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作品名:『学園生活』  ミウの物語 作者:なおちー

第11回   神社の巫女さんは太盛の幼馴染だった
土日は10時から面会時間だ。

太盛とミウは申し合わせたわけでもなく、マリーの病室に来ていた。

「おはよう太盛君」 「ああ、おはよ」

マリーの失語症はまだ治らない。だが少しだけ変化があって、
身体を自由に動かせるようになった。
食事も自分で食べられるから点滴は外してある。

動きはゆったりとし、生気を失った瞳が幽霊のように怖い。
太盛達が挨拶をすると、小さくうなずくのだった。

「マリー。元気ないぞ? 
 たまには絵でもかいてみたらどうだ?」

マリーは驚いたように目を見開き、そういえば自分は
絵が描けたのかと言いたげな顔で驚いている。

「今度、画材道具でも持って来てあげようか?
 ベッドの上でもスケッチならできるだろ」

マリーはこくりとうなづいた。

「マリーちゃん、打撲は大丈夫? まだ痛む?」

マリーは首を横に振った。

口をパクパクと動かし、何かを伝えようとしている。
太盛が彼女の口元に耳を近づけるが、何も聞こえない。

彼女は泣いていた。伝えないことがあるのに声が
出せないことが悔しくてやりきれないのだ。

いったい何が言いたかったのか。
ミウが筆談するための紙とペンを渡すが、
マリーは哀しそうな顔でうつむいて書きたがらない。

その姿があまりもかわいそうで
太盛がマリーの髪を撫でてあげると、
マリーの表情が少しだけ緩むのだった。

(昔の太盛様にそっくり。本当に二人は親子みたい)

もちろん思っただけで口にはしなかったミウ。

「あっ、おはようございます」

「おはようございます。
 今ベッドのシーツ変えちゃいますね」

マリーの担当の看護師のレイナが入ってきた。
太盛達は毎日来るので顔見知りになっていた。

太盛とミウは廊下に出て待つつもりだったが、
そのままでいいと言われた。

「斎藤さん、よく聞いてね? あなたは自分のことが
 自分で出来るようになったから、もうすぐ自宅に帰れるわよ」

マリーはこくこくとうなづいていた。

「来週の火曜日に最後の検査をします。
 それで異常がなければ退院できますよ。
 良かったですね?」

認知症などの老人を多く扱っているためか、
レイナは実に明瞭な口調で話した。

「本当に良かったじゃないかマリー。
 一時はどうなるかと思ったけどな」

「そうねっ。この調子なら来週には退院ね」

マリーはうれしそうに微笑んだ。

太盛は正直全然安心していなかった。
失語症だけでなくPTSDもあるのだ。

夏休みはまだ始まったばかりだが、エリカへの
トラウマを残した状態で新学期を迎えたら
また発作を起こすかもしれない。

太盛は事件の当事者だから、マリーを完治させるまで
どんなことでもするつもりだった。ミウも同様だ。

「二人とも。少しよろしいでしょうか?
 先生からお話があります」

レイナに呼ばれたので病室から遠いく離れた廊下のすみまで歩いた。
そこには主治医の男性がいた。真剣な顔で話し始める。

「これは本来ご家族の方にお話しすることなのですが、お二人とも
 毎日お見舞いに来てくれていますからお話しします。
 斎藤さんの失語症ですが、失語症にはいろいろな種類があるのを
 ご存知でしょうか?」

太盛とミウは顔を見合わせてから首を振った。

「話す内容も支離滅裂になるが、自分ではその異常に
 気づかない状態を感覚性失語症と呼びます。
 理解も比較的よく、比較的発話量も多いが、かんじんの言葉が
 なかなか出てこないようなタイプの失語症を健忘性失語症といいます」

「もっとも重症の失語症で発話もほとんどなく、
 理解力もほとんどなくなっている失語症は全失語症と呼ばれます」

「失語症の発病後、約3ヶ月間は脳の自然回復が進むと言われています。
 この時期を逃さず、集中的な言語訓練を行うことが重要です。
 この期間を過ぎても消えない言語障害は
 何らかの形で後遺症として残ることが考えられます」

「後遺症って……。じゃあ一生治らないかもしれないんですか?」

ミウの深刻な問いに医師は「可能性としては考えられます」と言った。

「彼女の家庭の話ですが、お母さまは大変お忙しい仕事を
 されているようですから、娘さんのそばにいられる時間は
 少ないでしょう。可能ならお友達のお二人ができるだけ
 彼女のそばにいてほしい。そして、どんなことでもいいから
 コミュニケーションを取ってほしいのです」

「普通に話しかければいいんですか?
 まり…斎藤さんの方は筆談でも問題ありませんか?」

「全く問題ありません。
 重要なのは彼女を一人にしないことです」

「どんな病気でも原因があるものです。お友達のお二人は
 斎藤さんが病気になった直接的な原因をご存知ですか?
 もし知っているなら、その原因を遠ざけてあげなければ
 回復が遅れることになるでしょう」

