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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第16回   16
それから数日連続で太盛はマリーの家に行った。
マリーは彼が来るのが当然だと思っていた。
彼の優しさに甘えていたのだ。

辛い時に大好きな人にそばにいてほしい。
どの女の子だって望むことだった。

「こうして近くでよーく見ると、マリーはほんっとうに美人だな。
 中学時代に付き合った男はたくさんいたのか?」

マリンは首を振って否定するが、太盛には信じられない。
彼女は明るく社交的でクラスの中心自分物にふさわしいから、
男をいくらでもとっかえひっかえできるタイプだったのだろうと
勝手に思っていた。

「あいむ のっと びっち」

「あっそ。おまえ、日本語は話せないのに英語は喋れるのな」

「あい like english」

「おおっ。後半は良い発音だ」

太盛は英語学習にネットをフル活用するように勧めた。
特に便利なのがラジオだ。BBCのニュース、スポーツ中継、
流行歌などを流しっぱなしにするだけで勝手に耳が鍛えられる。

だいたい二年以上かけて累計500時間ほど聞き続けると、
リズムとイントネーションが脳みそに叩きこまれて、
英国人の息遣いのタイミングまで分かるようになってくる。

そこまでいけば、頭で自然と英作文ができるようになる。
マリーは英文法をよく勉強していたから、基礎文法は飛ばしてよかった。

太盛がヨーチューブでドラマ番組を探してチャンネル登録してあげた。
あとは太盛と英会話の実践訓練。それを毎日やってると、
英語を口に出すのに抵抗がなくなってくる。

「だけど一日中聴いてると頭痛くなってくるぞ?
 息抜きの時間も作るのも大切なんだよ」

太盛がテレビの番組一覧から甲子園中継の時間帯を確認した。

「今日の二時から決勝なんだ。今年も関東の学校が決勝まで来たぞ。
 出場校は埼玉のとこだけど、同じ関東民として応援しないとな」

マリーは乗り気ではなかった。野球は父が好きで甲子園のたびに
盛り上がっていたが、特に興味はない。彼女は美術部ということもあり、
騒がしいスポーツより絵画や音楽などの芸術が好きだった。

太盛は熱心な高校野球ファンだった。
とある高校が最終回に逆転満塁ホームランで
勝ったのをきっかけに小学生の時から毎年見ていた。

「どうしても嫌ならやめるけど?」

今回はマリーが折れた。
毎日部屋にいても退屈だから刺激がほしかったこともある。

決勝初出場の埼玉。その対戦校は、伝統ある広島の強豪校だった。
マリーは、試合前に表示された両校の対戦結果と歴史を見て、
きっと埼玉の高校が負けると考えていた。

彼女は理系タイプのために理屈で考えすぎるきらいがあって、
ほとんどの勝負は統計的に予想ができると考えていた。

太盛は熱くなり、繰り広げられる展開に一喜一憂しながら観戦した。
マリーはルールが分からない。
試合よりも興奮している太盛を見るほうがおもしろかった。

『ここで右中間―――!! 三塁バッターホームイン!! もう一人帰ってくる!!』

勝負が劇的に動いたのが五回の埼玉のチームの攻撃だった。
まるでバッティングセンターのように、打撃陣が長打を量産。
ヒットを打つごとに快速ランナーが駆け回り、点を重ねていく。

次の六回もそうだった。広島の監督はすぐに投手を交代。
代わった投手は、高校生離れした冷静さとコントロールの良さを持つ
超人的な選手だった。だが、それでも失点は止まらない。

外野手のエラーが続き、守備陣は崩壊。ついに10点差がついてしまった。
決勝戦なのに一回戦のようなワンサイドゲーム(圧勝)になってしまった。

栃木県民として関東勢を応援していた太盛は、最初のテンションが
六回が終わる頃から下がっていき、この14-4という結果を不思議に思っていた。
相手チームも全力で戦っていただけに、
応援していたチームを素直に祝福できないほどの大差であった。

「えくすぷれいん ぷりぃ−ず?」 (説明して?)

「いや、おかしいよなこの結果。相手チームも今までかなりの強豪校を
 破ってきたはずだし、打線も活発だ。話題の化け物級の捕手もいるしな。
 むしろ埼玉の打線が規格外だったってことかな。
 うーん。どうもしっくりこない結果だ。俺も専門家じゃないからなぁ……」

太盛は有名なネット掲示板を開くと、あまりの結果に騒然となっていた。

「なあ、マリー。おまえはこの結果予想できたか?」

「No」

「だろうな。きっと全国の人も広島のチームが勝つと思ってただろう。
 だが勝負はやってみないと分からないものさ。選手の疲労や監督の采配、
 トーナメントの組み合わせとかな」

マリーが首をこくこくと振っている。

「これは人生の教訓になるぞ。この先にどんなことが待ち受けていても、
 その時にならなければ分からないのさ。決めつけるのは良くないことだ。
 人生を悲観するんじゃない。未来を勝手に決めつけるな。
 人生はなるようにしかならないんだよ」

マリーは胸の前で十字を切り、天を指した。

「ジーザス セイド the same thing」

「意訳すると聖書にも同じことが書かれてるってか。
 その通りだな」

ジェスチャーをしたマリーが可愛かったので
太盛が髪の毛をなでてあげた。
マリーはうれしそうな顔をしてされるがままになっている。

彼氏彼女の距離感である。
ここにミウやエリカがいたら張り倒されたことだろう。

(ずっと太盛と一緒にいたい。彼がいるとほっとする。
 彼と昔どこかで会ったことがあるのかな?)

