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作品名:DEV 作者:Miami3

第20回   20
ブライアントは隣の部屋からジョーが出ていく音を聞き取り暫く静かにしていた。ここ数日でジョーに対する評価がかなりぐらついている。確かに自分を助けてくれたことには大きな恩を感じた。それに自分と似てこの国が完全にアウェーだということにも親近感を覚えた。だが、肝心な本人の情報はまるで分からないし話そうともしない。それどころかテクスス人を助けるなどとブライアントにとって受け入れがたいことばかり言い出す。そんなこんなでどうしてもいまいち信用しきれない。だから自分がこの国にいる核心的な理由は秘密にしておいた。彼が敵地に送られた最大の理由は諜報活動とテクスス側の拠点との繋役だ。近日中にどうしてもコンタクトを取りたかったのだが中々1人で抜け出すことが困難でずっと機会を伺っていた。そして絶好のチャンスがようやく来たというわけだ。注意深く軋む戸を開けると廊下に出て階段を下りる。受付は完全にサボって椅子の上で寝ている。起こさないように静かに、しかし素早く外へと抜け出した。こんな時以上に自分の黒い肌素晴らしいと感じたことはない。暗闇に紛れて中心街へと移動する。流石の深夜で外には猫くらいしかいない。ニャーと鳴いて目の前を横切っていった。黒猫だ。煉瓦で舗装された道路は歩きやすいが所々綻びのように削れていた。ブライアントは更に走り今度は集合住宅が密集している地域に入り込んだ。こっちはまだ人の息遣いや赤ん坊の泣き声が聞こえる。路地裏に潜り込むと目当ての物を見つける。下水道へとつながるマンホールだ。しゃがみ込んで蓋をずらすと水の音が聞こえる。壁と一体になった梯子を下ると今度は月光すら届かない闇が彼を待ち受けていた。懐からパクってきた蝋燭を引っ張り出して火を点ける。周囲がパっと明るくなった。ブライアントは記憶を手繰りながら進んでいく。
下水道は都市にとって血管のようなものだ。表面から決して見えることが無い。だがそれが無ければ機能不全に陥る。もちろん流れているものは汚水だが人々が生活を謳歌できている証である。だが同時に、こんな汚い場所をわざわざ見張ろうと考える奴もいない。そのおかげでブライアントたちはここを拠点として誰にも見つかることなく首都を縦横無尽に移動できるのだ。ヒタヒタと歩を進めると見覚えのある曲がり角にたどり着く。もうすぐだ、すぐその陰からあいつらが姿を現すはずだ。パっと道が開けて少し大きめの空間にたどり着いた。ブライアントは声を張って仲間を呼ぶが全く反応が無い。最初は場所を間違えたのかと思ったが、そんな訳が無い。それなら誰も出てこないのは警戒しているからなのか?それとも・・・・まさかここの場所がばれたのか!?
「動くな、動いたら撃ち殺すぞ」
全く気が付かないうちに背後に忍び寄られて背中に銃を突き付けられた。冷汗が額を伝う。両手を挙げながらも懐かしさがこみあげてきて思わず笑ってしまう。
「おい何笑ってるんだ?ったく、緊張感が足りねーな」
カシャと拳銃を下げる音が聞こえてからブライアントはゆっくりと後ろを振り返る。一緒に南部から潜入した仲間の1人であるルイスだ。耳のピアスと真っ白な歯を輝かせてハイファイブをする手をパチンと音を立てて掴みながら質問した。
「どうしてすぐに出てこなかったんだ。お前ら全員捕まえられたのかと心配したんだぞ!」
ルイスは侵害だという顔をしてそれはこっちの台詞だと反駁した。
「お前こそどうして前回の定期報告に顔を見せなかった。おかげでこっちはな計画が滅茶苦茶になったんじゃないかと心配したんだぞ!一体どうしたんだ?1回本国に戻って新たな指令を受けてきたんだろうな?」
「あぁそりゃもちろん、ただな・・・・・・」
ここでブライアントはそれからテクススの人間に捕まって奴隷商に売り飛ばされかけた話をかいつまんでした。ルイスは驚きそして時は憤りながらも最後まで話を聞いた。そして徐に自身の懸念について語り始めた。
「そりゃ色々大変だったんだな。責めるようなことを言って悪かったよ。お前は運がいいのか悪いのか俺には分からないけどよ、でもその男たちは信用できるのか?今の状況じゃ俺たち同族しか信頼できる相手なんていないって考えて差し支えないと思うぞ。ジョーって言ったか?そいつは怪しい。関わらないことだな。このまま俺たちと一緒にいろよ」
「・・・・・・あぁそいつが正しいだろうな。そうするよ」
