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作品名:DEV 作者:Miami3

第26回   26
船に帰っていびきをかいて寝ているブライアントを叩き起こすと帰路に着く。水門を抜ける頃名案が浮かんだ。よくよく考えたら泊まる場所に困る必要なんてない。絶好の場所が自分たちの足元にある。川の中ほどの砂州に乗り上げてボイラーを止めた。ここは茂みが丁度いい具合に茂っていて岸からは何があるか見えにくい。これなら安心して夜を超すことが出来る。ボイラーの大きな音が止まると虫が鳴く声がさえも聞こえる。甲板に寝っ転がると頭上には満天の星空が広がっている。こんな光景はあっちじゃ見れなかった。都市のネオンに完全にかき消されてしまって。こんな時に隣に彼女でもいたらと思うが生憎デカい筋肉質と更にデカい小山があるだけだった。ジョーは苦笑いして目を閉じる。明日も明日でやることがある。上手くいくかは分からないが明日には明日の風が吹く、だ。

次の日ジョーは更にもう少し上流まで船を進めて川沿いの茂みに船を隠した。見張りとしてオニールを絶対に離れるなと3日分の食糧と水を残して置いておく。ブライアントを連れてヴェネツァを最寄りとする駅へと向かう。流石王国一の商業地域に隣接しているだけあって人が犯罪的に多い。それも都合がいことに外国の商人も多く出入りしているようで入場制限などはないようだ。ここまでは順調。問題はここからだ。ホームに入ってからは周りの客には特に怪しまれている様子はない。流石に場所が場所だけにそこまで珍しくないということか。黙って付いて来ているブライアントにはこれからどこに行く予定なのかまだ話していない。リスクを出来る限り避けたいこの状況ではこいつに詳しい話をすること自体がリスクだ。そう判断したジョーの気を知ってから知らずかソワソワし出したブライアントは盛んにどこに行くかと質問してくる。こいつはホントに5歳児みたいな奴だなと辟易して遂にとどめの一言を食らわせた。
「お前、家畜用の貨車に移動させるぞ!」

10両編成にもなる汽車が白煙を上げながらやって来る。この国もそこそこには発展しているようだがこれが電車になるまであと何年かかることやる・・・・・・。そう考えながら真ん中の車両まで移動すると誰もいないコンパートメント占領してようやくこれからの計画を話し始める。これまでの人生で一番緊張しているかもしれない。口が異様に乾いた。体が抑えつけられないくらいに小刻みに震えている。これが武者震いってやつなのか?
「俺たちがこれから向かっている先はハポンだ。そこにある国家の中枢基地であるハポン要塞にこれから向かう」
最初はボケーっと口を開けていただけのブライアントは今度は驚きのあまりパクパクやり出して、最終的には口の閉じ方を忘れた金魚のように半開きになった。そして汗がアホみたいに噴き出して、今度は一気に止まって目が歯止めを失った風船のように延々と丸く大きくなっていく。
「お前・・・・・・自分が何を言っているのか分かってるのか?ハポン要塞だぞ?そこら辺の田舎の基地じゃない。あのハポン要塞だ。王国の軍需物資の集積地。あそこからどれだけの兵士と物資が送り込まれているのか知ってるか?あの基地1つで南部の10ヶ月分の物資に相当する量を溜め込んでるんだ。兵士だって常駐で3000人はいる。そこにたった2人で乗り込んで何になるんだ?」
「何か忘れてはしやせんか?」
