らえた次第だ。同時多発的な
犯行に、少数の生徒会は対応しきれなかった。それだけのことだ。

放送室にいるナジェージダも暴行を加えられ、テロリストの
要求通りの内容を放送するように言われた。

『全校生徒の皆さん。待ちに待った日が来ました。
 ついに収容所が解放されたのです。本日を持ちまして
 生徒会による圧政は終わりました』

一号室から三号室までの全ての生徒から囚人バッチが外された。
校内を逃げ回っていた二号室の人間も保護された。
重傷者はすぐに救急車で運ばれた。

強制収容所とは、ボリシェビキ支配の象徴だった。

「いったいどうなっているの?」

「俺が聞きたい」

太盛とカナは互いの手を握りながら、収容所三号室から外へ出た。
普段から表情に変化のない松本もさすがに焦っている。

テロリストが、手をつなぐのをやめろと言うので、
太盛とカナは距離を取った。
彼らには注意された理由が分からなかったが。

「今から体育館に行くぞ」

テロリストに先導されて体育館へ。
体育館に行くのは太盛達だけで、一号室や二号室の人は来なかった。

「せまる……」

太盛は体育館に着いたとたん、マリーにハグされた。
懐かしい彼女の髪の匂いに、暑い夏の日々を思い出した

マリーと太盛の感動の再開に一年生たちが暖かい拍手を送った。
彼らは計画が順調なことによって安心したのか、覆面を外している。
体育館の中だけで50名はいる。みんな、どうみても普通の高校生だ。
だが爆弾を製造できるほどのテロ組織なのである。

「無事でよかった……。あい みすど よう そおまっち」

「俺も寂しかったよ。マリー……」

収容所暮らしをしていた太盛には、事の成り行きが分からない。
とにかく自分が解放された事実を素直に喜んだ。

二人は飽きることなく見つめあい、マリーの方から唇を重ねそうになった。
その時、太盛はある方向から強い殺気を感じた。

ミウだ。一角に集められ、後ろ手に縛られた囚人(中央委員)の中に
高野ミウが混じっている。彼女は太盛とマリーをすごい顔で
にらんでいた。ナツキは歯を折られた痛みが時間と共に
増していき、極度のストレスを感じていた。

カナは目の前でラブコメを見せられて複雑だが、
今は助かった喜びの方がはるかに強い。
松本はずっと囚人の方を見てたから、マリーすら視界に入ってなかった。
マイペースな男である。

「太盛先輩。どうしました?
 そのままマリーと抱き合っていていいんですよ」

「き、君は?」

「一年五組のナコです。ナコちゃんでいいですよ?」

「いや、でもちょっと気まずいかな。ミウが見てるから」

「何言ってるんですか。あいつらは憎き囚人ですよ」

「しかし……。あいつらは負けたんだろ?」

「はい」

「君たちの組織のおかげで俺は助かったわけだ。
 本当にありがとう。あっ、あそこにいる役員連中は
 このあと、どうするつもりなのかな?」

「もちろん殺しますよ」

「へ?」

「銃殺刑にします」

ナコの目は本気だった。現に彼女らは銃や手りゅう弾で武装している。
腰に弾薬ベルトを巻き、軍用水筒と双眼鏡まで持っているから、
見た目はただの軍オタク。しかし本気で殺戮(さつりく)を目的とした集団だ。

「ナコちゃん。殺人は罪が重すぎないかな?
 あとで警察のお世話になると思うよ」

「すでに大罪を犯していますよ。C棟も爆破しました」

「しかしだね……。これ以上罪を重ねることもないだろう。
 あそこにいる中央委員も全てが悪者じゃない。
 俺は組織委員の人は嫌いじゃなかったよ。むしろ親切だった」

「でも彼女らを生かして置いたら、私たちに復讐するでしょ?
 仲間を殺された恨みってことで。生徒会がよく言ってましたね。
 復讐を防止するには全員抹殺するのが最善だと」

広報部から毎日発行されたビラにそういう内容が書かれていた。
スターリン語録が特に強烈だった。

「太盛先輩たちにここへ来ていただいたのは、
 生徒会の人間を射殺してほしいからなんです」

太盛は耳を疑いたくなった。
実際に拳銃を渡されたが、撃ったことがあるわけがない。
安全装置の外し方も弾の装填の仕方も分からない。

「撃つのが怖いですか?」

「震えちゃって照準できないレベルだよ。
 この展開に全く頭が着いて行かない。
 発狂したいほどだよ」

「なら撲殺でもします? こん棒とか木刀がありますけど」

「どうしても殺さないとだめかな。
 さっきも言ったけど、組織委員の人は生かしてあげたい」

「高野ミウがいるからですか?」

「そうだよ……」

この修羅場において、太盛はミウと話すようになった日を思い出していた。
梅雨の湿気に悩まされる時期だった。ミウが記憶喪失で困っていたから、
助けてあげようと思った。初めはささいなきっかけだった。
エリカに嫉妬され、マリーが奪いに来て、ミウと本格的に付き合うようになって。
紆余曲折を経てここに至った。