遠い記憶を呼び覚ますかのようにマリーは瞳を閉じる。
彼といられる一瞬の時さえマリーは無駄にはしたくなかった。
ただテレビ中継を見ている時も貴重な時間だと思っていた。

「髪、少し短くなったけど、今の長さがちょうどいいな。
 俺は長い髪はあんまり好きじゃないから、セミロングくらいが
 マリンにはよく似合ってるよ。小顔だしな」

「せンキュ」

「あれ? 俺マリンって言ってた?」

「いえす」

「なぜかな。言い間違えちまった」

「まりん いず OK」

「じゃあ二人っきりの時はマリンって呼ぶかな。
 あとでミウにばれたら怒られちまうと思うけど。あはは。
 あいつ、急に怒りっぽくなって怖かったよな」

マリンは視線を明後日の方向に向けた。
不安やストレスを感じると、顔はそのままに
目線だけをずらす癖があるのだ。

太盛はマリー検定2級保持の自覚があるのですぐ察した。
マリーはミウの話題を出されるのを極端に嫌う。
太盛が甲子園中継で応援席の女の子を可愛いと言ったときは
なんともなかった。エリカのことを口にした時も特に変化はない。

「え、英会話の練習でもしよう。英語で質問するから答えろよ?」

どこの美容室で髪を切ったかを聞くが、マリーは答えなかった。

英語はミウの最大の個性。
マリーの知らない先進国の文化が入っている帰国子女。

太盛との英会話はただの茶番だったが、誰の邪魔も
入らない二人だけの世界で話していたのが心から羨ましかった。
彼女はミウのことをどこまでも敵視していた。

薄情といえなくもない。なぜならミウはマリーのお見舞いに太盛と
毎日来てくれたのである。さらに太盛の家にお呼ばれした仲間でもあった。

しかし、偶然か必然か。退院後、マリーにべったりな太盛を見て
ミウは猛烈に嫉妬心を燃やした。太盛を奪い合う間柄だから初めから
友情など存在しえなかったのだ。

これは、男性の太盛には理解しがたい女同士の複雑な関係だった。

マリーは数分ほど黙っていたが、太盛が困り果てた顔で自分を
見ているのに気づき、逆に慌てた。もうとっくにめんどうな女だとは
思われているだろうが、彼に嫌われることはしたくない。

泣きそうになってしまったマリー。
太盛は言葉よりも抱きしめてあげることにした。

彼女を子供のように可愛がることに抵抗感はない。
こうして毎日家で会っていると、二人でイチャイチャしてるのが
当たり前としか感じられない。

ごつごつした男性の力強い腕の中にいるとマリーは安心した。

太盛は逆だ。
こうして密着すると、マリーの匂いと体温がじかに伝わってくる。
服を脱がしたくなる衝動と何度戦ったことか。

太盛は年下の女の子が困っているなら助けたいという正義感と
彼女を押し押して自分のものにしたい欲求と戦う毎日だ。
我慢しきれずにきゃしゃな肩に手を伸ばすが、

「のっと なう」 (まだ、だめ)

マリーが諭すように言う。
彼女の奇跡のような愛らしい童顔が、
太盛の理性をギリギリのところで押さえていた。

実はマリンはとっくに心の準備はできていたが、
そういう関係になるのは太盛がミウと別れてからにしたいと思っていた。
それが彼女なりの礼儀だった。



他方、ミウは心中穏やかではなかった。
ショッピングモールで太盛と大喧嘩して
しまったことを心から後悔していた。

ただ太盛を他の女にとられたくないだけ。
女の子としては正常な感情なのだが、
あとから振り返ったらエリカのような
ヒステリー女と思われてもおかしくない。

太盛が一番嫌うのはしつこく、口うるさい女だ。
自分がそんな女になってしまったら、この世界に来た意味さえなくなる。

エリカはいい。ほおっておけば太盛に飽きられて
捨てられるだけの負け犬。モンゴルでの逃避がそれを証明した。
だがマリーはどうしたらいいか分からない。

あの子は、あのマリンの生まれ変わりである。
マリーの病気がいつまでも治らなかったら、
太盛はずっとあの子のために尽くしてしまう。

『おまえはもういらない』

いつ彼にそう言われるか分からず、怒りと恐怖が交じり合う。
マリエの家に遊びに行く太盛を知りながらも止めろとも言えず、
かといって一緒に行く気にもならず、何日もメールをしていなかった。


