京都の嵐山は 緑一色だ
僕は 渡月橋の真ん中に立って思い出していた
ばあちゃんの最期の言葉を…
「そういえば、来年、修学旅行で京都に行くって言ってたわよね」 「うん、秋にね、ただし留年しなければ」 「ばあちゃんの故郷はね、京都なの」 「え?そうなの?」 「京都の嵐山の麓にも 川が流れていてね ばあちゃんの名前は その川からつけたんだって」 「桂子川?」 「桂子の桂は、カツラって読むの」 「知らなかった」 「そうね、こんな話し、したことなかったわね」 「うん、全然」 「実はね、じいちゃんとは、北海道に駆け落ちしてきたの」 「駆け落ち?」 「そう、笑っちゃうわよね」 「っていうか、駆け落ちって?」 「そっか、そんな言葉、今の若い人は知らないわね」 「じいちゃんと逃げてきたってこと?」 「天樹が思ってるほど、じいちゃん、悪人じゃないのよ」 「でも…」 「あの話は、真に受けなくていいのよ」 「だって、酔うといっつも…」 「天樹の人生だもの、やりたいことをみつけて、やりとげればいい、ね」
あの時のばあちゃんの手は あたたかかった
「ひとつだけ、お願いがあるんだけど」 「何?」 「ばあちゃんが死んだら、その京都の川に…」
携帯が鳴った
「ごめん、電話」
ばあちゃんは 優しくうなずいてた
何がどうなったかは知らない
電話を終えて病室に戻ると、ばあちゃんは寝ていたから起こさずに帰った
そしたら その夜
暑い夏の夜だった
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