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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第12回   巫女さんはいろいろと詳しかった
エミが咳払いをしてから真顔になった。

「神頼みの前に、日本の神様について勉強してもらうわ。
 二人はクリスチャンだから神道は詳しくないでしょ?」

「おう。全く知らないぜ」 「私もです」

「ミウさんは言霊って聞いたことある?」

「コトダマ?」

「その様子だと初めて聞いたみたいね。
 これから説明するからよく聞いてね? 
 太盛も寝ないで最後まで聞きなさいよ?」

「おっす」

古来からわが国では「言=事」と考えられ
「良き言の葉は良きものを招き、悪き言の葉は災いを招く」
  といった観念があった。

もし我々が言葉の霊的な部分、内に潜む神秘的な動きを理解し、
目的の言葉を発するだけでその言葉のまま実現できるとしたら……

かくしてこの「言霊の呪力」に心を奪われ、言霊の力を自在に使うべく、
たくさんの神道家や霊術者が言霊の力の研究に没頭した。

「え……言霊の呪力? なんか怖い話なんですね」

「ちなみに日本の起源も言霊に由来してると言われてるわ」

太古、わが国はまだ十分に成りととのわず、水に浮かんだ油のようで
その様子はまるで海の中のクラゲのようにただよっていました。

宇宙神は、伊邪那岐命(イザナギノミコト)、伊邪那美命(イザナミノミコト)の
二柱の神に命じ、「このただよへる国を修理り固め成せ」とおおせられ、
天の沼矛(あめのぬぼこ)という「ほこ」を授けられました。

二柱の神は、天の浮橋にお立ちになり、この沼矛をさしおろして、
海の水をコヲロコヲロと音をたててかきまわし矛を引き上げると
矛の先からしたたりおちた塩水が固まって、「オノゴロ島」となりました。

二柱の神はこの島に降られてちぎりを結ばれ、
日本の国土をはじめ多くの神々をお生みになったのです。

                   ※古事記「国生みの神話」より引用

「日本は謎の多い国なのよ。まず私たちが話してる日本語。
 世界のどの語族にも属してない孤立言語。起源も不明」

「そうだったんですか?
 たとえば英語はインドヨーロッパ語族って分かってるのに」

「日本語はモンゴル語みたいな
 アルタイ語族に属するんじゃないのか?
 図書館の本にそう書いてあったぞ」

「太盛が呼んだのは古い本だったんじゃないの?
 今のモンゴル語はモンゴル諸語の一種とされているわ。
 日本語はね、いまだに謎が多すぎてよく分からないの。
 そして神道。いつ、どうやってできた宗教なのか分かってない」

「そんなに神道は謎の宗教だったのか?
 同じ日本の宗教でも仏教はガウタマ・シッタルダ(シャカの本名)が
 修行の末にたどり着いた教えとはっきり分かってるのにな」

「私も気になってネットで調べたことあるんですけど、
 もしかして神道って外来からやってきた宗教の可能性あります?」

「そういう説があるのは事実ね。ユダヤ人やイエスが話していた言葉が
 ヘブライ語なのは知ってるわよね? ヘブライ語と日本のカタカナには
 意外と多くの共通点があって、神道行事にもユダヤとの類似点が
 いくつも確認されているの。こんな話もあるわね」

