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作品名:DESTINY 作者:把 多摩子

第21回   目的地は目前に
 沸いて出てくる仲間達にトビィは心底呆れ返った、暗くてよく見えなかったのだが、仲間というので数人だと思いこんでいた。しかし、結構な人数である。
 こんなに大勢での旅など、一体何をしているのか。
 ざっと仲間達に目を通す、年齢も様々だ、どんな集まりなのか把握不能だった。
 不意に視線が止まる、先程倒した吸血鬼に似た男が、憮然とこちらを見ていた。

「アサギ、あれは?」

 トビィの小声にアサギが我に返った、ミノルの事を言っているのだ。
 慌ててアサギは殺気を放ち始めたトビィを押し止める、あれはミノルだ、先程の吸血鬼ではない。

「あの人が本物で、さっきの吸血鬼はあの人に化けていたのですっ」
「成程? 知り合いに化けて油断させていたというわけか」

 若干違うが、まぁそんなところだ。
 トビィは納得し殺気を消すと、近寄ってくる仲間達に目を向けた。

「で。何故こんな大人数で旅を?」
「気がついたらこんな人数になっていたのです」

 勇者が六人、仲間が九人、合計十五人。
 あまり集団行動が得意ではないトビィは、顔を顰めて面倒なのでこのままアサギだけつれて逃亡すべきか本気で悩んだ。突破出来ると判断するが、アサギに何か言われそうだったので諦めた。
 肩を窄め観念して一言、かなりの妥協である。

「あまり強そうな奴がいない、な。アサギが心配だ、同行させてもらう」

 さらり、と言い放つと颯爽と周囲を無視して、そのまま洞窟を進む。
 呆気に取られ口を開いたまま立ち尽くす仲間達だが、先頭に居たマダーニに呼び止められた。

「お名前は? 私はマダーニ」
「トビィ。よろしく」
「よろしくね。貴方、顔は良いけど性格は良くなさそうね」
「初対面でそう言い放つ貴女ほど、悪くはないつもりだが?」

 立ち止まってトビィとマダーニはにっこりと爽やかに笑いあった、腹の中には黒いものが蠢いている。互いを探る様に、威嚇し合う。
 ライアンだけは軽やかに歓迎の笑みを浮かべて、握手を求めながら近寄った。不穏な空気などものともしない、ある意味幸せな性格である。
 トモハルは、感心して低く唸った。子供ながらに二人の間には入ることが出来ない緊迫した空気が流れていたというのに。

「俺はライアン。よろしく。見たところ剣士だろうか、俺も一応」
「あんたが一番まともそうだな、よかった。会話が通じる相手がアサギしかいなかったらどうしようかと」

 会話を聞きつつ名前を確認するアサギ。

 ……そっか、この人の名前はトビィというんだ。

 一人で小さく頷く、名前を聞いていなかった。しかし何故だろう、トビィはアサギの名前を最初から知っていた。アサギは腕の中で首を傾げる。

 ……そういえば、ずっと名前を呼ばれていた。何故、知っていたんだろう。何故、呼んでくれていたのだろう。何故。

「強そうな奴がいないとは、心外ですね。トビィ殿がどれ程の腕前か存じませんが」

 青筋を浮かせて、身体を小刻みに震わせながら精一杯感情を押し殺してそう告げるアーサー。彼は賢者だ、滅多に与えられる称号ではない。自分には絶対の自信があった。
 迷惑そうに見据えて「コイツが一番厄介そうだ」と、深い溜息を吐くトビィ。二人の間で火花が激突する、火花を通り越して、背後には黒煙が立ち上り燃え盛る炎を皆連想する。その中心にアリナがひょっこり顔を出した。

「ボクはアリナ、よろしくー! 一度手合わせ願いたいな、腕に自信あるみたいだし」
「女と手合わせは苦手なんだ」
「あぁ、ボクのことは男扱いして貰ったほうが助かるかな。色々と」

