進藤ナズナは、砂浜に着地している超軽量動力機とその背景で橙色に輝く日本海を見つめるフミカの姿を見つける。
「あれ?来たんなら教えてよ」とフミカは背後にいたナズナに気づいて、口を尖らした。
「さっききて、声をかけるまえにフミカが声をかけてきた」 「そうなんだ。そういえばね、これを飛ばしてた時に、ナズナと初めて話した事を思い出したの」
フミカは超軽量動力機に触り、感触を楽しみながらナズナに向かって話した。
「初めて話した頃か。あまり覚えてない」と高校の指定された学校制定靴を脱いで裸足になり、海に浸かる。
「もう十年くらい前だからね。覚えてないのも不思議じゃない」 フミカもナズナに並んで靴を脱ぎ、海に浸かった。
「あのさ、私が飛行機のパイロットになるまで、ナズナと一緒に飛ぶことができないって思ってたけど、あれを改造して二人乗りにしたら、すぐにでも一緒に飛べるなって思ったの」と、フミカは思った事をナズナに伝える。
「え?でもそんなことできるの?」
「この超軽量動力機はお父さんのものだけど、ちゃんとバイトで貯めたお金で払って二人乗りにさせてもらう交渉が成立したらできる!無理だった場合は新しいのを買うわ。二人乗りのね。」 将来のことを口に出すたびに、フミカは楽しみが広がっていった。
「でも、高いんじゃない?」
フミカの楽しむ姿とは打って変わって、ナズナはフミカの金銭面を心配する。
「大丈夫! ナズナと一緒に飛ぶ日のために頑張って稼いできたもの。余裕余裕! それに高くて借金してでも買う!」
「それはちょっと」
ナズナは自分のために借金をしてまで夢を叶えるようなことはしたくなかった。
すると、フミカがすくった海水がナズナの顔に当たる。
「ちょっと、制服が濡れた」
「大丈夫だって。明日は休日なんだから。心配しすぎ」と言って、また海水を投げつけた。
「帰る」
本気で怒ってしまったナズナを目にしたフミカは、「ごめん」と謝ると同時に、はしゃぎすぎた事を反省する。 波打つ音だけが静まる事なく流れ、気まずい空気の中、ナズナとフミカの二人だけが時間の流れを逆らっているように立ち止まっていた。その空気に我慢できなくなったフミカは、ナズナのもとへ一歩一歩と歩く。
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