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作品名:モンゴルへの逃避 作者:なおちー

第20回   A ミウはエリカに復讐したくなった
その次の日。昼食の席でレナがとんでもないことを言った。

「ユーリが毒を飲んで死んだ?」

「ええそうよ。私、あれからずっとマリンと連絡を取り続けたの。
 あのファザコン、私のしつこさに根負けして
 ついに真実を教えてくれたわ」

レナとカリンは長テーブルに向かい合って座っていた。

どうせ叱る人がいないからとミウも座って食事している。
料理人の後藤も着席しているのだから自由なものである。

後藤が神妙な顔で聞いた。

「レナ様。それはマリン様から仕入れた情報ですか?」

「そうよ。電話で聞きだしたから嘘じゃないと思うわ」

「しかし……毒をおあるとは」

「母様に捕まって拷問されそうになったそうよ。
 SPが取り押さえる前に毒入りのカプセルを噛んだの」

後藤はロザリオを握りしめ、胸の前で十字を切る。
そして深いため息を吐いた。

「あの子が亡くなったのですか……。にわかには
 信じられませんな。ユーリは聡明で芯の強い娘でした。
 あんな立派な子が、外国の地で死んだなどと……」

「私だって信じたくないよ。どっきりだったらなって思う。
 でもさ、マリンがこんな嘘をつく理由が思いつかないし。
 母様なら会った瞬間にユーリを殺しちゃうと思う」

ミウはテーブルに肘をつき、頭を抱えてしまった。
隣の席の後藤が心配そうに声をかけるが、彼女の耳には入らない。

「ユーリの馬鹿……死ぬためにモンゴルへ行ったようなものじゃない……。
 そんなことまでする価値があったの……? 命を捨ててまで……。
 なんでユーリが死ななければならないのよ!!」