日本民族は大きく分けて縄文人や弥生人に分かれる。
弥生人は、古代ユダヤ10支族・海部氏(物部氏)、
支那大陸華南地域から来た「倭族」からなる。

このうち海渡人(ウミワタヒト)という海人族が海部氏(物部氏)で、
秦の始皇帝の側近・「徐福」によって連れてこられた数十万人の
古代ユダヤ人の一団という説がある。

「生前の明治天皇がお孫さんの一人にこう語っていたそうよ」

『私は天皇の権限で日本という国を調べた結果、
 日本は、神道である。しかし神道は、本来はユダヤ教である。
 そしてキリスト教はユダヤ教を完成させるものだ』

「当時の天皇陛下がそんなことを……?
 信じられねえよ。後世の人の創作じゃないだろうな?」

「そのお孫さんはね、自称孫なのよ。世間ではペテン師じゃないかって言われてるわ。
 皇室専用の椅子や天井に六芒星(ダビデ王の星)が必ず刻まれてるけどね」

「あの六芒星がですか? 思いっきりユダヤ教の象徴ですよね。
 偶然にしてはできすぎてるような気がしますね。
 私、そういう話信じちゃうんですよー」

「興味があるなら日ユ同祖論をネットで検索すればすぐでてくるわよ。
 日本では否定する人のほうが多いけど。
 真実なのかは私にもわからないわ。まっ、どれを信じるかは自由ね」

「エミはその話、信じてるのか?」

「んー、生物学的に日本人とユダヤ人が同じ民族ってのは
 ないでしょうね。もちろん天皇家の人達もユダヤ人ではないわね。
 ただ、シルクロードを伝って古代イスラエルの文化・
 風習が日本に入って来たってのはあり得る話ね。
 それも中国から漢字や仏教が入ってくる前にね」

ミウはエミの話に興味津々だ。

こういったオカルト系の話をするのも夏の良い思い出になる。
普段の学校生活とは違う非日常だった。

エミがどうぞ、と言って茶菓子をすすめるのでミウと太盛は手を伸ばした。

「話を戻して言霊についてもう少し掘り下げるわね」

「おうよ」

言霊はなにも日本独自のものではない。

東洋西洋ともに言葉には精霊が宿り、その精霊が振るう不思議な力が
人々を幸にも不幸にも招くものと考えられていた。

言語には超越した力が宿り、その力を神霊や精霊の力になぞらえ
畏れ敬いう気持ちが「言霊」というものに通じた。

そういった言霊の観念は日本においては「祝詞」東洋においては「経文」、
西洋においては「聖書」にこめられ、後世に伝えられた。

祝詞の語源は「祝詞とは宣説言(のりときごと)の略で、神に申し上げる言葉」と
するものや「神を招き奉る場合、一定の宣る場所を必要とすることで、
その宣ることに必要な言葉が“のりとごと”と言い、
祝詞の語源である」という説がある。

「その考え方、すごく共感できます。私も小さい頃から聖書は
 黙読しないで声に出しなさいって教わってきました。
 あと、できるだけ人気のないところの方がいいって」

「聖書なんか分かりやすい例よね。最初の日(創世記)に
 神が光よ有れ、って言って太陽が生まれた。
 大切なのは口に出すことなのよ。
 同じ神を信仰しているコーランも同じね」

コーランをアラビア語で『クルアーン』と言う。
意味は『読誦されるもの』という意味である。
暗記して『声に出して読むもの』ということだ。

「ムスリムの人達は……異教徒だから私はあまり好きになれませんけど」

「まあそう言うでしょうね。ミウみたいにコーランを嫌う人は
 多いと思うけど、あれ、すごい完成度高いからね? 
 たぶん世界中の宗教を探してもあそこまで
 洗練されて完成された聖典はないわよ」

「イスラム教って自爆テロのイメージしかないけどな。
 なんであんなに好戦的なんだ」

「英国でも爆破テロされました。ぶっちゃけ私は今でも恨んでますよ」

「イスラム教は良くできすぎてるから信仰が深い人が多いのよ。
 下手な例だけど、面白い漫画やアニメを一度見たら止まらなくなるでしょ?
 それで中毒になった人を日本じゃ信者とか言うじゃない」

「あー、あれ謎だよな。どいつもこいつも神なんか信じてないくせに
 ○○は神だぁ、とか平気で言うから腹立つよ」

「生まれたころからクリスチャンな私には無宗教の人が
 多いこの国がいまだに理解できません」

「そうそう。普通の日本人は聖書なんか鼻で笑うでしょ?
 世界的に見たら無宗教の人の方が少ないのにね。
 今は地球人類の三人に一人がクリスチャンよ?
 アメリカの大統領だって大統領就任式の時に
 必ず教会で祈りをささげているじゃない」

