本日2回目の素っ頓狂な声だった。まさか、そんなことを押し付けられるとは思わなかった。ブライアントがポカンと呆けているのを尻目にジョーはドンドン先に進む。 「いいか重要な役目だが、難しい話じゃない。周りに目を付けられない程度に周りを見る。それが鉄則だ。いまからいくつかの仕事を委任していく。ちょっと待ってろ資料を今」 「ちょっと待つのはそっちだバカ!俺なんかにこの基地のボスが務まるわけがないだろ?!」 「あー、資料はここじゃないなここの引き出しみたい。悪いな整理が出来てなくて」 「おい、人の話を聞けよ」 「あれおかしいぜ、確かにここにぶち込んだんだけどな。ったくこれだから官僚主義は嫌いなんだ。文書が多すぎる」 「ジョー!!!」 大声で呼びかけると迷惑そうな顔でこっちにようやく顔を向けてきた。まるで悪いのはブライアントの方だとでも言いたげだ。 「何だよ、引継ぎの準備が出来ていないからってそんなに怒ることか?悪かったよ、これでいいか?こっちだって慣れないデスクワークで大変なんだ」 ジョーはブー垂れたがブライアントは気が気じゃなかった。明らかにジョーはブライアントの話を聞いていない。今自分の言いたいことを言っておかなきゃ大変なことになる。 「ジョー、分かるだろ。南部人である俺の命令をどうしてテクススの将校たちが聞くんだ?とてもじゃないけど俺にその役目は無理だ。すぐにボロが出るか喧嘩に、場合によっちゃぁ殺し合いになるかもしれない」 「分かってる、だから誰がお前に命令を出せって言ったんだ?そんなことは頼まない」 「じゃあ一体どうしたいんだよ?」 その時ちょうどジョーが必要な書類の束を引き出しの奥深くから見つけ出したようだ。どさっとブライアントの手の上に全部乗っけるとよろけそうになるくらい重かった。 「取りあえずこれ持っておいてくれ」 こんなものそこら辺にでも散らしておけよ!そうブライアントとしては言いたいところだったが、これ以上一帯が汚れて整理が完全に不可能になってしまう事態は避けたかった。仕方なく秘書のように書類の山を抱えて直立不動でジョーがこっちを見るのを待っているしかなかった。しばらくごちゃごちゃやっていたがようやくジョーは顔をあげた。右手にはくしゃくしゃになったノートほどの大きさの紙が握られている。 「委任状を用意していく。お前は明日こいつをクーパーに渡すだけでいい。一言もしゃべる必要はない。面倒になってボロが出るだけだ」 そう言いながらジョーは左腕で机の上にある書類やら何やらをががっと押しやった。それらの大半は机から床に雪崩を起こし床に散らばった。これじゃ何のためにブライアントに書類を持たせているのかわからない。それにどうせこの部屋の掃除を押し付けられるのは自分だってことは分かっている。ブライアンとは黙って自分が持っている書類をソファーの上において大袈裟に1つため息をついて屈んで拾い始めた。 「お、悪いなサンキュー」 1ミリも悪びれていなさそうな軽い調子でジョーはこっちも見ないで手を軽くあげた。 そう思うならもうちょっとこうやり方ってものがあるだろうと小声で突っ込みながらジョーがさらさらとサインするのは見ているとふと気がついたことがあった。 「お前そういえばサインなんてしたことあるのか?」 うーんと間延びした声を上げてジョーは笑い飛ばした。 「こんなものそれっぽく見えりゃーいいんだよ」 そう言ってそれっぽく書かれたそれっぽくはない本物の委任状を投げて寄越した。それを見てブライアンとは一言。 「きったねー字だな」
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