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作品名:運命の赤い糸 作者:箕輪久美

第3回   結婚
 ゴールデンウィークは終わり、健一は、翌朝いつも通りの時間に出勤し、始業15分前の8時45分に執務室に到着した。
「おはようございま〜す」
いつものように朝の挨拶をして席に着くと、悟が、健一のデスクにやって来た。
「涌井さん、おはようございます」
「おお、おはよう」
「昨日は、姉がたいへんお世話になりました」
「いや、いや、とんでもない。こちらこそ、楽しかったよ」
「涌井さん、姉さんの高校時代の部活の先輩だったんですね」
「そうみたいだね。実は、俺も昨日初めてそれを知ったんだよ。失礼ながら、高校時代のお姉さんのことは全く覚えていなかったんだ」
「姉さん、喜んでましたよ!帰ってくるなり、僕を捕まえて、ず―と涌井さんのことばかりしゃべり続けて全然放してくれないんです。一人になったら一人になったで、時々ニヤニヤしながら、何かボ〜っと考え込んでいるんです。あんな姉さんを見るのは初めてです」
「ハハ、そう、それは大変嬉しいんだけど、何だか、恥ずかしいような、こそばゆいような・・・あっ!それはそうと、君の家はもの凄い大豪邸なんだね―!博物館か図書館かと思ったよ。いったい何をやっているの?」
「いや、いや、それ程のものではありませんよ。半導体製品等を製造している会社を経営しているんです」
「へえ―、それじゃあ、将来は君が会社の経営を引き継ぐことになるの?」
「まあ、その可能性は、あるでしょうね」
「そうか、だから今は修行中ってことなんだ」
「いや、そんな腰掛的なつもりでこちらで働いているわけではないですよ」
「わかってるよ、そんなことは。すると、お姉さんが、その会社のほうで働いているのか」
「いえ、姉は、家業とは全く関わっていません。実は、バイオリン奏者なんです。大学院に通いながら、プロとしても活動を始めています」
「えっ、そうなの!あっ、そう言えば、高校の時にバイオリンがすごくうまい生徒がいるって聞いたことがあるぞ!全国の大会か何かで優勝したって」
「ああ、それは、姉のことだと思いますよ。中学生のころから全国のあらゆる大会を総なめにしてましたから」
「そうだったのか・・・でも、何でお姉さんは、吹奏楽部ではなくてバドミントン部なんかに入部したのかな?」
「姉は、子供のころから有名な講師のもとで、ずっとバイオリンの個人レッスンを受け続けてきました。だから、今更吹奏楽部に入ってもあまり意味はないし、週に一度のクラブ活動くらいは、違ったことがやりたかったんじゃないですかね」
「ふ〜ん、それで彼女は、俺の後輩となって、その弟と俺が、今同じ職場でこうして働いているって訳か・・・人の縁っていうのは、本当にわからないものだね〜」
「確かにそうですね」
2人がこんな話をしていたまさにその時、ちょうど9時になり、始業のチャイムが鳴り始めた。
「おっと、いけない!仕事、仕事」
 翌週から、健一は、奏がサークルに参加できる週末には、車で彼女を迎えに行って一緒にコートで練習をし、帰りは家まで送ってから帰宅するようになった。自宅と練習コートのある体育館とのちょうど中ほどに奏の家があるので、これは、ごく自然な成り行きでもあった。そして、これによって、2人だけで会話を交わす機会ができたため、お互いに打ち解けあうのに多くの時間はかからなかった。
「あっ、健一さん」
「ん?」
「私、来週は、サークルには出れないわ」
「そう」
「東京で、リサイタルの打合せがあるのよ」
「へえ〜、東京でリサイタルをやるの!すごいね―」
「いや、それほどのことではないわ。今まで、何回か東京でリサイタルはやっているの。でも、できれば、今回は健一さんに来てほしいな」
「えっ!俺、音楽のことはまるで分らないよ」
「かまわないわ。ただ、健一さんの前でバイオリンが弾きたいの」