「それで私のところに来ったてわけね?」

エミである。

精神的に疲れているだろうからと、
ミウにアイスココアの入ったコップを差し出した。

「はい。最近、自分に自信がなくて……。マリーが退院してから
 すごく怒りっぽくなっちゃって。私、あの子に嫉妬してるんです」

ミウはまたあの石段を登ったのだ。
冷房と扇風機のコンボで大汗を瞬時に乾かしてる。

何度来てもエミの家は和風で居心地が良かった。
神社だけに神様が守ってくれているような感じがした。

「いったいどんな子なの? 美人らしいけど、
 顔見たことないから気になるわね。写真とかないの?」

「そう言うと思って、あの子のファンクラブの人から写真を
 もらってきたんですよ。全部盗撮写真らしいですけど、
 高いカメラを使ってるのでプロ並みによく撮れてますよ」

「盗撮……? あのエリート校で
 そんなバカなことしてる奴らがいるのね」

部活中にエリカと談笑しているマリー。登下校中。
音楽の時間にピアノを弾いているシーンまであり、
もはやアルバムに乗せられそうな勢いである。

彼女は日ごとによく髪形を変えた。ハーフアップを基本に
おでこを出したり、三つ編みにしたり、長髪をカールさせたりと。
何をしても人目を引き、またそれを喜んでいるのだった。

「何これ? 超可愛いわね。童顔だし、笑顔が自然。
 特にこの笑い方、口元の歯がきれいに見えてる。
 芸能人とか業界の人並みに洗練されてるじゃない。
 小さい頃から子役とか務めてた人のレベルだわ」

「誰と話すときもニコニコしてて、本当にむかつくくらい
 可愛い顔してるんですよ」

「うん。これはモテるでしょうね」

「やっぱり太盛君はああいう子がタイプなんでしょうね。
 私、あの子に比べたらブスだし」

「いやいや。ネガティブすぎでしょ。
 あんたがブスだったら世の中の女たちはどうなるのよ」

「男の人は女を顔で選ぶっていうじゃないですか」

「太盛は顔だけってわけじゃないと思うけどな。
 あいつ、病気の治療だからあの子のそばにいるだけじゃないの?」

「失語症は不治の病ですよ。太盛君は完全にマリーにつきっきりです。
 口うるさい私なんて、そのうち忘れられちゃうんですよ」

「外国育ちの人ってもっと陽気なのかと思っていた」

実は英国人は慎重でマイナス思考の人がけっこう多い。
雨が多いことと、島国気質がそうさせるらしい。

「こっちの一枚、あんたの顔でしょ。
 なんでミウの写真も含まれてるの?」

「私のファンの人に頼んで持ってきてもらったからですかね?
  私の写真も入っちゃったみたいですね」

「どゆこと?」

ミウは有事の際に備えてファンクラブの中枢メンバーと
連絡先を交換しておいた。またエリカに襲われた時は守って
くれるだけでなく、マリーの写真を取り寄せてもらうことも朝飯前だ。

「ファンってそんなことにも使えるの? 
 すげー便利ね。私も欲しいな」

「その代わり学校内で盗撮されますけどね」

「有名税みたいなものかしら?
 あんたの写真もきれいじゃない。
 ちょっと顔暗いけど」

「みんなに見られるから緊張して顔が引きつるんですよ。
 私、マリーに比べたらすっごい不細工じゃないですか」

「は? どこが」

「いやいや」

「ちょっと控えめな性格のアイドルって感じだけど。
 これはこれで需要有ると思うけどね」

「太盛君もきれいな顔してるし、
 あの二人のほうがお似合いなんですよ」

「そういうの、もういいわよ。あなたが
 太盛と付き合うようになったきっかけはなんだったの?」

「信じてもらえないかもしれないけど、私の記憶喪失が原因なんです」

「記憶喪失?」

ミウはこの際だからと、自分がこの世界に飛ばされた理由まで
話してしまった。エミならきっと最後まで聞いてくれる。
そう願ってのことだった。

一般人に話せば黄色い救急車を呼ばれるほどの非現実的な内容である。
エミはカウンセラーのように辛抱強く話に耳を傾けた。
エミは真顔で何度も頷き、ミウを馬鹿にする様子はない。

「なるほど」

話を聞き終えて、さっぱりした顔をしていた。ミウは意外に思った。
途中で飽きられて、友達の縁を切られてしまうくらいの覚悟はあった。

「それであなたに変わった背後霊がついてるわけか」

「背後霊?」

「老人の面を被った男の人。たぶんハクシキジョウね」

驚天動地のミウに、エミがその面をスケッチして渡してあげた。
まさしくミウが良く知っているお面だった。

「私、呪われてるんですか……?」

「逆ね。この霊はあなたを見守ってくれているわ。
 あなたの背後霊は、例えば地縛霊と違ってずっとあなたのことを
 守ってくれるタイプ。ふふふ。本当にあなたのことが心配なのね」

