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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第2回   「あーら。太盛くん。こんなところでおしゃべりしてたのね?」
「あーら。太盛くん。長いトイレだと思ったら、
 こんなところでおしゃべりしていたのね?」

タイミングよくエリカが保健室に入って来た。

しくしく泣いているミウと、あわてている太盛。
エリカは一瞬だけ視線をミウに向けたあと、
命令するような口調で言い放つ。

「早く部室に戻りましょう?」

「な」

太盛はミウのことを気にも留めないエリカに腹が立った。
薄情を通り越して冷徹である。

「今日の部活は中止だ。それより高野さんのことが心配だよ」

「それは私たちの仕事じゃないわ。保健の先生にお任せしましょうよ」

「クラスメイトが困ってるのにそんなわけにいくかよ。
 それに保健の先生は会議に出てて不在だよ」

「太盛君、もしかして高野さんと二人きりになりたくて
 保健室に来たの?」

「そうじゃないよ!! おれはただ彼女のことを心配して!!」

屋敷で見ていた夫婦喧嘩とまったく同じ展開だった。
ミウは哀しみより懐かしさがこみ上げてきて、少し笑いそうになった。

なにより太盛が自分のことを心から心配してくれていることが
うれしかった。屋敷にいる時の太盛もこんな感じだった。

そしてミウは、屋敷時代のエリカがミウに
強く出れないことを思い出していた。

「わ、私は!!」

何事かと太盛とエリカがミウに注目する。

ミウは、美人だが人前に出ることが苦手な生徒だった。
授業中も挙手することはめったになく、中学時代の女子の
嫌がらせのせいで内気な性格になっていた。

「私は太盛様にいてほしいです!!」

ツッコミどころはたくさんあった。

当たり前のように様づけのこと。
そして学園では逆らう者がいないと思われたエリカに
対して積極的に意見したこと。(反抗ともいう)
声もでかい。

(今ので確信したわ。この女、病弱なふりして
 太盛君を誘おうとしてるのね)

エリカの瞳に嫉妬の炎が宿る。太盛はエリカの怒りの
オーラのすさまじさにたじろぎそうになった。

「なんで太盛君なの? さみしいなら他の生徒じゃダメ?
 その辺から暇そうな女子でも連れてこようか?」

「私は太盛様といたいです!!」

「あなた、それだけしゃべれるなら元気じゃない。
 もう保健室にいるのはやめて、一人で帰りなさいな」

「家に帰るのは事情があって、その。家の場所とか分からないし」

「はぁ……? 何言ってるのかしら。家の場所が分からない?
 仮病かと思ったけど、ほんとに頭でも打ったの?」

「奥様。お願いです。ここは引いてください。後生ですから」

奥様と呼ばれ、思わず阿呆のように口を開けてしまうエリカ。

どうやら自分を奥様と呼んでいることが分かると、
ますますおかしくなって笑ってしまった。

「あはははは。ばっかみたいなこと言うのねー。
 なにそれ、ドラマのセリフの練習?
 使用人みたいなしゃべり方じゃない。
 高野さんってこんなにおかしな子だったのねっ。
 どおりでいつもクラスで目立たなくしてるわけだわ」

「おいエリカ、あまり笑うと悪いよ。
 彼女だっていろいろあるんだよ」

「さっきからこの子の肩を持つのね。
 太盛君、髪は長めの方が好み?
 私も少し伸ばしたほうがいいかしら」

「容姿のことじゃなくて、
 俺は高野さん個人のことを心配してるんだよ」

「最低ね。浮気よ浮気」

「俺と君は付き合ってないじゃないか」

「でも世間的にはそうなっているみたいだけど?
 先生方からも公認だし」

「君がいつも俺と一緒にいるからそういう流れに
 なっただけじゃないか」

ミウはこの貴重な情報を一字一句漏らさず聞いていた。

太盛とエリカの関係は夫婦になる前からそう変わらない。
やはりエリカの方から積極的に迫っていくスタイルだ。

それにしても二人が知り合ったのは大学時代と聞いていたから、
時系列的にも滅茶苦茶。しかも17歳のミウと彼らが同級生になっている。

当たり前のことだが、マリンやレナ達はこの世界で生まれてすらいないのだ。

prrrrrrr

「ちっ。こんな時に電話」

エリカがスマホを取り出し、
家の使用人たちと電話で何事かを話していた。

「え? もうそこまで迎えに来てる?」

エリカの顔が険しくなる。どうやら急用なので
すぐに帰らなければならないとこのこと。

「そういうわけだから、ごきげんよう。
 太盛君。今日のことは明日詳しく聞かせてね?」

それとミウさんとも話をしないとね。
そう付け加えて早足で去っていった。

太盛が保健室のカーテンを開けると、校庭のすぐ近くまで
黒塗りの高級車が迎えに来ていた。

「す、鈴原さんだ!!」

運転手が会釈する場面をミウは見逃さなかった。
初老のはずの鈴原はずっと若くてりりしかった。

エリカからカバンを受け取り、後部席の扉を開けてあげた。
あのいぶし銀な動作。他人のわけがなかった。

「君は鈴原さんのことをよく知っているな」

「せ、太盛様も知ってるの……ですか?」

「なんどかエリカの家に食事に呼ばれたからね。
 鈴原さんにはお世話になったよ。
 あの家で長年勤めている使用らしいね」

「知ってる人に会えてうれしい……。
 後藤さんもいるのかな?」

「後藤? 後藤って料理係の後藤のことかい?」

「はい」

「いるよ。いるもなにも、うちの使用人なんだけど」

「えええっ」

今すぐに会いに行きたいくらいだった。だが、間違いなく初対面のはず。
ここで下手なことを言うとまた頭の心配をされそうなので
慎重に言葉を選んだ。

「使用人がいるなんて、せ、太盛様の家はお金持ちだよね? 
 じゃなくて……ですよね?」

「うちは別に大したもんじゃないよ。それより様はいらないから。
 あと敬語も変だよ。普通同級生に敬語は使わないと思うけど。
 気軽に下の名前で呼べばいいじゃないか」

