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作品名:魔女の絵本・改 作者:孤独な七番街

第2回   【魔女を狩るもの―――オールマン・シーザー、オールマン・セリーヌ】
【魔女を狩るもの―――オールマン・シーザー、オールマン・セリーヌ】

WEBサイトで公開中:http://chaildman.wix.com/h2-holiday

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進捗 :未完
作成日:2015年04月10日
更新日:2015年04月17日
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夜。風が強い。
煉瓦造りの家が立ち並ぶその街は美しい。
魔力施工された煉瓦は耐熱性と耐震性に優れ、
美しさの上に実用性も兼ね揃えている。

今が昼であるならば、
美しい街並みは、多くの人で賑わっていたことだろう。

だが、すっかり夜も更けた。

くわえて、今宵は嵐だ。
人など出歩こうはずもない。

その男は橋の上に立っていた。

吹き荒ぶ強い風の中、
小さな街灯の光に照らされて
その男はただ静かに直立不動で立っていた。

上から下まで黒尽くめ――――

黒いコートを身に纏い、黒いフェルトハットを目深に被り、
その隙間からは紅蓮の瞳を覗かせている。

顔隠しに灰色の面具をつけて、
首元に巻いた赤茶色のスカーフと、尻まで伸びた白銀の長い髪が風に揺れている。

隣には少女がいる。
白いリボンに黒いドレス。
男と同じ銀色の髪に、両の手には小さな白龍の子供を抱えていた。

男は橋の欄干に右手を置いて、荒れる水面を眺め、
少女は男を一瞥し、欄干に背を持たれかける。

不意に少女の小さな唇が動く。
「・・・ねぇねぇ。まだかな?」

その問いに男は答えない。


少女は唇をへの字に曲げ、つまらなさそうに肩を揺らす。


「ねぇねぇ。まだかな?まだかな?」
今度は先ほどよりも少し強い口調で、男の服の裾を引っ張る。

その男は嘆息して、少女のほうを見向きもせず静かに答える。
「・・・まだだ。黙っておとなしく待っていろ」

少女は男が言い終わる前に、
罵倒とともに男の尻をグーで殴り、踵を返して沈黙した。

少女の肩まで這い登った子白龍が、
真似をするようにして「プギーッ!」と男に向かって吠え、
直後に少女の両の手までズリ落ちた。

男は待っていた。女を待っていた。

デ・メントからの赤い使徒。
手足に命を告げる者。

その者を男は静かに待ち続けていた。


――――さて、20分は待っただろうか。
突如として少女の眼前―――橋の中央部の上空に青黒い球体のような空間が出現する。

その空間から、青い髪の女が現れ、橋の上に飛び降りた。
さらに、その後に続くようにして5人の男女が次々に降りてくる。

地面に座り込んで子白龍と遊んでいた少女は飛び上がり
男は首を少し後方にもたげ、時計塔に目をやりごちた。
時刻は21:00を回ったばかり。

「・・・ようやく来たか。遅いぞ。
予定の時間より1時間遅れだ。一体何をしていた」

パタパタと翼を動かして子白龍が少女の肩まで飛ぶ。

「すまない。私たちも色々と忙しいのだ。
男と寝ていたのではない、とだけは言っておこう」
男の非難を軽く受け流し、青い髪の女は苦笑した。

女は男を見やり
「オールマン・シーザーと」

少女の頭の上に手を置いてポンポンと軽く叩く。
「オールマン・セリーヌだな」

「…そうだ」
「はい!」
男が小さくうなずき、少女は挙手した。

「私はデ・メント-中央魔術師連盟の教長、タチバナ・アオイだ。
君は…本当に赤い目をしているのだな。一目で分かったよ。
この街には慣れたか?」

シーザーがアオイに向き直り、睨み付ける。
「…世間話はいい。さっさと用件を話せ」
赤い目の事を話題に出され、露骨に嫌そうな態度をとる。

アオイが苦笑して俯く。
「ふふ、気の短い男だな。わかった。
だが、風も激しくなってきた。とりあえず、近くの酒場にでも入って、
飲んで体を温めながら話をするとしよう」