ミウはあの端正な顔をした男の姿を思い浮かべた。
夏休み前、ターシャに拷問されそうになった時も
あの男の声が聞こえた。偶然ではないと確信できた。

「私はあなたの話、信じるよ。神社の巫女やってるとね、
 現実ではありえないことが結構起きたりするのよ。
 うちのはすっごい歴史がある神社だから、古い言い伝えとか
 祖父からずっと聞かされて育ってきたからさ」

「ありがとうございます。私の話を真剣に聞いてくれたのは
 エミさんだけですよ。実は太盛君にも話してないんです」

「あいつも少し感づいているみたいだけどね。
 あなた、太盛の家の使用人さんの名前を
言い当てたりしてたんだって?」

「は、はい。後藤さんのことは隠すのが大変でした」

「太盛もこの神社に通うようになってから暴力癖がなくなったのよ。
 中学自体は一時期すごい女好きな時期があって、いろんなクラスの
 女の子に手を出しては別れるの繰り返しでどうしようもない奴だったわ」

「太盛君は女好きだったんですか」

「三年の一時期だけど、まあチャラかったわね。
 家でお父さんに厳しく教育されたストレスでおかしくなってたみたいね。
 女と付き合うことで自分が価値のある人間だって証明したかったんだって。
 完全なバカね。浮気がすごいから、腐った心が浄化するように
 神様にお祈りしなさいってよく言ったのよ」

「浮気?」

「太盛が三年の時、私と付き合ってたのよ」

ミウは驚くよりも納得した。確かに太盛とエミの親密な様子からは、
ただの友達以上のものを感じさせた。付き合っていたとしても
特に複雑な感情はない。

とはいえ、昔の彼女と現在の彼女がここにいるのである。
さすがに分かれた理由までは聞けない。

「私たちはね、太盛が中学を卒業してから自然消滅したわ」

ミウの心境を察したのか、自分から話してくれた。

「太盛が受験で忙しくなってから、この神社にも来てくれなくなった。
 休みの日に電話しても出てくれないし、あいつにとって
 私なんてどうでもいい存在だったのかなって思ったら、
 気持ちが冷めちゃった。ひどいよね? あいつの方から
 付き合おうって言ってきたくせにさ」

「太盛君は今でもエミさんのこと……」

「今は友達よ。でも、あいつが
 遊びに来るんだったら止めはしないわ」

その口ぶりから、太盛に未練があるのが見て取れた。
今は新しい恋を見つけることはせず、一人でいることを好んでいるという。

きっとエミにとって太盛は手のかかる弟のような存在で
可愛くて仕方なかったのだろうとミウは思った。
幼馴染だから誰よりも彼のことをよく知っているはずだ。

太盛も高校進学後は、エリカに付きまとわれている以外に
女を口説いたりはしていないようだ。神社の加護のおかげが、
嘘のように真面目な生徒になり、先生からクラス委員に
推薦されるほどに至った。

エミがそんなミウの考えをさえぎるように大きく溜息をはいた。

「神様の力をお借りしているなら、きっとあなたは大丈夫よ」

「えっ」

「どんなに回り道をしても、太盛は最後にあなたのもとに帰ってくるわ。
 この言葉をよく覚えておきなさい。神の味方する者に敵はない。
 これはキリスト教も神道も変わらないわ」

「そうなんでしょうか……」

マリーの件は、しばらく放置したほうがいいとアドバイスされた。
おそらく向こうも本気で太盛を奪いに来ているから、相手が攻めているときは
いったん引いて、様子を見るべきだと。話に進展があるとしたら
新学期が始まってから。

夏休みの間はおとなしくするように言われたので、ミウはその通りにした。
エミの言うことは聖書の言葉のように不思議な説得力があったのだ。
彼氏を他の女に一時的に奪われている状態なので屈辱だが、耐えるしかない。

それから夏休みが終わるまで、ミウは暇さえあれば神社を訪れて
二人で遊ぶようになった。一緒に映画を見に行ったりと
親友と言っても差し支えない仲に発展したのだった。

お互いに他に友達らしい友達もいなかったので、余計に仲は深まったのだった。
そしてあっという間に夏休みが終わり、新学期が始まるのだった。

「あんたの学校で悪いことが起こりそうね。嵐の予感ってやつ?」

エミの何気ないつぶやきを、ミウはしっかりと覚えていた。





始業式の日に太盛は収容所に入れられた。
収容所は通称で、表向きは反省室となっている。

よくある反抗的な生徒を一時的に閉じ込めておく施設だ。

「君は他校の生徒に暴力を振るったそうだな?」

イスに座らされた太盛の立つのは生徒会の副会長である。
浅黒い肌にデメキンようにギョロッとした目が特徴だ。
背丈は太盛より10センチほど高く、すらっとしていた。

「カスミ〇〇店の店長さん、それと被害者の生徒らから苦情が来ている。
 もちろん心当たりはあるね? それでは君に弁解の余地を与えよう。
 何か言いたいことがあるなら言ってみたまえ。
 言うことがあるとしたら、だがね」