「原因ですか……」

太盛が困り果てる。学校で事件があったことは世間的に
抹殺したい事実だ。この院内で本当のことを話したら
それこそ世間の笑いもの。

だが、治療の専門医に隠したままでいるのもまずい。
何か回復の手立てがあるなら、そう思ってやんわりと説明した。

「女同士のトラブル……とでも言いましょうか」

「……いじめやけんかでしょうか?」

とレイナが会話に入って来た。

「これは……マリエのプライベートにかかわることなので
 詳しくは言えませんけど、ちょっと同じ部活の先輩と
 殴り合いというか、そんな感じの事件があったんですよ」

「では、彼女の打撲の跡はその先輩に殴られたものと?」

「そう考えて間違いないと思います。
 実は僕らも直接見たわけじゃないんですけどね」

「対人トラブルが原因ですか。それにしてもあの学校は
 いろいろうわさが絶えないですね。例の爆破も」

その話題になると太盛とミウは暗い顔で黙ってしまう。
またか、とレイナは思ってそれ以上聞かないことにした。

「斎藤さんの今後に関しては、彼女のご両親とも
 話し合って決めることにします。
 今日話したことはくれぐれも本人には話さないでください。
 彼女の今後が関わっていることです。
 学校でのトラブルが原因なら、転校したほうが
 いい場合もあるでしょう」

医師が最後にそう言って去っていった。レイナも後を追う。
レイナは瞳に焼き付けるようにカップルの姿をよく見ていった。


(受け身になったら何も解決しないぞ。
 医学で無理なら、他の方法を当たってやる)

太盛にはある考えがあったのだ。





太盛は小さい頃からよく神社に通ったものだ。
嫌なことがあると決まってその神社を訪れた。

4百弾もある石段を登った先に本堂へたどり着ける。
階段は途中で曲がる箇所がいくつかあり、
その場所ごとに鳥居が建てられている。

石段登りはトレーニングと呼ぶにふさわしい。
どんな人でも登っている途中で足腰が悲鳴を上げるものだ。
特に夏場はきつい。

太盛は石段を登るのを修行だと考えていた。
何度か休憩をはさみながら、ゆっくりと確実に登っていく。
太ももが痛い。息があがる。喉がかわく。だが諦めない。

ここは神々が宿る大自然。
一段一段登る間に腐った心が清められていく感じがした。

道は深い木々に囲まれていて日中の日差しは入ってこない。
近くで鳴き続けるセミ。汗でびっしょりと濡れるTシャツ。
髪の毛もべったりと顔に張り付くのが気持ち悪い。
ここに来ると、中学の制服を着ていた自分をよく思い出す。

階段を登り切ると下界が一望できる。
田園を中心とした、特徴のない田舎町。

七福伸といって、この町には七つの主な神社が存在する。
ここはその神社のうちの一つだ。

太盛は最上段の石段に腰かけてこの景色を見るのが大好きだった。
ここで受ける風は、地上よりもずっと涼しく感じられる。

「足がもう限界っ!!。日本の夏、もうやだ。国に帰りたくなってきた」

太盛の隣には当然のようにミウがいた。
彼らはもはや一心同体。
どこへ行くにしても一緒にいるのが
当たり前なほど親密な中になっていた。

「あんた……太盛だよね?
 太盛がうちに来るなんてどういう風の吹き回し?」

神社の境内から女性が出て来た。
彼女は巫女だが、今日は行事のある日ではないので私服だ。

「高校に上がってから、しばらくここに来てなかったからな。
 こっから見える景色が懐かしくなって見に来たんだよ」

「あらそうなの?」

と言い、大汗をスポーツタオルでふいてるミウを見て

「あんたの隣にいる子は誰よ?」

「彼女だよ」

太盛がさらりと言うので、
ミウは飲んでいたアクエリアスを吹いてしまった。

「太盛に彼女いたんだ? てかあんたみたいな奴と
 付き合いたいと思う人類がこの世にいたことに驚き」

「エミは相変わらずはっきり言うなぁ。ちょっと傷つくぞ。
 こんな俺でも良いって言ってくれる人はいるんだよ」

エミと呼ばれた女性は太盛の幼馴染だった。
年は彼の一つ上で別々の高校に通っている。
太盛が彼女のことをざっとミウに説明した。

「初めまして……。よ、よろしくお願いします。
 私は高野ミウと申します」

「こちらこそよろしく……。私はエミよ。
 エミでもエミーでも好きに呼んで。そんなに固くなくていいわよ。
 あなたがかしこまっていると、こっちまで緊張しちゃうじゃない」