「せまる……くん」

「うん」

「太盛くんでいいのね?」

「ああ」

「わ、私のことも」

「ん? さっきから震えてるけど大丈夫?」

「緊張してるだけ……。気にしないで。
 私のこともミウって呼んでほしいの」

太盛が考え込む動作をした。

「あれ? 嫌だった?」

「俺はいいんだけどさ。君のこといきなり下の名前で
 呼んだら周りの人間がうるさいと思うけどなぁ」

「それでも呼んでほしいの!!」

太盛が椅子から転げ落ちそうになった。
それほどミウの声量は大きかった。

「あっ……急に怒鳴っちゃってごめん」

「いいよ」

太盛は深呼吸してから

「ミウ。分かった。君がそこまで言うなら名前で呼ぶよ」

「ありがとう。太盛君。とりあえず、お願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「帰り道、案内してくれない? 私の家までさ」

太盛は、ミウが何か企んでいるのではないかと疑ったが、
エリカの件もあるし、それはないだろうと判断して一緒に帰ることにした。

(しっかし、こうして近くで見ると)

太盛は長身のエリカと違い、小柄なミウがセミロングの髪を
なびかせて歩くのを感心するように見ていた。

ミウは愛らしい容姿から学内で絶大な人気があって、
一種のアイドルと化していた。内気で人前に出ようと
しないところも人気に拍車をかけていた。

(ミウってこんなに可愛い子だったんだな。
 泣いた直後ってのもあるけど、守ってあげたくなる
 オーラを発してるよ。これで世の男子はイチコロってわけか)

校庭を歩くと、練習中の野球部、ラグビー部、陸上部の面々とすれ違う。

彼らの一部は練習の足を止めてまで太盛とミウを指さして騒いでいた。
ミウは大量の視線を感じるので意味が分からなかった。

(なんであの人達、こんなに見てくるんだろう?)

(まずいなぁ。明日から尋問会にならなければいいが……)


校門を出て、西の方角へ進む。
ここは進学校。田舎の私立高校だ。

広大な田園風景の中に住宅が点在する。
太盛とミウは、梅雨時の蒸し暑さの中肩を並べて歩いた。

車道も歩道も広い。車はめったに通らず、快適だった。

たんぼの稲が順調に育っていて、トンボがあちらこちらを飛んでいる。

田園の先には雄大な山が並んでいる。
山の先に見える沈みゆく太陽が、2人の影を作っている。

この時期は日が長いので、夕日が沈むまでまだ時間がある。

「ここは本当に田舎だね」

「そうね。ところでここって何県だっけ?」

「栃木県。栃木県の北部だよ」

ミウはカバンを落とした。太盛は無言で拾ってあげた。

「ミウは本当にすべてを忘れちゃったんだね?」

「そ、そうなのよ。驚いた?」

太盛は気の毒そうな顔でミウを見ていたが、
やがて面白くなって笑った。

「……バカにしてるでしょ?」

「いや、むしろ新鮮かな。君にだから言うけど、
 正直エリカといると気が休まらなくて疲れるんだよね。
 君は逆に面倒見てあげたくなるから不思議だよ」

「太盛君って優しそうだよねー。
 将来良いお父さんになりそうじゃない?」

「俺がお父さんか。想像もつかないな」

「娘がいそうなイメージ。三人くらい」

「はは。娘がいたらきっと可愛いんだろうな。
 だけどあいつの血を引いてる子は少し嫌だな」

「あいつって?」

「エリカだよ。実はね、エリカが親と勝手に話し合って
 婚約の話を進めているんだよ。
このままだと将来本当に結婚するかもしれない」

これが運命の歯車だとミウは理解した。
この世界でも普通に進めば太盛とエリカは結婚する流れなのだ。

ミウが知っていた世界と違うのは、大学時代よりも先に知り合って、
高校で有名なカップルになっている。

ミウは、自分がこの世界に送り込まれた意味を正しく理解した。

ここで太盛とエリカの仲を引き裂かなければ、この世界でも
エリカの犠牲者が出る。ユーリのような犠牲者は二度と出したくない。

「太盛君にはもっとふさわしい人がいると思うよ」

すごく意味深な言い方だが、太盛はあえて突っ込まずに笑って済ませた。
太盛はミウの言いたいことがなんとなく伝わったのでうれしくなった。

「あそこに踏切があるだろ?」

「うん」

「あの先に大きなマンションがある。
 君の家はあそこのマンションのはずだよ」

「ありがとうね」

「どういたしまして。それじゃあ、俺はここまでだな」

「太盛君の家はどこなの?」

「ここからだと結構離れてるよ。
 学校の最寄駅から、三駅ほど離れた場所にある」

「そうなんだ」

「ここまでくれば大丈夫だろう。それじゃあ、また明日」

「待って。一応連絡先を」

「うん。LINEでいいかな?」

こうして何気なく連絡先まで交換してしまったのだが、
これが翌日大問題になったのだった。


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