男は口を手で押さえるが、笑いが止まらない様子だ。

太盛は男の不愉快な顔を見ないようにしてこの教室を見渡した。
反省室となっているが、見た目はただの空き教室だ。非常に殺風景であり、
教室にあるのと同じ机と椅子が、部屋の中央に三つ並べられている。
すみには大きな段ボールが乱雑に置かれている。

(あの中身は、拷問器具か)

太盛には一つ確信していることがあった。抵抗は無意味。そして
どんな発言をしたとしても最後は拷問されるということ。

「殴りたいから殴りました。奴には中学時代に
 お世話になりましたから、その礼です。以上です」

太盛は素直に話した。それで十分だと思ったからだ。

「ほう。それで?」

「他に話すことはありませんが」

「まだあるはずだろう? 人を殴る理由とは何なのだ?」

「さっきも言った通り、恨みですよ」

「君の理屈では、恨みを持てば殴っていいことになるのかね?」

副会長は、机の上にIPADを置いた。

見てみなさいと太盛は言われたので、IPADを手に取って画面を見る。
写真が表示されている。一枚一枚スライドさせて見ていった。

太盛の殴った相手である、憎き同級生が椅子に縛られて痛めつけられていた。
彼の顔と胸、肩にミミズばれの後。冗談のように大きく、
真っ赤な跡が残っている。強烈なむち打ちのため
肌の一部が露出し、血が流れている。

彼の口もおかしい。ボロボロになった唇からトマトジュースを
こぼしているのかと思ったら、真っ赤な血だった。

彼は口の中に無数のガラスの破片を押し込まれていたのだ。
むち打ちのたびに歯を食いしばってしまったら最後。
歯肉に、歯の隙間に、舌に、鋭利なガラスが容赦なく突き刺さる。

一度刺さったら自分の力で抜くことはできず、ひたすら痛みに耐えるしかない。
その間も容赦なくむち打ちは続き、痛みと衝撃から口を動かしてしまう。
そのたびに口から、彼らの言うトマトケチャップがだらだらと零れ落ちる。

口腔は、鍛えようがない。その痛みは想像を絶した。

この拷問は彼の精神に決定的なダメージを与えるに至り、
拷問の後半の写真ではヘラヘラ笑うようにすらなっていた。

「彼の名前は高木シンヤ。かつての君のクラスメイトだ。
 両親と妹の四人家族。父の職業は画家で何不自由なく
 暮らしていたそうだ。堀君のことは学校で調子にのっていると 
 いう理由で目を付けたそうだな。そして不良グループを先導して
 君にたびたび暴行を加えていたと」

「なぜですか?」

「彼がこうなった理由か? そうだな。彼は我々生徒会に君の悪事を
 通報したのだよ。だいたんにもな。彼は君のことをそれもう恨んでいたよ。
 すごい勢いでまくし立てられてね。だから拷問して詳しい話を聞いたのだよ」

「だからの使い方がおかしくないですか?
 それじゃ拷問された理由が説明できていません」

「高木が虚偽の発言をしたと仮定したらどうだ? 
 君を反省室送りにするには確かな証拠が必要だ。
 何より君に直接言わずに我々生徒会を頼ろうとするのは気に食わん。
 彼は他校の生徒だがね、少しお仕置きをしてあげたよ」

「罪の意識はありませんか? 俺も奴のことは恨んでいます。
 でも奴は生徒会に歯向かったわけじゃないし、あんたに
 痛めつけられる理由にはならないはずだ」

「いや、ある。理由ならある」

「それはどのような?」

「彼は君の関係者だった。それだけだ」

二時間目の授業終了のチャイムが鳴る。

収容所は時計がなく、静かなので時間の感覚はない。
他の生徒が普通に授業を受けている間も尋問等が行われているのだ。

その頃、ミウはもう学校どころではなかった。

「先生。お願いですから本当のことを教えてください。
 太盛君は今どこにいるんですか? どうして彼だけ特別教室に
 行かされたんですか?」

「彼にも事情があるのでしょう。夏休みにちょっとした事件があったと
 聞いてますが、詳しいことは生徒会のみなさんが聞いてくれますからね。
 ありがたいことです。我々教師陣も生徒のプライベートのことまで口出し
 しないようにしています。ただでさえ個人情報にうるさい時代ですから」

指で眼鏡をかけなおした教師。温和で有名な50代の男性である。

「さてと。次の授業の準備があるので、失礼しますね」

「先生は、生徒会が怖いんですね?」

教師は鬼の形相で振り返ったが、それも一瞬だった。
素知らぬ顔で廊下を後にするのだった。

(大人ってずるい。太盛君が監禁されてるって知ってるくせに、
 自分の身だけが可愛いんだ。何が生徒のことを第一に考えているだ。
 大人は大っ嫌い)

