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作品名:DEV 作者:Miami3

第9回   9
取りあえずブライアントは2人に喋りたくないことは話さなくていいという条件のもと何とか話を引き出すことに成功した。
「名前はジョー。年は多分24。身長は183の体重82 。好きな食べ物は辛いものかな」
何で身長体重の方が年齢よりはっきり答えられるんだ、そう突っ込みたくなった。
「出身はまぁ、遠く離れた場所とでも思ってくれ。正直ここら辺は説明できない。そしてこっちに来た理由や方法も信じられないことづくめだ。簡単に言うとある男に俺は撃ち殺されたはずなんだが、気が付いたらゴミみたいな適当さで水の上に浮いてたところをクロフォードに引き上げられた」
次は真の番だ。しかしすぐには話し出さず、顎のあたりをこすって何を話すか選定している。ようやく話し始めるとそこにはほとんど情報が無い。
「真、真一門だ。年は23。こいつと違ってそこはしっかりしている。生まれも育ちも何も言いたくない。だけどはっきり言えることはジョーと同じでこの国とは縁もゆかりもない。さっき撃ち殺されたって言ってたが俺も似たようなもんだ。ただし、正確にはその時のことは曖昧なんだ。追い詰められて走って逃げていた。そして後ろをたまたま振り返ったらドンピシャで脳天に1発。そのまま意識を失った・・・・。気が付いたら雷雨の中デカい家の前に投げ出されていた。そこの軒下で一晩を過ごしたところ朝、住人に発見されてそれ以来そこで働いている。それがクロフォードの父親だったから今はクロフォードに仕えている」
ほとんどが既知の内容だったため、もう疑問も湧かないかとジョーを見ると何やら深刻な顔をしている。ただし、こいつの場合は深刻な顔をして考えているのはくだらないことの可能性も十分ある。ちょっと注意が必要だ。
「なぁ真。覚えていたらでいいんだけど、その時撃たれた銃はどんなのだった?」
「銃の種類か。はっきりとは覚えていないが色は分かる。とにかく黒い。グリップ、銃身、スライド、多分セミオートだと思うけど」
「なるほどな。・・・・・・同じだ。多分俺を撃ったのとお前を撃ったのは同じ種類の銃だと思う。証拠はないが直感はそう言ってる」
「そうかもな・・・・まぁ今分かったところで全然意味が無いんだけどな」
はぁーっと諦観のため息を深々と真が吐いた。あまり得られた情報が無くて口数も少なくなったところ真が最も重要な話を切り出す。
「お前たちこれから一体どうしたい?ブライアント」
「そりゃ俺は元の国に何が何でも帰るさ。どうしてもやらなきゃならないことがあるんだ」
「そうか・・・・まぁ当然か」
「あぁ、おれはどうせこの国に居ても差別され暴力を受けてボロボロになって働けなくなったら路地裏にポイだ・・・・・・そんな人生は嫌だ。何が何でもこの国から脱出しなきゃならないんだ」
「お前は、ジョー?」
「あぁ、テメーに詳しく喋る気は起きねえが、こんな場所いるきはおきないのは確かだ。早めに金貯めて出る準備でもするさ」
「ふう、それじゃ二人にはかなり残念な話がある」
「何だよ、もったいぶるな」
「まずブライアント、お前の目標はかないそうも無い。なんせ今や全く南部まで行く手段が無い。鉄道は少し前から完全に事前許可制に変更した所為で民間人は乗れない。ましてお前じゃな・・・・、徒歩じゃ距離がありすぎる上に、南部人の一人旅はやっぱこの国じゃ不自然すぎる。どうせ直ぐに捕まるさ。それにここから仮に乗れたとしても終点のドレスには今軍需物資が大量に搬入されてるんだ。警備の兵士の数は半端じゃない。そこから更にリッジマンデまで行くには・・・・・・カイザー大路を通らなきゃだが、今戦争中。通行不可能。そこ以外でと思っても、圧倒的な標高を誇る王国随一の山脈ロンキーが待ち構えている。頂上は万年融けない雪で覆われてる。まぁここら辺は住んでるお前が一番わかるだろうよ。つまり現実を考えればここで大人しくしてるのがお前にとって一番賢い選択だ」
