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作品名:北の嵐山物語 作者:森野 鯨

第22回   22
それから福寿園の近くの住宅を一軒一軒まわり

じいちゃんを手分けして探したが見つからなかった

捜索範囲を広げることにして

僕とトワさんは嵐山の方へ向かうと

橋の向こうから染屋のおじいちゃんが歩いてきた

「おじいちゃん、ウチのじいちゃんを見ませんでしたが?」

「ん?誰じゃ?」

「僕です、龍之介の孫です」

「おお、三代目か、龍之介なら嵐山だ」

「やっぱり、ありがとう」

「三代目!」

「はい」

「行かせてやれ」

「え?」

「龍之介を行かせてやってくれ」

僕は返事をせずに嵐山へと走った

「ヒロキ君!あそこ!」

「あ!じいちゃん!」

大きなオニグルミの木下に人影が見える。

「私は施設長さんに連絡するね」

「お願いします」

僕はじいちゃんの元へ走った



じいちゃんは何気ない顔で木の下で休んでいた

「じいちゃん!」

僕をみるなり

「あんこ、あんこ」

と嵐山の奥を指差した

「千年オンコだね、じいちゃん」

そう答えると

今まで見たこともない じいちゃんの笑顔がこぼれた

「あんこ! あんこ!」

「うんうん、わかったよ、でもじいちゃん一人じゃ無理だよ」

じいちゃんは黙ってしまった

トシさんと母さん、トワさんが来た

「怪我は?」

「お父さん!何してるの!まったくもう!」

「無事でよかった、さぁ戻りましょう」

「あんこ、あんこ」

「おやつの時間はまだですよ」

「トシさん、違うんです」

「え?」

「じいちゃんは、千年オンコに会いに行きたいって」

「千年オンコ?」

「そんな馬鹿なこと、そんな身体で山にいけるわけないでしょ」

「ソリ使うのさ」

研二さんが立っていた

「ソリ?」

「この笹薮の中を?ばっかみたい」

「今じゃないさ、雪が降ったらな、それまで龍爺にも体力をつけてもらう」

「そんなの無理よ」

「僕も行くよ」

「私も行きます」

トワさん…

「決まりだな、それから、これ」

昨日届けた箱だ

「美咲らしさが出ている、いい出来だ」

母さんが作ったグラスに、研二さんが作った台座が素敵だ

「立派な二代目になったな、なあ龍爺」

箱を手に取る

「…がん、ばった、な」

「龍之介さんが」

「じいちゃん!」

「お父さん…」

突然、トシさんが膝をついた

「龍さん!美咲さんを僕にください!」

これにはさすがに驚いた

「テンキ、オレが父親になっていいか?」

「まぁ、ちゃんとヒロキって呼んでくれれば」

「美咲、返事は?」

研二さんが促した

「よ、よろしくお願いします」

トワさんが手をたたく

「おめでとうございます!」

泣いていた

「龍爺、こういうことらしい、子供は親の思い通りにはいかないってことだな」

研二さんが豪快に笑った

おじいちゃんも笑った

「あ、雪ムシ!」

トワさんの指先に雪ムシが舞っていた



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