「さすがエミさんはよくご存じです。
 神社の生まれの方って博識なんですね」

「褒めたって何も出ないわよ?」

「ほんとに何も出ないからやめとけよミウ」

「こらっ」

エミにどつかれて、太盛が楽しそうに笑う。

「言霊って悪いことにも使えるんだろ?
 キリスト教だとサタンを呼び出したりとかさ」

「悪魔を召喚するのは魔法陣が必要だから分野が違うけどね。
 しかもあれは黒魔術。神道では言霊を使った呪術があるわよ? 
 というか実際に使われていたらしいわ。
 霊学秘宝と呼ばれるものにこんな例があるわ」

ひふみよいむなやここのたり ふるべ ゆらゆらとふるべ

物部氏の祖神「ニギハヤヒノミコト」が降臨する際に「タカミムスビノミコト」
に授けたというのが「布瑠の言」である。

この言霊には「十種神宝(とくさのかんたから)」を意味するものが含まれ、
言霊の中で神宝を使うことで霊的な秘技を確立する。

「旧事本紀」では「死者がよみがえる」とも記されている。

ミウは身震いした。

山の中の神社でこういう話を聞かされると、
嫌でも雰囲気が出てしまう。

「そのマリーちゃんって子の病気を治したいんでしょ?
 神道に呪術は確かに存在するわ。もちろん病気を治す類のものもね。
 だけど神のお力を借りようとするのはおよしなさい。
 我々人間がそうやすやすと使っていいものではないのよ。
 下手に使うと逆効果。奇跡と祟りは紙一重よ?」

「ひぃ……」

「ミウちゃん。そんなに怖い? 
 エアコンの温度もっと下げてあげようか?」

「やめてくださいよぉ!!」

「あははっ。冗談だよ冗談。欧州の人なら冗談は慣れてるでしょ?」

神社の巫女にしてはユーモアがある女だった。
次からミウって呼ぶね? と言ってから話を続ける。

「私の意見を言うね。最初に治すべきはエリカって女の方ね。
 会長とアニャー?って女も完全にイかれてるね。
 あっ、イくってそういう意味じゃないのよ?」

「言われなくてもわかってるって!! 話を進めてくれ」

「あらそう。残念。私はこういう家に生まれたからかも
 しれないけど、頭のおかしすぎる奴は悪魔憑きを疑うわ」

「悪霊に憑りつかれてるってことか?
 それはちょっと言いすぎじゃないか?」

「エリカって女はキリスト教徒なんじゃないの?
 キリスト教徒なら悪魔の誘惑とか当然あると思うけど」

「どうなんだろうな。普段学校で信仰の話はしたことないんだよ。
 祖先がソビエトの生まれだって言ってたけど」

「ソ連? ああ、あの無宗教国家ね」

「ソ連って宗教がないんですか?」

「ないよ? レーニンがキリスト教を弾圧したじゃない。
 革命が起きる国はだいたいあんな感じね。
 フランス革命の時も伝統的なキリスト教社会が否定されたし」

「エミはなんでも知ってるな。世界史の知識まであるとは」

「太盛も詳しいじゃない」

「エミほどじゃないよ」

「あの、エミィさんは」

「ちょっと待って。なんで語尾伸ばしたの?」

「すみません。実は伸ばしたほうが発音しやすいんですぅ」

「あっそうなのね。全然かまわないわよ。
 面白いと思ったから聞いただけ。続けて?」

「エミィさんはボリシェビキって言葉を知ってますか?
 うちの生徒会長が使ってたんです」

「ボリシェビキ? ロシア語で多数派って意味よ。
 ソ連を作ったレーニン率いる社会主義政党のことを指すわ。
 まともに選挙しても勝てないから
 反対主義者を弾圧して政権をぶんどったのよ」