「そう。いつなのリサイタルは?」
「9月30日の土曜日よ」
「そうか、じゃあ日程の調整をしてみるよ」
「ありがとう。必ず来てくれることを信じているわ」
「ああ、それを最優先で調整をするよ」
「あっ、そうだ!俺も来週は、サークルには出れないわ。土曜日が仕事だった」
「日曜日は?」
「日曜日は、友人の結婚式なんだ」
「お友達の?」
「そう。悟君の前任者の女性と大学時代の親友の結婚式なんだ」
「へえ〜、健一さんが仲立ちをしたの?」
「まあ、結果的にね。彼女を、親友が勤めるスポーツクラブに紹介したことがきっかけになったんだ」
「そ〜お、コーチだけじゃなくてキューピッドまでやっているのね!」
「そのとお――り!俺って、マルチだろ〜!」
「フフフ、それに漫才師が加わるんじゃないの?」
「おらあ、漫才師じゃあね―――よ!」
「あっはははははは!」
 健一は、一週間前に美彩季と剛志から結婚式の案内状を受け取っていた。日時は来週の日曜日午前11時より、場所は、市内の某結婚式会場であった。
ひとつ気なったのは、披露宴の開始時間が、午後1時からとなっていたことであった。それにもかかわらず、健一への案内状には、午前10時45分までには来場するよう記載されていたのである。ミスプリントを疑った健一は、剛志に確認の電話を入れていた。
「もしもし、剛志?」
「おお!健一か」
「案内状、届いたよ。本当におめでとう」
「おお、ありがとう。お前が来てくれるんで本当に安心したよ!」
「ところで、時間のことなんだけどさ、午前10時45分までには来場するようにと書かれているけど、これ、ひょっとして、間違いじゃないのか?」
「いや、それで合っているよ」
「えっ、でも、披露宴の2時間以上も前じゃないか。そんなに早く行く必要があるのか?」
「実はさ、そのことで、ちょうどこちらから連絡をしようと思っていたところだったんだ」
「どういうことだ?」
「お前には、11時から始まる式にも出席してもらおうと思っているんだ」
「なっ、なんだって――!!!」
「しっ、しかし、おまえ、そんなこと・・・両家の親族の皆さんの中に俺が混じっているのは、いくら何でもおかしいだろう!」
「いや、俺たちの結婚は、お前がいなければ、あり得なかった。仲人は別にいるけど、実質的な仲人は、健一、おまえだよ。だから、俺も美彩季も、お前の式への出席を強く希望した。そして、両家の親族はすべて説き伏せた。お前は何も心配しないで式に出てもらえばいい。それから、お前の希望通り、披露宴でもスピーチも何もする必要はない。ただ、いてくれるだけ、それだけでいいんだよ」
「でもな〜・・・親族でもない俺が、どんな面をさげて式に出ればいいんだよ」
「それは、その面にきまっているだろう!それ以上の面がどこにあるよ」
「う〜ん、じゃあ、整形しようかな〜。いや、そうじゃなくて、ああ、そうだ!出入り口の横にこっそりといさせてくれよ。それなら、スタッフだと思われて不自然じゃないだろ?」
「だめだよ!もう、親族全員が、大切な友人が来ることを了承しているのに、何でその友人がスタッフみたいに振る舞わなければならないんだよ。ああ、美彩季、お前からも言ってやってくれよ。健一が、式への出席を渋っているんだ」
「もしもし、涌井君」
「ああ、美彩季さん、この度は、本当におめでとうございます」
「ありがとう。ごめんね、無理を言って。でも、今、剛志さんが話した通りよ。結婚する当事者である私たちが、涌井君の式への出席を強く希望したの。親族には、私たち2人を結び付けてくれた大切な友人で、私たちの方からどうしても出席してほしいとお願いしたと話したら、みんな納得してくれたわ。だから、お願い、式に出席して!」
「う〜ん、美彩季さんにそこまで言われてしまうと、出ない訳にはいかないな〜」
「わかりました。出席させてもらいますよ」
「本当!ありがとう!剛志さん、涌井君、出てくれるって!」
