「ミラーノ、大丈夫。相当酷そうだ。汗すごい・・・・これ使ってよ」 2人きりになるとロイは早速ミラーノの隣へ腰かける。酷い汗が額を伝っているというのに当の本人はそのことに気が回っていない。ハンカチを取り出して労わる様に拭いてあげる。 「ありがとう、ロイ。あなたこれからどうするつもりなの?ほんとにあんなの信用できる?だってとんでもなく滅茶苦茶な計画よ。0,0001%もないわよ。はっきり言って欠陥だらけ」 辛口は相変わらずだがそれ以上に焦りが見える。恐らくこの部屋の惨状も半分は芝居だろうが半分は本当に精神的な不安定さが生み出した産物に違いはない。慎重に言葉を選びロイは自分の考えを伝える。 「でも、現にジョーはミラーノのこともクロフォード様のことも見抜いたんだ。今回の計画だって成功するはずだよ」 僕は実際に会って来て話をしたんだとは言えなかった。それを言ったら言ったでえらいことになる気がバリバリしたからだ。 「ロイ・・・・あいつに何言われたかは知らないけど、見込みなしよ。こんなの危険すぎ・・・・」 ミラーノも本心から心配して告げる。あいつらの本意がどこにあるかわからない。土壇場で裏切られたら自分たちにはどうしようもなくなることもしっかり理解している。今が最悪でも、ロイが、まだロイが傍にいてくれている。この今を壊したくない。結婚してからは・・・・・・。 「それじゃミラーノは僕に何もしないで唯安全にこのままミラーノが好きでもない人のところに行くのを我慢してみてろって言うの」 「そんなつもりじゃないわ!ただわたしはあなたが心配なだけ・・・・だってそうでしょ?!失敗してもわたしは殺されない。でもあなたは?きっと殺される。兄は裏切りを許さない。きっとわたしを誑かして誘拐したとか適当に理由をつけてあなたを酷い方法で殺す!!!」 もう訳が分からない。ただ頬を制御できない涙が伝っているのだけ感じた。ロイが言う通りだ。このまま何もしなければわたしたちは離れ離れ。だけど中途半端に何かをしたら・・・・・・今後のロイの運命さえ鎖されてしまう。そんなの受け入れられない。 「わかった・・・・」 長い沈黙の後ようやくロイが口を開いた。その言葉に半分の安堵と半分の諦めを感じながらミラーノは声を上げた。 「わかてくれた!?それなら・・・・」 「君の気持ちはよく分かった。でもその上で言わせて!ミラーノ、僕は絶対にこの計画を成功させて見せる。もしジョーの作戦が信じられないならその作戦を実行する僕を信じて!」 「分かってない!分かってないのよ、ロイ。あたしはあんたに危険な目に合って欲しくないって言ってるのよ。それじゃ全く分かってないじゃない」 自分がヒステリー気味になっている感覚が不思議なことに手に取るように分かった。分かっているのに抑えられない。こんなにも相手のことを思いそれが思い通りにならないことなんてあるの? 「ミラーノ、お前僕の気持ちを考えてる?」 ロイが優しく諭し、そして何かを論告するようにゆっくりと告げた。 「あなたの気持ち・・・・」 ハッとした。わたしは、わたしは自分のことしか考えていなかったのだとこの一言を聞くまでどうして気が付かなかったんだろう。最初からそうだ。兄にあの宣告を受けてから自分がいかに楽になるかばかり考えていたんだ。 「僕を思ってくれるその気持ちと同じ位僕もお前を思ってる。だから黙ってみてるなんてごめんだし、出来ることがあるなら何でも実行する。それとも」 「僕とは一緒に来たくない?」 殺し文句だ。ずるい、ずるいよロイ。でも、でも最高に嬉しい。生涯でここまでエクスタシーを感じたことが無かっただろう。気の利いたセリフを言おうとしても口が回らない。 「・・・・ばかよ・・・・ほんと」 「君のためなら狂えるしバカにだってなれるから・・・・」 くさいセリフを言ったことに今更気が付き顔を赤らめるロイがすごくかわいい。こんな彼にちょっと意地悪してみたくなった。ミラーノを半歩体を寄せて囁く。 「ロイ・・・・近づいて」 「ん・・・・」 大人しく近づくロイはまるで子犬だ。だが、さっき彼はそんな可愛らしい見た目の中に確立した大人の自分を持っていたことが分かった。だからミラーノは総てを預けるためにこう言った。 「絶対、絶対、私を幸せにしてよね。そのためには何をすればいいかわかるでしょ?!」 「うん・・・・・・」 熱くて甘いキスが交わされた。
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