ドレスを着替えた双子の姫が登場し、再び談話しながら楽しい時を過ごす。楽しい、といっても表面上だ、国の権力を存分に見せつける時である。これ見よがしにと、豪華な刺繍やら宝石やらで飾りつけられたドレスは土の国ラファーガ独特のものである。それにマローは非常に喜び、始終大はしゃぎであったが、アイラには窮屈そのものだった。 早く部屋に戻り、普段着慣れている何の変哲もないドレスに着替えたかった。アイラは一人、密かに溜息を吐く。 しかし、宴は終わらない。 マローにはベルガーとトレベレスが張り付き、アイラにはトライが始終隣にいた。そんな中でリュイは一人、黙々と食事している。 眉をしかめていたので気になり、アイラはそっと立ち上がると追いかけてきたトライと共に、リュイへと駆け寄った。 近寄ってきたアイラを見上げ、それでも食べる事に手を休めなかったリュイに思わずアイラは吹き出してしまう。
「ええと。御腹、空かれているんですか?」 「……えぇ、とても」
悪戯っぽくようやく笑った同年代の皇子に、アイラも思わず笑みを浮かべる。 深々とお辞儀をし、感謝の言葉を述べ始めたアイラにリュイは面食らった。先程と印象がまるで違う、緊張が解れたのだろうか、恐らく今目の前に居る彼女こそ”本来の”彼女であると直感した。 リュイは、ようやく食事の手を休めてアイラを真正面から捕らえる。微かにトライが眉を潜めたが、二人は気付かない。
「明日、国へ帰られるとお聞きいたしました。せめて今晩だけでも、我国の特色を楽しんでいただければ、と思います」 「十分です。ここは恵まれた土地です、食べ物が新鮮だ。……僕、いえ、私達の国はそうもいきませんからね」
戸惑いを隠すように苦笑いしているリュイ、アイラは地図を脳内に甦らせて風の国を探した。 山脈に囲まれた、気温がここよりも低い土地だったと思い出す。海からは遠く、高山ゆえに食物もあまり育たないのかもしれない。肥沃な大地のラファーガ国は、恵まれた場所だ。素晴らしい場所に産まれたのだなと、アイラは静かに一人天に感謝した。 普通に生活していたら、気づくことはなかったかもしれない。
「星は、我が国のほうが綺麗ですよ、多分」 「星に近い風の国、ですか。素敵ですね」 「ですが、民にとっては食料の悩みが深刻です。美しいものは心を洗う、けれどもそれだけでは満たされない場合も……あります」
何時しか、トライとアイラは傍の椅子に腰掛け、三人で仲良く語り出す。 国の特色を話し、情報を交換し、驚きと笑みを交互に分かち合った。二人の王子は確かに姫を値踏みに来たのだが、今はそんなことどうでも良くなっていた。 二人とも風の噂で聞いた”繁栄の子を産む姫”を求めて、やってきた。 妻でなくとも、愛人でも良い、囲ってしまえばそれで良い。自分の子種さえ、植えつければ。無事に産まれれば、その子こそ覇王となるのだから。 だが、この水と風を守護に持つ王子達は”繁栄”である妹マローに興味を示さず、”破壊”として忌み嫌われている姉のアイラに興味を示していた。 それは奇怪な出来事で、周囲からは悲痛な溜息が漏れる。 土の国の民は、内心涙を流して喜んでいた。厄介払いがようやく出来るのだ、懇願していた事である。皆してほくそ笑み、トライとリュイを中傷し嘲笑う。 早く、その姉を国へ持ち帰れ、と。 死神を、呪いの姫を持ち帰ってくれ、と。
数時間後、外に出て優雅にティータイムとなった。星を見上げながら、盛大に花火も上がっている。 庭の薔薇が香るその場所で、マローはベルガーやトレベレスと踊り、アイラはリュイとトライと星を見ていた。 その日各国の主要人物が集まっていたので、当然騎士団たちも十分な厳戒態勢を余儀なくされていた。 トモハラとミノリの見習い騎士二人も所属はつい先日だが、共に良い成績を収めていたのでこの庭の警備に当たっている。当然私語は厳禁で、一定間隔で配置されている騎士団。 トモハラは無愛想な顔で突っ立っていた、いや、にこやかにしなくても良いのだが非常に不機嫌そうだった。というのも、マローに張り付いている二人である。 王子だというのは聞いているのだが、下心が有り過ぎて観ていて嫌悪感を抱いたのだ。 一方ミノリは、初めて間近で見たアイラに衝撃を覚えていた。声だけしか知らなかった姫だが、姿は……想像以上だった。あまりの美しさに言葉を失い、直視できず顔を逸らす。眩しい太陽のようで、見ていると目が潰れてしまいそうだった。 ミノリとて、不穏な噂では聞いている。姉のアイラは不吉な姫だと。けれどもどうしても、ミノリはそうとは思えず、あの可憐な歌声や遠慮がちな仕草がとても気になっていた。 二人の若い騎士は。 二人の姫を、遠目で見ていた。 王子たちの輪には入れない、騎士とはいえ一般の出の二人には。 ……双子姫が、遠すぎた。 指を咥えて、羨望と嫉妬の眼差しで王子達を睨む二人の騎士。それに姫達は気づくわけがない。
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