それから2人はブライアントが不在の間に起きた様々な情報について意見交換をしながらも更に下水道を奥へと進んでいった。最近テクスス側の捜査当局の目が益々厳しさを増したため拠点を更に奥へと移したらしい。ただそれを知らないブライアントがあそこに姿を見せるのではないかと感じたルイスが独断でここ数日元拠点近辺で張っていた。感謝しろよ豪快に笑っている内に目的地にたどり着く。
今までは拠点というのは名ばかりで実際幾重にも張り巡らされた下水道の隙間に出来た大きな溝くらいの印象のただ集まるだけの広場のような場所だったが今度のは違った。昔作業員たちが休憩のために実際に使っていたであろう大部屋が地下空間に異質にも存在していた。そこは外から見ても明かりが灯っていて今も人が住んでいることが窺えた。流石に不用心過ぎないかと思ったが促されるままに中に入った。
外から見えたほど中は広くはない。8帖ほどの大きさの室内に6、7人が詰め込まれていて談笑していた。諜報員という特性上誰もかれもが鋭い目つきで腹に一物抱えていそうな顔つきだ。ブライアントは慣例通り上着を脱いでタトゥーを露わにする。見事な模様が派手に刻まれている。これこそがある意味仲間の証明ということにもなる。この全身の紋様はこの世界で唯一無二の物だ。証明というならこれ以上の物はない。仲間たちは久しぶりに生還してきたこの勇者を口々に讃えた、よく生きてた、お前は俺たちの誇りだ、心配かけさせんなよ!と。手洗い歓迎を受けながらもブライアントはホームに戻って来たかのような安心感を感じる。すると奥の扉があき初老の男が姿を見せた。一気に緊張が取り戻された。若干紙に白が混ざった男はつかつかと近寄りブライアントを抱きしめた。
「よく帰って来た。どうやったかは知らんが、神に感謝する」
「役目を確かに果たしてきました。確認をお願いします、ボス」
そう言われてすぐに喜びに緩んだ頬を引き締めるとボスはブライアントを奥の部屋へと案内した。こっちの部屋は更に狭い。ブライアント、ボス、そして助手の3人でもう満杯だ。真ん中に等身大の医療台がありそこに腹ばいになってブライントは寝た。別に健康診断を受けようってわけじゃない。目的は背中に刻まれたタトゥーを見せること。正確にはタトゥーの文字の一部に見せかけて全身に散らした指令や情報を探し出すのだ。どこにどの文字を刻みどう読むのか、当人であるブライアントでさえ知らない。ボスがまるで執刀医のように丹念に背中の表皮を探る。助手が虫メガネを手渡しした。しかし背中とはいえ、それになんの悪意もないとはいえ、他人にジロジロと体を探られるのはいい気分がしない。居心地の悪さを感じていると向うの部屋が何やら騒がしくなった。
「全くまだバカ騒ぎをしているのか?ちょっと注意してこい」
そう言いつけると助手は部屋を出ていった。ボスは額の汗を拭って読み取った暗号を紙の上に書きつける。研究員が実験のレポートでも書くかのような仕事ぶりだ。
「ボス、それで本国はどんな指令を下したんですか?」
「うん?あぁそのことか。次の指令はお前には関係ない話だ。ただ俺たちだけで」
その続きが聞けなかった。隣の部屋でさっきにも増して大きな音がした。騒音のレベルではなく爆音だ。これに何らかの異常事態を感じ取ったボスは素早く腰から拳銃を2丁引き抜いて片方をブライアントに放った。
「マズイかもしれん。警戒しろ」
短く適切な指示を下して明かりを吹き消すと部屋は真っ暗闇になった。今度は怒号が聞こえ明らかな銃声も鳴り響いた。ボスはドアを蹴り開けて外に飛び出す。ブライアントもそれに続く。
外は惨憺たる有様だった。負傷した数人が床で唸って出血箇所を押さえている。ドアには机や椅子、棚をバリゲードとして置いているがそれも今にも破られそうで2人がかりでようやく抑えつけている状況だ。窓は完全に破壊されて下の方で武装したテクススの兵士が何人も見えた。誰もが強力な発火筒を持ち、周囲が昼間みたいに照らし出された。
「どうしたんだ一体?」
やられた仲間を救護している1人にボスが尋ねる。追い詰められた表情でばれたんです、と短く答えた。
「ばれた?馬鹿な、ここに移ってから殆ど日が経っていないぞ!」
誰が裏切ったんだとは口にはしない。ただブライアントも同じことを考えていた。
「ルイスの野郎が裏切りやがったんだ!」
倒れている仲間が呪詛を吐き出すように血反吐と一緒に叫んだ。


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