魔術師たちが連れ立って
靴音を鳴らしゾロゾロと、防具の音を鳴らしガチャガチャと、表通りの酒場に入る。

さて、どうにも古ぼけた酒場ではあるが、汚らしいという類のものではない。
むしろ、味のある大衆酒場だと言っていいだろう。
酒場のついでに宿も兼ねており、料理はうまい。酒も悪くない。

街の中ではそこそこ評判のいい有名店ではある。

だが、入店時に店主からは少し嫌な顔をされた。
外は嵐で客こそ少ないとはいえ、魔術師が大人数で押しかけたのだから当然の反応ではある。
案の定、表の方ではなく奥の隅っこの席に案内された。

魔術師が表の席に陣取っていては他の客が入って来づらいからである。
ひどい時には、喧嘩に発展する場合もある。

昔のように、銃や剣を振り回し、殺しに訴えた露骨な差別こそなかったが、
それでも、こうした魔術師への根強い差別意識は大衆の中に未だに存在している。

昔は、魔術師であるというだけで殺しが当然のように横行していた。
店主もそれを見て見ぬふりをするのである。

近年に入ってからの魔術師への差別の改善も【デ・メント】という絶大な武力組織に対しての
王国の配慮と、人々による恐怖心による差別意識の抑制であり、特段、内在的な
差別意識が薄まったということではないのだ。

さて、それはそれとして、ともかくである。
皆、思い思いの酒と食事を注文した(セリーヌはジュースである)のであるが、
やはり、ここの酒と食事はうまい。皆、出てきた料理に満足し、舌鼓を打っている。

普段、寡黙なシーザーも例外ではなかった。
エールをグビグビとやりながら、肉料理をぱくり。
麦の苦味がほど良く口の中に広がり、その後、口に放り込んだ肉の旨味がしっかりと引き立つ。

その横で、少女がジュースを両手で持って、足をブランブランさせながら飲んでいる。
さらに、その横では、子白龍が何やら「ピギャー」「ピギャー」(旨い旨い)言いながら
小さく細切れに出された肉を皿の上で食べていた。

その光景を横目にしながらシーザーがアオイに尋ねた。
「それで?その諜報活動とは?」

アオイがグラスをテーブルに置く。
「ああ、つまり、君に王国内部の諜報活動をして貰いたい。
この者たちにも同じことを依頼している」

と、手を5人の男女に向ける。

「協力して行うか。単独で行うかは君の自由だ。
条件は一つ。王国に君がデ・メント諜報員であることを悟られぬことだ。
悟られたとき、デ・メントは君との関係を否定する。自力での解決と、死を覚悟してくれ」

一人目。赤魔術師。
マクアードル・アルフレッド。45歳。男性。
赤茶けた髪と、顔に深い傷のある大男。得物は大斧。

赤魔術とは己の肉体、他人の肉体、操る武器など、
あらやる物質の潜在的なエネルギーを限界以上に充実化させて、
膨大なエネルギーを得る魔術のことである。能力の性質上、医学にも精通している。

セルケットの女神と称され、上位赤魔法を操る
魔女ウィッチ・ドクターの末裔であると考えられている。

二人目。赤魔術師。
マッコイ・オーレリア。35歳。男性。
浅黒い肌にスキンヘッド。両耳には大きなピアス。
得物は両手2丁の拳銃である。

三人目。青魔術師。
ベルマディ・ヴェラ。22歳。女性。
セミロングの金髪と青い瞳が印象的な美しい女性である。

青魔術とは、別名、死霊使いと称されることもある。
人や動物の死体を操ることもあれば、
魔力によって数十体の幻影を同時に生み出し、命令を与え
自らの意のままに動く兵隊として他者を攻撃することが可能である。

死を司る女神と称され、上位青魔法を操る
魔女グリム・リーパーの末裔であると考えられている。

四人目。黒魔術師。
ヤルヴィレフト・ヒューゴ。16歳。
金髪碧眼の美少年。体から立ち昇る魔力は力強く、シャルロットと比べても遜色のない
使い手であろうことは一目瞭然であった。

黒魔術とは全ての魔術の中で最も邪悪で、最も攻撃性が高く、
圧倒的な魔力によって敵対者を破壊することに長けた攻撃性の高い魔術である。
呪いの言霊を口にするだけで、相手の精気を吸い取り寿命を削る非常に危険な魔術でもある。