得意げに懐から取り出したのはジョーがクロフォードの部屋から真に言われて盗んできた白紙委任状だ。外の封筒には公文書であることを示すテクススの国章が、中の紙には最後に軍事の最高責任者であるクロフォードの直筆サイン入りだ。後は空欄の部分を好き勝手に埋めていけばもう立派な公式な辞令へと早変わりする。内容のは大まかにいうとこうだ。『この任命書を持つものを特別監査官と任じ、総ての基地への自由な出入りと業務の監督及び指示を出す権利を有することを正式に証明する』
「すげーよこれは。まさかこれを考えて真はお前にこいつを盗ませたのか?」
「まぁどうだろうな。あいつ自身は手に入れても使いどころが無かったみたいだし俺が来たから偶々ってところが大きいだろうな。まぁ何にせよこれで俺は特別監査官。お前は俺の部下として特別に昇進した元奴隷だ」
その時急に列車が減速していく。まだ終着のハポン駅までは暫く時間がかかるはずだ。だがみるみるスピードが落ちていき最終的には手前の駅で停車する。周りの客も一気に水がはけた様に降車する。
「何でみんなここで降りるんだよ。乗り換えなきゃなのか?」
「分からん。丁度いいところにあいつが来た。聞いてみよう」
向うから車掌が乗客を車外に出そうと見回りに来た。2人のいるコンパートメントの前に来るとドアをガンガン叩いて出るように促す
「お客さん。ここで終点だ。降りてくれ」
「そんなこと言われても困る。俺たちはハポン駅まで行きたい」
そう言われた瞬間に車掌の目つきが一気に鋭くなり探るように会議に眼差しを向ける。
「お客さん、外国の人でしょうが知らないんですか?この先のハポン駅はしばらく前から閉鎖になったんですよ」
「閉鎖?どうして?」
「何でも南方の戦線に軍需品を効率よく取り込むために基地内に駅ごと接収したらしいんですよ。全く商売あがったりだ」
ため息交じりにそう言われてはこちらとしても引き下がらざるを得ない。大人しく外に出ていき直前の駅であるチノで降りる。ここは多くの外国商人が改札を越えたすぐ目の前から露店を構えている。商魂たくましいとは正にこのことだ。大勢の商人たちに肩や袖、服の裾と引っ張れるところあらかた引っ張られるがその引力に逆らって突き進む。中にはいきなりポケットの方に直接手を伸ばしてくる不届き者もいるがそんなの全部吹き飛ばす。
「ふーようやく抜けたな?あいつら一体何だったんだ?」
「あれだ。この近く一帯外国商人たちが密集している地区があるらしい。それにしてもたくましい奴らだ」
財布を取られていないか確認してジョーもため息を吐く。ある意味で排他的なテクススの意外な一面だった。彼らはテクスス王国に溶け込んでいるとは言い難いが、それでも共生は出来ている。全面戦争の南部とは大違いだ。
「この駅の名前も奴らの故郷が元らしい。凄いなぁホントに」
「あぁ、ホントだよ、てゆーか何でそんなに詳しいんだ?」
「ふふふ、よーく見ろこいつを!」
「あぁ??」
ジョーの手元にあるのはガイドブックのようだ。表紙にはポップな絵柄で『テクスス丸ごと!! これさえあれば君もテクスス完全制覇だ』と描かれている。
「マジかよ・・・・・・一体どうしたんだこれ?」
買ったのか?買ったんだろお前!ホントに遠足前のガキかよ。マジありえねーよ。
ところがジョーの答えは更に斜め上を行くものだった。むしろ買ったと言われた方がよかった。
「いや、さっきあの通りを抜けてきたときに偶々俺に伸ばされた手のうちの1本がくれたんだよ、ホント親切な奴らだ」
うんうんって頷いていますけどそれはジョーさん、泥棒ってやつですか?僕は、テクススは嫌いだけど彼ら商人への恨みはありませんよ?!