「それに、お前!」
今後はキっとジョーを指さす。真の勢いの良さに多少面食らったが、ジョーは何とか平常のトーンを保つ。
「あぁ?どうした?」
「俺も、もといた国に帰れないか色々試行錯誤してみた。今言った地形のこともこのとき知ったんだ。が、結論無理だった」
「無理だった?」
「まず、同じ境遇の人間がいないか、王国中を旅してそれとなく何か最近変わったことがあったか?例えば、へんな人間が現れたり、おかしな気候変動が起こったり、人が失踪したりといった情報をかき集めて実際現場にってみるって作業をだいたい一年位してみた。だが、どれも成果が上げられず、同じ境遇に陥ってる人間には今日まで一度も会わなかった。一度もだ!だから俺は必要以上に期待するのを止めたんだ」
「なるほど」
しかし相変わらずジョーの反応は薄い。じれったくなった真は少し焦っているジョーの表情が見たくて更に畳みかける。
「今まで1人もだ。わかるか?ブライアントの場合はまだ出入りしている人間がゼロじゃないところから考えてこっちは可能性が皆無じゃない。だけど、お前の場合はゼロだぜ?!」
「・・・・やたらとゼロを強調するが、ゼロじゃないだろ?お前の目の前にいる俺がその証拠だ。それにお前がもし本当に不可能だと思っているならわざわざリスクを取ってこの封筒を俺に盗らせたりするか?この封筒をどう使うかは聞いていないがこれが俺たちの今後の帰る方法を探るのに必要だ、って考えたんだろ」
「あ、あぁそりゃそうだけど・・・・・・」
ジョーが自分の考えを総て見抜いていたことに驚きを隠せない。しかし確かにそうだが、1年探しても全く見つけられなかったという事実をどう受け止めてるんだ?ジョーはゆっくり話を続ける。
「いいか?お前からしたら確かに1年越しの事なのかもしれないがな、俺からしたら来てすぐお前に会ってるんだ。これはもう完璧に俺はツイてるとしか言えないだろ?」
だから何を心配しろっていうんだ、そう言い放ち立ち上がる。その間さりげに自分の前にあるグラスを脇に押しやった。
「とにかく今日は一旦ここで別れよう。俺たちも暗くなる前に宿を探したい」
「そうだな・・・・積もる話はまた今度だ。宿はもう探してるのか?もしまだなら俺が紹介したところに行くといい」
「あぁありがたい。実際俺たちが2人で行ったところで誰かが泊めてくれるとも思えないしな」
若干嫌な予感もしながらブライアントは頭を下げる。ジョーはとっとと座席を離れて外に出ていた。それを後ろから真が呼び止める。
「おい、ちょっと待てよ。こいつら運ぶの手伝ってくれないのか?」
「ふざけんな!俺の仕事はお前のところまで届けるまでだ。ったく、詐欺みたいに簡単な仕事だって人のこと騙しやがって。いい気味だ、苦労しろ!おいブライアント、行くぞ」
これでジョーが不機嫌だった理由がわかった。ブライアントはぺこっと頭を下げると慌ててジョーの後を追う。後には2人の気絶した足手まといを抱えた真だけが残された。グラスは3つ1口も手を付けられず残っている。っちと舌打ちをして近くに止めてある馬車まで2人を担いで行こうとした時、ゴホンと背後から咳払いが聞こえる。ソローっと後ろを振り返ると、伝票を持ったマスターが鬼の形相でこっちを睨んでいる。はぁーっとため息を吐いて会計に移ると、伝票を見てジョーの野郎を殺したくなった。
この野郎、あいつ自分たちの分俺に払わせやがったな!!


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