「俺は堀太盛といいます」

「知ってるわよ!!」

太盛は声を出して笑った。

「暑いから中に入りなさい。
 こんなところにいると汗臭くなるわよ」

「おう。中で冷たい飲み物出してくれる?」

「はいはい」

境内の社務所は住居を兼ねていた。
内部は普通の住宅とそう変わらない。

エアコンの効いたリビングは別世界のように快適だ。
太盛は勝手知ったる他人の家なのか、寝転がってくつろいでいる。

エミがお盆に麦茶を持ってやってきた。
さすが神社の生まれだけあって、どこか神聖な感じがした。

肩より下から癖のついたロングヘアー。髪のボリュームが結構ある。
眼はたれていて、特徴のある顔をしていた。
決してブスではないが、美人というほどではない。

「今日は何しに来たのよ? あんたの彼女を紹介しに来たの?」

「んなわけあるか。ちょっと相談事があって来たんだよ」

「相談? また喧嘩でもしたの? あんたの顔殴られた跡があるよ」

「まあ喧嘩もしたけど、それとは別件。
 最近悪いことばかり続いてるからさ……。
 ちょっと先のことが心配になっちゃったんだよ」

「あらそう。ならそこのおみくじでも引いていきなさいよ」

「そうじゃないよっ!! もっと真剣な悩みなんだよ」

「あははっ。分かってるよ」

二人の息の合ったやり取りにミウの胸が少しだけ痛んだ。
二人が中学時代に親密だったのが伝わってくる。

太盛は真剣な顔でマリーのことを話し始めた。
他言無用のはずの学園の秘密を含めて包み隠さず話した。

(そこまで話しちゃっていいの!?)

ミウが途中で話を割りたくなるほどであった。
エミは太盛の話が核心に迫ってくると目を閉じて真剣に聞いていた。

ミウは彼女の姿を珍しそうに観察していた。
確かに太盛が信用するだけあって頼りになりそうな少女だった。
冗談を言っていた時とは別人に感じられるほど
太盛の話に聞き入っている。

「なるほど。それで私のところに来たってわけね?」

「ああ」

「私はね、超能力者じゃないのよ?
 神の力を医学代わりだと思っては困るわ」

「俺だってそんなつもりはないって。ただちょっと
 話だけでも聞いてほしいと思ったんだよ。
 なにせ医者もお手上げだ。あの子の
 将来のためにも何かできることがあればなって」

「困った時の神頼みとはよく言うわよね。
 普段は信仰心のかけらのない連中が言うものよ」

「エミ、怒ってるのか?」

「むしろ逆よ。太盛が私を頼るなんて中学の時以来じゃない。
 あんた、すっごいバカだったね。喧嘩ばっかして親に怒られてさ。
 落ち込んだ時にそこの階段のところで、よく一人でたそがれていたよね」

「一人になりたかったんだよ。でもしばらくして一人でいるのは
 さみしいと気づいた。そんな時にエミが声をかけてくれて
 本当に助かったんだ。だから今回もエミを頼ろうと思った」

「ふーん。話をする前に一つだけ」

エミは、上品に座っているミウに視線を移す。

「占い好きの女子って多いじゃない? 
 でも根っこの部分で神様を信じてる人はいないのよ。
 ミウさんは神様とか信じるタイプ?」

「私は、生まれがキリスト教の国なんです。
 中学の時に日本に引っ越してきまして」

「あらそうなの?
 キリスト教圏といったら欧州かアメリカ大陸よね」

「イングランドです」

「ってことは英国国教会?」

「そうですっ。よくご存じですね!!」

「いちおう神に仕える身だから他の宗教のことも勉強しているのよ。
 学校での授業でも習ったりするしね。
 イスラム教のことも知ってるわ。最近テロのせいで評判悪すぎよね」

ちなみにミウと太盛の学校はミッションスクールだが、
生徒の9割は信仰心がない。進学校のせいか宗教史の授業に
ほとんどの生徒は関心がなく、適当にやり過ごしてる。

「太盛の彼女すごいじゃない。
 あんた外人フェチだったんだ?」

「ミウの両親は日本人だよ。
 この子もちゃんと日本人の顔してるだろ」

「うん。言われてみればそうね。
 ミウさん。あなた、英語は話せるの?」

「恥ずかしながら、日本語より得意です」

「すごーい。帰国子女なんて初めて見たわ。
 あなた、英国生まれだから
 もったいぶった話し方をするの?」

「たぶん人見知りだからですよ。
 あと日本語はアクセントの関係で
 感情をつけにくいというか」

「そんなもんなのかしらね。
 私は外国語が苦手だから全然分からない感覚だわ」

「なあエミ。少し話を進めてもらってもいいか?」

「あっ、そうだったわね。ごめんごめん。
 私、話しだすと止まらなくなっちゃうのよ」


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