 言うなりアサギの頬に口付けるアリナ、女だからと気を抜いていたトビィを見上げて挑戦的に笑う。「こういうこと」と、唇を小さく動かし、アリナはアサギの髪を撫でる。
 喉の奥で笑うと不敵に笑い返したトビィは、そっとアリナの手を避けるように離れた。「これまた、敵が多いことで」小さく呟くトビィだが、特に敵視するつもりはない、負ける気がしないからだ。

「ジェノヴァに行くんだろ? 早くしろ」

 洞窟の出口手前で踵を返し、軽く振り返ってのその一言。
 行くぞーと楽しそうに叫んだライアンに、渋々同意する仲間達。物凄く気に喰わない男が仲間に加わった……と、一部頭を抱える。
 けれども、アサギは嬉しかった。とても強そうで頼りがいがあるというのもあるのだが、それだけではない。共にいなければならない気がするから。
 共に、いなければいけない……どうしても、そんな気がして仕方がない。
 それはともかく、一向に下ろしてくれないトビィに、アサギは顔を赤らめて恥ずかしそうに身じろぎした。

「あの、そろそろ自分で歩きます」
「無理はしないほうが良い、もう少しだけこのままで」
「はぁ……い」

 穏やかに微笑む、絶対的なトビィの態度にアサギは恐縮して返事をした。
 全員が洞窟を出たところで、馬の体調管理をしつつ馬車に乗り込む。再び馬車中での、魔法教育が始まった。
 アサギの隣を離れようとしないトビィを、嫉妬の視線が幾つも襲うのだが、本人はお構いなしである。
 アーサーとアリナが馬車操作を担当し、ようやく解放されたライアンが軽い伸びをして馬車の中へと戻ってきた。同じ剣士として気になるのか、トビィの隣に座り込むと、傍らの剣を指差す。

「その剣、凄いな。見せてもらっても良いだろうか」
「あぁ、どうぞ」

 トビィはライアンに剣を手渡す「有難う」と笑みを浮かべて恭しく受け取ると、ライアンは繁々とそれを見つめた。瞳を細める。
 見た時から興味をそそられていたらしく、丁重に鞘から抜いて、低く唸ると感心して一言。

「これは、一体?」
「水竜の一本角から出来ている、世界で一振りしか存在しない剣だ。ブリュンヒルデ、という」
「水竜!? それで妙なモノを感じたのか……。ありがとう、一度手合わせ願いたいね」

 どういった経緯でそれがトビィの手に渡ったのか気になったが、立ち入ることは遠慮した。話題を変更するように、トビィがライアンの剣へと視線を移す。

「その紋章は、何処かの国のものだな」
「あぁ、元ジョリロシャの騎士だったんだ。剣だけは脱退した今も愛用しているよ。慣れているからな。本当は返さないと拙いが、渋々了承してもらったんだ」

 鞘に紋章がある「消そうともしたが、そのほうが変えって怪しくなりそうだったんでね、止めた」屈託なく笑ってそう説明する。
 剣士同士の会話を楽しみつつ、ライアンはトビィに耳打ちした。他には聞こえないように、そっと。

「一つ訊きたい、あの剣はどう思う?」
「あの剣?」

 ライアンの視線を軽く追う、終着点ではトモハルがブジャタと魔法の勉強中だった。神妙に頷くライアンに首を傾げて、トモハルの傍らの剣を見つめた。しかし、直様ライアンに耳打ちを返すトビィ。

「別に? あれが何か」
「……あれは伝説の勇者の剣・セントガーディアン、らしいんだが」
「あれが? まさか。何も感じない」
「……だよな」

 勇者の剣自体に、特に興味がなかったトビィだがそれよりも気がかりなことがあった。

「というか、待て。何故勇者の剣がここに? それを所持しているということは、まさか」
「知らないのか、この子達は勇者なんだ」
「”この子達”? ……アサギも、なのか?」
「そう。あの子が一番剣技にも魔法にも飛びぬけて優れた才能を発揮している。アサギがクレオの勇者の片割れだ」

 絶句するトビィ、記憶の中のアサギを思い出す。
 どちらかというと、勇者と言うよりはどこぞの貴族の娘にも思えるような雰囲気だった。穏やかに微笑み、献身的に世話をしてくれていた”緑の髪”のアサギ。

 ……勇者、だって?
 