ミウは怒りで震え、立ち尽くしていた。
すると、すぐ近くから失笑が漏れる。

隣のクラスの女子が教室前の廊下に集まっていた。
派手めなファッションで目つきの悪い女子を中心としたグループだ。

「ぷっ。彼氏が収容所行きになってあせってる。
 先生に相談しても無駄だって」

「収容所行きとか、どんだけ不良なんだよ。
 もう生徒として終わってんじゃん」

「太盛君って見た目とのギャップやばいよね。
 優しそうな顔してるけど中身は獣なんでしょ?」

「ロリコンって噂も聞いたことある」

「なんでロリコン?」

「一年の斎藤マリーと付き合ってるんでしょ?
 あの子、超童顔だし、あの子のファンって
 ロリコン多いじゃない」

「まじ? あの男何股かけてんのよ」

「橘嬢と付き合ってるんじゃなかったの?」

「橘さんに飽きて、他の女で遊んでるんだよ」

「じゃあ高野さんも遊びってことか」

「あははは。なんか、かわいそー」

わざと聞こえる声で、本人の近くで噂話をされているのだ。
ミウは激しい怒りが立ち込め、怒鳴り散らしたい衝動にかられる。

『なにがあっても最後はあんたの元に帰ってくる。
 大きく構えていなさい』

エミの説教を思い出し。ぐっとこらえた。

自分の教室に戻る。エリカは、自分の席を中心に女子の
輪ができている。周りにいるのはお付きの女子だ。
みんな品のあるお嬢様ばかりで顔のレベルが高い、

エリカは愛する人が収容所送りにされたのに談笑していた。
ミウにはそれが信じられなくて、本人に直接聞いた。

「あそこに入れられたら、私にはどうにもならないわ」

「お姉さんのアーニャに頼んで助けてもらってよ。
 アーニャは会長の友達なんでしょ?」

「無理ね。だって今回太盛君を拉致したのは副会長なのよ」

「は?」

「察しが悪いわね。会長と副会長は思想の違いから険悪の仲なの。
 副会長に比べたら会長はまだ優しいお方ね。
 私のお願いも聞いてくださったもの」

その願いがマリーの拷問なのは言うまでもない。

「生徒会には派閥があって、今の副会長派が一番強いの。秋の生徒会選挙で
 立候補するのは副会長派の人間のみよ。つまり次の生徒会は裏で副会長が
 支配することになるの。新体制よ」

「太盛君を助けることはできないの?」

「今は無理ね。副会長様の機嫌が直るまで気長に待ちましょう。
 淑女らしく紅茶でも飲みながらね」

エリカのお付きの一人が、買ってきたペットボトルをエリカへ手渡す。
エリカは涼しい顔で午後ティーに口をつける。

「It’s not time for drinking tea!!!!」

「うるさいわねぇ。耳がキンキンするわ。
 ここは日本だから日本語で話してくださる?」

「もっとまじめに考えてよ。このままじゃ
 太盛君が廃人になっちゃうかもしれないんだよ?」

エリカは紅茶を一口飲んでから、

「その時はその時ね」と言った。

「太盛君が入院したらお見舞いに行くし、五体不満足になったら
 私の家で一生面倒みるわ。一応私にも責任があるってことにして
 彼のお父さんを説得するつもりよ」

「何を言ってるのか全然分からない……。
 あなたの方こそ日本語で話してよ」

「чёрт возьми Обезьяна」(クソ日本人め) 
 露語で悪態をつくエリカ。

「副会長に目をつけられた人はもう終わりなの。
 ほとんどの生徒が自主退学するか、精神病棟に送られることになる」

「意味わかんない。どうして太盛君がそんなことされな
 くちゃいけないの? 彼が何したの? その副会長って何者なの!!」

「あの人はね、マリエさんが好きなのよ」

ミウは風邪のうわさに聞いたことがあった。ミウに及ぼないものの、
マリエにもファンクラブがあるということ。少数精鋭の熱狂的な男の
集まりだということ。その中に生徒会の人間も含まれているということ。

その日は半日授業だった。

ミウが急いで収容所のある職員室の隣へ向かうと、部屋は解放されていて、
誰もいなかった。まさかと思って昇降口に行くと、太盛が下駄箱で
靴を履き替えているところだった。