「おお!健一、すまない。本当に恩に切るよ!繰り返すけど、特別なことをしてもらう必要はない。そばにいて、おれたち2人をずっと見守っていてくれ」
「わかったよ」
 一週間が過ぎ、美彩季と剛志の結婚式の当日となった。健一は、礼服に身を包み、緊張した面持ちで10時半過ぎに会場へ到着した。ふと、空を見上げると、まだ、梅雨入り前で雲もほとんどなく、初夏を感じさせるさわやかな日和であった。
健一は、入口の自動ドアを通り、正面にある受付で両家の控室の場所を確認して、徐に通路を歩き始めた。そして、突き当りを右に折れて控室入口の前まで来たところで、通路の脇に待機していたスタッフと思われる女性に声をかけられた。
「すみません。失礼ですが、涌井様ですか?」
「はい、そうです」
「ようこそいらっしゃいました。少々、こちらでお待ちください」
そう言うと、彼女は、素早く控室の中に入っていった。すると、しばらくして、美彩季と剛志が控室の入口に姿を現した。美彩季は、白無垢に角隠し、剛志は、紋付羽織袴姿であった。
「おお、健一!よく来てくれた」
「おお、剛志、おめでとう」
「ありがとう」
「涌井君、来てくれて嬉しいわ」
「美彩季さん、おめでとうございます。似合ってますね〜、それ」
「そう?ありがとう。ちょっと照れくさいけどね」
「健一、それじゃあ、両家の親族にお前を紹介するよ。一緒に来てくれ」
「ああ、たのむ」
「それと、式は、新郎側の親族と新婦側の親族に別れて並ばなければならないから、お前は、俺の親族側に並んでくれ」
「わかった」
 剛志は、そう言うと、健一を連れて控室に入り、美彩季とともに両家の親族一人一人に健一を紹介していった。健一は、自分をスムーズに控室に招き入れて親族に紹介し、自分の式への負担を少しでも軽くしようとしてくれた剛志と美彩季の心遣いがうれしかった。
 しばらくすると、いよいよ、式場への入場の時間となった。神職と巫女に先導されて新郎新婦、その両親、親族の順に並んで、式場に向けて一同はゆっくりと歩みを進めた。
健一は、剛志側の親族の最後尾に並んで式場の前までやって来た。そして、まず、新郎の親族が式場に通されて神前に向かって右側の席に案内され、次に、新婦の親族が、神前に向かって左側の席に案内された。両家の親族の入場に続いて、新郎新婦、仲人、神職が入場し、式が始まった。
 初めに、神職が祓(はらい)詞(ことば)を述べて身の汚れを祓い清め、次に、祝詞(のりと)を奏上して二人の結婚を神に報告し、永遠の幸せを祈った。続いて、新郎新婦が、大中小の盃で交互にお神酒を頂く三々九度の盃が行われた後、結婚指輪が交換された。
 剛志の親族の末席でこの光景を見ていた健一は、軽い気持ちで剛志が勤めるスポーツクラブを美彩季に紹介してから、わずか数ヶ月のうちに2人が結ばれたことに対して、万感の思いを胸に抱くと同時に、やはり、2人は、なるべくして夫婦になったのだと強く思っていた。
男と女は、生まれながらにしてそれぞれの小指に目に見えない赤い糸が結ばれており、その糸は、どれほど距離が離れていようとも、将来契りをかわし人生を共にする相手と繋がっているという。
美彩季と剛志は、間違いなく運命の赤い糸で結ばれていたのだろう。
今、自分には、奏という親しい女性がいるが、自分の小指に繋がる目には見えない赤い糸の先には、いったいどんな女性が自分を待っていてくれるのだろうか。
 健一がそんなことを考えていると、2人の門出を祝う舞を終えた巫女が、両家の親族全員にお神酒を注ぎ始めた。健一も、最後に盃にお神酒を注いでもらうと、全員が起立してお神酒を飲み干し、両家は新たな親族となった。
 そして、最後に、神職が式を執り収めたことを神に報告して、美彩季と剛志の結婚式は、無事終了した。
 控室に戻って、両家の親族に挨拶を終えた健一は、美彩季と剛志が、別室で着替えをしている様子であったので、そっと控室を出てロビーまでやって来た。そして、ソファーに深々と腰を下ろして、ほっと一息ついていた。