 唖然とアサギを見つめる、勇者だとしたら尚更傍で護らなければいけない。「それで旅をしていたのか、ようやく納得できた。となると、あの場所は一体何処だったんだ?」
 低く唸るトビィが何を言っているのか分からないライアンは、続ける。

「ともかく、神聖城クリストバルであれを受け取った。が、どうにも気に入らないんだよ」
「偽者、か」
「有り得る、俺一人の感覚なら間違いかと思っていたが、トビィ君もそう思うのなら」
「何れにせよ、オレは伝説の剣について詳しくはないが。あれではそこらに売っている高値の張る剣と大差ない」

 二人してトモハルの剣を再度見つめた、そんな様子に気がつかないままトモハルは懸命に魔法を習得しようとしている。
 洞窟を出てジェノヴァまでは約三日、そろそろ夕刻である。
 暗闇が辺りを覆い隠すが、松明で辺りを照らし進んだ。無理をしてでも、今日中に辿り着きたい場所がライアンにはあったのだ。

「身体を清める温泉場があるんだよ」

 温泉、と聞いて勇者達は盛大に喜んだ。
 月が照らす森の中を馬車が駆け抜ける、やがて立ち上る煙が見え始めた。硫黄の香りだ、嬉々として馬車から顔を覗かせる勇者達。
 着いた先は旅人用に設備されているらしく、脱衣所もあれば焚き火を起こした形跡もあるキャンプ場の様な雰囲気だった。
 一目散に馬車から降り、一斉に再び伸びをする。
 急いで夕食の支度に取り掛かる、薪を広い集め、火を起こしながら街まであと数日の為、食材をほとんど使い切る勢いで、鍋に投げ込んだ。
 簡易な畑もあり、トマトとズッキーニらしきものが元気に熟れている。動物に食べられたような形跡もあるが、無事なものもあるので安堵した。
 豪快にニンニクを使って、トマトとズッキーニ、干し肉のパスタのようなものをライアンが作ってくれた。
 作られる工程を見ているだけで涎が垂れた、勇者達は挙ってそれを平らげる。食べ終えた瞬間に悲鳴を上げた「うーまーいーぞー!」と。
 なんという美味、涙が出そうなくらい、旨い。
 食後は紅茶が出てきた、こうしていると本当にキャンプにでも来たようである。暫し、勇者達は戦闘を忘れた。
 周囲は暗いので早めに温泉に入るべく、先に女性陣が出向く。
 しかし、女性は長風呂だ。「なるべく早めに出てきてくれ、後がつっかえている」とライアンに忠告されていたにも関わらず、そんな言葉には耳を貸すことなく堪能する。女性陣が温泉に浸かっている間、男性陣はライアンを筆頭に今後の作戦会議である。

「三日後ジェノヴァ到着予定。予定通り長旅の支度をし、ピョートルへアサギの武器を取りに出向く。滞在期間は到着時刻にも因るが大体一日、今のうちに皆で買い出し品一覧表を作りたい」

 ライアンとアーサー、それにブジャタで薬草や食材の会話が始まった。地図を広げ、途中に立ち寄る街を調べる。それまでの期間を検討し、買い揃えるつもりだ。
 会話に加わることなく、夜空を一人離れた場所で見上げていたトビィは不意に剣を引き抜いた。次いでアーサーとライアンが顔を上げる。

「構えろ。来る」


 ガシャン!

 室内で妙な音がした、驚いて身体を竦めるアサギと怪訝に音の原因を探すトビィ。蝋燭だ、蝋燭の一つが何故か部屋に落下した。
 火が絨毯に燃え移っている、小さく叫んだアサギを見てトビィは名残惜しそうに腕からアサギを解放すると、火を消すために歩いた。
 忌々しそうに靴で火を揉み消す、良い雰囲気だったのに、と舌を鳴らした。途端、後方で気配を感じる。妙な音に視線を移すと、トビィの近くの蝋燭が業火となって燃え盛っていた。
 眉を潜めるトビィ、先程からこの蝋燭たちは何なのか。まるで邪魔をするように、意思があるように動いている気がした。
 トビィは踵を返すと一直線にアサギの元へと歩いた、跪いて優しく頭を撫でながら、先程の問いに答える。

