その頃マローは、ベルガー、トレベレスと共に庭を散歩していた。 先程までは土産品の高価な宝石を差し出され、上機嫌でそれらをとっかえひっかえ身につけていたのだが、飽きてしまったのだ。色とりどりの光物は、どれも大きく輝きも半端ではなかったのだが。 トモハラが近くでそんなマローを見ていた、宝石を身につけると嬉しそうに鏡を覗き込み、無邪気に笑う。全身鏡に姿を映し、くるくる優雅に回転しては皆からの拍手を集めて始終笑顔でいた。 その笑顔が、堪らなくトモハラは好きだった。 そして戻る返事は決まっているのに、毎回皆にこう訊くマロー。
「可愛い?」
小首傾げて、大きな瞳でそう投げかければ皆が口々に可愛い、可愛い、と大合唱する。そうすると、瞳が細まり恥ずかしそうに歯がゆそうに、口元に手をあててふふふ、と笑う。 そう言われると分かっているのだが、やはり嬉しいものだった。
「可愛いです、宝石をつけているマロー姫ではなく、マロー姫自身の、その仕草が」
口元に笑みを浮かべ、熱に浮かされた瞳で一心不乱にマローを見つめるトモハラ。 ……あぁ、あの笑顔を。間近で見られたらどれだけ素敵だろうか。
庭を散歩している三人の後ろを黙って歩くトモハラは、周囲への配慮や警戒も他所にずっと考えていた。自分も、何かを差し出してみたい。そうしたら、姫は笑ってくれるだろうか。あの、遠目に見ていた愛くるしい笑顔で、自分に微笑みかけてくれるだろうか。 想像しただけで、手が震えて顔が緩んだ。あの視線を一瞬でも独り占め出来たら、幸せなのにと。 庭の一角で茶会を始めた三人の周りを、女中達が取り囲み、茶と焼き菓子を手際よく並べていく。 早速、とマローは手を伸ばす。甘いものを口に含むと、見ているこちらが嬉しくなるような笑顔を見せる。美味しい、と見ていて解る。 幾つも手を伸ばし、最後まで美味しそうに食べる姿も愛くるしい。マローの仕草何もかもが全て、至高の宝に見えた。 ……自分も、何かを差し出してみたい。そうしたら、姫は喜んでくれるだろうか。喜びそうな高級な菓子か宝石を、差し出したい。
トモハラは静かに胸の前で手を組むと、一人瞳を閉じる。 決意を、胸にする。 土の国、代々女王が君臨する多大な魔力を持つその国の。平民出身の若き、いや、幼き騎士は栄華の姫君を心に抱いた。 小さすぎる力では、他国の侵略から姫を護れないだろう。 祝福の姫は、愛らしい見た目と、見守りたくなる思いで誰を彼も惹き付ける。宿った子は、父親の国を繁栄へと導くだろう。 黒の姫君は、自国の最大の防御壁。 そんな姫を護るべく、トモハラは決意をする。彼女の意の反する縁談ならば、徹底的に邪魔をしてやろうと。それくらいしか、出来なかった、思いつかなかった。 マローは、無邪気に微笑んでいた。 トモハラは、困惑気味に微笑んでいた。 ”貴女に、守護を。笑顔絶やさぬ時を過ごせるよう、守護を”
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