彼女が言った単純な言葉を冗談に捉らえることができなかった。
彼女の心は見えずとも、彼女が言った台詞には意味がこもっていて、鳥になりたいと言ったら、冗談ではなく本気で言った言葉なんだと木城フミカは思う。
「鳥になってどうするの?」
フミカには彼女に質問できる言葉はこれしかなかった。 「単純に自由が欲しいだけ」と彼女は大人びた口調でフミカの質問に答える。
「大人になればできるんじゃない?」
「大人になっても無理。永遠に人間としている限りできない」 彼女の言葉をこれ以上返す事ができなかった。言葉が見つからない。
自由を求める彼女の歳にしては早すぎる悩み。
彼女は私たちよりも早く歳を重ねてるように見えて、私たちよりも純粋に生きていくには少し苦痛な生活をしている様だった。
「フミカちゃんは、なんでパイロットが夢なの?」
教室のボードに貼ってある自己紹介カードを見ながら、彼女は尋ねる。
「お父さんが飛行機のパイロットでね、私もなりたいと思ったから」
無邪気な返答に、彼女は憧れの眼差しを見せ、「フミカちゃんがパイロットになったら、私を乗せてくれる?」と願いを伝えた。
「うん。いいよ。えっと、名前は」
まだ彼女の名前を聞いてなかったフミカは名札を見て確認し、「ナズナちゃんが初めてのお客さんだね」と笑顔を見せる。
彼女もフミカにつられて微笑んだ。
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