「まぁ気にすんな。面白そうな通りがあるから行ってみよう。見ろよこれ、そっくり通りだってよ?何だろな」
すっかり観光気分かよ!というツッコミはそこに着いた瞬間にかき消えた。そっくり通りがこれまたとんでもないところをそっくりにしていた。
通り一面がちょっと前にいた首都のメインストリートとそっくりなのだ。煉瓦造りの道に左右の建物。名物となっている巨大な銀行をそっくり模した建物。ただし代わりに入っているのは荷物保管所だった。そんなイミテーションが延々100メートルほど連なっている。
「す、すげー・・・・信じられねーよ」
ここまでくれば偽物も最早芸術だ。早速店を見て回りたいが、ジョーにはもう行く店が決まっているようだ。
「おい、どこ行くんだ。こっちにまだまだ面白そうな店があるじゃねーか。・・・・何だ、服屋?どうしてこんなところに行くんだよ?」
わき目も振らずジョーが向かった先が服屋だったため拍子抜けしてしまった。はしゃいでるのはどっちだっていう話だ。
「ちょっと考えてみろ。お前その恰好で基地に乗り込むのか?そんなことしたら紙を見せる前に捕まって牢にぶち込まれるってーの!」
そう言われて改めて自分の服を見直してみると納得せざるを得ない。ボロボロのジャケットに着古したダブダブのズボン姿じゃ山賊なのか一般人なのかすら見分けがつかない。
「そこでそんな悩みを解決してくれる場所がここだ。並み居る店の中でもこの通りで一際異彩を放っている1店。ありとあらゆる服が取り揃えられる。もちろんどんな職業服でもだ。まさにこのそっくり通りの名前に相応しいだろ?」
中に入ってみると実際に品ぞろえは圧巻だった。古着からトップモデルたちが着こなす最新の服飾、数々の制服。警官用、消防用、看護師、エンジニア、医師、教師、そして軍服まである。中にはかなりマニアックなコーナまであった。
「保育士用のエプロンと大人向けベビーウェアって・・・・・・一体どの層に需要があるんだ?」
ブライアントは目の前の光景が信じられなかった。マニアックな服以上にそれを当たり前のように友人同士や恋人同士で購入していく人間がこんなにいるなんて!
「アホ、そんなところに突っ立ってもそいつは買ってやらねーぞ」
「ば、何言ってんだよ?!誰がこんなもの欲しいかよ。それよりあそこにある軍服だろ?買っちまってとっとと出よう」
「ん、そうだな。じゃあ買ってくるからそこら辺ぶらついててくれ」
レジに並んだジョーを待っている間暇なのでブライアントは店内を色々とめぐることにした。棚と棚の間隔が狭く商品自体も安いということが相まって多くの客と店員で店内はごった返していた。
「何だか枝豆の鞘みたいだな」
率直な感想が口を吐く。時折耳に妙につく音楽がループして何度も流れる。すっかりそれが口に着いたところでジョーが商品を持って出てきた。
「よしどっかで着替えよう」
2人は人が少ない裏通りに入ると早速服を脱いで着替え始めた。軍服はピッタリ合うサイズが無かったため肩のあたりが少しきつい。そのせいでよりいかつく見えた。
「マークは剥ぎ取っておけよ」
正規の物ではないためわざと見分けがつくように軍のエンブレムであるライフルと剣が交差して、その下に王国陸軍というデザインの代わりにナイフとフォークがクロスして、王国食事部隊、食事中というものに変更されている。この格好では大笑いされて基地から叩きだされるのおちだ。
「うーん中々似合うな」
赤を基調とした全体のイメージで光沢を帯びた金属製のボタンが付いている。裏地には緑と黒のチェックの模様で刺繍がなされている。胸、肩、腕にはそれぞれ勲章を付けるためのスペースが空いていて、頂点が鋭角にとがった軍帽もある。
「お前の顔どんぐりみたいだな」
軍帽のせいと顔の本来の色のせいで見た目は完全にどんぐりだ。ただし、童話に出てくるような可愛らしさ微塵もなく、喋るガラの悪い怪物だが。
「うるせーよ、テメーこそその顔と服の色じゃ赤鬼みたいじゃねーか」
言うに及ばずジョーも人のことなど言えない。お互いをけなしあいながら馬車を待つ。ここから歩いても30分以内には着きそうだがここで金を余してもしょうがない。贅沢に馬車を呼びつけて乗り込む。
「おっさん、ハポン要塞まで」
「ははは、あんちゃん面白いこと言うな。で、ホントはどこに行けばいい?」
「冗談じゃない。ハポン要塞だ、何だ、何見てる?」
ふざけた乗客だと思っていたがそのふざけ方がぶっ飛び過ぎていた。真顔で軍の要塞へ向かう外国人2人。それも片方は南部出身ときた。何かとんでもない厄介ごとに巻き込まれたんじゃないかとガタガタ震えて怯えながら御者は馬を出した。
「Hey, what will we do next?」
(次はどうする?)