「そうだよ、オレがあいつを倒した」

 耳に心地よい、高くも低くもない澄んだ声、自然と落ち着く。思わず聞き惚れてしまう、囁くように言われて、アサギは思わず一言。

「す、凄く綺麗な声ですね」
「そうか?」
「そ、それから、とても素敵だと思いますっ。芸能人でも類を見ない位の美形さんですっ」
「よく分からないが、それはよかった」

 芸能人、の意味がトビィには理解出来なかったのだが、自分を誉めているであろうことは理解できたので、瞳を細めて微笑む。

「それからそれから、とても……優しい方です」

 溢れるように口から飛び出る言葉、アサギは穏やかに微笑むと俯いた。
 優しい人だと直感した、気遣い方が、触れる指が、見せる笑顔が、とても優しくて自分を大事にしてくれていると思えた。

「それは、アサギ限定だが」
「え?」

 トビィの呟きにアサギは思わず声を上げる、限定、と聞こえたが気のせいだろうか? きょとんとしているアサギの前髪を優しくかき上げると、露になった額にそっと口づける。

「っー!?」
「いきなりそこまで誉められるのも、悪くはないかな。お褒めの言葉、光栄だ」

 思わず額を掌で覆い隠す、ようやく引きかけていた顔の赤らみが、逆戻りする。

「え、あの、その、ええとー」
「ん?」

 慌てふためくアサギの反応を楽しむかのように、トビィは業とらしく更に顔を近づけた。逃げようとするアサギの腰を優しく引き寄せ、視線の高さを合わせて笑う。

「それはそうと、アサギ。身体は大丈夫か? 気分は?」

 不意に真顔になるトビィに、ぎこちなくだが返答する。

「え、えと。だ、大丈夫、です。へっきです、あんまり記憶がないのですが」
「なら良い。とりあえずここを出たほうが良いな。で、何故こんな場所に」
「旅の途中です、ジェノヴァへ行く予定でした」
「旅? 一人で?」

 小さく「旅をしていたのか……通りでなかなか出会えないはずだ」と呟くトビィに、アサギは不思議そうに首を傾げる。

「いえ、仲間がたくさんいます。はぐれてしまったので、捜したいのです」

 軽く瞳を開くトビィは、怪訝に眉を寄せる。折角出会えたので、どうせならば二人で旅をしたいと思った。

 ……旅の目的は追々聞き出せばよいから。面倒だ、このまま二人で何処かへ行こう。
 
 トビィの結論は『このまま逃亡』。捜す振りして、捜さない、二人きりで居たいんだ……という身勝手極まりない本音である。

「とりあえず、仲間を捜しに行こうか。ジェノヴァで待っているかもしれないし、な」

 喜んで笑顔でお礼を言うアサギに、トビィは微笑んだ。心底喜ぶアサギには申し訳ないのだが、トビィの言葉は嘘八百である。
 軽々とアサギの身体を持ち上げ、慌てふためくアサギをお姫様抱っこすると余裕たっぷりに微笑む。

「体調が戻っていないかもしれないから、念の為」

 有無を言わせないように微笑むと、何も反論できずアサギは大人しく頷いた。
 扉を開き、歩き出す。
 軽すぎて実感がないが、トビィの身体にアサギの体温が伝わる事で、共に居るという安心感が得られた。ふわり、と懐かしい香りが鼻先をくすぐる。
甘く爽やかで柔らかな、香り。ずっと、傍にあった香り。
 トビィは、一月前からアサギを捜していた。本来ならば、はぐれてしまったドラゴン三体を捜さねばならなかったのだが、それよりもアサギを優先した。
 ただ、アサギの言葉を信じて。