「政党の名前だったんですか。
 私は宗教の名前かと思ってました。
 あの人たちは変な宗教にはまって頭がイっちゃったのかと」

「共産主義も宗教の一種と考えても問題ないと思うけど。
 あなたの国のチャーチルは共産主義を麻薬や宗教と
 同列に考えていたそうよ」

「エミのこと、今度からイケ〇ミさんって呼ぶわ。
 高校卒業したら大学の文学部にでも進学しろよ」

「私は専門に行くって決めてるから無理よ。
 この家を継がないといけないんだから。
 つーか今どきの学校でも共産主義者っているのね。
 極左(一番の左翼)の連中は政治家にもいるけど」

「なんだそれ?」

「最近、立憲民主党ができたでしょ?
 幹部が革マル派のメンバーなのよ。
 他にも中核派ってのもあるんだけどね」

「革マル派? なんですかそれ?」

・核マル派と中核派は、1960年前後に生まれた、いわゆる
 『新左翼諸党派』の中の二大党派である。

・『マルクス・レーニン主義の旗』をかかげ革命を標榜する党派であり、
  かつ強固な全国組織を持つ党派は、共産党を除けばこの2つしかない

・革マル派の正式名称は、
 日本革命的共産主義者同盟革命的『マルクス主義派』である。

・日本の体制を『共産主義、マルクス主義』に変えようという団体である。

・ちなみにお隣の『北朝鮮』が社会主義、共産主義国家なのは言うまでもない。

国会での首相の答弁↓
『殺人や強盗や窃盗や盗聴を行った革マル派活動家が影響力を
行使しうる、 指導的立場に浸透していたとみられる団体から
立憲民主党の代表は約800万円の献金を受けてた』 

       ※これは小説の設定ではなく、事実である

「えええええっ!! マルクス・レーニン主義って
 ソ連の手先じゃないですか!?」

「まじかよ……。そんな危険な奴らが国会議員のバッジを
 つけてテレビの前で映ってたりするのか……。
 あいつらを支持してる人達もまさかそっち系の……」

「中には知らずに投票してる人もいるんでしょうけどね。
 はぁ……。あいつらがいる限り、ソビエトの思想は
 永遠に消えないのよねぇ。困ったもんだわ」

そう言いながら麦茶を飲むエミ。太盛達は学校の先生より
賢いと思われるエミの話のとりこになった。

「エミィさん。他にも聞きたいことがあるんですけど」

「はいはい」

結論から言うと雑談ばかりして日が暮れてしまった。
エミィの話は知的好奇心を刺激され、大いに盛り上がった。

中学時代に太盛が元気に殴りあってる時に
エミは図書館で勉強してるタイプだった。
友達と遊びに行くより本を読むのを好んだ。

友達は選びなさい。自分を高めてくれる友達と付き合いなさい。
ミウは理事長の言った言葉の意味がよく分かった。

エミはアドバイスを残した。

『マリーちゃんの病気を治したいのなら、
 他の参拝客と同じようにお祈りを捧げなさい。
 神は「素直な人」を好むから、楽に治す方法とか、
 邪なことを考えずに心を無にして祈りなさい』

太盛とミウはエミと連絡先を交換して別れた。
太盛はエリカに開放されてから二人目の連絡先交換となった。

「あんたに嫌われてLINEを削除されたんじゃなかったんだね。
 ちょっと安心したよ」

エミはうれしくなってその日の夜に太盛にメールした。

『あんたの彼女、強力な背後霊がついてるね。
 もちろん悪い霊じゃないわよ?
 あの子を応援したい、救いたいという思いが伝わってきた。
 あんたもうすうす感づいてるんじゃないの?』 

太盛はあいまいな返事をしてごまかした。
実は太盛もミウについていろいろ考えることがあったのだ。


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