「太盛くぅぅぅうぅぅん!!!」

さっそく彼に駆け寄る。

「太盛君。大丈夫!? 今日は何されてたの? 怪我はない?」

太盛はしばらくためてから。

「ああ」と言った。じつにかったるそうだ。

「帰してもらえたのね? よかったぁ。私、太盛君がずっと
 あの中に閉じ込められてるんじゃないかと」

「家には普通に帰れるよ。明日からしばらく別室授業が続くけどな」

太盛はそれだけ言って、歩き出してしまった。
ミウも急いで靴を履いて玄関から飛び出すが、太盛は早足で遠ざかっていく。

「待ってよ!!」

太盛は振り返らない。両手をポケットに突っ込んだままどんどん離れていく。
彼は校門に差し掛かる、そこを曲がったらミウの視界から消えてしまう。

ミウが悲鳴に近い叫びをあげようとしたところ、斎藤マリーが立ちふさがった。

彼女は門の前で太盛を待っていたのだ。
太盛を見つけると花のように微笑み、いつものように彼の腕を取って
イチャつこうとする。

「よせよ」 太盛は冷たく言ってマリンの手をはたいた。

ミウは嫌われているのが自分だけで
なかったという安堵感より驚きの方が強かった。 

マリーは目に涙をためながらも、諦めずに太盛に着いて行く。

「あゆ あんぐりー、とぅでい?」 (今日機嫌悪いんか?)

太盛は答えず、さらに歩くスピードを上げた。
休み中に英会話の練習に乗ってあげたのがウソのようだ。

マリーは彼に冷たくされたショックで涙がこぼれてしまった。

「マリンがおるで」

「おーいマリンちゃーん。どしたんや? 先輩に泣かされたん?」

昇降口から歩いてきた女の子達がマリーをかこった。
彼女らは一年生の演劇部の生徒たちだ。

この学校は演劇部も活発で大人数だった。
マリーのことをマリンと呼び、可愛がっていた。

「のう。いっつ、のっと」(ちゃうねん)

「違うゆうとるんか? あたし英語苦手だからよう分かんらんわ」

「どっちにしろ、女の子を泣かせるなんてサイテーやんな。
 太盛輩と関わるのやめたほうがええで」

「そうそう。あの人、エリカさんと生徒会にマークされてるやんか」

「校内で有名なチャラ男だったそうやな。あの人と同じ中学の先輩が言っとった」

「私も聞いたことあんで。どの女の子と
 付き合っても長続きしなかったっちゅう話やん」

「それよかマリンちゃん。かわいいんやから演劇部に入りや?
 うちの部長が勧誘しろしろってうっさいねん。もちろん美術部と
 かけもちおっけーや。演劇部は月一で顔出してくれればええわ」

「あい きゃんと すぴーく」(私、話せんやん)

「なに言うとるん……?」 

「あんた、この程度の英語も聞き取れんの?」

「うっさいわ。英語なんて話せなくても生きていける!!」

「しゃべらない役とか、声を失った少女の役とかで良いから。
 マリンちゃん。美人さんなんやから、もっと人前に出たほうがええと思うわ」

ミウはしつこい勧誘に悩まされているマリーを羨望のまなざしで見ていた。
自分は学年の女たちから悪口を言われるばかりなのに、マリーは人気者である。
やっぱりマリーは美人だからかとミウは落胆しつつ、校舎へ戻った。

無駄かもしれないが、偉い先生に直談判しないと気が済まないのだ。

「こらこら。何やってるんだ君。用もないのに校長室の前を
 うろついていたらダメじゃないか」

と三年生に注意された。

「とっても大事な用があって来てるんです。私の大切な友達が
 収容所行きになった件で相談しに来たんです」

「そうなのか。奇遇だね。私もその件で校長君と話をしに来たのだ」

「あ、あなたは?」

「タチバナだ。現生徒会の副会長をやっている」

ミウは腰が抜けそうなほどの衝撃を受けた。
憎むべき最悪の敵が、今目の前にいるのだ。
締め殺してやりたいが、まずは話をしなければならない。

「あなたが太盛君を拉致したはんに…」

「先に部屋に入ろう」

ミウの話を最後まで聞かず、ノックもせずに扉を開ける。
ミウも副会長に促されて入室する。

「ああ、君か」

校長はイスに深く腰掛けている。60代の頭が禿げ上がった男だ。
どこにでもいそうな校長の顔。彼は教師陣からあだ名で
公認会計士と言われていた。顔がなんとなく会計士っぽいからだ。

橘アキラは、無礼にも来客用ソファに堂々と腰を下ろした。
その向かい側にいる校長は、注意するわけでもなく自然に受け入れている。
それは教師と生徒の地位が全く逆転しているようであった。

副会長は書類の束をテーブルに置いた。

「話は聞いている。教員の○○が今年中に退職したいそうだな?」

「彼にも教師としての信念がある。
 この学校の校風にはどうにもなじめなかったようだね。
 彼は家庭持ちだから、うつ病になる前に再出発してもらいたい。
 私は彼の今までの仕事ぶりを認めてあげたいと思っているのだが」