『さて、これであとは、1時から始まる披露宴を残すのみだ。でも、こちらはご親族だけではなくて招待された人たちが来るから、気は楽だな。本日のお役目は、これで、ほぼ終わったと言ってもよさそうだ』
健一は、上着の内ポケットからシガレットケースを取り出し、ライターで煙草に火を点けて、ゆっくりと燻らせ始めた。そして、目を閉じて、大きく一つ息を吐いた。
 10分程ロビーでくつろいでいた健一であったが、緊張から解放されて感覚が戻ってきたせいか、にわかにのどの渇きを覚え始めた。そして、控室に向かう通路に飲料水の自動販売機が設置されていたことを思いだして、再び控室の前までやって来た。
自動販売機にコインを入れて、出て来た缶コーヒーを手に取ったその時、着替えを終えた剛志と美彩季が、控室から顔を出した。
「おお、健一、ここにいたのか」
2人は、先程までの和服姿とは一転して、剛志は、黒のモーニングコート、美彩季は、白のウェディングドレスを身にまとっていた。
「ああ、着替えが終わったのか。ふたりとも、本当に、おめでとう」
「ありがとう。おまえがいてくれたおかげで、俺たちは夫婦になれた。心から礼を言うよ」
「涌井君、本当にありがとう」
2人は、そろって健一に頭を下げた。
「おい、おい!何をかしこまっているんだよ。そんなことをされたら調子が狂っちゃうよ」
「実は、俺の方もいい経験をさせてもらってありがたいなと思ってたんだよ」
「いい経験?」
「ああ、今まで披露宴には何回か出たことはあったけど、式自体に出たのは今回が初めてだったんだ。そこで、式の進め方だったり、厳かな雰囲気だったりを目の当たりにすることができて、結婚するということの重みを肌で感じることができた・・・とでもいうのかな」
「そう、もし、私たちの式が、涌井君のこれからにプラスになったのなら、こんなにうれしいことはないわ。それで・・・どうなの、涌井君、いい人は?」
「ええ、まあ」
「えっ、誰かいい人がいるの?」
「いや、いや、まだ、知り合ったばかりで、親しくしているという程度ですよ」
「へえ〜、そうだったの!で、どんな人なの?」
「それが、何と、美彩季さんの後任者のお姉さんなんですよ!」
「え――っ!わっ涌井君、あなた、何という早業を・・・」
「いや、いや、違います!僕は、仕事の関係を利用して女性に近づくような真似は、絶対にしませんよ。本当に、偶然なんです」
「偶然?」
「ええ、実を言うと、彼女は、高校時代の部活の後輩だったんです。彼女は、僕のことを知っていたそうですが、僕自身は、彼女のことは、全く覚えていませんでした。というのも、彼女は2年歳下で、おまけに、週に1度の必須クラブの時にしか部活に参加していなかったからです」
「それで、一月ほど前に、たまたま、彼女が、ネットで自分たちのサークルのホームページを見ていた時に、コーチとして載せている僕の写真を見つけて、サークルに参加してきたんです。初対面のはずなのに、いきなり先輩と呼ばれて驚いたと思ったら、話を聞いていくと、今一緒に働いている美彩季さんの後任者のお姉さんであることがわかって、二度びっくりしたという訳です」
「へえ―――!すっ、すごい話ね!」
「健一、それは、単なる偶然じゃないかもしれないぞ」
「えっ?これ以上の偶然が、どこにあるんだ」
「いや、そうじゃなくて、おまえとその人は、出会うべくして出会ったのかもしれないぞ」
「そうかな?」
「おれは、そう思うな。あっ、そうだ!健一、俺たちが旅行から帰ってきて暮らしが落ち着いたら、一度その彼女を連れて家に来いよ。4人で食事をしよう」
「それはいいわ。2人で家に来て!私も是非会ってみたい!」
「いや、僕は、構わないですけど、彼女が何というかは、聞いてみないとわからないですよ」
「何とか説得して、連れてきてよ!」
「ええ、まあ、やってみますよ」
「わぁ――、楽しみだわ――!それで、彼女って、何をしている人なの?」
「バイオリニストなんですよ」
「えっ―――っ!プ、プロの音楽家なの?」
