家に帰ると母さんがそうめんをゆでていた
「トシさんって、部活とかやってたの?」
「トシは郷土史研究部の部長だったかな」
「ふーん」
「トシも馬鹿よね、土建屋の長男なんだから黙って会社を継げばよかったのに 芸人になりたいから東京へ行くっていって」
「芸人?」
ちょうどテレビでタカ&トシの漫才が流れていた
「ヒマそうね、深川の研二さんに届け物あるの、行ってきてよ」
「自分で行けばいいじゃん、オレ研二さん苦手だし」
「午後から駅前で署名集めすることになっちゃったのよ」
「なんの?」
「近文(ちがぶみ)駅を北の嵐山駅に変えようって」
「へー」
「そうそう、ついでに染屋さんに署名用紙置いてきて」
「そうだ、小遣い、ないんだよなー」
「何言ってるのよ、修学旅行代金12万、お小遣い5万、計17万よ」
ぶーーーーーーーーーー
署名用紙の束と母さんのコンペ出品作品を持たされて家を出た
染屋さんのおじいちゃんが歩いて出て行った
おばさんが見送っていた
「こんにちは」
「あら、もう帰ってきたの」
「昨日、あの、コレ母から、署名用紙だそうです」
「わざわざありがとう」
すると前からトワさんが歩いてきた
「トワさん」
「こんにちは」
「あら、お知り合い?」
「先週から福寿園で働かせて頂いている入江です」
「あー、新人介護士さんね、トシちゃんから聞いてたわ、美人が入ったって トシちゃんとはいとこ同士なのよ、さ、入って」
「失礼します」
「じゃ、僕はこれで」
涙を呑んで今日はお別れします トワさん
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