校長はミウのことを見てから言った。

「そちらの女性はなんだ? 君の愛人かね?」

「くだらん冗談を言うな。彼女は君に直談判しに来たそうだ」

「ほう。いったいどのような要件ですかな。お嬢さん?」

全く一般人に対する聞き方である。
ミウは彼の口調がどうにもしっくりこなかった。
お役所の役人に感じられて校長らしくなくないのだ。

「二年一組の堀太盛君が今日、反省室行きになった件です!!
 他の先生に聞いても答えてくれませんでした。
 あなたも知っていて見過ごしているんでしょう!!」

「あー、あー。そうか」

と言って校長は頭をポリポリかいた。

「まさか生徒から苦情が来るとは思わなかったね。うん」

校長はうちわで顔をあおいだ。

室内は寒すぎるほど冷房が効いているのに暑がりなのだ。

「堀君は取り締まりの対象になったから隔離しただけだ。
 秋の生徒会選挙が控えている時期だからね。選挙の前に
 不穏分子と思われる生徒は一斉摘発する決まりになってるんだよ。
 ちなみに彼は休み期間中に他校の生徒と暴力事件を起こしたね」 

「ちょっと待ってください。太盛君は隔離されて何をされてるんですか?
 具体的に彼に何をしたいのか言ってください」

校長はアキラ(副会長)を見てから言った。

「ん? 体に傷が残るようなことはしてないんだろう?」

「ダー(肯定だ) 俺は奴を床に正座させ、二度と反社会的な行動を
 とるなと説教しただけである」

本当にそれだけだった。会長はスタンガンと木刀を携えながら、
太盛に長時間の正座を強いた。苦しくなって足を崩そうとすると、
太盛の目前に木刀が振り下ろし、精神的に消耗させた。

「ところでお嬢さんは高野ミウさんかな?」

「はい」

「ほほう。写真で見たことはあるが、本人を見るのは初めてだよ。
 君のファンクラブの人達からしつこく聞かれて困っているんだが、
 高野さんは堀君の彼女さんなんだよね?」

「な……」

「いや、君の口からはっきり聞いておきたいんだよ。
 うちの学校はね。男女交際は自由だが、誰と誰が付き合ってるか
 はっきりしないといけないんだよ。特に君のような人気者はね」

付き合っているかと言われれば、少し自信はない。
いちおう夏休みから継続して付き合ってるはずなのだが、
エミの勧めでしばらく連絡を取ってなかった。

「たとえばだけど、二股をかけてる人とか、浮気してもめ事を
 起こした人は処罰の対象だね。いい加減な恋愛をする生徒は
 今更生しておかないと将来ろくな大人にならないからね」

ミウは感づいた。副会長はマリーの大ファンらしいから、嫉妬して太盛を……。

「私と太盛君は付き合ってますよ」

「ほう」

アキラが初めてうれしそうな顔をした。

「確かかね?」と今度は校長が念を押す。

「堀君がマリエさんと夏の間、親しげにしていたことは
 ファンクラブの人達から報告を受けているよ。
 ああいうの、世間では浮気って言われちゃうよね? 
 特にマリエさん宅まで通っちゃったのはアウトかな」

「マリーは太盛君の友達です。失語症で寂しがり屋の
 あの子のためにボランティアに行ってあげただけです」

校長はのけぞり、声を出して笑った。

「そうか。君の国ではあれをボランティアというのかね!! 
 ブリテン人はジョークのセンスが違うね!!」

「ジョークじゃなくて真実ですよ。
 あとブリテンってひとくくりにされるの不愉快です。
 イングランドって言ってください」

「どっちも似たようなものじゃないか」

校長はしばらく笑ってから落ち着いた。

「要約すると、彼はミウさんを彼女と認めつつ、マリエさんにも
 手を出した最低な男だね。学内は彼の悪いうわさでもちきりみたいだよ?
 アキラ君の妹のエリカさんとの婚約を認めず、他の女に行ってしまうのは
 よくないねぇ。こんなんじゃあ、極刑に処されちゃうよね?」

(妹のエリカってことは……こいつがエリカの兄?)

まさに驚天動地。ミウがおそるおそる副会長の顔を見た。

肌の色も目つきも妹たちと全然似ていない。副会長は
中東人のように堀の深く、浅黒い顔で、目元だけ変に飛び出ていた。
エリカたちは日本人と白人のハーフといった感じの綺麗な顔立ちだった。

「ここの学校の校長として。明確に。ミウさんの申し出を却下する。
 彼を処罰するのは学園の意思だ。彼を解放する必要はない。理由もない」

「なら理事長に話してやるわ!!」

「私はあの方から、この学園の実務を任されている。実質この学園の
 最高権力者は私だ。そもそも雲の上にいるほどのあの方と、
 どうやって話をするのだね?
 君の国で例えると、エリザベス陛下の晩餐会に貴族でなく
 一般人が招かれるようなものだ。つまり不可能に近い」

私は忙しいから話はそれまでだと言われ、ミウは部屋を追い出されてしまった。
結局、教師陣に話をしても無駄。ならばどうすればいいのか

エミの予想した通り、とんでもない学校生活になってしまうそうだった。


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