とある、小学校の校庭。ごく普通のその小学校は現在昼休み中だった、校庭は生徒達で賑わっている。色とりどりの衣服が校庭全体に散らばり、騒がしい。 その校庭の隅に、二つに並んだ鉄棒があった。支柱は赤のペンキで塗られている。百六十センチ程のその鉄棒に、一人の少女が腰掛けていた。 風が髪を揺らす、気持ち良さそうにゆっくりと瞬きをしながら空を見上げて微笑んでいた。柔らかく艶やかな髪に、温かみのある光を帯びた大きな瞳、軽く頬を桃色に染めて、熟れたさくらんぼの様な唇を持ち。……まるで少女達の夢物語、御伽噺の中のお姫様のような容姿。 愛くるしい顔立ちは、見る者全てを魅了してしまうと言っても過言ではなかった。テレビに出ているアイドルより、人目を引く美しさである。華奢な手足に、小顔、幼いながらも発達して膨らむ胸、括れた腰。 非の打ち所が見当たらないような、完璧に近い容姿だった。見る者を魅了し、すれ違い様に振り返らずにはいられない美少女。 容姿だけでなく、何故か彼女からは不思議な安心感を与える、癒しの空気がやんわりと流れ出ているようだった。圧倒的存在感を持っていた。 そんな鉄棒に座り込んで、空を見上げて呆けている彼女の名は、|田上浅葱《たがみあさぎ》。小学六年生、生徒会副会長。 当校にて知らない者など存在しない、異色の娘だった。
「ねぇねぇ、見てる、友紀? 今日の空もとっても綺麗。透き通るような青空に、ぽっかり浮かんだ綿菓子みたいな純白の雲……素敵」 「見てるよ。綺麗だよね」
浅葱の隣、鉄棒の支柱に凭れ掛かってうっとりと呟いた少女。浅葱の親友の|松長友紀《まつながゆき》、という。 彼女もまた可愛らしく、品の良いストレートロングの髪を持つ、正統派美少女だ。……美少女は美少女だ、こちらもテレビに出ているアイドル顔負けである。 だが、瞬間的に「可愛いな」と思えるが、別に見続けていよう、とは特に思わせない普通の美少女。浅葱のようなオーラがない。故に二人連れ立っていると、どうしても浅葱に視線は集中してしまう。 しかし、当校二大美少女である。 この二人、出会ったのは今から二年前の小学四年生の時であった。互いに存在は目立つ為知っていたのだが、会話したのは同じクラスになってから。 たまたま席が近く、遠慮がちに話しかけてみたら趣味が同じ、好きなものが同じ、理解できて、言いたいこともはっきり告げられる。 初めて打ち解けあった友達……親友だった。 そんな二人はクラスが別れてしまったけれど、こうして時折昼休みには二人で居る時間を作っていた。家も近い部類に入る為、登下校でも一緒になれる可能性はあるし、休日は二人で買い物へ行くこともよくある。 お互いクラスに親しい友人がいない、というわけではなく、こうして二人で居ると心が落ち着く。顔を見るだけで安堵出来る、頼もしい存在。 そんな二人は空を見上げて気持ち良さそうに風に身を任せるのが、大好きだった。
キーンコーンカーンコーン……
校庭に響き渡る、休み時間終了の鐘の音。それと同時に校内放送が流れ、生徒達は渋々と各々の教室へ戻って行く。
「終わりー、休憩タイム終了。せっかく綺麗な空だったのに」
頬を膨らませ残念そうに呟く浅葱に、友紀が小さく笑う。
「仕方ないでしょ、私達のお仕事は『学校で勉強すること』。そういう世界にいるんだから。さ、教室へ戻ろ」
促されて、浅葱はようやく鉄棒から滑り降りる。明らかに不服そうだ、が、駄々をこねても仕方がない。
「つまんない世界ーっ。私、勇者になりたいの。それで、大勢の人を救うの!」 「はいはい、そのうちね、そのうち。さ、行こっ」
無理やり浅葱を引っ張って、友紀は強引に校舎へ進んだ。 名残惜しそうに、空を見上げたまま、浅葱は友紀に腕を任せている。余程、今日の空に未練があるらしい。 やがて、校庭から人影が消えた。先程までその場にあった笑い声が掻き消え、静まり返っている。
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