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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第94回   死に逝く城〜外伝4 月影の晩に〜
 アイラを部屋へと連れ帰り、一礼すると騎士達は部屋の外で普段通り待機を始める。マローつきの騎士がすでに数人室前には居たのだが、今日はアイラつきの騎士達も普段以上の人数で待機していた。

「交代で、食事と仮眠を」

 騎士団長がそう告げると、皆深く頷き順に三人一組となって休憩へ向かう。万が一の為だ、女官がまたアイラを呼びにこないように、トレベレスが迎えに来ないようにと極力大勢で待機した。
 騎士達は、張り詰めた面持ちで息を押し殺している。
 ミノリとトモハラは互いに顔を見合わせると持ち場に着いた、ここでは最も下の位の騎士二人だ、休憩は夜明けになるだろう。だが、そのほうが都合が良かった。
 今はこの二人の姫君の傍を離れたくなかった、不安ゆえに。二人は、トライの言葉を自然と思い出し、顎を引くと何かを睨みつけるように廊下の先、薄暗い先を見つめる。
 まさか、トライが不在になって直様このような事態が発展するとは、思いもしなかった。それほど、トライは威圧を与える存在だったのだろう。偉大さを、感じた。到底追いつけない相手であると、悟ってしまった。
 あの王子のような実力も権力も無い、羨ましく思った。

 自室に戻ったトレベレスはソファに軽く横になると舌打ちし、傍らのワインをグラス一杯、一気に飲み干す。
 今まで、間近で触れ合わなかった姉姫アイラを思い出していた。

「チッ」

 何が気に入らないのか、頭を掻き毟るとトレベレスは我武者羅に再びワインを飲み干す。表情を思い出せば、香りを思い出せば。
 無性に重苦しい気分になった。立ち上がり、机の引き出しから一つの指輪を取り出し、ランプに透かす。
 それは、あの時拾ったトライがアイラに送った指輪だ。返しそびれ、未だに隠し持っている。返す口実があるので再び会いに行けるのだが、どうにも返したくない。

「どういうことだっ、何をオレはここまでイラつき……」

 手の中の指輪を握り潰しそうになり、悲痛なアイラの表情を思い描いて慌ててやめる。額の汗を拭いながら、再びグラスにワインを注げば。
 静かに、ノックの音が聞こえてきた。

「トレベレス様、夜分に失礼致します」
「何の用で?」

 入ってきたのは、この城の女官達だ。どこかで見た顔だと思ったら、先程姫の室前で会った者達である。手にはワインを抱えており、魅惑的な身体と挑発的な衣装を着た情婦のような女が後ろに控えていた。

「先程はアイラ姫が失礼を。宜しければ、と選りすぐりの美女を揃えましたが、如何ですか? 王子の為ならば喜んで、一夜とて身体を差し出したいと」
「気遣いは有り難い、が。気分が削がれた」
「やはり、アイラ姫のほうが宜しいでしょうか? 連れてきましょうか?」

 その言葉に、トレベレスの眉が微かに動く。喉の奥で微かに笑い、女官達を嘲るように腕を組んで深々とソファに腰を落とす。

「余程、そちらの姫君をオレに抱かせたいのだな。何故でしょう?」

 それが意味するものとて、トレベレスは知っている、がワザと訊いてみた。直球な質問に、女官達はそれでも冷静である。

「女王が亡くなられ、双子の姫はおられど、この国は無力に等しく。強き国と手を結びたいと思う気持ちなど、王子にはお解かりでは?」
「どちらかというと、アイラ姫よりマロー姫に来ていただきたいのですが?」

 微かに笑いながら、トレベレスは女官達に挑むような目つきのままそう告げる。

「マロー姫様は、まだ夜伽の準備が出来ておりません。アイラ姫なれば、存分にお相手出来ましょう」
「ほぅ? 何故アイラ姫だけ? 勤勉においても優秀なのはマロー姫でしたよね? 」
「アイラ姫様は勤勉には向きませんが、”そちらのほう”は優秀ですから」
「そちらのほう、ねぇ。トライ曰く、アイラ姫のほうがマロー姫より学については優秀だと。実際のところ、どうなのでしょう」

 含み笑いで語るトレベレスだったが、女官は一歩も譲らない。

「試しに、アイラ姫にお相手させてみましょう。なんでしたらばこの女達も置いておきますし。今宵はお手が空いているのではありませんか?」

 どうすべきか、トレベレスは瞬時に脳内で考えをまとめる。どのみち、この城は、いやこの国は今宵で最期を迎える。
 今この時も、自分の、そしてベルガーの臣下達が殺戮を繰り返しているはずだ。アイラは勿論、女達をこの部屋に招き入れておけば、それはそれで手っ取り早く済むだろう。
 何より、自分がアイラを捕らえたならば極秘に国に持ち帰ることも可能だと思った。思ったが慌てて首を横に振り、否定する。爪を噛んだ。
 トレベレスは近くに居た側近に小さく耳打ちし、軽く頷いた側近は頭を下げ
女官に申し出る。

「では、アイラ姫を」

 女官は微かに笑みを浮かべると、控えていた女性達はその場に残し、静かに部屋から出て行った。残された女達は笑みを浮かべて、ゆっくりとトレベレスに近寄るとまず、酒を勧める。

「オレ一人で相手をしてもよいが」

 側近に再び告げ、隣室から三人ばかり臣下を呼び寄せる。にっこりと微笑み、トレベレスは注がれたワインを呑みつつ、部屋の状況を確認する。
 自分と側近含め臣下は五人。女官二人がアイラを連れてきて、この情婦含めると女は七人となる。
 アイラつきの騎士達が何人この部屋へ来るかが鍵だが、こちらが五人も居れば容易いだろう。
 トレベレスは女達の相手をしつつ、皆に瞳で剣の位置をや武器となりえるものの確認をさせた。

 三人一組となり、休憩すべく仮眠室へと戻ったアイラの騎士達。
 喉が渇いたので厨房に水を飲みに行き軽く潤すと、踵を返す。しかし、何かに足が躓いた。何か解らずランプを掲げると、照らされたソレを見て悲鳴を上げた。

「な!?」

 料理人が、床に伏している。

「がっ!」

 何事かと仰向けにさせたところで、三人の騎士は喉を掻き毟りそのままその場に倒れ込んだ。水に毒が入っていたと気づいた時には、もう遅い。

「あ、アイラ、さ、ま……。知らせ、な、けれ……ば」

 普段通り水瓶から飲んだのだから、そこに何かが混ざっているのだろう。 騎士達は必死にもがいた、もがいて床を這った、だが。目を大きく見開き、口元から微量の血を吐きながら力尽きる。
 足掻きも虚しく、三人の騎士はそこで息絶えた。


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