20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:北の嵐山物語 〜如月〜 作者:森野 鯨

第17回   17
「あとは任せる」

待合室にいた研二さんが席を立った

母さんは なんだか安らいだ表情だ

「いろいろありがとうございました」

トシさんが頭を下げたが

「アンタも戻ったほうがいい」

巨人はトシさんにそう告げた

「施設長として やるべきことがあるだろう」

「でも 美咲をひとりにしては…」

「息子がいる」

お、オレ?

「…そうですね わかりました」

僕は大人扱いされたようで ちょっとだけ嬉しかった

でも正直 トシさんがいてくれると助かるのにとも思っていた

母さんは トシさんから黙って荷物を受け取った

「じゃ 明日の朝 頼んだぞ 天樹!」

「了解です!」

二人が帰っていく

また雪が降ってきた

「天樹」

母さんが僕の背中に話しかけた

「話しておきたいことがあるの」

「なに?」

「座って」

椅子をひとつ空けて座った

「あなたの父親のこと」

「え?」

それから母さんが高校を卒業して

小樽のケーキ屋で働いていたこと

好きになった人との間に僕ができたこと

その人が結婚していて子どももいたこと

死のうと神威岬に行ったら

研二さんに助けられたこと

実家に戻り僕がばあちゃんに育てられたこと

僕の名前はじいちゃんがつけたこと

すべてを話してくれた

「会ってみたい? 父親に」

「そんなこと 突然言われたって…」

「そうよね でも決めるのは 私じゃなく 天樹だから」

もしかして!

警察が来たことを思い出した

あの写真の人が もしかしたら…

でも トシさんとの約束も思い出した

「考えとくよ」

そう言うと

また 静かな二人だけの待合室に戻った


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4571