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作品名:北の嵐山物語 作者:森野 鯨

第15回   15
「さてと」

長そうだ

「どうだった?」

「どうだったって? 何が?」

「行ってきたんだろ?」

「あ、はい」

「で、どうだった?」

「まぁ、楽しかったです」

「17万も出してもらって その程度か」

きたきた 巨人はこういうものの言い方しかしないんだ

「感謝しとるか?」

「はい? あ、はい 感謝してます」

「誰に」

「か、母さんに」

「女手ひとつでお前を育て、両親の介護に家業の跡継ぎ、美咲はよくやってる」

「はい」

「感謝せ」

「はい、感謝します」

合掌

「で、好きな人はいるのか?」

「え? いや、好きとかってとは ちょっと違って」

「お前じゃない、美咲だ」

「母さんですか? いないんじゃないですか? 知りませんけど」

「あの、龍爺を預けた、福なんとかってのは?」

「あぁ トシさんは、ただの同級生みたいですけど」

「結婚願望は?」

「どうなんでしょうね、巨乳好きだし、トシさん」

「そいつじゃない、美咲だ」

「母さんですか? ないんじゃないですか? 知りませんけど 貧乳だし」

巨人がショートピースに火をつけた

「じゃぁ、僕はこれで」

「結婚するはずだった」

「はい?」

「俺と美咲は」

「俺って?」

巨人に決まってるだろうけど あまりにも想像を絶したし

「だが、桂子さんに反対されてな」

「ばあちゃんが? どうして?」

ホントは理由なんてどうでもよかった

ばあちゃんに感謝だ

「俺がアイヌだからかな」

言葉が見つからなかった

ばあちゃんがそんなことにこだわるなんて 

きっとこの巨人の思い違いに決まってる

「死んだ親父と龍爺は 本当の兄弟のように仲がよかった
 
 ガラスのグラスに木の台座 木グラスは 二人の絆の証だ」

僕もそう思う

じいちゃんが円錐をひっくりかえした形のグラスをつくり

それだけだと置けないから 研二さんのお父さんが木をくり貫いて

どっしりとした台座をつくる

龍工房の看板商品だ

「千年オンコを知ってるか?」

「千年オンコ?」

「嵐山の奥にそびえ立つイチイの大樹よ、龍爺とおやじは よくふたりで嵐山の奥に
 
 分け入り、千年オンコの下でよくワンカップを飲んでたっけ、見たことないか?」

「見たことも、聞いたこともないです」

「お前の名前の由来なのに」

「え?」

「誰がお前の父親か知らんが、腹をでかくして帰ってきた美咲を龍爺は黙って受け入れ、

 男が生まれたと、誰よりも喜んでた」

「じいちゃんが?」

「そうよ、そしてまだ生まれたばっかりのお前を抱いて 千年オンコに会いに行き

 お前の名前は、天までとどく このオンコのように たくましく育つようにと

 天の樹と書いて ヒロキと名づけた 上だけじゃなく 横にもという意味だそうだ」

「僕の名前を じいちゃんが…」

「聞いてなかったのか、しかし、名前負けって、このことだな」

「僕、帰ります」

「待てよ、本題はここからだ」

「本題?」

「親父と龍爺は固い約束をしていた、先に死んだ方が、千年オンコの根元に散骨しにいく

 ことって」

「じいちゃんも そんなこと」

「だが、親父が死んだと同時に 龍爺は脳梗塞で倒れて 約束は果たされないままだ」

「…」

「でもきっと 龍爺は覚えてる なぁ 連れて行ってやらないか? 千年オンコに」

「そんなこと、急に言われても…」

混乱していた 僕は明らかに


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