「そうです。きょうは、9月に開くリサイタルの打合せだそうで、東京の会場に行っていますよ」
「すっ、すご――い!わ――ますます会いたくなってきたわ!」
 ピアノとバイオリン、楽器こそ違え、ずっと音楽に打ち込んできた美彩季は、プロの音楽家との接点ができたことが、殊の外うれしい様子であった。
「おっと、そろそろ時間だな。健一、じゃあ、約束だぞ。彼女を家に連れてきてくれよ」
「ああ、話はしてみるよ」
「涌井君、絶――対に連れてきてね!」
「ええ、ベストは尽くします」
「それじゃあ、披露宴も頼むな」
「ああ」
 剛志と美彩季は、披露宴に向けての最終確認のために控室へ戻っていった。一方、2人と別れた健一は、控室を離れ、披露宴会場に向かって歩き出した。いったんロビーに出て、式場とは、反対方向にしばらく行くと、右側に披露宴会場が見えて来た。受付は、すでに始まっていた。
 健一は、芳名帳に名前を書き込み、内ポケットから祝儀を取り出して担当者に渡し受付を済ませた。しかし、披露宴までは、まだしばらく時間があったので、すぐには会場に入らず、周りを見回して外観や雰囲気等を味わいながら、何とはなしにその場に佇んでいた。すると、ちょうどそこへ、美彩季側の主賓として招待されていた営業第2課課長の平山がやって来た。
「おお、涌井君」
「ああ、課長、お疲れ様です」
「もう、受付は済ませたのか?」
「はい」
「じゃあ、俺も受付してくるわ」
「はい」
平山は、健一同様、受付カウンターで祝儀を渡し、芳名帳に名前を記入して、再び健一の許に戻って来た。
「副島君もとうとう結婚しちゃうな」
「ええ」
「おまえさん、副島君に気があったんだろ?」
「えっ!わかっていたんですか?」
「そりゃ、見てればわかるさ」
「それで、旦那さんになる人のことは知っているのか?」
「ええ、もちろん。大学時代からの親友ですから」
「えっ!・・ひょっ、ひょっとして、君が紹介したのか?」
「いえ、直接紹介したわけではないんですけど、奴の勤めるスポーツクラブを美彩季さんに紹介したのが、きっかけになったんです」
「そうか・・・大魚を逸しちゃったな」
「いや、僕は、そうは思いません。あの2人は、仮に僕がきっかけを作らなかったとしても、別の何らかの方法で出会って、必ず結ばれていたと思います」
「へえ〜、どうしてそう思うんだ?」
「う〜ん、言葉で説明するのは、少し難しいんですけど、男と女には、この人に対しては、どうしてもこの人でなければだめだというような、唯一無二の組み合わせというか、絶対的な相性のようなものがあるんじゃないか思うんです」
「そして、あの2人は、互いにこの世でたった1人しかいない、究極の相性を持ちあった男と女であるように、僕の目には映るんです。だから、2人は、たとえどのような状況に置かれていたとしても、まるで、磁石の両局が引き寄せあうように、いつかは必ず出会って結ばれたのだろうというふうに感じるんです」
「ふ〜ん、それじゃあ、その唯一無二の組み合わせではない人と、強引にいってしまうと?」
「う〜ん、それは、うまくいかないのかもしれませんね〜」
「そうか、俺もそうだったのかな〜?」
「えっ!!かっ、課長、まさか?」
「そうだよ。俺、実は、バツイチなんだ」
「そっ、そうだったんですか!すみません、全然知らなかったもので、つい、偉そうなことを言ってしまいました」
「いや、いや、何も気にすることはないさ。もう、10年も昔の話しだ。しかし、おまえさん、結構いい目を持っているな!自分が思いを寄せていた女性が、他の男と一緒になったというのに、それだけ鋭く冷静に分析ができるとは、たいしたもんだ!自分の嫁選びの時も、きっとその力は役に立つと思うぞ」
「ありがとうございます」
「さて、そろそろ時間も近づいてきたな。中に入っていようか」
「はい」


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