『いつか、一緒に居られる日が来ます。その時まで暫しお別れなのです。また、会いましょう』

 そう言ったアサギの安心した、切なそうな笑みを忘れる事無く、捜し続けた。言葉は現実になった、こうしてアサギと出会えたのだから。
 トビィはアサギに恋をしていた、出会ったあの日から。
 何故恋をしたって? そんなの知らない、自分が求めるものがアサギだと痛感した、それだけ。命をかけて護りたいと思う存在だと瞬時に感じたのは、何故だろう。守護する事が自分の役目、産まれてきた意味、愛し抜く事が自分の存在価値であり使命。
 一目惚れだろうか、いや、そうではなく。以前から、生まれる前から。おそらく前世も自分は彼女を護っていた、そして愛していた。
 こうして再開し、確信した。

 ……やっと、見つけた。ようやく、出会えた。何度も名前を呼びたい。狂おしいほど愛しくて、一晩中抱き締めて居たい。笑顔をずっと、見ていたい。

 そっと、切なく瞳を閉じ、アサギの髪に口付ける。アサギも不思議と嫌悪感なく、大人しくトビィの腕の中にいた。
 甘い空気が漂う中、先程侵入してきたドアを開く。
 洞窟を歩いていたら不快な感覚に気がつき、その場所をトビィは力任せに押したのだ。突如扉が現れたので、一瞬困惑したが、退屈凌ぎに手を伸ばし突き進んだ。そこに、アサギがいたのだ。
 クーバーが仕掛けた洞窟からの普通ならば見破られない出入り口のドアを、偶然にもトビィは発見したのである。拙いとはいえ、通常の人間が通過しただけでは気づかない魔力で隠されていたはずなのに、そんなこととは露知らず、トビィは造作もなく解除していた。
 洞窟へと足を踏み出したトビィの耳に、何やら人の声が聞こえてきた。

「アサギー!」
「アサギちゃーんっ!」

 嫌な予感が、した。思いっきり顔を顰める。
 が、足を止めても仕方がないのでトビィは突き進んだ。隠されていた扉が姿を見せる、洞窟に戻ってきたのだ。

「あ」
「……ちっ」

 トビィは舌打ちした、物凄く忌々しそうに洞窟内部を睨み付ける。正確には、見知らぬ人間達にあからさまに嫌そうな顔をしてみせた。
 偶然、仲間達がつっ立っていた。トビィの逃亡計画はいきなり台無しになったわけだ。機嫌が悪くなって当然である。
 アサギをお姫様抱っこして現れた美形の男に、一同は釘付けになった。
 不機嫌な様子の男は同姓から見ても美形だった、足もすらりと長く、長身でバランスが良い。敵に回したら厄介以外の何者でもない男である。美少女のアサギと寄り添う姿は、非常に絵になっているわけだが、不審人物である事に違いはない。
 思わず身構える一同、敵だと判断した。いや、敵としたかった。
 勝てないと悟ったので。
 その緊迫した様子に、慌ててアサギが止めに入る。

「こ、この方に助けて貰ったの! 凄く強いのです! そして優しいのです」

 殺気立ち、鬼のような形相で睨んでいる男だが、アサギを助けてくれたのなら、まぁ……と、渋々了解する一同。しかし、どうしても優しそうには見えない。そこだけはツッコミを入れたかった。
 わざとらしく咳をし、アーサーは近寄ると、宣戦布告でもするかのようにトビィに微笑んだ。瞳は全く笑っていない、引きつって口角を上げただけだ。

「アサギを助けて頂いた様で、有難う御座います。それはともかく、何故彼女を抱き締めているのでしょう?」
「敵の妙な香りにやられていた、今離すと危ない」
「では、私が代わりましょう」
「断る」

 周囲に発生した冷気、二人の間に亀裂が生じ、背筋が凍るかつてない冷戦が巻き起こる。幻覚だが、二人の背後で火花が散っていた。反射的に二人共「コイツ、絶対合わない」と痛感する。
 後方で、出るに出られなかった一同が成り行きを見守った。

「つーか、あのロリコン賢者もアサギに触りたいだけじゃん。ボクもだけど」
「だなっ、俺もだ」

 面白くなさそうに吐き捨てたアリナと、同意するサマルト。参戦すべく歩き出す、余計複雑になりそうな気配だった。


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