「お、落ち着きなさいよミウ。お水がこぼれてしまったわ」

ミウが乱暴にテーブルを叩いた衝撃でコップが傾いたのだ。
普段はメイドがやるべき仕事を、率先してカリンがやった。

「お嬢様。こういう仕事は私にお任せください」

「いいのよ後藤。あなたは座っていて」

ミウは涙が止まらなくなった。

小声の英語で何かつぶやいているが、
他の人には内容まで聞き取れなかった。

ユーリはミウの親友だから、彼女が今
どれだけ深い悲しみにいるかは想像に余るほどだ。

彼女はひとしきり泣いた後、ハンカチで顔をぬぐう。
ティッシュで鼻をすすり、真っ赤に晴れた目でこう言った。

「レナさま」

「な、なによ?」

「ちょっとスマホを見せてください」

真剣な顔で聞かれたので、思わず携帯をミウへ手渡した。
メールのやり取りや送られた写真を確認していくと、
どんどんミウの表情が険しくなった。

「まだ分からないね」

腹の底から出したような低い声で言うミウ。

恐ろしい声に一同は思わず目を見張った。

みんな次の言葉を待っていた。
なのにどういうわけか、ミウが急に黙り込んでしまった。

こういう時は誰が話しかけたらいいか判断に困る。

「何が分からなんんだ?」と後藤が訊く。

「ユーリが死んだかどうかよ。だって、ユーリの死体が
 見つかったわけじゃないんでしょ?」

「しかし、どうやって確かめるのだ。
 レナ様の話ではミサイル攻撃によって
 SP達も行方不明になったということだが」

「私はエリカが憎いのよ。
 あの女を殺してやりたいくらい。
 今回の騒動の原因は全部エリカなんだよ」

「待て待て。めったなことを口にするんじゃない。
 この部屋は盗聴器が仕掛けられているんだぞ」

「今さら盗聴されたってなによ? 関係ないわ。
 もしユーリが毒を飲んで死んだとしたら、
 エリカが殺したのと同じよ。絶対に許せない」

「奥様の気性の荒さは今に始まったことじゃない。
 粛清された使用人は過去にも存在したと
 鈴原さんが言っていたではないか」

「ノゥ!! It is not what I want to say!!
 昔の話は関係ない!!」

ミウの怒号が食堂中に響いた。
耳に突き刺さるほど甲高い声だった。

「私は大切な親友を奪われたのよ?
 これが落ち着いていられる?」

「奥様もそのうち帰ってくるさ。
 家族がそろってから今後の進退を決めるべきだ」

「Never!!
 あの血塗られた女が帰って来たとしても、
 自分の主人として迎え入れるなんて絶対に無理!!」

日本を発つときのエリカは最高に殺気立っていて、
ロシアの女帝エカテリーナ二世を連想させるほどだった。

「いつか帰ってきてくれるかなって思ったけど、
 やっぱり帰ってこないじゃない!!」

それは、誰もが思っているが口にはしない言葉だった。

「太盛様達がモンゴルに行ってから3ヵ月も立ったわ。
 エリカが無理やり連れ戻すかと思ったけど、
 レナお嬢の携帯に送られた写真を見てよ。
みんな蒙古で普通に暮らしてない?」

マリンは写真撮影が趣味だった。父とゾーンモドで買い物をしたり、
ゲルで生活しているところをいちいちスマホで撮影していた。

レナがしつこくメールしてくるので、生活の様子を送ってあげたのだ。
いちおう彼女が大嫌いなババアの写真も入っている。

「これ、たぶんマリンお嬢は日本に帰りたくないんですよ。
 お嬢は大好きなお父様と一緒にいたいだけですから。
だからお嬢様たちの電話を無視していたんですよ」

「あのファザコンめ! お父様を
連れ戻すって言ったのはうそだったのか!!」

カリンも激高し、拳でテーブルを力いっぱい叩いた。

「お父様はマリンに監禁されてるんじゃないの!?」

「いやいや。さすがにあのバカでもそこまでしないでしょ。
 マリンの行動原理からして
パパに嫌われるようなことは一切しないじゃん」

「左様ですな。むしろ監禁するのは奥様の方でしょう」

「じゃあレナはどう思うの?」

「私?」

「ずっとパパたちの動向を調べていたんでしょ?
 なんでパパたちは帰ってこないの!?」

「私に聞かれても困るよ。知りたいのはこっちだっての。
てかあんたの声うるさい。むかつく」

「無責任なこと言わないでよ。
家族なんだからパパを連れ戻す方法を考えてよ。
マリンと連絡が取れるのはレナだけでしょ?」

「バッカじゃないの。モンゴルは日本の4倍も
国土があるんだよ? マリンは場所を絶対に
教えてくれないし、どうやって探すの?」

「ママに連絡すればいいじゃん」

「やだよ!! 誰がママなんかに。あんたが連絡しなさいよ」

「私だっていやだよ!! レナは学校サボって家にばかり
 いるんだから連絡する時間くらいあるでしょ!!」

「はぁ? なにそれ? 意味わかんない!!」

姉妹はしばらく無意味な喧嘩をしていた。
日ごろ抱えていたストレスがささいなことで爆発したのだ。

後藤は頭痛がしてきて退席したくなったが、
しばらく傍観することにした。

ミウはずっと考え事をしているので
姉妹の怒鳴り声など耳に入っていない。

「カリンはお子様だから相手するの疲れちゃった。
 私は大人だから自分から引くことにするね」

「どっちが子供だよ!!」

「あーうるさいうるさい。早くおじいさまに頼もうよ。
 ここまできちゃったら私たちの手には負えないよ。
 これ以上話し合っても時間の無駄」

レナの案は至極まともだった。
党首の権力は国家権力レベルと聞いているから、
本気になれば太盛達を強制帰国させることは十分に可能だと思われた。

「うむ。レナお嬢の言う通りだな。さあミウ。
 今ハーブティーを用意するから、飲んで落ち着きなさい。
 ゆっくりでいい。おまえが書きたくなったら、思った通りのことを
 手紙に書いてくれ。ご党首様は正直者を好まれる。忘れるなよ?」

後藤が厨房に消えてからも、ミウの険しい表情に一つも変化はなかった。

レナは自分の役割は終わったとばかりに2階の子供部屋に消えていった。
よく言えばさっぱりしていて、悪く言えば薄情だった。

階段の上で物が壊れる音がした。
荒れ狂ったレナがまた物に八つ当たりしたのだなと、
後藤がこめかみに指をあててしまう。

カリンは残り、ミウと一緒に手紙の内容を考えることにした。

1時間ほどで手紙を書き終えた。

その手紙が党首の元に届くころには、
太盛達の行方は全く分からなくなっていた。


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