上位黒魔法は魔獣しか扱うことができない。
魔女、魔術師でも扱うことのできない上位魔法であり、魔獣王ソロモンの末裔であると考えられている。

五人目。白魔術師。
ベクラール・シャルロット。18歳。女性。
髪の長さは首筋付近まで伸びており、頂頭部から耳のあたりにかけては銀髪で、それ以降は赤い髪である。
若さ溢れる美貌と力強い魔力は驚嘆に値した。

白魔術とは自然魔術と称されることもあり、主に精神と時間を操る。
異次元空間を作り出し、自分や他人を別の場所へ自由に瞬間移動させることが可能であり、
攻撃そのものを移動させることもできる。自らの吐息ですら移動させることすら可能であろう。

更には、他人の精神を支配下に置くことで他人を自らの下僕にすることもできる。

ただし、これらの成功率は対象人物の魔力や精神力にも依存し、
同じ白魔術師同士の戦闘においては阻害し合うことも可能であるため、
百戦百勝の負け知らずというわけではないが、型にはまれば相当な威力を発揮することは間違いない。

上位白魔法は神獣しか扱うことができない。
魔女、魔術師でも扱うことのできない最上位魔法であり、聖獣王ゾロアスターの末裔であると考えられている。

5人はそれぞれ自己紹介をし、セリーヌとシーザーも簡単に自己紹介をした。

「中途半端な連携は混乱を招くだけだ。
俺たちは俺たちでやらせてもらう事になるとは思うが、その諜報活動とは?」

シーザーが右手を翳すと、青黒い小さな空間が生じる。
そこから自らの得物である大鎌を取り出して撫でながら聞く。

アオイが口を開く。
「…近頃、街の人間に能力者が出没していることを知っているか」

シーザーは嘆息した。
「魔術師か?魔術師ぐらいどこにでもいるだろう。
どれだけ差別を受けようとも街に住みたいという輩もいる。
デ・メントはある意味、監獄のようなものだ」

アオイはかぶりを振って答える。
「そうではない。元々は外見も普通で、何の能力持たぬただの人間だ。
その人間たちに突如として能力が発現したという噂がある」

アルフレッドが口をはさむ。
「あり得んな。…魔術の能力発現には多少なりとも魔女の血を引いている必要があるぞ。
これは覆しようのない絶対条件だぜ」

ヒューゴが嫌な過去を振り払うように目を伏せ言った。
「魔術師は生まれたときから魔術師で、人間は生まれたときから人間だよ。
住んでいる世界そのものが違う。だからこそ魔術師は忌み嫌われているんだ」
皆、一様に同調する。

シーザー
「極々稀に、上位魔術と畏怖される魔法を扱えるようになる―――魔女覚醒が起きる事があるが、
これも魔女の血をもつ者でなければ発現はそもそもあり得ぬことだ」

アオイ
「だが、実際、入隊前にはただの人間であった者が、魔術師としての能力を発現させ、
王国の正規軍や特殊部隊に何人か組み込まれているそうだ。潜入させている諜報員からも報告を受けている」

シャルロットが髪を弄りながら聞く。
「潜入なんて遠回りなことしなくても、デ・メントから正式に王国に聞けばいいじゃない」

アオイ
「聞くに聞けないのだ。
人為的に魔術師を作り出す。王国はそういったことをしているかも知れない」

オーレリア
「人為的に作り出すだと?そんな事が出来るのか?」

シーザー「輸血か?」

アオイ「そうだ。黒魔術の一種で魔女の血を大量に輸血し、強制的に魔術師として覚醒させる。
体内に流れ込む瘴気で8割の人間が死ぬが、生き残りは魔術師として覚醒する。デ・メントが禁忌としている黒魔術だ。
もし、この禁忌を王国で行っているならば許されざる非道だ」

アオイ
「ここからは更に噂の域を出ないが、王国南東部の森に魔女が住み着いているらしい。
近々、魔女討伐が計画されているらしいが、その規模などが不明だ。
王国と魔女との交戦となれば、デ・メントにも火の粉が舞ってくる可能性もある。事前に情報を確保しておきたい」


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