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作品名:DEV 作者:Miami3

第36回   36
僅かひと時の逢瀬をロイと楽しんだところで何も満足しない。それどころかわずかばかりの希望を見せつけられてもっと焦がれてしまう。ミラーノは部屋の中で着替えながら朝が来るのを待った。太陽が昇ったらこの部屋も温まる。そうしたらさっきまでロイが隣にいてベッドの上にまだ残っているぬくもりも紛れて消えてしまう。だから自分自身にその柔いシーツの感触と彼の体温、そして残り香を取り込もうと服に皺が寄るのも構わず思い切り寝そべった。
自分の戦いはまだ終わっていない。それどころか今から始まるのだ。
兄に明確に敵対する。いや、正確には対立ではなく選んだのは逃避だ。自由を求めて結婚をする。失いたくないから我慢する。簡単な話だ。
「お兄様、少しお話があります」
兄は朝食を一緒に取らない。いつも自室だ。だからいつ以来だろう?この時間帯に兄の顔を見るのは。ミラーノは威儀を正す。こうさせてしまうのは彼が、国家を代表する男になったということだろう、兄ではなくて。
少し疲れが見えるとはいえ早朝にも拘わらずノリがきいた服をビシッと着こなしている。
「おお、どうしたんだい?急だな、ミラーノ。何か相談でもあるのか?」
極めて理性的。恐らく向うも警戒しているのだ。昨日の今日でまさかミラーノの方から現れて来るとは思っていないだろう。
「実は今日は私の決意を聞いていただきたくて参りました」
貴族の子女としての振る舞いはその場にこれが正式な話し合いであることを告げた。クロフォードもただの我が儘を言いに来たわけではないことに気が付いた。
「決意?一体なんだい?」
だから裏を疑う。彼女が本意で何を考えているのかを推測する。
「まず今まで何も考えることも無くお兄様のご苦労も知らずに一方的に我儘の限りを尽くしてきたことをお詫びします。そしてわたしは決心しました。是非ともジャマール・ジョンソン様とのご結婚の話を受けさせてもらいます」
一晩が何を変えたのか?それともあの時の銃撃は彼女に当たっていてもう本物は死んでいるのか?今目の前にいるのは出来のいい人造人間か?それともわたしの本気が伝わったのか?総てを諦めて流されることにしたのか?
クロフォードの頭に走馬灯の2倍の量の情報と思考がめぐる。脳が処理をしきれなくなる感覚がつかめた。
だから敢えて何も言わない。
表面だけしか判断できないからそこでしか判断しない。勘というものがある。それは一朝一夕で身に着けられるものではなかった。彼の、指導者としての勘がそれを間違いないと告げていた。
「ミラーノ・・・・・・よく言ってくれた。わたしはお前の決断を大変嬉しく思う。しかし一体急にどうしてここまで心境が変化したのか教えてくれるか?」
別に聞く必要は無かった。だが単純な興味がクロフォードを突き動かした。
ミラーノは随分晴れ晴れとした顔で返答した。その答えはクロフォードを驚かせ、そして満足させるものだった。
「真さんに説得されて、わたしも変わらなければと思いました。このままではいけないと」
「そうか、どうやらわたしは大きな見誤りを犯していたようだな。これは改めなければな」
「つきましては1つお願いがございます」
「どうした?わたしに出来ることならば何でも叶えてやろう」
「出来れば、いえ確実に、婚儀を早く執り行っていただきたいのです」
「あぁ・・・・・・まぁそうなるな。わたしとしても早めにジョンソン家と結ぶことは悪くないとは考えているが」
「3週間以内に、」
その言葉に驚いた。あまりにも早すぎたからだ。昨日の今日で心変わりして、それを3週間で実行しろという。これは拙速と言って差支えが無いほどだ。
だが、クロフォードは焦っていた。
具体的な何かではない。強いて言うなら順調に進みすぎているこの状況そのものにだ。
「3週間か。先方の都合があるから私の一存では進まないこともあるが・・・・いいだろう。善処するよ」
「はい、ありがとうございます兄様」
そのまま話は終わりだとばかりに出て行こうとするミラーノの背に向けて思わずジョーは声を掛けた。
「ミラーノ、」
「・・・・・・何ですか?兄様」
「あ、いや、何でもない。ありがとう。わたしの気持ちを汲んでくれて」
結局ミラーノは振り返ることはなかった。


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