常に両腕と両足に力が入りながら たどり着いたのは上川神社だった
参道脇に「上川離宮建設予定地」との木標があった
鳥居の下から嵐山の方向を眺める
でも建物が多くて よく見えない
「いまいち よくわかんないね」
「そうですね」
「私ね、地域史は好きだけど、日本史や世界史、学校で習うような歴史は嫌いなの」
「どうしてですか?」
「縄文時代の次は?」
「弥生時代」
「って日本史で習うわよね、でも北海道で稲作がはじまったのは明治時代よ」
「あっそっか」
「北海道に弥生時代はこなかった、縄文の次は続縄文、そして擦文時代になって
アイヌ民族の歴史があって、でも学校では誰も教えてくれなかったじゃない?」
「確かに」
「世界史だって、所詮は勝者の歴史、誰が誰を滅ぼしたって、自慢話のオンパレード」
「そうですね」
「私は、自分が生きてる場所の歴史を もっとちゃんと知りたいの」
「僕はさっき、はじめて自分の名前の由来を知りました」
「え?」
「僕の名前をつけてくれたのはじいちゃんだって」
「龍之介さんが?」
「じいちゃんて頑固で偏屈で 酒ばっかり飲んで 遊んでくれたことも 小遣いくれた こともなくて おまけに口を開いたかと思ったら跡継ぎだ跡継ぎだって」
「そうだったんだ」
「だから大嫌いだった でも あんな話を聞くと 男って 父親ってそんなものなの かなって」
「私の名前が嫌いなのはね お母さんを捨てて出て行った父の名と 私を捨てて死んだお
母さんの名前の一文字ずつを使ってできているから」
そうだったんだ
「中学二年から 深川の祖父母が育ててくれたの ホントは歴史の勉強したかったんだ けど そんなこんなで介護士になっちゃった… なんかごめんね こんな話」
「いえ」
「なんでだろう ヒロキ君といると なぜか自分でいられる」
「そ、そうですか?」
「無理につき合わせてごめんね、家まで送るね」
「いえ、そんな」
「それから…」
顔を上げた瞬間だった
もちろん 初めてだった
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