息子も 父もいない
こんな解放感を得たのは 家を出たとき以来かもしれない
父はガラス職人で ひとり娘の私を 最初からあてにしていなかった
高校卒業後は パテシエになりたいと言っても
勝手にしろの一言だった
小樽のケーキ屋に見習いで入り
20歳の誕生日に 初めてお酒を飲み
知り合った男性と 初めての夜を過ごした
三ヵ月後に妊娠したことを知り男に告げると
俺の子の証拠はあるかと詰め寄られたあげく
妻子ある身と知らされた
死のうと神威岬に行ったら
そこで偶然 研二さんに会い
そのままバイクの後ろに乗せられ
出戻った
母は産むことを勧めた
父は相変わらず私に無関心だった
私は見よう見真似で父の仕事を覚え
母は天樹を育ててくれた
電話が鳴った
「はい 龍工房です」
「台座納品 15時」
研二さんからだ
「はい 了解です」
研二さんは木工クラフト職人
ウチの父と研二さんの父親とは
古くからの仕事仲間で
ガラスと木のコラボ作品「木グラス」を制作していた
でも 春に研二さんの父親がガンで亡くなり
重徳木工製作所を 研二さんが継ぐことになった
だからお互い 父親の影を引きずって生きていく宿命
自分の人生のようで 自分の人生じゃないような
でも今日は なんだか 自分が生きてる実感を味わえているような気がする
国際ガラスコンペ作品
やっぱり作ってみようかと思った
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