ボリシェビキの身に落ちたミウを太盛は本気で軽蔑した。
だが殺したいかと言われれば全く話は別だ。そこまでミウを恨んでいない。
少し前まで大好きだったのに殺意があるわけがない。

ナコは、カナと松本に銃殺の代役が務まるかと聞くと、
二人とも首を横に振るのだった。
普通の感覚をしていたら銃殺などごめんである。

「じゃあ、代わりに私たちが射殺しますね。
 本当は元三号室の人たちにやってほしかったのに残念です」

おい……と太盛が言う前にナコと仲間たちが
囚人に対し、横一文字に並んだ。
凍てついた表情でライフルを構えており、
今すぐにでもトリガーを引いてしまいそうだ。

「ひぃ……」「やめてくれ!!」「助けてくれぇ…!!」

中央委員たちはいざ自分が殺される側の立場に回ると
命乞いを始めるのだった。都合の良い話である。
ナコ達一年はいら立ち、いっそ拷問してから殺そうかと思った。

会長と校長は静かに目を閉じた。ナツキはただ天井を見つめていた。
ミウは神に祈るための十字架に手をかけられないことを残念に思った。

(私が死んだら、ママは家でひとりぼっちか。パパも悲しむだろうな)

中央委員に選出されたのが全ての間違いだった。
だが言い訳はしない。ナツキと付き合い、運命を共にすると
決めたのは自分自身。死ぬのは一人じゃない。だから落ち着いていられた。

太盛は体をそっと銃の前に差し出した。
中央委員達をかばう格好になった。

ナコが呆れて言う。

「なんのつもりですか? そこにいると弾に当たりますよ?」

「俺も一緒に死のうかと思ってさ」

「はい?」

「まず俺を殺せよ。そのあとあいつらを殺せ」

「NO WAY!!」

すぐにマリーが止めに入った。
太盛にしがみつき、銃殺隊の前から遠ざけた。

「太盛は……しんじゃだめ……。しぬのは……あいつらだけ」

「おまえ自分が何を言ってるか分かっているのか?
 あの中にはミウがいるんだぞ。おまえはミウが死んでもいいのか?」

「ミウは、わたしたちの、てき」

「ミウがおまえのことを心配して毎日お見舞いに
 来てくれたことを忘れたのか?
 あんなに優しい子をお前は殺すのか?」

「わたしたち、しんがくコースの目的は、あいつらのまっさつ。
 そのために、いままで準備してきた」

太盛はマリーの冷たい目を見て、テロ組織に完全に染まっていることを理解した。
人間の本質とは何か。太盛が常に収容所で考えていたことだ。

人とは、所属する生き物である。家庭、学校、会社、地域。
所属した組織に対して人は従順になる。そうしなければ
生きていけないからだ。社会不適合者は刑務所か精神病院にでも入れられる。

今太盛の目の前にいるマリーは、太盛の知っているマリーじゃない。
だが変わらないものもある。太盛に対する愛だ。
それはミウも同じなのだろう。

「せまるには、私がいるからだいじょうぶ」

また、太盛にしがみついた。動物園にいるコアラのような動作だ。

マリーは銃殺隊に死刑執行を待って
もらうよう頼んでから、太盛に愛の告白をした。

「I will be よあ がーる・ふれんど」(私を彼女にして)

体育館にいる、総勢70名以上の視線が太盛に集中した。
そのうちの一人にミウも含まれていて、激しく嫉妬していた。
おまえにはナツキがいるだろうと、どこからかツッコミが入りそうだが、
乙女の気持ちは複雑なのだ。

太盛は返答に困り、思わず中央委員の方を見た。
あの女がいなかった。エリカの姉のターシャ。奇跡的に捕まらなかったのか。

「私ならここにいるけど?」

と涼しい顔で入って来た。二重スパイのアナスタシア・タチバナである。
彼女の協力者となったエリカも一緒にいる。

「お疲れ様です。アナスタシアさん。執行部の残党の方はどうでしたか?」

「みんな降伏させたわ。私の権限でね。うふふ。これで完全勝利よ」

ターシャとナコは裏でつながっていた。
計画を実行するかなり前から、取引を行っていたのだ。
ターシャは前会長を粛清されてから兄を
恨んでおり、現生徒会を崩壊させる機会を狙っていた。

