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作品名:北の嵐山物語 〜皐月〜 作者:森野 鯨

第5回   5
「でも、さすがに過酷すぎる囚人使役は世間の目が許さず14年でやめた」

「14年で、大方の道路もできたから?」

「まさか! 今度は橋、鉄道なんかも必要になってくるだろ?」

「そか、でもその頃になると北海道にもたくさん人が増えてきてるからよかったんだ」

「いやいや、その頃だって好んで北海道くんだりに来たがるヤツはいなかったさ」

「じゃぁ誰が?」

「タコ部屋労働者さ」

「タコ部屋?」

「自ら稼ぎに来るヤツもいないわけではなかったけど、東京なんかでフラフラしてる

 若い男を騙して、酒と女を与え、一晩で高額な借金を背負わせたあげく、金がないなら

 カラダで返しなってことで、タコ部屋に売り飛ばされるのさ」

「逃げたらいいのに」

「そりゃ逃げたくなるよな、でも逃げ切れればいいけど、見つかったら最後、見せしめに

 半殺しの目にあい、生きたまま埋められたり、壁に塗りこめられたりした」

「ええ!」

「ほら、ちょうど留辺蘂と遠軽の間、この辺に常紋トンネルってのがあってさ

 十勝沖地震のとき、崩落の点検してたら案の定トンネルの内壁が崩れてて

 中から頭蓋骨が出てきたって話もある」

「マジ!」

「古い鉄橋の橋脚にも かなり人柱が埋まってるらしいぞ」

「人柱?」

「そう、死んだ人間じゃだめなんだ、生きた人間の魂を宿らせるんだ バカバカしいが

 生贄っていうやつだな まぁ見せしめ以外のなんでもないと思うが」

「そんなこと、学校で教えてくれませんでしたよ」

「あぁ、そこがこの国の悪いところだな 都合の悪いことはすぐに隠すんだ」

「そうですね」

「明治・大正・昭和と時代は流れ、中国や東南アジアへ侵略戦争を仕掛けていくと

 若い男は兵隊に取られて、国内の労働力が不足する」

「今度は…女の人ですか?」

「もちろんそうだが、政府が目をつけたのは、朝鮮人や中国人さ」

「強制労働?」

「よく知ってるな」

「どこかの高校の放送部が、東川の発電所をつくったときにそんなことあったとかって」

「生きて祖国に帰れた人は、わずかだったようだな」

何も知らずに生きている自分がそこにいた。


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