話している内容を聞かれないように南部の言葉を使ってジョーに話しかける。ジョーは内ポケットから委任状を注意深く取り出して広げる。
「Well, look at this. I fill in the blanks like this ”ハポン要塞軍事委員会最高責任者及び、一等大佐ヨハネス・クーパーに告げる。この書状を持ちたるものに以下の行為を許可し、その求めるところにおいて最大限の協力を要請する。1に南方の最前線に送る軍需物資の管理及び監督。2にハポン要塞内における戦線維持に必要と思われる情報の閲覧及び共有権。具体的には王国各地の支部基地から集められる情報。今までの軍事技術品に関する詳細な資料及び報告書。今後の行軍日程などが挙げられる。3にこの書状を持ちたるものにハポン要塞における完全な形での賞罰の裁量権を委任する。あらゆる軍の規律及び軍法会議の決定にこれを優先させる。以上これらの行為が円滑に進めることを関係の護官に強く要請する。テクスス王国4大貴族の1、王国軍最高司令官及び統帥権委譲人、クロフォード・ファーマー。How was this? We are gonna be able to control the whole basement」
(あぁ、こいつを見てくれ。白紙委任状をこんな風に埋めてみたんだが””どうだ?これで基地全体を支配下に置けるぜ)
「Yeah, maybe we’ll make it」
(あぁ多分成功できる)
「Hey are you shuddering? Ha, come on man I told don’t be afraid of anything. Anything will be OK I bet」
(おいおい、ブルッてるのか?は、頼むぜ、言ったろ、何もビビることねーって。絶対にうまくいく)
「No shuddering for the fear, I got it. We definitely make it」
(ブルッてねーよ。分かってる。絶対成功する)
馬車は坂道を登っていく。ガタゴトと上下に車体を揺らしながらも順調に止まっていたはずが急に止まってしまった。窓から外を見ても、どう見たって道の途中だ。前に座っている御者にジョーは文句を付ける
「どうなってるんだ?!まだ着いてないだろ?金払ってるんだ最後まで連れて行けよ!」
「旦那勘弁してくだせぇ、俺はこれ以上もめ事に巻き込まれるのはごめんでさぁ。金は返しますしここまでのお代は要りませんからどうか降りてください」
そう言ってジョーの手に金を突き返してくる。それっきり全く馬を進めようとしない。どれだけ宥めて脅しても馬は出せないの一点張り。どうしようもなくなったためここからは降りて歩いて基地まで向かうことになった。
「What a coward, jeez」
ブライアントは悪態を吐いたが流石に大暴れしないだけでも成長があったと言える。何せ勢い的には馬車をひっくり返して粉々にふんず蹴るくらいの迫力はあった。それから急勾配を体力のある2人は全く苦にせず進む。特にブライアントの方が出身が出身なだけに山越えも一切問題ないようだ。
「お前、ホント凄い体力だな。どうしてこんなに歩けるんだ?」
「俺たちの故郷じゃこれくらい歩けて普通だよ。こっちの人間が弱すぎるんだ」
「うん?お前ら普段からあのロンキー山脈の上を歩いてるのか?」
「バカ、そんなの無理だよ。だってあそこは高い所だと万年雪になってるくらいの場所だぞ。俺たちは普段汽車なんかに乗らないで基本歩くんだよ。だから基礎体力から違うんだ」
そう言ってブライアントは何かを懐かしむかのように遠くを眺めた。ジョーはそんなブライアントをズンズン追い越して先へ進む。
「おーい、置いてぞ。さっさと歩け。何に浸ってるんだ?」
もう頂上付近に着いたジョーがまだ中腹にいるブライアントに声を掛けると急いで登って来た。


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