諜報候補委員のトップとつながることによって、
爆破テロ計画を秘匿することができたのだ。
執行部員のカバンに設計図を入れたのはターシャである。

「太盛君。久しぶり」

「エリカ。思ってたより元気そうだな」

二人の再開は、夏休みの別荘以来だ。ちなみに現在太盛は
マリーにしがみつかれている状態でエリカと熱く見つめあっている。
わけのわからない状況であるが、依然として修羅場である。

この世界の本来の運命では、太盛とエリカはのちに結婚する。
それを阻止するために現れたのがミウ。ジョーカーがマリー。
現在太盛の彼女はカナ。非常に複雑な人間関係になってしまった。

学園の体制が崩壊するこの危機的状況において、
三人の女たちは全員が太盛を求めていたからである。
(この場合、カナは除外する)

時間を置いて太盛を一目見たら、みんなが夢中になってしまう。
悪魔的ともいえる魅力を太盛は持っていたのだった。

この作品は、恋愛物語である。
物語の焦点は、ミウが太盛と結ばれるかどうかである。
途中で共産主義や生徒会や爆破テロなど余計な要素を多数挟んだ。
そのため、ミウは容易に太盛と付き合うことはできなかった。

「一年生のみんな、聞いてくれ」

太盛が口を開いた。

「俺は誰にも死んでほしくない。虫のいい話だってことは分かっている。
 だが本当に平和的解決を望んでいるんだ。今の生徒会を君たちが 
 恨んでいるのはよく分かる。俺だってそうだ。だが、俺たちは
 昔のことを忘れて新しい次元に進まないといけないんだ」

「俺は、今この瞬間に、君たち一年生を中心とした新しい生徒会を
 組織するべきだと思う。リーダーは好きに決めてくれ。
 二度と共産主義とか強制収容所が学内に生まれないよう、
 学校のためになる組織を作っていこう。最初は俺が組閣を担当する」

「生徒会の奴らは、特別教室にでもぶち込んでおけばいいさ。
 あいつらに救いようがないのは事実だ。卒業まで他の生徒と
 関わらないよう隔離して過ごしてもらおう。もちろん
 暴力とか虐待はなしだ。ただ一般生徒から離れてもらえばいい。
 転校してもらうのも有りだな」

「死が全てを解決するってのは、嘘だよ。そんなことしても
 自分が死ぬまで殺人の罪を背負うことになる。後悔は
 一生続くんだ。だから安易に殺人をするべきじゃない。
 いいか、俺たちはすでに旧生徒会を倒したんだ。
 もう敵はいない。今日から君たちが新しい生徒会だ」

その説得が効いたのか、銃殺隊は次々に銃から手を離した。
彼らは東西冷戦の終結を聞いた時のソ連兵の顔をしていた。

ナコだけは厳しい目をしている。太盛に口を挟んだ。

「では先輩は、彼女には誰を選ぶおつもりで?」

誰も選ばないという選択肢をしたら銃殺されかねない。

「はっきり言うぞ。高野ミウだ」

ミウが目を見開き、ナツキはうなだれた。

「学園が平和に戻るなら俺はミウと付き合いたい。
 初めから彼氏彼女だったから元のさやに戻るだけだ。
 何も不思議なことじゃないさ」

太盛に反論する者は不思議と表れなかった。
マリーもエリカも、太盛の決定なら従うしかない。
この状況でミウを選ぶのなら、それが間違いなく彼の本心だからだ。

その後、太盛の願いとは裏腹に、学園の収容所は使い続けられた。
元生徒会の人間を閉じ込める場所が他にないからだ。
新しい生徒会は、役員が全員一年生という変わった組織になった。
そして元中央委員たちを生徒会の法廷に招き、裁判を行った。

ミウとナツキは、軽犯罪の人が収容される部屋へ行かされた。
旧一号室である。元中央委員で、軽犯罪ですんだのは、この二名のみである。
太盛の懇願により、刑がさらに軽くなり、わずか五日で解放された。

「またこうして二人で歩けるときが来たね」

「ああ。もう間違えることはない。
 俺たちはいつまでも一緒だからな」

手をつないで廊下を歩くミウと太盛。

カナ、ナツキ、マリー、エリカ。以上の四名との複雑な人間関係を
整理し、最後はこの状態に落ち着いたのだった。

今となっては、太盛は生徒会の幹部として所属する唯一の上級生。
彼は組織を作ることに関しては誰よりも優れており、
部署の作成や役員の採用においてその手腕を発揮した。

彼の発言力と影響力は大変なものだった。
ナコからも認められて副会長に選ばれるに至る。
新会長のナコを補佐するのが仕事だ。
太盛のその地位は卒業まで続いた。

ミウと太盛の関係を邪魔する者は学園には存在しなくなった。
これが、神が定めた運命に従って生きたミウの学園生活だった。
 
                          終わり


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